0079
Side:黒金
喧嘩からあわや斬り合いにまで発展するかと思われたけど、何とか回避。
義経が先陣を切る事で決着した。
あとは実際に戦うだけなんだけど、どうも海の上での戦いになりそうだ。
場所は長門の国にある赤間の関の壇ノ浦。
源氏側には摂津の国の渡辺水軍、伊予の国の河野水軍、紀伊の国の熊野水軍など八百四十艘ぐらいの舟となった。
これだけ居れば勝てるんじゃないかなと思う。
というか、だから梶原なにがしとかいうヤツは先陣を切りたいと思ったんだろうね。
先陣を切るのは武士にとって誉なんだそうだ。
言いたい事は分からなくもないけど、僕は御免だよ。
それと今はお昼前だけど、この時間は波が穏やからしく、今の間に出るんだってさ。
だから食事は早めに終わったよ。
といっても相変わらず糒飯を食べるくらいなんだけどね。
それでも食事が終わったので舟に乗っていくだけだ。
僕は元々の源氏軍が使っていた舟に乗り、先陣の舟の一艘に乗せられている。
何故だろう? 別に先陣なんて切りたくもないのに……。
「我らこれより平氏の者どもへ攻め入る!!
皆の者、ここで奮戦し平氏を叩き潰すのだ!!」
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」」」」」」
五月蝿いなぁ、もう。そんなに気合い入れなくてもいいでしょうに。
戦いは気合いを入れたからって勝てるものでもないよ?
言ったって聞かないだろうけどね。
僕達は舟で出て行くと、平氏も舟で出てきたようだ。
しかし大船団と言えるくらい平氏の舟が多いね。
これはマズいかな? 舟の上じゃ逃げる場所も無い。
影兵を二体出して防がせよう。
ドドドドドドドドドドド!!
雨霰のように矢が降り注いでくるけど、僕を守ってくれている影兵の御蔭で僕は無傷だ。
というか、影兵が出せなきゃ死んでたよ。
本当に八十禍津日神様には感謝しかない。
とにかく舟に乗ったまましゃがみ、僕はひたすら矢の雨を耐えるしか出来なかった。
いや、他に出来る事があるなら教えてほしいけどね。
ドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
………まだ射ってきてるよ。
いい加減にしてほしいけど、平氏もそれだけ必死なんだろう。
既に彦島とかいう場所しか拠点が無いらしいし、そこを失ったら終わりだもんね。
それは分からなくもないんだけど、まだ矢を射るの?
ドドドドドドドド!!
…………うん? 矢が止まった?
影兵に矢が止まったなら退いてほしいと頼むと、前をスっと空けてくれたので、どうやら矢の雨は治まったらしい。
そして周りを見ると、右の方の陸地に白い旗が見えた。あれは源氏の旗?
という事は九州に行った源氏軍かな?
その人達が平氏側の舟に矢を射掛けてくれているので、雨のような矢は治まったみたいだ。
よしよし、今の内に猛兵を呼び出そう。
揺れる舟の上なので沢山は出せず、二体しか出せなかったけど十分だ。
ただし影兵を消す事になったのが痛い。
他の人も乗ってるから仕方ないんだけどね。
それでも陸と違って多く出せないのは厳しいな。
平氏方の舟を見ると、僕が乗っているような小早だけじゃなく、大きな舟もあった。
しかも朱く塗られていて、あからさまに目立つ色の舟がある。
あれ、なんか怪しくない?
平氏の偉いヤツとか、安徳帝とか乗ってそうだけど……そう思わせる罠なんじゃないかとも思う。
そんな風に見ていると、平氏方の舟に随分とやられている味方が見えた。
どうやら相当に平氏側から乗り込まれて攻撃を受けているらしい。
じゃあなんで僕は無事なんだと思ったけど、おそらく影兵が敵を倒してくれたんだろう。
僕はしゃがんで矢が飛んでこなくなるのを待ってただけだし、それ以外は何も出来なかったからね。
………あれ? なんか舟の動きが変だぞ?
今までは平氏の舟が源氏の舟の方に近付く感じだったのに、今は逆に源氏の舟が平氏の舟に近付く感じだ。
これって潮の流れってヤツが変わったのかな?
「潮が我らに味方しておる!! よくぞ耐えた皆の者!
今こそ平氏に攻めかかる時ぞ!!
斬れ斬れー! 乗り移って、斬り捨てい!!!」
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」」」」」
どうやら僕が思った事は間違ってなかったらしい。
潮の流れが変わったらしく、源氏が有利な形になったみたいだ。
今までと違って源氏軍が攻め掛かってる。
まあ、それに関係なく猛兵は矢を撃ってるけど。
源氏が今までの鬱憤を晴らすかの如く攻めかかっているけど、肝心の安徳帝と三種の神器はどうなったんだろう。
おっと、この舟も平氏の舟にぶつかっちゃった。
やだなー、切りかかるのなんて御免だよ。
僕は猛兵に矢を撃たせつつ、他の人が平氏の舟に向かっていくのを見送った。
流石に僕に攻めかかれと言う人も居ないだろう。
そう思いながら見ていると、源氏の兵を海に叩き落している人が居た。
「九朗判官!! 九朗判官はどこだーーーっ!!!
せめて貴様の首を獲ってくれるわ!!」
「おーおー、恐い恐い。私は君みたいなのと戦う気は無いよ。それじゃ失礼」
「待てぇい!! 貴様が九朗判官か!! 神妙に勝負いたせ!!!」
「やーだよ。
私はやらなきゃいけない事があるのでね、君みたいな猪武者の相手をしている暇は無いのさ!
はははははははははは!!」
「おのれぇ!! くそっ! 邪魔だ、貴様ら!! 退けぇ!!!」
平氏の人が怒りながらも源氏の人を倒してる。
なんか凄い人が居るなぁ……
ドンッ!!
うわっ!?
ドボーン!!!
ゴボッ! グボッ! 息が!! なにが!? なんで!?
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Side:???
………ふむ。ようやく我の出番か。すぐに動かんとマズいな。<水兵・偽神大蛇>。
よし、八匹出せば一つに出来る。我の偽物とはいえ水神たる我の力を僅かに持つ。
それだけで水など自由自在よ。
それにしても梶原なにがしとかいうヤツめ。
義経への嫉妬で、この子を海に蹴り落とすとは。
大の男が見苦しいと思わんのか、まったく。
よし、戦場より随分と離れたな。一旦浮上して息を吸うぞ。
「ふぅ、やれやれ。人間というのは息をせねば死してしまうのが難儀よのう。
まあよい、そろそろか」
我は水兵たる大蛇を掴み、再び水の中へと潜っていく。
戦場から離れた場におる我を見ておる者などおるまい。
蛇の体は掴み難いが、それでもオロチ状態になっておるなら首に掴まれば済む。
さて、そろそろ……。よし、あれがもう一人の帝である安徳帝か。
勝手に死ぬのは構わぬが、それを持って沈まれるのは困るのだよ。
須佐之男が我の尻尾から出したとはいえ、それは元々我の物なのだ。
返してもらうぞ。
水兵が腰に着けておる天叢雲剣を奪い取り、我に渡してくる。
人間どもは草那藝之大刀とか言うておるのであったか。
ま、どうでもよい。
後はこれを高天原の彼の者の下へ持っていけば終わりだな。
それにしても上では未だに愚かにも争っておる。
古から変わらぬが、真に醜きものよな。
何も変わっておらぬと見えるが、所詮はそのような者どもか。
何であろうが変わりなどせぬ。
神と呼ばれる者でさえ愚かなのだ、人間如きが賢いはずも無し。
久しぶりに出てきたからか、ついつい色々と考えてしまうのう。
頭が八つもあったからか、思考に時を割くのが多くて困るわ。
人間の頭は一つしかないでな。知恵熱でも出たら困る。
早々に我は去るか。
これで我の出番は終わりだが、次になんぞあると助かるのう。




