0069
Side:黒金
今日は二十日。
院の御所である法住持殿が攻撃された次の日だけど、駿慶さんと晴海さんが来ている。
どうやら何があったか分かったけど、酷かったんだって。
「院が十六日ごろから多くの者を密かに集めて、戦の準備をしていたらしい。
その理由は頼朝の軍が近くに来たという報せがあったからだ。
それを百人力と思うたのか、御所に多くの者を配していたのだと聞いた」
「さらには義仲軍の摂津源氏、河内源氏、美濃源氏などにも声を掛け、数の上では義仲軍を上回っていたそうだ。
その数を背に「平氏の追討をしろ。せずに都に留まるならば謀反とみなす」。そう通告されたらしい」
「数で上回ったからといって、相手は義仲軍の中心の者達でしょ?
数だけでは勝てないでしょうに」
「僧兵や都の外の者も掻き集めたらしいが、それで勝てるほど甘くはあるまいにな。
公卿の方々も「治天の君の為される事に非ず」と嘆いておられたよ。
流石に武装して「出て行け」はな」
「義仲は「頼朝の軍が上洛するのであれば戦うが、上洛しないのであれば平氏を追討する」と言ったようだ。
これに関しては特に問題の無い回答だろう。後ろを突かれても困るわけだし」
「ところが院は八条院、上西門院、亮子内親王を法住持殿から去らせ、北陸宮も逐電している。
それと入れ替わるように、後鳥羽帝、守覚法親王、円恵法親王、そして天台座主の明雲様が御所に入られた」
「女子供を逃がし、人質にとられては困る者達を集めた。
最初から争う事しか考えてないじゃない。
これに関しては後白河院の乱心としか思えないわね。何でこんな事をやらかすのかしら」
「まこと、葛葉殿の申される通りなのだ。我らも呆れてしまってな、言葉も無い。
争いは終わったが、天台座主の明雲様、円恵法親王、源光長と光経親子、藤原信行、清原親業、源基国が戦死しておる」
「そして義仲は源光長以下、百名以上の首を五条河原に晒しておる。
どうも事に至った理由はは頼朝軍であり、その軍を率いておる義経が近江に居るからのようだ。
つまり西の平家、東の頼朝軍という事だな」
「つまり追い詰められたうえでの凶行って事ね。
いえ、最後に追い詰めたのは後白河院か……」
「うむ。後白河院のなされようが流石に酷くてな、<山猿>に同情が集まっておる。
都の者も何も知らぬ訳でもなし、あのような事をすれば院とて悪く言われる。
当たり前であろう。治天の君が何をやっておられるのか……」
あっちもこっちも何をやってるんだろね、本当。
真面目に治安の回復と平氏の追討をしようよ。
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今年も師走に入った。
法住持殿の襲撃以降は治安がマシになってる。まあ、義仲が源氏を殺しまくったからだけど。
流石に義仲も何もしない訳でもなく、京の都の賊は見つけ次第皆殺しにしている。
その御蔭もあり、あからさまな賊は出なくなった。
「なんだよねえ。
最初からやってろって声はあるんだけど、それでも治安が良くなってきたから、皆一息吐いたって感じかな?」
「きゅ、きゅ」
今日は宗之助がウチに来ており、双葉と遊んでいる。
双葉は子葉の妹で、何にでも興味を示す子葉よりもお転婆な妹だ。
むしろ双葉がお転婆なので子葉は大人しくなった。
妹を見て駄目だと思ったみたい。
「今日は西に行った源行家の話だよ。
何故か二百七十騎で都を出て行ったんだけど、あんな数で勝てると思ってたのかな?
公卿や公家の人達も不審がってたよ」
「確かにそれは少なすぎるわね? いったい何を考えていたのかしら?」
「さあ? 播磨国の室山に陣を張ってた平氏を攻めたらしいけど、平氏側は陣を開いて行家軍を入れたらしいよ。
その後に閉じて包囲したみたい。結局、叩き潰された行家は何とか敵陣を突破。
這々の体で逃げたみたい」
「………それで思い出したんだけど、確か源行家って夜討ちを掛けて失敗したヤツじゃなかった?
ほら墨俣川を渡って夜討ちをしようとしたら見つかったヤツ!」
「そういえば、そうだったな。私も思い出したが、元々この男は戦下手なのでは?
後白河院に取り入ろうとした事も考えると、木っ端な癖に場を引っ掻き回す者か……」
「そういう者って居ますけど、碌な者ではありませんよ。
頼朝が殺せと言っていたのも、そういう部分を見抜いていたからかもしれませんね」
「こういうヤツって本当にしぶといのよねえ。
何だか、まだまだ引っ掻き回しそうな気がする。
要注意はむしろコイツじゃないの?」
「だろうね。
私も父上と晴海様に申しあげておくよ。近付かない方がいいってさ。
とはいえ公卿や公家の方々は近付かないだろうけどね。
義仲の仲間っていう意識しかないし」
それにしても面倒くさい人って居るんだねー。
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年が明けて寿永三年の睦月の十六日。
義仲は源行家を追討させたらしく、行家はまた負けて紀伊に逃げて行ったらしい。
どうやら仕留められなかったようだ。
葛葉の言っていた通り、しぶとくて面倒くさいみたいだね。
そして東の頼朝軍だけど、どうも数が物凄く増えているって聞いた。
元は五百か六百と聞いていたんだけど、今や数万にもなっているらしい。
義仲は北陸の方に逃げようとしたみたいだけど、既に頼朝軍に北陸道を抑えられてて逃げられない。
なので京の都で迎え撃つ事にしたみたいだ。
といっても義仲には千騎ほどしかないので、どう考えても勝てないだろう。
だって、数万と千じゃ勝負にもならないし。
義仲はどうするんだろうね? 今の内に北に逃げれば助かるとは思う。
舟で逃げれば何とか北陸の方に戻れるとは思うんだけど……駄目かな?
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今日は睦月の二十日。
どうやら頼朝軍の義経が宇治川という所から攻め始めたみたい。
向こうは数万とも言われているから、時間は掛かっても都まで来るだろうね。
何故か義仲は院御所に居るらしいけど、もしかしたら院を連れ出す気かな?
西の平家も安徳帝を勝手に連れ出したし……って、これ都の中まで攻めてきてる?
玄関に古兵を五体、部屋の中に五体置いてるから大丈夫だと思うんだけど、どうだろう?
「きゅ、きゅ」
「あーあ!」
何故か子供達は古兵に触りたがるんだよねえ、あと影兵も。
何故か猛兵と斬兵は嫌うんだよ。
熊の毛皮と褌一丁だからだろうか? ちょっとその辺りは分からない。
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉっ」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉっ」」」」」」」」」」
「どうやら都の中で争っているらしいな。
仕方がないとはいえ、早めに終わってほしいものだ。
争いの中で眠りたくもない」
「ここまで来た以上、義仲も終わりでしょう。逃げ帰るのか、それとも討たれるのか。
おそらくは討たれると思いますが……」
「政が苦手で戦は得意。典型的な武士って感じだし、ここら辺りで死ぬ可能性が高そうね。
引っ掻き回すバカは意地でも生き残ろうとするでしょうけど、こういうヤツって運が無かったりするから」
「どうやら音が聞こえなくなったから、この辺りでの争いは無くなったみたいだね。
後は待つだけかな?」
「そうだな、待っていれば終わるだろう。数万対千ではどうにもならんさ」
「問題は後白河院を連れて行くかと、どこへ行くかね。
逃げ込んだ先で、また略奪とかしかねないでしょ?
形振り構わなくなったら、絶対にやると思うわ。もうやらかしてるんだし」
それは確かにあると思う。一回やったなら次もやるよ。
だって一回やってるんだし、もう今さらだとか思うだろうしね。




