0072
Side:黒金
馬の休憩が終わったので進む事になった。
多くの人はそれなりに疲れもとれたのか、再び馬の上で揺られている。
流石に歩きの人達は歩いているけど、随伴の人達らしい。
何でも馬の世話とか、そういう事をする人なんだそうだ。
もちろん徒、つまり徒歩の人達も戦うのだが、その人達はあくまでも武士についているだけなんだって。
つまり他の武士が命令しても聞く必要は無いみたい。あくまでも主の命令が第一なんだそうだ。
とはいえ上役の言う事を断れるはずも無いので、だいたいは従う事になるらしいけどね。
わけが分からないけど、これも作法とかいうヤツなんだろう。
とりあえず覚えておくだけ覚えておこう。
…
……
………
「ここに九朗様が呼んだガキが居る筈だ。九朗様がお呼びだ、さっさと来い!」
数日移動したけど、急に僕が呼ばれたね。
いったい何の用か知らないけど、とりあえず行くかな。
僕は黒馬に乗ったまま歩いていく男の後ろを進んで行く。
別に降りろとも言われてないから、乗ったままで問題ないでしょ。
そうしてついて行った場所では、何やら話をしているみたいだった。
周りの奴らがジロジロ見てくるけど、いったい何なのさ。
「なぜか分かってないみたいだが、馬に乗ったまま我らを見下ろすな。馬を降りろ。
そんな当たり前の事も知らんのか」
義経じゃない別のヤツが偉そうに言ってきたが、そもそも作法とか何も知らないんだけどね。
それが嫌なら先に教えておけばいいのに。何なんだろうね、こいつらは。
「ならそう言えばいいじゃない。そもそも一度もそんな事を言われてないんだけどね。……っと」
僕は影兵を消して下りると、古兵を二体召喚した。
突然古兵が召喚されたので驚く周りの連中と、何故か笑ってない目でニコニコしている義経。
相変わらず、よく分からないヤツだ。
「なぜ急に兵を出したんだい? 多分それは兵だと思うんだけどね?」
「何をされるか分からないからに決まってるじゃん。
無理について来いって言われて仕方なくついてきたら、今度は何も知らないのに睨んでくるわ、馬を下りるのは当たり前だとか言ってきたからね。
何をしてくるか分からないだろう?」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
「僕は稀人ではあるけど平民だよ?
何も知らないヤツをバカにしたいだけなら帰っていいかな?
やってる事は平氏と変わらないしさ?」
「はははははははは……! 蒲殿、一本取られましたな。
平民に武士の作法と言われても分かりますまい。我ら源氏が平氏の真似事はようありませんぞ」
「……別にそういう理由ではない。が、まあいい。
それよりも我らはこの先の福原に居る平氏軍を挟み撃ちにする事にした。
私は福原の東である大手から攻める為、西国街道を行く」
「私は福原の西から攻める為に丹波路を進むのだが、搦め手軍なので一万だ。なので君には私の方に来てもらう。
おそらくだけど、三草山で一度戦う事になるはずだ。
平氏の荘園があった場所らしいから、向こうに地の利がある」
「それでもそこを攻めるって事は、何かしら勝つ算段がある?
それとも挟み撃ちにする為には突破せざるを得ない?」
「ふふふふふふふ……稀人とは皆こうなのかな?
我らがここで勝利する為には挟み撃ちにせざるを得ないんだよ。
だから三草山では必ず勝たねばならない訳だ」
「分かった。どのみち戦に利用する事を考えていたのは知ってるしね。
特に驚きも何も無いよ」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
こいつらは子供を使わなければ戦も出来ない。
そう言われる可能性を考えてるのかな? 僕にとってはどうでもいいけどね。
それはともかく、その後も細々と話したら終わったので、僕も元いた場所に戻って寝る。
最近は古兵を出して寝ているので、周りの人達も驚かなくなった。
最初の日はビックリされたけど、次の日からは気にもされなくなったよ。
ちなみに今は十体出せるので、影兵の上に寝ていたりする。
影兵を布団代わりに使ってるんだけど、柔らかくもなれるので地面に寝るより楽なんだ。
周りの人は何故か影兵に怯えてる事が多いけど。
そうやっていつも通りに寝た次の日。僕は今までの人と別れて、今は義経の軍に居る。
その一番後ろを黒馬に乗って進んでるんだけど、思っているよりも速足だ。
昨日の夜の話し合いで決まったからだろうね。
挟み撃ちにするという話だったけど、東からの範頼軍はゆっくり進軍。
そして西からの搦め手である義経軍は急いで。
つまり範頼軍は囮で、義経軍が奇襲という事になる。
でも三草山で先に戦うなら奇襲も何も無いと思うんだけど、一気に雪崩れ込むように戦うのかな?
それなら相手にも気付かれないと思うけど……。
…
……
………
そして三草山という所が見える場所まで来たけど、向こうに平氏の人達がいっぱい居るじゃんか。
完全に待ち構えられてるよ。どうすんのコレ?
あっ、進軍が止まった。夕日も出てきてるから、今日は終わりかな?
僕はいつもの美味しくない兵糧を齧りつつ食べていると、何故か呼ばれたので歩いていく。
周りに古兵を連れているからか、僕が居る場所は分かりやすい。
他の人達の着けている鎧なんかと違うからね。僕は水干しか着てないし。
灯りが地面に置かれている場所で話し合いをしていたみたいだけど、何故か僕も参加する羽目になってる。
糒飯を齧りながら座ると、何故か変な目を向けられた。
「なに?」
「いや、飯を食うておるのはよいのだが、割と堂々と食うておるなと思ってな。
そなた本当に童か?」
「だと思うよ、たぶん。そもそも僕こっちに神隠しに遭うまでの事を覚えてないんだよね。
だからどうかは知らない。それより話し合いなんじゃないの?」
「そうそう。といっても難しい事なんて無いんだけどね。
要するに向こうに見えている平氏軍を夜討ちにするかしないかだけさ。
どっちにするか悩んでるんだよ」
「それを僕に聞くの? 戦をした事も無い僕に?」
「そうだ。君はどちらがいいと思う?」
「夜討ちした方がいいんじゃない?
向こうに援軍とか来たら面倒だろうし、今勝てるならだけど、勝てるうちに夜討ちにした方がいいと思うよ。
ただし静かにね」
「ふむ、夜討ちにした方がいいか。しかし、静かにとは?」
「確か、源行家とかいうヤツが墨俣川で夜討ちに失敗したのは、川を渡った後で濡れていて、その音とかで見つかったからって聞いたからだよ。
代わりに木曾義仲は音を鳴らして夜討ちしたとも聞いたけど」
「ふーん……。まあ、どっちも兄上の敵だから聞いても仕方ないけどね」
「敵って意味なら源行家の方だろうね。
こいつは場や人を引っ掻き回すヤツだって言われてたし、口が上手く人に取り入るの〝だけ〟は上手いらしいよ。
義仲と同じに見られてて、公卿や公家からは嫌われてるみたいだけど」
「ほう……そのような男か。よく知っておるな」
横にいて話を聞いていた人が驚いたような、感心したような声を出した。
どっちかは判断がつきにくいけど、たぶん感心してるんだと思う。
「そもそも京の陰陽師を指揮してるのは、公家の賀茂家と安倍家だよ。
そして両家の人とは知り合いだからね。公卿や公家の人達が何を考えているかは、多少知ってるんだ。
それだけだよ」
「まあ、分かった。
とにかく実平も君も夜討ちが良いと言うなら、確実に夜討ちの方がいいんだろう。
では夜討ちにするとしようか。静かに準備を頼むよ?」
「「「「「「「「「「はははははははははは……!!」」」」」」」」」」
笑ってるぐらいなら、夜討ちだとは思われないだろうね。
上手いか下手かは別にして。
蒲殿=源範頼のこと




