0064
Side:黒金
今日は弥生の十三日。
宗之助が来たので戦の話だと思う。
最近は少しずつ色々と食べるようになってきたからか、子供達がお肉を食べ始めた。
どっちも好きなみたいで僕は獲ってくるのが大変だよ。
最近は一頭獲れたら大半を持って帰る事にしてる。
何故なら腸とかも食べられるし、食べなくても都の外の人に渡すと石鹸になるから。
決して無駄にならないんだよね。それを知ってからは持って帰ってくる事にしてるんだ。
それはともかく宗之助が来たから話を聞こう。気になるし。
「今日は東国の事だよ。葛葉さんが嫌いな頼朝のこと」
「別に嫌いじゃないわ。ただ東には玉藻が封じられている殺生石があるのよ。
その影響を受けている可能性があるのが何とも言えないのよね。
それに若い頃に流罪にされているから詳しく分からないし」
「弟の九朗義経という者もそうですね。
大和に預けられていたそうですが、子供の頃に奥州藤原氏の藤原秀衝の下に身を寄せていたらしいと情報にありました」
「それはともかく、平家方が攻めて来るんじゃないかと思い、頼朝軍は駿河の国に集結してたらしい。
ところが鎌倉に居る頼朝の首を獲ろうと、志田広義というのが三万騎で攻めて来たんだってさ」
「「さんまん!?」」
「それはまた多いわねえ。で、死んだの?」
「いや、下野の国の野木宮で合戦が行われたんだって。
頼朝はすぐに軍を送って戦わせたらしいよ。
総大将は小山朝政というみたいだけど、これが野木宮で戦ったんだ」
「という事は頼朝は戦に出てないか………。
どうにもあのバカの影響を受けている気がするのよねえ。
勘違いならいいんだけど」
「そこは分からないけど、小山朝政を志田広義は自分の軍に誘おうとしたらしいよ。
で、野木宮に誘き寄せて奇襲したんだって。
乱れに乱れた軍は退きながら野木宮の西南に陣を張って、東から小山軍を攻めたみたい」
「最初から奇襲を受けてるんじゃ、その後の立て直しに苦労するんじゃないの?
それでも立て直せただけ凄いと思うけど」
「ここがちょっと分からないんだけど、火矢でも使ってたのか暴風で灰が巻き上がったんだって。
その所為で敵味方が分からないままに争って多数の死者が出たらしいんだ。
その結果、志田軍は敗走したみたいだね」
「灰がねえ……。
何だかよく分からないけど、戦って現地にいても分からない事があるから仕方ないか……」
「その後は敗走している敵兵を次々に討っていったみたいなんだけど……」
「なんだけど?」
「勝った事を知った頼朝は、志田広義とその軍に加わった者の所領を全て奪ったそうだよ。
で、軍功として配ったんだってさ。
これでまた頼朝の地盤は強固になったね」
「なるほど、上手く褒美を与えているみたいじゃない。
領地が貰えるとなれば、やる気にもなるでしょうよ。
それに、そこまで行けば東国を制覇したも同然でしょう。
残るは奥州ぐらいで、関東は終わりよね?」
「間違いないね。その事で内府が怒り狂ってるらしいよ。
関東が頼朝の手中に落ちたなら、簡単に首を獲る事なんて出来ないからね。
周りの者達に八つ当たりしてるみたいで、周囲の者は怯えてる」
「碌でもないところは父親に似たみたいねえ。
ま、言う事も聞かないでしょうし、暴れさせておきなさい。
大相国も似たようなものだったし、放っておくのが一番よ」
怒り狂ってる人なんて誰も近付きたくないし、放っておくしかないよね。
僕だって近付くのは嫌だよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
もう寿永二年の皐月、つまり五月になった。
子供達は大きくなってきたし、お肉もたくさん食べるようになったね。
艶も葛葉もよく食べるけど……何故か僕は変わらない。
本当にどうなってるんだろう?
この日やってきたのは、何故か駿慶さんだった。
最近は宗之助の兄上に家督を譲ったからか、結構自由になったみたいでちょこちょこ来る。
御当主様が変わったから、駿慶さんって呼んでるんだ。
「うむうむ、若竹も子葉も可愛いのう……はははははは」
「父上。来られるのは構いませんが、宗之助が取られたと騒ぎますよ」
「なぁに構うまい。あやつだけ美味い肉を食うていたなどズルいではないか。
ワシも美味い肉が食いたい」
これだもんなぁ……。
実は宗之助も家に来る度にお肉を食べてたんだよね。
あれ絶対に情報を渡す代わりとして、お肉を食べてたよ。ま、別にいいけどね。
気になってる事を教えてもらえるから。
「まあ、美味い肉は後に回すとして、まずは情報だな。それは北陸道の話だ。
先月、内府は平維盛を大将にして北陸に送っておる。
そして越前の火打城という城を囲んだそうだ」
「ひうちじょう?」
「そこは川を塞き止めた水堀に覆われておる城でな、平氏軍も攻めあぐねておったらしい。
ところが裏切り者が現れたらしく、堰の壊し方を教えてしもうたようでなぁ……。
その結果、水堀を壊された城は攻め入られ、越前や加賀の者は負けたそうだ」
「これで北陸はどう転ぶか分からなくなったわね。
とはいえ越後の源義仲が控えているから、今後どうなるか分からないけど」
「そういえば宗之助から聞いたが、そなたらは木曾義仲に注目をしておるらしいな?
公卿や公家の方々の間では名前も上らん程度だが……」
「とはいえ城氏を散々に打ち破ってるし、信濃、越後と領有しているから、それなりの勢力よ?
特に頼朝と同じ源氏だしね。
木曾と名乗ったりしてるのは知ってるけど」
「それじゃ。その城なにがしというのは豪族だからの、評価が低いのだ。
平氏方だったとはいえ所詮は豪族が負けただけ、そのように考えておるらしい。
ワシとしてはどうか分からんといったところだ」
「未だに下に見てるんだろうけど、頼朝だって下に見ていたどころか覚えてもいなかった癖にね。
関東を制した辺りで、何故か名が売れ出してるじゃない? その程度の見立てしか出来ないんでしょ」
「という事は葛葉殿は木曾義仲という者は大きくなると見ているのか?」
「大きくなるかどうかは分からないけど、何か大きな事をやらかすヤツだとは思ってる。
大勝しても浮き足立たず、着々と足場を固めてるみたいだしね。
頼朝もそうだけど、こういうヤツは粘り強いわ」
「ふむ。確かにそうは言えるか。
まあ、あの方々はそもそも平氏と一緒になって源氏を虐げておった部分はあるからの。
心の底では源氏に勝ってほしくはあるまい。
どのような報復をされるか分からんところがあるからな」
「そもそも報復をされるような事をしているのが悪いと思うんだけどね。
そういう自覚は無いんでしょうよ、あいつらには。
だから怨霊だ祟りだといって、あの三人を本物の怨霊にしてしまったのだから」
「それはそうですな。
あの方々は今までそれで来たから、これからもそれが続くと思うておられる。
そのような事はあり得ぬというのに」
「それが分かれば愚かじゃないと思うけど? 愚かだから分からないのよ。
分かったら一つ賢くなるんだから、愚かではないわ」
「まったくもって言われる通りであるな。
昨今は陰陽師の成り手も増えて数は戻ったが、まだまだ腕の悪い者が多い。
にも関わらず妖怪の騒ぎがどうと言ってくる。
誰の所為で陰陽師が減ったと思うておるのやら」
「憑かれてた大相国に従って、満月の日に儀式をさせた所為でしょうに。
もしかして忘れているのですか?」
「その通りよ。こちらが指摘してやったら黙ったがの、いい加減にしてほしいわ。
早々に陰陽師が一人前に育つはずなど無かろうに。
あり得んわ、そのようなこと」
僕も霊力を感じるまで苦労したし、陰陽術って簡単じゃないよ。
今は符術も使えるけど、それだって練習しなくちゃ上達しないし、書くのだって大変だ。
公卿や公家って何を考えてるんだろうね?




