0066
Side:黒金
文月の二十八日、源義仲と源行家が京の都にやってきた。
とはいえ危ないから誰も外には出ないけどね。
三日ほど前に平氏の人達は京の都を出て行った。
都落ちと言われるらしいけど、平氏は勝てないって思ったらしい。
安徳帝を連れて出ただけじゃなく、三種の神器とやらも持って行ったんだって。
それが無いと帝にはなれないらしいから、とても大事な物なんだろうね。
僕には理解できないけど。
「さて、どうなるのかと思うけれど、ちょっと危ういかしら?
昨日、安倍家に聞きに行ったら、多くの公卿や公家は源義仲を頼朝の家臣か何かだと思ってるって聞いたわ。
関わりないのにね?」
「それは………怒り狂うんじゃないの?
そもそも源頼朝と源義仲は従兄弟同士らしいけど、それでも勢力は関係ないんでしょう?
だったら余計に強い怒りになるんじゃ……」
「そもそも知らなかったんだけど、源義仲って無位無官だったみたい。
それなら知られなくて当然でしょうね。
あいつら公卿や公家は肩書きでしか判断しないし、無位無官なんて価値無しって感じでしょ」
「それはまた……。どう考えても揉める元でしかないな。
二人とも二人目が生まれているし、ますます皆をしっかり守らないと」
「そうですね。たまたま運良く二人とも生まれたのは女子でしたし、何故か同じ性別が続くわ」
「いい事よ。それより平氏には同行せず、延暦寺に逃げた後白河院はどうなったのかしらね?
何となく義仲軍に居るような気がするけども」
「少し前に延暦寺と話し合いをしていたんでしたっけ?
その時に露見していそうね、後白河院が延暦寺に居ること」
「露見してるでしょう。ま、今はこのまま推移を見守るのみよ。
あまり外を歩かない方がいいし、買い物は黒金に任せた方がいいわね。
稀人に喧嘩を売っても死ぬだけだもの」
「それはまあ、そうだが……」
「気にしなくていいよ。僕に任せてくれれば買ってくるし、ついでにブッ飛ばしてくる。
悪さをするヤツなんて許さないよ!」
「ええ。頑張ってちょうだい」
うんうん。皆に悪さをするヤツなんて、僕がやっつけてやるよ。
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今日は葉月の二十日。
義仲軍の奴らが都の中で悪さばかりしている。
兵糧が無くなったらしいけど、勝手に町中で略奪を始めたんだ。
僕も何度も襲われて、何度も殺したよ。
源氏のヤツが出てきたけど、僕を知っているヤツだったからすぐに引っ込んだけどね。
それと、斯明も襲われたし、一度僕達が居ない間に家に押し入ってきたらしい。
葛葉に燃やされてあっさり死んだうえ、子供達は無視して遊んでたらしいけどね。
子供達も十分に強かったみたい。単に興味が無かっただけかもしれないけど。
それよりも大きな問題があって、実は以仁王の子供を義仲は保護してたんだって。
その子を次の帝にしろって言ってるらしい。これには公卿や公家が怒り心頭なんだってさ。
「それはそうよ。
以仁王って言ったところで、親王宣下も受けていない皇族の子供だもの。
元々からして皇統を継ぐ権利が無いし、それに皇統の問題は公卿や公家で決める事で、武士が口を出せる問題じゃないわ。
その時点でおかしいのよ」
「我が家でも幾つも調べてようやく分かった事だけど、どうも源義仲、いえ木曾義仲と言った方がいいわね。
この義仲、京に居た事が一度も無いらしいわ。だから、その辺りの決まり事を全く知らないようなの」
「その決まりを守らないので勝手にしてるって事かー。
そりゃ怒られて当然だね」
「それもあるけど、朝廷が頼朝を上に置いてるのも気に入らないらしいわ。
ただ頼朝は少なくとも幼少の頃に京の都に居たから、決まりがある事を知らないはずはないのよ。
だから頼朝の方がマシって思ったのでしょうね」
「それで余計に怒ってる?」
「ええ。でも朝廷では木曾義仲の事を<山猿>と呼んで見下しているわよ。京の事を何も知らないから。
それに上洛した際もみすぼらしい服装だったらしいし、それを見た公卿や公家が唖然としたそうだもの」
「おまけに京の都の中が賊ばかりになっているものね。
いい加減にしてほしいけど、バラバラなのが原因じゃ解決は出来ないでしょ。
黒金に喧嘩を売ったり襲ってきたのも、木曾義仲、源行家、安田義定、それに近江や美濃や摂津の連中よ。
だれが纏められるのかしら」
「どう考えても好き勝手をする連中だし、誰も纏められないでしょ。
誰か一人が「止めろ」と言っても聞かないでしょうし、別の者の名を挙げたりと嘘を吐くでしょうしね」
「京の周辺の荘園も襲って略奪してるみたいだし、完全に都を敵に回したわね。
ただしこれは木曾義仲だけの所為じゃないけれど」
「とはいえ以仁王の子を持ち出したのは駄目ね。これはどうにもならないわ。
そもそもだけど、その子を帝にしろっていう事は外戚になろうとしてるって事でしょ?
朝廷からしたら蘇我氏再びって事になるから、尚のこと嫌われるでしょう」
「そういった事も知らないから<山猿>って言われるのよ。
本当に何も理解していないみたいだし、孤独になっていくんじゃないかしらね?
いえ、ならざるを得ないでしょ」
なんというか、平氏並に横暴な人だね。
葛葉が言っていた〝やらかす〟ってこの事かな?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今日は長月の三十日。
源……じゃないや、木曾義仲がやっと京の都を出ていった。
京の都の中では早く出て行けと言われていたし、町の人まで陰で<山猿>呼ばわりしてたよ。
ま、あの人達が来てから賊がたくさん増えたから当たり前だけど。
それはともかく、これでようやく都の中がマシになる。
家に四度も賊が入ってくるしさ、あいつら平氏より碌でもない奴らだ。
平氏だってこんな事はしなかったっていうのにさ。頭がおかしいんじゃないかな。
都の外や町の人も、公家や公卿も、院や帝も、ましてや京の都の源氏にまで嫌われてたからね。
あいつら誰からも好かれてないんだ。
町の人は「頼朝に来てほしい」とか言い出す始末で、それが耳に入って余計に怒り狂ったらしいって聞いた。
けど、町の人もワザと言ったんじゃないかな?
なんでも義仲と頼朝の仲は険悪なんだって。
義仲が頼朝を目の敵にしている源義広と源行家を庇護しているからみたい。
そのうちの行家って人は後白河院に取り入ってるらしいけど、義仲はそういう事が出来ない人なんだってさ。
とにかく、その人達を守る為に義仲は自分の子供を頼朝の娘にって送ったみたい。実質は人質だね。
そこまでして守った行家って人に今は裏切られてるけど、いいのかな?
むしろ殺そうとした頼朝の方が正しい気がするけど……。
後白河院が西の平氏を追討しろって命令して、義仲を京の都から出て行かせたみたい。
平氏は西に逃げたけど争ってるわけじゃないから、準備万端で待ち構えているんじゃないかな?
なんか負けそうな気がする。
「負けるのはいいんだけど、負けて戻ってきたら、また略奪に走りそうなのよねえ。
あれだけの大敗北を喫した平氏でも三万は帰ってきたんだし、早々に全滅なんてしないから面倒なのよ。
賊になる奴らは全滅するべきだと思うわ」
「言いたい事は分かるけど、全滅なんてそう簡単に起きる事じゃないわよ。
基本的に少ない人数じゃないと起きないわ。願っても仕方のない事よ」
「残念ねえ……」
「ざんねん」
「じゃんめん」
「じゃねん」
「あらら邪念だったかしらね?」
「ふふふふふふ、子供に言われたわね。悪い事を考えるのは良くないわ、子供達の為にも」
「確かにそうね。子供達の為にも邪念を持つのは止めましょうか」




