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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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 Side:黒金(くろかね)



 蛇は猛兵の矢を受けたからだろう、すぐに大相国の体の前に陣取った。

 そうする事で矢を受けずに済むし、斬兵の剣ですら切れないんだから、戦えると思ったんだろう。

 だけど甘いよ。


 僕は将門から貰った短刀を抜き、霊兵達に霊力を送る。

 今までは勝手に送られていた分だったけど、今は意識して霊兵達に霊力を送っているんだ。

 こうしないと本当の意味で強化されない事は分かってる。


 僕は心の中だけで指示し、強化された古兵にワザと剣を当てないように牽制させる。

 蛇は効かない剣をものともせずに攻撃してきたが、古兵は素早く離れた。

 そしてその瞬間、斬兵が一気に近付いて首に振り下ろす。


 「!!!」


 ズドォッ!!


 「シュァァァァァァァァァ!!?!?!」


 まさか強化しているのに一度で切れないとは思わなかった。

 こいつ思ってるより硬い。

 とはいえ首の半ば以上まで切れてるから、後は古兵達と共に一気呵成(かせい)に攻めれば勝てる。


 「古兵! 斬兵! 一気に攻撃して、ここで終わらせるんだ!

 でないと、こいつは別の者に乗り移ろうとする!!」


 「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」


 僕の言葉を聞いたからか、慌てて平氏の人達が離れ始めた。

 流石に乗り移られたくは無かったんだろう。

 しかし宗盛という人だけが逃げないままだ。

 なんで逃げないんだよ、乗り移られちゃう……んだよね?


 僕は密かに猛兵に指示を出す。

 あの宗盛って人に乗り移ろうとしたら、それを邪魔するように射れと。

 そしてその時はすぐに訪れた。


 「ギシャァァァァァァァァl!!!!」


 「宗盛様! お逃げくだされ、宗盛様!!」


 「父上が苦しんでおられるのに、逃げる愚か者がおるかぁ!!

 ワシを乗っ取る事など出来んぞ、蛇めが!!

 ワシの中で滅ぼしてくれるわ! かかってまいれ!!!」


 「シャァァァァァァァァァァ「ズドドドォッ!!!」、ガッ!?!?!」


 やった、狙いは完全に成功!!

 近くから猛兵の矢を受けた蛇は宗盛という人に噛みつく事も出来ずに、向こうに吹っ飛んだ。

 そしてそのまま消えていき、大相国は地面に落ちた。


 ドサッ!!


 「父上! 父上っ!」


 走って行って大相国を抱き上げた宗盛って人は、ずっと大相国を呼んでる。

 でも、起きないみたいで……あ、起きた。


 「き、聞こえて、おる……」


 「ち、父上! 父上!! よかった、無事だったのですね!」


 「無事、ではない……。な、長い、夢のようで、あった……。

 や、病に倒れた、あ、あの日。ワシは、ワシで、なくなった」


 「父上……」


 「あれから、な、なんねん経ったであろう……。

 やっと、へ、蛇めが居なく、なった……が、お、遅かった。

 もう、ワシの、い、命は……」


 「父上!? 何をおっしゃっておられるのですか! 蛇めが居なくなったのです、これから幾らでも生きられまする!!」


 「も、もう、無理だ……。

 む、宗盛。そなたに、万事、まか、せる……。

 せ、せめて、よ、頼朝の、く、首を、我が墓前に………。

 あ、あれを、流した、が……こ、心、のこ、り」


 「ち、父上!? 父上ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」


 必死に伝えようとしていたみたいだけど、最後まで源氏に対するものだったね。

 周りの平氏の人も泣いているけど、僕はさっさと出て行って家に戻った。

 正直に言って、付き合ってられないよ。


 あの言葉でまた平氏と源氏が争い合うんだろう。

 本当に付き合っていられない。

 甲三級の霊玉は勿体ないけど、関わりたくないからさっさと帰ろう。


 …

 ……

 ………


 「ただいまー」


 「お帰り、黒金(くろかね)。随分と遅かったな」


 「大相国って人に憑いていた、五頭大蛇(ごずだいじゃ)っていうのが原因だった。

 前に葛葉(くずは)が言ってた通り、昔の病の時に憑かれたみたい。

 何とか頑張って倒したけど、大相国って人は死んじゃったよ」


 「………そう、大相国は逝ったのね。

 それにしても五頭大蛇(ごずだいじゃ)………残念だけど、聞いた事が無いわ」


 「神様の眼で()たら、オロチの血を僅かに得たって出てたよ?」


 「「「オロチ!?」」」」


 「それって八俣遠呂智(やまたのおろち)の事じゃないの!

 そんな者の血を僅かとはいえ手に入れた蛇が居たなんて……。今の今まで知らなかったわ。

 よくもそんなのと戦って勝てたわね?」


 「最初斬兵の剣が弾かれてビックリしたよ。

 その後は将門の短刀を使って切ったけどね。

 神様の眼で()たら猛兵を使えって出てたから、猛兵を使って倒したよ」


 「なんにせよ、黒金(くろかね)が無事で良かった。

 大相国が亡くなったのは仕方がない。

 おそらく平氏の方も何も言っては来ぬだろう。

 流石に黒金(くろかね)の所為ではないしな」


 「それより大相国は何か言い残してなかった?」


 「万事、宗盛に任せるっていうのと、頼朝の首を墓前にって言って死んだよ」


 「………頼朝ねえ。源頼朝、何故そこまで拘るのかしら?」


 「あれを流したのが心残りって言ってた」


 「ああ、流罪にせずに殺しておけば良かったって事ね。

 結局、五頭大蛇(ごずだいじゃ)が倒されても、大相国は大相国のままか……。

 その遺言がある以上、平氏は絶対に頼朝を殺すまで諦めないでしょうね」


 「そして反平氏に対して強行に出て行く、と。

 いつまでも争いが続くわね」


 「もはや呪いだな。平氏の一族を縛る呪い。

 なぜ最後にそんな言葉を残すのか……」


 「まさに〝心残り〟なんでしょうね。

 自分が犯した過ちとでも思ってたんじゃない?

 それが〝心残り〟で他の事なんて考えられなかったんでしょ。

 それを愚かな拘りと言うんだけど……大相国には分からなかったみたい」


 最後の最後まで世の中に迷惑を掛けてくれる人だと思う。

 なんであんなに自分勝手なんだろう。

 最後に源氏と仲直りしろと言えばいいのに。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 平大相国こと平清盛が死んで一月ほど経った。

 あれから平氏の人は家に来ないし、僕は勉強と妖怪退治と狩りに行っている。

 最近ようやく人間と妖怪の霊力の違いが分かってきたので、妖怪探しも楽になったよ。

 斯明(かくめい)より遅かったけどね。


 「最近は温かい日が多くて助かるね。それでも姉上のお腹が大きいから私が来るんだけど。

 それはともかくとして、惣官殿は興福寺と東大寺への処分は全て撤回したらしいよ。

 流石に高倉院と大相国が相次いで亡くなったからね。強権はふるえない」


 「それがいいわ。

 高倉院はおそらく病で、大相国は妖怪に憑かれていた所為だけど、それでも焼き討ちは決していい事ではないしね。

 しかも領地などは全て奪い、再建も認めないなんてどうかしてるもの」


 「唯でさえ平家の力が下がっているものね、これ以上の低下は避けたいはず。

 だからこそ寺社を(なだ)めようとしたのでしょう。気持ちは分かるわ。

 大相国はあっちもこっちもに喧嘩を売ってる状態だったもの。

 上手くいくはずが無い」


 「それと後白河院の院政に戻ったけど、後白河院も無茶は出来ないみたいだね。

 公卿や公家の方々が日和見(ひよりみ)してるよ。

 まだまだ平氏の力が強いからだろうけど」


 「後白河院がまた幽閉されるかもしれないからか。

 その際に連座で自分達も解任されては敵わんという事だろう。

 公卿や公家の方々も自分勝手だな。とはいえ後白河院も……」


 「好き勝手にしてきたという意味では、大相国とあんまり変わらないのよねえ……。

 本当に碌なのが居ないわ」


 「は、はははは………」


 宗之助(そうのすけ)の顔が引き攣ってるけど、院とか大相国を碌でもないって言えるのは葛葉(くずは)ぐらいなんだろうね。

 たぶん他には誰も言えないと思う。


惣官=畿内惣官のこと。当時の平宗盛の官職

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