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Side:八俣遠呂智
さてと、高天原に来たのはよいが、アレの住まいはどこだ?
我はここに来た事など無いのでな、どこに何があるかなど知らぬ。
そもそもこの子に降りておらねば来る事も出来んからな。
おっと、そこにおる者に聞けばよいか。
我は知らぬのだからして、聞く事はおかしな事でも無い。
「すまぬが、少々よいか? 天照の邸はどこだ?
我はここへ来た事が無いのでな、どこに邸があるか分からんのだ」
「貴方は………。貴方はいったい何者ですか?」
「我はこの子の体に降りておるだけだ。名は八俣遠呂智。
剣を返しに来たと言えば伝わるであろう」
「剣………? いったいな…………分かりました。
天照様より案内せよとの事ですので、こちらへどうぞ」
「うむ」
そんなに案内したくないのか? 物凄く渋々という表情をしておるぞ、こやつ。
側仕えがこれでよいのかと思うが、我は返せばさっさと去るでな。
面倒な事など起こす気も無いし、ここは黙っておく方がよかろう。
案内された先におったのは、やたらに眩しい女子であった。
……こう、自己主張が激しすぎんか? もうちょっと抑えてくれ、眩し過ぎるわ。
「ゴホン! 別に迷惑がらせるつもりはありませんでしたので、少々落としましょう。
で、そちらが?」
「うむ、回収してきた天叢雲剣だ。
元々は我の物で、名など付けておらなんだのだがのう。
ま、それは構うまい。それより、これを返せば我のお役御免というところだ」
「御苦労様です。
初めて御会いしますが、生贄を求めていた割には普通ですね?」
「あれは我が生きるのに必要だっただけよ。
今は須佐之男に肉体を滅ぼされたでな、それ故に生贄を必要となどしておらぬ。
肉の体が無いのだからして当然ではあるがな」
「なるほど、確かに貴方は水神。
呪神や祟り神ではないのですから、肉体を失った後も生贄を求める事はありませんか。
……と、受け取りました。これで貴方もですが、その子も当分はお役御免ですね」
「そうじゃの。
この子が次にいつ下界に行かされるかは分からぬが、その日が来るまでは無いのう。
………しかし、何故あの方は化身などをわざわざお造りになられたのだ?」
「残念ながら、あの御方に真意を問うのは私でも無理です。
おそらくは、それが出来る神は誰も居ないでしょう。
それでも我らは彼の方が何をされようとしておられるかは知っております」
「異常か……。
何故か下界に妖怪なる者どもがおるが、それが原因なのであろう?
本来ならあのような者どもが生まれる筈ではなかった」
「ええ、それは間違いありません。
ただし、あの御方がその原因を取り除こうとされておられるかは不明です。
私達も無理に妖怪を取り除く必要は無いと考えていますよ。
あれらが下界に在ったとしても、生きるという事そのものは変わりませんので」
「まあ、そうじゃのう。生きるという事の根源は何も変わらぬか。
……っと、化身が消えそうじゃ。我はここまでのようだの。
ではな」
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Side:斯明
「申し訳無い。
私が追いかけられつつも探している間に海に落ちたらしく、方々まで探したのだが見つからなかった」
「そう、ですか………」
黒金が長門の国は壇ノ浦という所で海に落ちたらしい。
その後はどうなったか分からぬとのこと。
無理矢理に連れて行った癖にこの言い種か。
あまりに腹立たしいが、家族の為には黙るしかなかった。
「見ていた者が数名いたので確認したのだが、梶原景時が稀人を海に蹴り落としたのを目撃していた者がいた。
しかし彼の者を問い詰めても「知らぬ存ぜぬ」でな。
私は見ていなかったので、それ以上は問い詰める事もできなんだ」
「分かりました」
「すまぬ。後白河院より呼ばれておるので、これにて失礼」
あの義経という男が去っていくのを見つつ、怒りと憎しみが込み上げるのを抑える事が出来ぬ。
何故あの子がそんな目に遭わねばならんのだ。おかしかろうが!
「落ち着きなさい斯明。
私の方には宇迦之御魂神様から神託があったわ。
昨夜、寝ている最中にね」
「寝ている間……。それで?」
「黒金は使命を果たしたらしいわ。そして戻る事はないそうよ。
再び下界に訪れるのは百年以上は後になるだろうって」
「百年以上も後? ……って、ちょっと待って。下界に〝訪れる〟?」
「私も全ては教えてもらえなかったけど、おそらく黒金は何かの神様の化身よ。
つまり神様が下界を訪れる際の仮の肉体。
黒金はね、稀人じゃなくて神様だったの。
そりゃ肉体が現人神一歩手前のはずよ」
「か、神様………」
「神様がおられたってこと?」
まさか黒金が下界に降りられた神様だったとは思わなかった。
そんな事が本当にあるのか? いや、あるのだろうな。
神様のお考えなど下々の我々には分からん。
しかし、黒金が再び来るのは百年以上も後か……。
私は生きていないな。
「黒金が神様の化身だとは思わなかったが、次が百年以上も後という事は、私はもう会う事も出来んのだな……」
「代わりに私が会ったら伝えておいてあげるわよ。
死ぬまでに伝えたい事を考えてちょうだい」
「それは、また……先は長いな。じっくりと考えよう」
「そうね。私も伝えたい事があるから、じっくりと考えようかしら」
黒金。私はもう会えんが、お前は再び京の都にやってくるのだろう。
その時に伝わるように、今からじっくりと考えておく。
その時が来たら葛葉から受け取ってほしい。
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Side:源頼朝
「九朗は追討の功を己一人の物としておる……か。
それで、お前の見たものはどうだった?」
「ハッ!
壇ノ浦の合戦の前、軍儀の場にて九朗様と梶原殿は、あわや斬り合いかと思うような大喧嘩をしておられました。
どちらが先陣を切るかという話だったのですが……」
「まあ、大将と軍監が先陣をですか? いったい何を考えておるのやら」
「妻、そなたは口を挟むな。それで?」
「梶原殿は「大将が先陣を切るなど田分けだ」と申され、九朗様は「大将が先陣を切らねば、兵はついてくるまい」と申されまして。
その結果、罵り合いから喧嘩となり、九朗様が殴って蹴りました。
それに怒った梶原殿が太刀を抜き、あわや斬り合いに」
「ふむ。……九朗は太刀を抜かなかったのだな?」
「ハッ! 九朗様は太刀を抜かれておりません」
「相分かった、御苦労だったな」
「いえ。……ですが、京の都の中では、とある噂が流れております」
「噂?」
「ハッ!
壇ノ浦の合戦には九朗様がお呼びした稀人の童がおりました」
「知っておる。ワシが褒美を送った黒金と申す者であろう?」
「はい。その童を、梶原殿が戦の最中に海に蹴り落としたという噂でございます。
実際、幾人かの者が見ておりまして、おそらく事実であろうと……」
「なるほどな。分かった、もう下がってよい」
「失礼いたします」
伝令が下がると思案する。
両者を始末するのは決まっておるが……さて、そこまでどうやって持って行くかな?
「おやおや、殿が恐いお顔で考えておられますね。妾は恐いので失礼いたしまする」
「………」
ふっ、愚かなものよ。
九朗め、絞兎死して良狗烹らるという言葉を知らぬのか。
上に立つ者にとって名を上げた家臣など邪魔なだけぞ。
そして北条よ。ワシが覇を成したら、子を傀儡にして奪うのであろう?
それもまた愚かな事でしかない。
所詮は北条、平氏や源氏のように貴種ではない。どこまでいっても豪族でしかないわ。
かつての蘇我氏のように外戚として権力を揮うとしても限りはある。
己らの家では覇を唱える事はできんのだ。愚かな夢を見るものよ。
平氏を見れば分かるし、大相国を見れば分かろう。所詮は夢、所詮は幻なのだ。
それに踊らされる無様な者どもは踊り狂えばよい。そして何も残らぬであろうがな。
それが分からぬとは憐れなものよ。
この世は全て幻、それが分からぬ者が踊るのだ。
ワシがやる事はその舞台を整える事か。
くくくくくくくくく………面白いのう。
後の世がどうなっておるのか分からぬのが心残りとなろうが、それもまたよし。
平安編はこの話で終了。次話からは南北朝編が始まります




