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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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 Side:黒金(くろかね)



 今日は神無月の十四日だ。

 なんでも後白河院は義仲がいない間に頼朝に文を送っていたらしい。

 義仲があまりにもアレ過ぎるので上洛してくれという文だったらしいけど、頼朝はこれを断ったようだ。


 しかも頼朝は、東海道、東山道、北陸道の所領や荘園を国司や本所へ返還させるという内容の宣旨(せんじ)を出してと要請したみたい。

 上洛してほしかった後白河院はこれを認めたみたいだ。


 葛葉(くずは)が言うには、これは実質的に頼朝の関東支配を朝廷が認めるという内容になるんだって。

 今までは戦で奪ってきただけなんだけど、これからは正式に認めますよというものになる。


 ついでに流罪から停止されていた従五位下の位階も戻されたらしい。

 つまり流罪の身分じゃなくなったんだって。

 まあ、流罪の身分では京の都には行けませんと言えば、確かに行かなくて済むもんね。


 「多くの者が忘れてるけど、頼朝って反乱軍のようなものなのよ。

 それが正式に反乱軍ではなくなったという事ね。

 むしろ今は平氏の方が賊軍になってしまっているぐらいだし」


 「実際に後白河院も平氏追討の宣旨(せんじ)を出しておられるしね。

 とはいえそれは当然よ。安徳帝だけではなく三種の神器も奪っていったのだもの。

 これが賊でなかったら、いったい何なの? というぐらいの事よ」


 「本当にって、あら? 宗之助(そうのすけ)じゃないの。また来たのはいいけど、怒られない?」


 「いいの、いいの。最近は手伝ってくれる陰陽師も増えたんで、私の仕事は減ってるんだよ。

 働き者の子が居てくれると助かるね。賀茂家からも来てくれてるから、その人に金庫は任せてるし」


 「それならいいけど、ちゃんとしなさいよ。魔が差すという事は誰にだってあるわよ」


 「大丈夫、大丈夫。三つの式神を放ってあるから、誰かが盗もうとしたら分かるし。

 それはともかく戦の話だよ。それも西の」


 「西って事は平氏ね? 逃げたはずだけど、どこかで留まってたの?

 それとも逃げたフリだけで、京の都に戻る隙を窺ってた?」


 「そうじゃなくて義仲の追討軍の事だよ。

 そもそも平氏は九州の大宰府を目指していたらしいけど、豊後(ぶんご)は後白河院の近臣である難波の知行国だ。

 緒方とかいう者が待ち構えていて、平氏は動けなくなってる」


 「動けないって、他に道が無いわけじゃないでしょうに」


 「説得に失敗したみたいで海から九州に行く羽目になったみたい。

 さらに後白河院には「裏切ったわけではない」という書状を送ったらしいけど、これは無視されたらしいね。

 その後に義仲に追討命令が出てるっていう流れだよ」


 「なるほど、裏にそういう事があったのね。

 後白河院にそんな内容の文を送ってくるとは……相当に平氏の置かれている立場は不利なんでしょう。

 まさか、ここまで一気に落ちぶれるとは……。

 やはり(おご)った者には、それ相応の(むく)いが訪れるようね」


 「それで、西に行った義仲軍はどうなったのだ?」


 「その時ね、平氏は隠岐(おき)の屋島を拠点にしてたらしいんだけど、そこに義仲軍が襲い掛かったみたい。

 場所は水島と呼ばれている場所」


 「それで?」


 「しょえで?」


 「可愛いなあ、もう。

 ……っと、そうじゃなくて、平氏は軍船同士を繋いで板を渡して陣のようにしていたらしく、義仲軍はバラバラだったみたい。

 その状態でぶつかった結果……」


 「バラバラじゃ、勝てる戦も勝てないでしょ」


 「その通り。義仲軍を率いていたのは足利なんとか兄弟と海野なんとかって者らしいけど、大敗を喫して逃げ帰ってる。

 さらに平氏は馬も舟に乗せてたらしく、上陸した後で馬に乗り、散々に追撃。

 その結果、先の三人に加えて、高梨なんとかや仁科なんとかも討ち死にしてる」


 「それってほぼ壊滅じゃないの? もしかして這々(ほうほう)の体で京に逃げ帰ってくるんじゃないでしょうね?」


 「ちょーね」


 「本当に可愛いなぁ、もう。

 ちなみに葛葉(くずは)さんの予想通り逃げ帰ってきてるそうだよ。

 平氏は摂津方面まで戻ってきて、再び京に戻る事を画策してるらしい。

 この状況に公卿や公家が大慌てだよ」


 「それはそうでしょうよ。せっかく都から追放したのに戻ってくるとか、また略奪を始めるじゃない。

 なんで賊が戻ってくるのよ」


 「ちなみに義仲軍の中に居た妹尾兼康という人物が裏切って、義仲軍を攻撃したと聞いたね。

 この妹尾って人物、元々平家の譜代の家臣で義仲の隙を狙ってたそうだよ。

 そして義仲が一番辛い機会で裏切ったけど、結局は勝てなくて討ち死にしたみたい」


 「そう、平家にもまだそういう家臣が居たのね。

 とはいえそういう忠義者を失うのが没落している証明としか思えないわ。

 下らない事をしなければ忠義者達も生きていられたのに」


 「それと、まだ噂でよく分かってないんだけど、頼朝の弟である義経が都の近くまで来ているなんていう話もあるよ。

 これには公卿や公家も笑顔だったね。やっと頼朝が来たかって」


 「それはいい事なのかもしれないけど、義仲軍が西に居る時に……。

 なんだか嫌な予感がするわ」


 「だよね。私も姉上と同じでそう思うよ。

 なんか義仲が急いで帰ってきそうな気がする。

 おそらくは誰かが(しら)せるだろうしさ。

 戻ってきた時に怒り狂ってると思うんだよねえ」


 「私もそう思うけど、その結果がどうなるかは分からないわ。

 案外と少数で急いで戻ってくる可能性があるし、それなら賊どもが戻ってくる訳ではないもの」


 「そっちだと助かるんだけどさ、果たしてどうなるのやら?」


 「そこが恐いところだな。とにかく自分達の身はしっかり守らねばな」


 「そうだね」


 しっかりと皆を守らないといけない。僕も子供達に頼られるように、しっかり頑張ろう。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今日は神無月の二十日。

 義仲軍が水島で負けたと聞いてから七日が経ったけど、ここ数日は目まぐるしく状況が変わってる。

 まず義仲軍の京に残った連中は、ほとんど賊と変わらない。これに関して義仲は激怒したらしい。


 どうやら京の都に残した連中には、京の都の治安を回復しろと命令していたみたいなんだ。

 ところが残った連中はちっとも守らなかった。

 この情報が出回った事で、賊なのは源行家の方じゃないかと皆が思い始めてる。


 さらに義仲は後白河院が頼朝に宛てた文の中で「北陸道の支配を認める」内容があった事に激怒した。

 それは流石にマズいと思ったのか後白河院も撤回したらしいけど、後白河院と義仲の間は完全に決裂したみたい。


 ただし公卿や公家も含めて<山猿>だと思ってるから、裏では冷ややかなものだけどね。

 やっぱり賊の事と皇統の問題に口を出したのがマズかったんだと思う。


 以仁(もちひと)王の子供じゃなくて、今は高倉院の皇子である四之宮が後鳥羽帝になってるしね。

 っていうか、安徳帝もいるから帝が二人もいるっていうおかしな状況なんだよ。

 どっちが正式な帝なんだろう? 都には三種の神器が無いし。


 これって結構マズい気がするんだけど、気のせいかな? 三種の神器って帝を継ぐのに絶対に必要なんだよね?

 それが平氏に取られてるって相当に大きな問題だと思うんだけど、だからこそ平氏は奪って行ったのかな?


 それを持っていれば、自分達といる安徳帝だけが本当の帝だと言えるから。

 でも宝物を奪うっていうのはどうなのかな? やってる事は賊と同じだと思うんだけど……。


 「だからこそ後白河院も平氏を見放されたんだろう。流石に三種の神器は駄目だ。

 あれは最も大事な宝物だからな」


 「そうですよ。よくもまあ奪ったものだと思います」


 「流石にアレはねえ……。平家側に立ってた公卿や公家も擁護できないわよ」


 だよね?


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