0061
Side:黒金
「他にも伝えに来た事はあってね、どうやら美濃の挙兵は一応の決着がついたようだよ。
源行家という人物が起こしていて、この人は頼朝の下にはついてないんだってさ」
「ふーん、独立勢力としてやっていく自信があるという事かしら? それとも後ろに誰かついてる?」
「最初から話すと美濃と尾張の間にある墨俣川という所で対峙したんだって。
東に源行家軍、西に平重衝軍。この状態から戦は始まってる」
「ふんふん」
「で、行家軍は夜討ちを仕掛けたんだけど、川を渡った後で平氏側にバレて奇襲にならなかったみたい。
その所為で大敗したんだって聞いたよ」
「バカじゃないの?
奇襲がバレたら川を背にした不利な状況にしかならないでしょ。
<背水の陣>とも言うけれど、あれは最初からその覚悟をしている兵士達だから成り立つのよ。
奇襲を見破られたら慌てふためくだけでしょうに」
「まあ、その想像通りに大敗して、多くの源氏が討ち死にしたらしいよ。
更に次男は捕らえられたんだってさ。
で、行家軍は尾張の熱田ってところまで退いたらしいんだけど、そこでも負けて三河まで逃げたみたい。
それ以上は平氏も追わなかったんだと思う。話はそこで終わりだから」
「なるほど、それにしても滅多打ちというぐらいにやられているな。
熊野の大衆も加わっているはずだが、おそらく叩き潰されたであろう」
「それなんだけど、どうも行家軍の中で誰が先陣を切るかで揉めてたみたい。
その所為で夜討ちがバレたみたいな情報があったよ。
なんだかバカバカしい事をしてるよね? 負けたら意味無いのにさ」
「武士にはよくある事ね。
先陣だと誉れだし、上手くやれば名を上げられるからでしょうけど」
「それで大敗したら間抜けの名として残るのにねえ。武士の考える事は分からないや。
それはともかく、それで熊野も大人しくなるんじゃないかってさ」
「本当に大人しくなるのかな? だって寺社って勝手ばっかりしてるじゃない」
「言いたい事は分かるけど、西国での飢饉は未だに続いてるからね。
その所為で何処も戦なんて出来ないよ。西国も飢饉を凌ぐので精一杯さ。
それでも昔に稀人が伝えてくれた芋のおかげで助かってるくらいだ」
「あの薩摩芋か。あれならば飢饉を凌げるだろうな」
あの芋、ホクホクしてて結構好き。
都の人も好きな人が多いしね。あれは良い物だと思うよ。
斯明が稗の粥に入れたりする事が多いしね。
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美濃と尾張で争いがあってから三ヶ月。
今日は水無月の最初の日、つまり一日だ。
艶と葛葉の子供が生まれたけど、僕は葛葉の子供の姿を見ていない。
正しくは産婆の人が言う、葛葉の子供の人の姿は見ていないんだ。
葛葉の子供は生まれて少しすると狐の姿になっちゃって、それ以降はずっと狐のまま。
葛葉が言うには、ある程度成長しないと人間の姿には変化できないとのこと。残念。
艶の子供は男子だったからか、賀茂家の人も大喜びだった。
何故か賀茂家の御当主様が来て嬉しそうにしてたよ。
お酒飲んで潰れてたけど。
「きゅ、きゅ」
「ああ、そっちに行っちゃ駄目だよ。落ちると危ないからね」
「きゅ……」
僕が抱き上げると「残念」という顔をする狐。名前は「子葉」。
葛の葉の子供だから子葉だと聞いた時には何とも言えなかったけど、僕は気にしない事にしている。
ちなみに艶の子供は「若竹」という名前だ。
元服したら名前を変えるらしいけど、元服ってなんだろう?
「大人になる事なんだけど………。
現人神一歩手前の黒金は、果たして人と同じ歳のとり方をするのかしら?
どうしても私達寄りに感じるのよね。
もしかしたら神と同じで歳はとらないかも」
「神様の加護でそこまでになるのか。あまり良い事とは思えんが……」
「そもそも今までの稀人と同じとは限っていないのよ。
大量の神の加護を得ている時点で、今までと同じと考えてはいけないと思うわ。
明らかにおかしいし、死にかけても治してもらえてるし」
「それはまあ……確かにそうね。
今までの稀人は死んだらそれで終わりだったのに、黒金だけ明らかにおかしいわ。
もちろん生きていて良かったと言えるんだけど、神様がたが妙に過保護な気がする」
話をしていると宗之助がやってきた。
最近は宗之助がやってくる事が増えたね。
暇なんだと思うけど、暇じゃないのかな?
「おおっ、元気に動き回ってるねえ。子供は元気が一番だ。
それより今日も情報があるから寄らせてもらったよ」
「という事は戦が再開されたのかしら?」
「いや、そうじゃなくて、ずっと争ってたみたいだね。
去年さ、東の方で佐竹っていうのが源頼朝に攻められて負けたんだよ。
で、領地を奪われたんだけど、覚えてる?」
「ああ、そんな事あったわねえ。で、それの続き?」
「そう。どうやら向こうでは争いが続いてたみたい。
佐竹っていうのは領地を取り戻そうと、何度も頼朝軍と戦をしてたんだって。
負けて多くの土地を奪われたんじゃ、必死に取り戻そうとするのは当たり前だろうけどね」
「ふーん……」
「その佐竹だけど、援助している者は多くないみたいだよ。
頼朝が平氏を打ち倒したり切り崩したりしているし、佐竹って平氏側だからね。
東国でも当然嫌われてる。だから余計に難しいみたい。
散発的に攻撃してるだけで、大勢に影響はなさそう」
「それは仕方ないだろうな。
そもそも反平家は大相国が亡くなってから、さらに膨れ上がっている。
もはや誰にも止められんだろう。そのうえ惣官が目の仇にしている。
遺言だから仕方ないのだろうが……」
「それと惣官が言い出していた西の叛乱。
原田なにがしを大宰権小弐に任じたけど、全く意味は無かったみたいだね。
治まる気配はまるで無し」
「あらら、西の叛乱も燃えたままか。
美濃と尾張で勝ったのはいいけど、焼け石に水って感じじゃない。
もはや平氏から全てを奪えと言わんばかりだから、どうにもならないでしょうけどね」
だね。ひたすら奪う事しか考えてないと思う。
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今日は文月、つまりもう七月だ。
時が過ぎるのは早いと思うけど、僕も多少は色々と一人でするようになった。
流石に子供達を前にして一人で出来ないのは情けないからね。
で、今日は夕餉に戻ってきた艶と葛葉から話を聞く。
二人とも賀茂家と安倍家に帰っていたからね。
「なんでも信濃で挙兵していた源義仲に対して、越後の城長茂が戦を仕掛けたそうよ。
先月の事らしいけど、平氏方から言われて攻め込んだらしいわ」
「徹底的に源氏を鎮圧しようとしているな。やはり大相国の遺言が響いていると見て間違いなかろう」
「私もそう思います。
両軍は横田河原という所でぶつかったそうですが、義仲軍は平氏の赤旗を掲げており、近付いてから白旗に変えて奇襲したそうです。
これで浮き足立った城軍は大敗を喫したと聞きました」
「報せが錯綜しているから分からないけど、九千騎もが討ち取られたという話もあったわね。
流石に盛りすぎというか、そこまで集まってはいないと思うけど……」
「それでも大敗した事に変わりは無いんじゃないの?」
「まあね。実は義仲軍は圧倒的に兵数で劣っていたらしいのよ。
それで勝利したからか、源義仲の名もかなり轟いたみたい。
これで慌てたのは平氏よりも頼朝でしょうね。
自分が源氏の棟梁みたいに思ってたところでこれだもの」
なんでか分からないけど、葛葉って源頼朝に対して厳しいよね? 不思議だけど。
惣官=畿内惣官のこと。当時の平宗盛の官職




