0081
Side:???
まさか兄上が若くしてお亡くなりになるとは思わなんだ。
父上は未だ存命ではあるが、本来なら家を継がぬはずのオレが家を継ぐ事になろうとはな。
ゆるりと適当に生きればよいと思っていたのだが、傍迷惑な事だ。
兄上の葬儀も終わり、庭を眺めながら考える事ではないが、せっかく己の力で生きてゆこうと思っていた矢先だったからな。
残念無念といったところだ。オレが継ぐとなれば父上は今まで以上に五月蝿いであろう。
それもまた面倒な事だ。
「ふぅ……。考えていてもいい事など何もないか。
なるようにしかっ!?!」
ドサッ!!
突然に目の前が眩しく光り、そして何かが落ちた音がした。
あまりに眩しく目の前を腕で覆ったが、いったい何だったのだ? 前には庭しかないぞ?
「ぬぅ、あの眩しき光はいったい何だった……?」
オレが側に置いていた灯りから僅かに見えているが、目の前に落ちてきたのは童か?
なにやら服を着ておるが、うつ伏せで倒れておるな?
物盗りなどではないのは分かるが、いったい何なのやら。
オレは少々気になったので庭に出ると童を担ぎ上げて縁側に戻る。
そして縁側に寝かせると、それは綺麗な顔をした童であった。
これはマズい……。
「オレに稚児の趣味は無いぞ。
しかしこの見目の童がおったら勘違いをされてしまうな。オレもまだ十三だというのに。
しかし眩しき光から出てきた者を………? 眩しき光だと!?」
眩しき光から出てくるといえば稀人ではないか!
となると、この童は稀人か!?
「何故オレの前に稀人が現れるのだ?
稀人は何かを成す為に来るという。
有名なのは九朗判官に味方し、源氏を大勝させたと伝わる黒金という稀人だが……」
「う、うぅ………」
「ぬっ? 起きたか?
そなた「又太郎! 又太郎はどこじゃ!!」は急に落ち……父上! ここにおりますぞ!!」
せっかく稀人が起きたというのに、父上が「ドスドス」と音を鳴らしながら来られる。
兄上が亡くなって大変なのは分かるが、そのように歩かずともよかろうに。
「ここにおったか又太郎!
そな、むっ? なんじゃこの童は?
………又太郎、そなたまさか!!」
「父上、オレに稚児趣味などない。都の方々と一緒にしてくれるな。
こやつは先程、庭に突如現れたのだ。眩しき光と共にな」
「眩しき光だと!? こやつ、妖怪か!?」
「違う。父上、兄上がお亡くなりになったとはいえ、色々と慌てすぎだ。
眩しき光と共に来る人など一つしかあるまい」
「………まさか、稀人か!?
何故我が屋敷に稀人が来る!?
そのような事などあり得まい!」
「そんな事はオレに言われても知らん。
そもそも稀人が起きた故に話を聞こうとしたら、父上が床を「ドスドス」と鳴らしながら来られたのだ」
「むう、そういう事か。ならばワシが問う。稀人よ、そなた名は?」
「僕? 僕の名は黒金だけど。それよりここどこ?」
「黒金だと!? それは本当か?
その名は九朗判官様にお味方し、源氏を大勝に導いた方の名ぞ!!」
オレはあまりに驚いて稀人の顔を見ながら聞く。
すると、その稀人の目が黒と金である事に気付く。
たしか黒金という稀人の名は、保護した陰陽師である斯明という者が名付けたと聞く。
その名付けの理由は、確か稀人の目が黒と金の色だったからのはずだ。
………冗談でも何でもなく、本当に伝説の稀人のようだな。
「父上。ここでは誰が聞いておるか分からん。すぐに奥の部屋に連れて行くぞ。
そなたもすぐに来るのだ、今日は兄上の葬儀で人が多く集まっておる。
有象無象にそなたの事がバレるとマズい」
「うん。何だか知らないけど、分かった」
存外に素直なのだな? そういえば特におかしな所も無く、妙に冴えた童であると記してあったか。
余計な事を言わずに動いた方が良いと悟ったのかもしれん。
っと、とりあえず奥の部屋に急がねば。そして母上や弟なども集めねばな。
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Side:黒金
いったいここはどこなんだろうね?
というか僕は壇ノ浦で梶原とかいうヤツに蹴り落とされてどうなったんだ?
………前にいる人について行ってるけど、記憶が無いぞ?
壇ノ浦で海に蹴り落とされて、神様が入ってきて……そうだ! 新しい霊兵!!
確か八俣遠呂智っていう神様だったんだ。
水神とか言ってたから、蒼い色の眼はおそらくあの神様だろう。
これで全部の色が分かってすっきりした。
けど、何があったのかは覚えてない。
いったいあの時、壇ノ浦で何があったんだろう?
前の人が戸を開いて部屋に入ったので、僕も部屋の中に入る。
そして座椅子が渡されたので座った。
とりあえず、ここがどこなのか先に聞きたいけど、聞ける雰囲気じゃないなぁ。困った。
「さて、皆が集まるまでに聞きたいのだが、本当にそなたの名は黒金と申すのか?」
「そうだよ。
僕は神隠しに遭う前の事を覚えてなくてさ、それで斯明が名付けてくれたんだ。
というか、もう一度聞いていい? ここどこ?」
「ここは鎌倉にあるワシの屋敷だ。足利家の家じゃの」
「あしかが………なんか聞いた事がある。
源氏側にいなかった? 何かそっちで聞いたような気がするんだけど。
ただ、活躍したって記憶がないね?」
「「………」」
「それよりも、あの梶原ってヤツだ!
あいつ壇ノ浦で僕を海に蹴り落としやがったんだよ。
絶対に許さないからな」
「あー……その、だな。梶原景時であれば、頼朝公に処刑されておるぞ?
稀人である黒金を海に蹴り落とした罪でな、斬首されておる」
「えっ? 頼朝が? ……軍の事だから頼朝が処罰したのかぁ。
死んでるなら何も出来ないし仕方ないね。
生きてるなら斬兵でぶった切るところだったのに」
「その、だな。そなた本当に伝説の黒金なのだな?」
「は? 伝説? ………どういうこと?」
ガラッ!
戸を開ける音がしたと思ったら、なんかゾロゾロと入ってきた。
皆が集まるとか言ってたから、家族が集まったのかな?
「この者が伝説の稀人なのですか?
……唯の童では?」
「それはこれからだが、とりあえず話を聞いてからだ。
仙太郎、最初から疑ってかかってどうする。
それにオレは目の前で眩しい光を見たのだ。それは間違い無い」
「分かりました……」
「ゴホンッ!!
先程の話だが、黒金という伝説の稀人は、源氏方を大勝に導く為に遣わされたと言われておるのだ」
「なにそれ? 義経のヤツが勝手にウチに来て連れてっただけじゃん。
しかもあいつ行かないって言ったら、ウチの子供達に手を出しかねないヤツだったしさ。
目が笑ってなかったし、碌なヤツじゃないよ」
「なんだと!? この童め、私が成敗してくれる!!」
「<古兵・勇壮猛夫>!」
なんだか僕と似たような歳のヤツが、僕を襲おうと腰を上げたので古兵を四体呼び出す。
敵であれば殺す、それは当たり前だ。
僕だって源氏の奴らと一緒に殺し合いをしたんだし、武士の事はだいたい分かってる。
「「「「「………」」」」」
「立ち上がろうとしたって事は僕に何かをしようとしたという事だ。
武士ならば殺されても仕方がないだろう? だから殺す」
「ち、ちょっと待ってくれ。流石に源平の頃ではないのだ。
そんな、いきなり殺すなど……」
「えっ? 武士って敵である以上は殺すんじゃないの? そういうものだって聞いたけど?」
「「「「「………」」」」」
「仙太郎、お前が悪いのだぞ。謝らぬか」
「申し訳ございませんでした!!」
「という事なので、その兵を何とかしてもらえんか?」
「まあ、敵じゃないなら仕舞うけどね。
おっかしいなぁ、武士は舐められたら駄目だから、舐めてきたヤツや敵が居たら殺せって言ってたんだけど……」
「「「「「………」」」」」
なんか違うっぽいなぁ、どういう事だろう?
又太郎=足利尊氏の通称。幼名が不明なので、通称と変わらない事にしました。
仙太郎=足利尊氏の弟である足利直義ですが、幼名と通称が不明な為に仙太郎と勝手に名付けました。




