0063
Side:黒金
「黒金、あまり危ない事はせんようにな。
言いたい事も黒金の気持ちもよく分かるが、何をしてくるか分からん。
襲ってくる可能性もあるから注意しろ」
「でも僕は呪いを解いてくれって頼まれたら解くよ。
呪いだけは駄目だ、あれを使うのだけは絶対に駄目。
何としても解いて返して、ああいう事はやっちゃいけないって見せなきゃいけない」
「これに関しては黒金の方が正しいわね。
もちろん斯明も分かった上で言っているんでしょうけど。
それでも呪いだけは駄目よ。それが蔓延するような事になれば、碌な事にならないわ」
「妖怪にも影響を与える?」
「もちろんよ。呪いを使う奴らは己の首を絞めている事を理解してないの。
だからこそ黒金が呪いは駄目だというのは正しい。
それこそ悪妖ならぬ凶妖が現れても不思議じゃないわ」
「凶妖……。人間なら手当たり次第に殺しそう。
言葉は悪いけど、怨みと憎しみに凝り固まった妖怪というところでしょうね。
仮にそれが生まれたら相当にマズいわ」
「そんな妖怪が生まれるかもしれぬのか……。
とはいえ黒金、命は大事にしてくれ。
それとこれとは違う事だからな?」
「うん」
僕だって死にたくないからね、命は大切にするよ。当たり前の事だけど。
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年が明けて養和二年になった。
相変わらずだけど、僕は全く背が伸びない。どうなってるんだろう? 不思議で仕方がない。
やっぱり葛葉が言っていた通り、僕は歳をとらないんだろうか?
そういえば呪いを使って平氏を殺そうとしていた人は、一月ぐらい後に都の道端で死んでいたらしい。
誰かに刺されたみたいで、たくさんの血を流して倒れてたんだって。誰かに怨まれて殺されたみたいだ。
呪いなんて使ってどうにかしようとするから闇討ちで殺されるんだよ。
最初から間違ってたのに僕を襲ってくるし、本当に碌なヤツじゃなかったね。
それはともかく飢饉の影響なのか、去年はあんまり戦が無かった。
今年も少ないといいんだけど、どうかなぁ?
「正月だから来たよー。「きゅ!」おお、相変わらず可愛いね。
はいこれ、お餅ね「きゅ!きゅ!」」
宗之助が来たみたいだ。
去年は戦もあまり無かったから、家に来る事は少なかったんだよね。
今日も正月だから来ただけみたいだし。
「いや、今日は情報が纏まったし、それを受け取ったから来たんだよ。東と西の両方だね。
まずは西かな? 平貞能という人物が命じられて、西国の鎮西に乗り出してる」
「その割には話をあまり聞かなかったんだけど?」
「細々とした戦を粘り強く行ってたみたいだよ。
元々西国は飢饉の影響で食べる物が少ないんだ。その中で兵糧をやりくりして戦を続けていたみたい。
敵方は菊池隆直。海も陸も従えている、かなりの名の人物らしいね」
「それは……簡単にはいかないでしょうね。飢饉の影響もあるなら、尚のこと簡単にはいかないわ。
それで、どうなったの?」
「さっきも言ったけど、粘り強く戦ったおかげか徐々に平氏側が勝ってるよ。
今は既に相当の部分で勝利を収めたんじゃないかな? 菊池側は相当に追い込まれているらしいよ」
「それなら平氏側の勝利で終わりそうね。
九州の勝ちで一息吐くでしょうけど、東はどうにもならないわね。
昔からの怨みと憎しみが強すぎるわ。完全にやり過ぎた大相国の所為ね」
「その東だけど、昨年の葉月、つまり八月に平通盛と平経正が追討に出てるでしょ?
その後の情報が色々と錯綜してたみたい」
「追討に出たのはいいけど、色々とあったという事ね。
二転三転でもしたかしら?」
「そこまではしてないよ。
ただ追討軍は越前に入ったらしいんだけど、そもそも越前と加賀の国の連中は全く従わなかったらしい。
だから源義仲どころじゃなかったみたいだね」
「あらら……在地の者達が従わずに反平氏として争ったと。
当初から躓いているじゃない、流石にその状況じゃ情報もしっかり集まらないでしょう」
「いかに陰陽師の伝手が優秀だと言っても、現地が混乱してるんじゃ正しい情報は集まらないでしょうね。
それで?」
「昨年の長月、九月に在地の者達との戦があったらしいんだけど、まさかの追討軍の敗北。
敦賀城という所まで退く事になったんだって」
「あー………本当に義仲どころじゃないわねえ。まさか在地の者にすら負けるってどういう事よ?
そこまで反平家が強いのか、それとも追討軍が弱かったのか。
どちらかは知らないけれど、本当に東は駄目ねえ」
「それがさ、敗れたのは平通盛なんだけど、若狭には平経正が居たらしいんだよ。
でも経正は援軍を送らなかったみたいなんだ」
「援軍を送らないって……もしかして追討軍の中で揉めてたってこと? 呆れるわ、本当。
平氏って自分達が追い詰められているっていう自覚が無いのかしら」
「無いんだろうね。だから援軍は送らないって決まったらしい。
ただし北陸は平家が重税を強いて兵糧を集めていた所だ。是が非でも取り戻そうとするはずだよ。
西国でもそうだけどさ、嫌われてる自覚が無いんだと思う」
「結局は在地の者達が蜂起して兵糧が不足し、結果として敗北を重ねるって感じね。
そもそも戦をするにしたって、誰が支えてくれているか分かってないのよ。
誰が食べる物を作っているか考えたら分かるでしょうに」
「それが分かったら平氏じゃないんじゃない?
………まあ、源氏も似たようなものだけど」
「今は平氏憎しだが、源氏が勝ったら必ず揉めるな。今度は源氏の内部で争いか。
いや、もしかしたら勝ちが見えた段階で争うのかもしれん」
なんか斯明の言っている通りになりそうな気もするね。
源氏の奴らも碌なものじゃないよ。
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今年は飢饉の影響からか戦は殆ど無かった。
もう師走で今年も終わりかけてるけど、本当に一年が過ぎるのが早い気がする。
今年の皐月、つまり五月の終わりごろに改元があって、今年は寿永元年だ。
相変わらず何の意味があるのか分からないし、ころころ元号を変えるのは止めてほしい。分かりにくくて仕方がないよ。
ちなみに来年は寿永二年だ。
え? もう? としか思えない。
「来年も戦が無いといいんだけどな。
とはいえ全く無かったわけではなく、西国では遂に菊池氏が鎮圧されて西国の動乱は終結したらしいが……」
「果たして本当に終結したのか、というところね。
火種が燻ったままとかは普通にありそうよ? 早々に反平家が無くなるなんて事は無いでしょう。
東が大きくなれば、西の反平家も再燃するでしょうね」
「それになんと言っても、今年の秋の収穫は良かったみたいですからね。
平家側では北陸道を取り返すという動きが見られるとの事ですよ」
「碌な事をしないわね。
昨年、源頼朝が平氏に対して極秘に和解を申し入れていたらしいわ、後白河院を挟んで。
ところが内府は大相国の遺言を元にして拒否してる」
「ここが最後の機会だったという事にならねばよいのだが、やはり大相国の呪いは解けぬか。
これだけは黒金でも解く事はできんからなぁ……」
「そもそも解けと言われても断るし、いちいち関わりたくないけどね。
勝手にやればいいんだよ。僕の方に言ってこられても困るし」
「それと、城氏に対して<越後守>の官職を渡した事に対して、公卿や公家の方々は<天下の恥>とまで言っているそうですよ。
在地の豪族に官職を渡したからでしょうけど」
「まあ、言ってる事は分からなくもないけどねえ……。
でも、その官職だって本当に効果があるのかしら? 東は特に反朝廷の気運もあるというのに」
官職っていうのがあっても、実際に治められるかは別だもんね。
そっぽ向かれたら、どうにもならないし。
内府=内大臣のこと。当時の平宗盛の官職




