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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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 Side:黒金(くろかね)



 今日は葉月の十一日。

 今日も宗之助(そうのすけ)が来ているけど、どうやら色々と分かってきたようだ。


 「まずは先月の十九日。近江の国で源氏と平氏の戦があった。

 これは源氏の勝ちで多くの平氏残党が死んでる。ただし首謀者は逃げて行方をくらませた。

 これを問題視した頼朝は、京の都に居る義経に首謀者の一人である平信兼(のぶかね)を殺せと命じたみたい」


 「まあ、妥当でしょうね」


 「で、昨日。義経の邸に呼び出された信兼(のぶかね)の息子三人は全員始末された。

 そして義経は伊勢の国に出陣するらしい。

 おそらくそこに居るんだろうね、首謀者達が」


 「元々から平氏の拠点じゃないの、伊賀と伊勢って言ったら。

 そこに潜伏するのは普通と言えば普通、特におかしな事ではないわ。

 とはいえ残党は他にも居るだろうし、まだまだ終わりそうにないわね」


 「また治安が悪くなってるからね。

 黒金(くるかね)も見つけ次第すぐに始末してくれてるけど、それでも間に合わないくらいに多いよ。

 それに黒金(くるかね)は顔を知られ過ぎてるからね、黒金(くるかね)の前じゃ悪さをしなくなってる」


 「流石に目の前で悪さをすると殺すけど、悪い事をしてないなら仕方ないんだよね。

 神様の眼で()たら咎人かどうかは分かるんだけど、その証立てが出来ないし」


 「問答無用で始末すれば、それはそれで怨んでくるヤツが居るのよねえ……。面倒極まりないわ。

 神様の眼が嘘を見せるはずが無いでしょうに」


 「それでも証立て出来なければ難しいだろうね。

 いきなり盗人だって言って切り捨てると平氏や源氏と同じになっちゃうし」


 そうなんだよね。あいつら正にそういう事をやってるからさ。

 あいつらと一緒はちょっと……



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今日は長月の一日。

 都に来た源範頼(のりより)がこれから西に向かうらしく都を出て行った。

 それと先月には義経が左衛門少尉(しょうじょう)検非違使(けびいし)の官位を与えられたそうだ。


 なんでも検非違使(けびいし)って基本は兼務なんだって。

 だから義経が左衛門少尉(しょうじょう)だから、自動的に検非違使(けびいし)もそれと同じになるらしい。

 つまり検非違使少尉(しょうじょう)だね。


 この役職は大陸の言葉で判官(ほうがん)と言うんだってさ。

 なので最近は九朗判官(ほうがん)と呼ばれているんだそうだ。

 ま、どうでもいいんだけど。その事もあって上機嫌みたいなんだよ、あいつ。


 それよりも叛乱を起こした平氏の残党が京の都に居るらしく、その所為で公卿や公家に、帝や院まで不安にしているらしい。

 なので義経は頼りにされているみたいだね。そういう事も上機嫌の理由なんだろう。


 義仲とは別の意味で、都の治安回復に勤しんでいるみたい。

 義仲もそういう理由なら頑張ったんだろうけどね、あいつは皇統の問題に口を出しちゃったからさ。

 あれ一つで終わりだった、可哀想だけど。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 あれから時間も経って寒くなった。今日は師走の十二日だ。

 今日は晴海(はるうみ)さんが来て話をするらしい。お肉はあるから大丈夫だね。

 最近お肉をよく食べるからか子供達が随分と大きくなったよ。

 僕は全く変わらないのにさ。


 「おお、おお! 大きゅうなったのう!」


 「ある、ある!」


 「きゅ、きゅ!」


 「こーら、あるじゃなくてはる、よ。

 それで、今日は晴海(はるうみ)ちゃんが来たのね。何かあった?」


 「今日は西に行った源氏の者達の話じゃな。

 大軍で行ったのはいいが、源氏は平氏と違い水軍が弱い。

 だからこそ舟を集めるところから始めねばならなかったようだ。

 そういう意味では大変だと思う」


 「そういえば平氏は一ノ谷から脱出しただけで、多くの者は討ち死にしましたけど舟は残ってるんでしたね」


 「そうなのだ。

 そこも含めて瀬戸内の者を随分と懐柔して切り崩し、味方につけていったようだ。

 その辺りは丁寧にやったらしい。敵に回られても困るからだろうが……」


 「それは仕方がないでしょう。元々は西の国が地盤の平氏だもの。

 ここからが源氏の正念場だと思うわ。ここで勝てないなら、この泥沼が続くでしょうよ」


 「船の確保も進まず安芸の国まで進軍したらしいが、そこで平氏軍に兵站を断たれ補給が出来なくなったそうだ。

 御蔭で士気は下がるわと散々だったらしいの。何度も鎌倉に助けを求める文を送っておったそうだ」


 「それはまた……。とはいえ平氏側からしたら自分達の庭のようなものでしょうし、予想できた結果ねえ」


 「藤戸と言われる辺りに城郭を構え、そこで山陽道の源氏を潰していたそうだ。

 流石に源氏もここを落とさねば九州まで進めぬ。だからこそ落とさねばならなかったのだろう。

 平氏側が挑発してきたそうで、舟もない源氏側は馬で浅瀬を渡って切り込んだらしいわ」


 「よくやるわねえ。とはいえ浅瀬でも渡れれば行くでしょうよ。

 そして行けるとなれば、後は鬱憤を晴らすだけね」


 「うむ。結果として平氏側は負け、讃岐の国は屋島まで逃げていったそうだ。

 これで瀬戸内と九州しか平氏には残っていない事になるな。

 細々とは残っておるが、大きな勢力はこれだけだ」


 「そろそろ本格的に平氏の滅亡が近くなってきたわね。

 大相国が亡くなってから五年も掛からずに滅亡か」


 「滅亡まで行くと?」


 「許さないでしょう。勝つと分かれば必ず血を断つわ、断たなければ自分の一族がいつか滅ぼされる。

 かつて大相国が流した結果が今よ。それをおそらくは誰よりも知っているのが頼朝でしょうね」


 「自分がそうだからこそ、絶対に許さぬか。分からんではない」


 自分だけじゃなく子供達が殺されるとなれば、非情にもなるだろうね。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 あっと言う間に時は過ぎて、今日は元暦(げんりゃく)二年の如月の五日。

 今日は駿慶(しゅんけい)さんが来ている。おそらく西の事だろう。


 「うむ。どうやら源氏軍は九州に入ったらしい。

 足止めを受けておったが、当地の豪族から舟と兵糧の供出があったらしくてな。

 それで遂に九州に渡ったらしい」


 「これで九州を押さえれば、もう瀬戸内しか平氏には残ってないわね。

 とはいえ、あの辺りは小島なども多いから潜伏は可能でしょうけど」


 「九州に渡った後、当地の平氏方の豪族に襲われたそうだ。

 葦屋浦というところで合戦となったそうだが、矢撃ち戦となったみたいだな。

 結果として源氏はこの戦で勝利。遂に九州制圧の第一歩となったようだ」


 「もはや風前の灯火ねえ。そろそろ散る時が来たかしら。

 <驕る平家は久しからず>というところか……」


 「上手い事を言われる。確かに大相国の御蔭で隆盛し、驕りに驕ったところからの転落と破滅。

 その原因も、やはり大相国であろうな。頼朝の首など求めねば、こうもなっておるまいに」


 「本当にね」


 「それより都の治安はどうなったのでしょう?」


 「ああ、それか。京武者の伊藤忠清という者が荒らし回っていた首謀者らしい。

 この前、九朗判官(ほうがん)が捕縛したとかで詮議しておるそうだ。

 ようやく落ち着きそうな気配だの」


 「やれやれとは思うけど、まさか京武者が京を荒らすとはね。

 荒れた世ではあるけれど、碌な事をしないわ。まったく」


 「後は平氏を叩いて、三種の神器を取り戻すだけですか……」


 「そうだな。上手く行けばいいが、平氏が奪われるならと海に捨てたりせぬか。

 それだけが気掛かりだ」


 流石にそれはマズいと思うけど、でも今の平氏ならやりそうな気もする。

 ここまで負けてると、後先考えずにメチャクチャな事をしかねないとも思うんだ。


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