0074
Side:土肥実平
「九朗殿にも困ったものよ。
手柄が欲しいのであろうが……まあ、己らの命を懸けるというのだし、何より連れて行ったのは七十騎だ。
失われても大勢に影響は無い。
とはいえ、自身が大将だと理解しておるのであろうか?」
「大将だから勝つ為に険しい所を行ったんじゃないんですかい?
もし本当に奇襲が上手く行ったら、こっちも相当に楽になるんですから、悪いこっちゃありませんや」
「それはそうだがな、大将がああも軽々しいと困るわ。もう少し落ち着いてどっしりとしてくれぬものか。
私は軍監なのだぞ?」
「言いたい事は分かりますが、勝つ事が先でしょう。勝たなきゃ主に会わせる顔がありませんしねえ。
九朗様もそこがあるんじゃないですかい? これで負けたなんてなったら叱責じゃ済みませんし」
「まあ、それもそうか。主の弟だからというだけで嫉妬などはあるからな。
有無を言わせぬ武功を立てねば、五月蝿く言う者も黙らんか」
「でしょうね。大将も微妙な立場だ。
総大将は蒲殿であって大将じゃありませんから、そこんところもあるんじゃないですかい?」
「確かにな。とはいえ蒲殿は六男であり、九朗殿はその名の通りに九男だ。
とてもではないが、歳が下の九朗殿に総大将などなせぬよ。それは仕方あるまい。
さらに言えば、蒲殿は手柄を立てさせるのが上手い」
「ああ、あの方はねえ。主に怒られてから色々とされるようになりましたからな。
大将は勝てば褒賞が、しかし下っ端の者は武功を稼がなきゃいけません。
大将が下っ端の武功を奪ってどうする? って怒られたらしいですし」
「当たり前の事ではあるが、しかし忘れやすい事でもある。
上に立つ者と下で戦う者は同じではない故にな。
しかしそれを考えると、九朗殿は今はまだ大将の器ではないな」
「そりゃ、っと……おい誰だ、勝手に前に出たのは!!」
「はっ。おそらく熊谷親子や平山殿達であろうとのこと。武功欲しさの勇み足でございましょう」
「軍監の私の目の前で勇み足とは、随分といい度胸をしておるな。
何を考えて………いや、何も考えておらんのか。だから抜け駆けなどするのであろう」
「まったくで。こりゃ急がないと余計な事になりかねませんぜ?」
「分かっておる! 皆の者、行くぞ!」
「「「「「「「「「「おうっ」」」」」」」」」」
まったく、愚か者ばかりで困るわ。もう少し戦というものを真面目に考えてくれぬものか。
武功さえ手に入れば、何でも良いわけでは無いのだがな?
武功があれば何をしても許される、とでも思っておるのであろうか?
…
……
………
どうやら間に合ったようだな。とはいえ熊谷親子は討ち取られる寸前か。
そもそも五騎でどうやって勝つというのだ、無理に決まっておろうに。
頭がおかしいのか、あやつらは。
「皆の者、平氏との決戦ぞ!」
「行け行けーーー!! 武功の取り放題だぞ!!」
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
Side:源範頼
まさか逆茂木を配して壕を巡らせておるとは思わなんだわ。
その所為で簡単には攻められん。
無理に攻めても射殺されるだけよ。
そう簡単には攻め込めんが、このまま膠着するのも良うない。
勝っても源氏は不甲斐ないと言われかねん。
困ったものだが、うん? ……あれは誰だ?
「梶原親子が逆茂木を外さんと突進していきまする! あれは凄い!!」
「あの矢の雨の中を突進するとは! なんたる剛の者であるか!」
「ぬう、上手くいくか? あの逆茂木は……おお、取り外した!!
良くや……敵に突進するだと!? なんと凄い事をやってのけるのだ。
あれこそ剛の者ぞ!!」
梶原親子が奮戦してくれた御蔭で源氏の面目は保たれたわ。
流石に都落ちした平氏に攻めあぐねると、京の都での名が落ちるからな。
それだけは避けたかったので本当に良かった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
Side:黒金
「見よ、戦の機は我らに味方せり。
ここで敵の後背を突く事が出来れば、我らが勝ちは揺るがぬ。
この崖がなんだというのだ、下りれば済むだけよ。ゆくぞ!」
怖気づいている皆を奮い立たせる為か、義経が自ら最初に行った。
他の人が行かないので僕はさっさと黒馬を進めて駆け下る。
そもそも黒馬が駄目になるなんてあり得ないし、僕だけは絶対に死なないからねえ。
さっさと行かせてもらうよ。
そうやって二町ほど駆け下ると、真っ直ぐに立ったような岩場になっていた。
流石にそこで義経は止まったみたいだけど、僕は無視してさらに下っていく。
そんな所で立ち止まるなら、最初から鵯越を越えようとなんてしなければ良かったんだよ。
いったい何を考えてこっちに来たんだかね。しかも僕まで連れてさぁ。
地面まで下りた僕はすぐに影兵四体と猛兵四体を呼び出す。
ついでに僕の守りとして影兵を一体出し、僕の後ろに騎乗させる。
これで黒馬に乗った猛兵四体が出来た。
ちょうどその時、後ろから来たので僕達は少し前へ。
すると何頭か転落して死んでしまったけど、人間は無傷で下りられたらしい。
「よし、平氏の者どもは私達が後ろから来る事など考えてもいなかったであろう。
奴らの陣に突撃し、方々に火をつけて使えなくしてやるぞ。
そうすれば本隊も一気呵成に攻められよう。では行くぞ!」
僕達は一気に駆けて行き、平氏の陣に突撃した。
ちなみに途中から僕は後ろにつき、平氏達を猛兵に射らせて次々に倒していく。
義経は言っていた通り、方々に火をつけて陣を使えなくしていっている。
他の精鋭達も奮戦して、平氏の陣は大混乱に陥った。
逃げ惑っている平氏の兵達を次々に倒していると、相手は舟に乗って逃げようとしたらしく、浜にある舟に殺到している。
とはいえそこでも矢で射られたり、槍で突かれているし、海に落ちて溺れたのか死んでいる人も居た。
それでも手を緩めずに攻める事を繰り返していると、舟に逃げていく人を発見。
あれって大人じゃないね?
僕は子供を殺す気は無かったので放っておいて、他の所に居る者を狙っていたんだけど、そいつは何が気に入らなかったのか僕の方に攻めてきた。
「我こそは平家に連なる者、平敦盛である!!
そこの童! これ以上の狼藉は許さんぞ!!」
「そんな事を言われても、これ戦だよ?
戦いなんだから、戦うに決まってるじゃないか。狼藉とか言われても困るよ」
「ええい! 五月蝿いわ! 我と一騎打ちじゃ! かかってまいれ!!」
「えー……僕、短刀しか持ってないよ。そっちは槍を持ってるんだからズルいじゃない。
そんな一騎打ちは御免なんだけど?」
「五月蝿いわ!! 攻めて来ぬならばこちらから行くぞ!!」
そう言ってあつもりとかいう人は馬で向かってきた。
僕より年上の癖に何を怒ってるんだろう? しょうがないなー、もう!
「【風穿】!!」
「ぐぁっ!!」
僕が放った【風穿】は見事に若武者に直撃し、彼を落馬させた。
短刀しか持ってなくても、符術を使えば遠くから攻撃出来るんだよ。
そうそう簡単に負けるほど弱くはないんだよ。僕だって。
「ぬぐ……おのれ卑怯者めが! 正々堂々と勝負せい!!」
「だーかーらー、僕は短刀しか持ってないって言ってるでしょうが、ズルいのはそっちだよ。
明らかにそっちの方が有利じゃないか。
だいたい短刀相手に槍で戦うとか恥ずかしくないの? だから符術で攻撃されるんだよ」
「ぬぅぅぅぅぅぅぅ……!!」
ドスドスドスドス!
なんか地団駄踏んでるだけど?
すっごい子供だね、この人。




