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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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 Side:黒金(くろかね)



 今日は神無月の二十七日。

 ここ最近は義仲の所為で京の都にも緊張が走ってる。

 相変わらず迷惑なヤツだなぁ。

 とはいえ本人は必死なんだろうけどさ。


 義仲の怒りは(とど)まるところを知らず、後白河院に激烈な抗議をしたらしい。

 理由は頼朝に支配権を認める宣旨(せんじ)を下した事と、頼朝に上洛を頼んだ事だ。

 これに対して義仲は<生涯の遺恨>だと言ったみたい。


 「そこまで怒り狂うのは分からなくもないんだけれど、京に賊を連れて来たのはどこの誰よ?

 皇位継承に口を挟んだのはだれ? って話でしょ、朝廷にしたらね。

 義仲が先に<生涯の遺恨>をやらかしておいて、今さら何を言ってるのかしら」


 「そうよねえ。

 とはいえ<山猿>と言われる人物だもの。それを理解していないのでしょう。

 だから何故自分が悪いとなるんだ、って怒ってるんじゃない?

 私達からしたら頭がおかしいと思うけど」


 「本当にそうだな。

 次の帝に関して武士がしゃしゃり出てきて口を挟むなど、確かに<山猿>と言われても仕方ない。

 平民である私でさえそう思うのだ、公卿や公家の方々の不快はどれほどであろうか」


 「何を言ってるんだ、この田舎者は? って感じじゃないかな。

 田舎者の無礼に怒るか、それとも嘲笑(ちょうしょう)して見下すか。

 多分だけど、どっちかしかないと思う」


 「そうよねえ。そもそも都の人だってどっちかだもの、公卿や公家の反応だって似たものでしょ。

 賊を(けしか)けてくるから黙ってるだけで、そいつらが居なくなれば当たり前のように言うわよ。<山猿>って」


 そんな話をしていると駿慶(しゅんけい)さんが来たみたいだ。

 この前は晴海(はるうみ)さんが来ていたけど、あの人も子供達と遊んでた。

 何ともいえない顔をしていたけどね。

 葛葉(くずは)は「だらしない顔」って言ってたから、あれが「だらしない顔」なんだろう。


 「寄せてもらったよ。いやぁ、子供達の顔を見ないとやってられん。

 あの<山猿>はいったい何様のつもりなのであろうな? 陰陽師という平民に近い我が家でも呆れるしかない。

 あまりに意味が分からん」


 「父上。

 余程に色々とあったようですが、いったい何があったので?」


 「後白河院に対して頼朝追討の宣旨(せんじ)、ないしは御教書(みぎょうしょ)の発給。それと志田なにがしの平氏追討使の起用を要求してきおった。

 それだけではなく、関東に出陣するうえ、興福寺に対して勝手に頼朝討伐の命を下したのだ」


 「何やってるのかしらね?」


 「後これは定かではないのだが、義仲が院や公卿を北陸へ連れ去ろうとしているという噂も聞こえてきておる。

 平氏のようにな」


 「そんなこと……!!」


 「いや、この噂を義仲は否定しておるし、おそらくは義仲と険悪な源行家が流したものだろうという見方が有力だ。

 むしろ公卿や公家も、面倒な仲違いに迷惑しておる。

 後白河院に取り入ろうとしておったが、迷惑千万だと言われておるよ。行家の方もな」


 「京の都で下らない喧嘩してるんじゃないっての、まったく! どっか他所に行ってやりなさいよ」


 「まったくだ。それと義仲が京の都に戻ったからか、追い詰められていた平氏は勢力を回復をしておる。

 これも公卿や公家からすれば気に入らん事だ。

 義仲には討伐を命じたはずなのに何の役にも立っておらんのだからな」


 「平氏が勢力を回復ねえ……。本当に何の為に居るんだか。

 倶利伽羅(くりから)峠で大勝したのはいいけど、それ以降はまったく良いところが無いわね。

 京に賊を連れてくるわ、平氏の追討も勝手に切り上げるわ」


 「もはや勝ったも同然だと思っておったのであろうな。

 だから己の敵は平氏ではなく頼朝だと勝手に変えたのだ。

 京の都の治安の回復もできず、平氏の討伐も出来ない。

 お前はいったい何なら出来るんだ? と冷ややかな目で見られておる」


 「それは仕方ないでしょ。完全に混乱しているような有様じゃない。

 少なくとも戦はそれなりに出来るはずなのに、(まつりごと)は出来ない人物ね。

 そしてその(まつりごと)の所為で右往左往している。そんな感じかしら」


 「うむ。葛葉(くずは)殿の申される通りであろう。

 実直なのであろうが、それが仇となっておる。

 木曾義仲という者は上に立ってはいかん人物だ。

 誰かの下で戦をするのであれば多大な功を打ち立てられるであろうが、上に立って(まつりごと)は出来ん」


 「己の身の置き場を間違えたわね。信濃と越後で満足しておけば良かったのよ。

 それ以上を望むから自滅する。

 ま、もしかしたら源行家が煽ったのかもしれないけどね。

 己が上洛する為に」


 「なるほど。行家にとってみれば、京に来れた時点で義仲はお役御免か。

 京に来るまでは合力していたようだが、今はまったくそんな事はないからな。

 それどころか、お互いに落とそうとしておる」


 どっちも碌なものじゃないね。

 とはいえ、僕のやる事は変わらないんだけど。

 最近は駿慶(しゅんけい)さんや晴海(はるうみ)さんに陰陽術を習ってたりするから、僕の腕も伸びてるしね。

 ま、葛葉(くずは)の方が上なんだけど。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今日は霜月、つまり十一月の十九日だ。

 この日とんでもない事が起きた。なんと木曾義仲が、後白河院の居る法住持殿を襲ったらしい。

 僕達には関係ないから家に居るけど、戦いはどうなったんだろう?


 「それにしても院御所である法住持殿を襲うとは、とんでもない事をしたものだ。

 かつて大相国もやったが、大相国とは立場が違うだろうに」


 「大相国は元々から伊勢平氏の棟梁であった平忠盛の嫡男ですからね。

 それに比べて木曾義仲は別に源氏の棟梁という訳でもありませんし、さらに言えば無位無官であった者です」


 「それだけじゃないわ。

 京の都に居た訳でもないから伝手もなければ、公卿や公家との縁も無い。

 無い無い尽くしなのに、自分を大相国だとでも思ったのでしょうね。

 そんなだから<山猿>と言われるのよ」


 「葛葉(くずは)の言った通り、とんでもない事を〝やらかした〟ね?」


 「ああ、それは確かにそうだな。

 かつてそう言っていたが、それはこれをどこかで予見していたのかもしれん」


 「あー……言われればそうかも。

 とはいえ、これで後白河院は再び幽閉でしょうから、初めてじゃない? 二度も幽閉された院って」


 「そんな暢気(のんき)な話じゃないと思うんだけど、後白河院なら大丈夫という感じもしてきたわ」


 「案外と大相国よりも頼朝よりも義仲よりも、後白河院が一番しぶといかもね。

 生き残るヤツって不思議とそういうものだし」


 「そうねえ。そういえば関東の頼朝が義仲の排除を願っていたようね。

 何となくだけど、京の都に来たくないから義仲の排除を願っていたんじゃないかと思うわ。

 それを言っていれば来なくて済むし」


 「それはないとは言えないだろうな。

 今の京の都に来れば、間違いなく義仲軍の尻拭いをせねばならん。

 そのような事は御免であろう」


 「それはね、気持ちとしては分かるわ。

 自分が治安を乱した訳でもないのに、なぜ義仲の尻拭いをしなければいけないのか。

 そういう思いはあるでしょうね。特に嫌っている相手なんだもの」


 「そもそも最初に嫌ってたのは源行家じゃなかった?

 こいつが一番引っ掻き回して邪魔してる気がするんだけど……」


 「そういえばそうね。頼朝が最初に嫌ってたのは源行家だったんだっけ?

 いえ、それと志田なにがしとかいうヤツよ。

 ………あれ? この志田なにがしってヤツ、義仲が平氏追討の任に着けようとしていたヤツじゃないの」


 「その二人が根本的な元凶なのかもしれんな。

 その二人が居なければ義仲と頼朝の仲はこうなっておらなんだのかもしれん。

 まあ、分からんが」


 「大陸もそうだけど、こういう動乱の時って碌でもないヤツが出てくるわねえ。

 結局は(まつりごと)の出来ない<山猿>が騙されただけって事じゃないの。下らない」


 本当にね。その二人を殺せって言ったところだけは頼朝が正しいと思う。

 他は知らないけど。


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