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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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 Side:黒金(くろかね)



 高倉院の祈りに行った次の日。

 何故か宗之助(そうのすけ)が家に来て色々と話を始めた。

 どうやら賀茂家の御当主が色々と知っておいた方がいいと思って、宗之助(そうのすけ)を遣わしてくれたみたい。

 (つや)葛葉(くずは)もお腹が大きくなってきたからね。


 「南都の焼き討ちあったじゃない? あれの続きが入ってきたよ。

 相当に大相国は怒り狂ってるらしく、東大寺や興福寺の荘園・所領を(ことごと)く没収して別当や僧綱らを更迭。

 これらの寺院の再建を認めないって言ってるみたい」


 「寺院の再建を認めないっていうのも凄いわね。

 完全に興福寺と東大寺を潰す気しか感じられないわ。

 藤原氏の菩提寺を潰すって………大相国はもう正気じゃない?」


 「可能性はありそうね。

 実際、前にも言ったけど、何かに憑かれている可能性はあるのよ。

 どこの妖怪なのかは分からないけど、良からぬヤツが憑いているんじゃないかしら」


 「それ、本当なら恐ろしい事なんだけど?

 偉い人が憑かれたら、妖怪に好き勝手にされちゃうじゃん。

 周りに言ったって本当か疑われるだけだし、でも妖怪の好き勝手にされちゃうし」


 「そうそう妖怪も憑いたりとかしないから安心していいわよ。

 ただし大相国は憑かれているかもしれないと考えた方がいいわね。

 幾らなんでも色々とやり過ぎよ。

 もちろん歳をとって耄碌(もうろく)したのかもしれないけど」


 「それは………妖怪に憑かれていたっていう方がまだマシかな? うん、一旦その話は横に置こう。

 で、逃げた大衆(だいしゅ)達の掃討も兵を派遣して行うはずだったみたい。

 ところが高倉院が亡くなったじゃない? それで命令は行われないままだよ」


 「それどころじゃなくなったわけか……。

 とはいえ大相国の事だ、このまま忘れたりはするまい。

 いつか必ず南都に兵をやって横領を行うのだろう。

 元々大衆(だいしゅ)達が反平家を掲げたのも、その横暴からであろうに

 どこまでやれば気が済むのだ」


 「それはねえ……言っても無駄な気がする。

 とにかく上の地位は全部平家って感じで、一族郎党で牛耳っているからね。

 そして源氏や他の者達への見下し。

 ああなったら終わりだと思うし、大相国も結構な歳だよ? 亡くなったらどうするんだろうね」


 「誰かが継ぐのは間違いないが、継いだ者が誰であれ批判されるだろう。

 大相国と同じ事をしたら批判され、大相国よりも大人しくしようとしたら、今度は身内の平氏から批判されるだろう」


 「大相国は身内の一族郎党には甘かったものね。

 なぜ自分達には地位や褒賞が無いんだって、必ず言い始めるわ。

 大相国が亡くなっても平氏の前途は多難ね。

 もちろん大相国がやり過ぎた所為だけど」


 「まあ、そういう事で、藤原氏の方々と揉めるかもしれないよ。

 まあ、あの方々ならこっそりと(ささや)いて大相国の命令を撤回させるかもね。

 大相国の亡くなった後にでも」


 「公卿や公家はそういう(したた)かさがあるからこそ、今まで長い間ずっと上の地位に居るのよ。

 あいつら蛇のようにしつこいから」


 「その言い方もどうなんだろう?

 ウチも実家は公家なんで、なんとも言えない気分になってくるね。

 特に間違っていないところがさ」


 「それはともかく、宗之助(そうのすけ)が御当主様から言われたのはそれだけなのか?」


 「それもあるけど実家に居辛いんだよ。

 だから斯明(かくめい)さんの所に来てゆっくりしようかなって。

 なんか実家に戻ったら兄上から睨まれたんだよねー。

 父上が「バレた」って言ってたから、兄上にバレたんだろうけど」


 「ああ、貴方の方が優秀だって、劣った兄にバレたのね」


 「言い方! その言い方は止めて。

 なんか余計に兄上が怒ってきそうだからさ。

 そもそも私は継承で揉めるのが嫌だから離れたのに、なんで睨まれなきゃなんないんだか」


 「宗之助(そうのすけ)の方が陰陽師として上だからじゃないの?

 賀茂家って陰陽師の家でしょ?

 でも宗之助(そうのすけ)の方が上なんだから、色々と言われるんじゃないかな」


 「うん。黒金(くろかね)の言う通りなんだけどね?

 全部まとめてその通りなんで、なんにも言えません。

 ただ、私は本当に陰陽寮とか嫌なんだよねえ。

 知識はあるし色々と知ってるけど、知ってるからこそ御免だよ。あんな面倒くさいの」


 「そこまで大変なんだなぁ」


 「そうだよ、本当に大変なんだ。

 あんな面倒なの絶対にしたくないし、私から断るよ。

 私としては兄上に押し付けて逃げたいんだ、にも関わらず賀茂家の当主の座を狙ってるとか思われるんだよ。

 本当、嫌になってくる」


 なんか宗之助(そうのすけ)も大変みたい。

 僕はそういうの無いから気楽だけど、公家の家って大変なんだなぁ……。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今日は治承五年の如月だ。

 稀人(まれびと)が伝えた言い方だと二月だね。少しは寒さがマシになってきたかな?

 そう思うこの日、久しぶりに宗之助(そうのすけ)がやってきた。

 ここ最近は山に行って猪とか鹿とか狩ってきてたからなぁ。


 なんでって思うかもしれないけど、(つや)葛葉(くずは)が食べたがったからだよ。

 あの二人、なぜかたまにお肉が食べたいって言い出すんだよね。

 ただ寒い時季には滅多にお肉は売ってないから、獲りに行かなくちゃいけなかったんで大変だったよ。


 「いやー、まだ寒いね。

 今日斯明(かくめい)さんの家に来たのは熊野の方の(しら)せが来たからだよ。

 どうやら熊野の者達が志摩の国に攻め込んだみたい。

 菜切という所が襲われたんだってさ」


 「今度は熊野? いったい何をやっているのかしらねえ。

 興福寺や東大寺の話を聞いてないのかしら?

 いえ、聞いたからこそ先に動いたのかも」


 「このままだと大きな寺社は軒並みやられる。

 そう思ったとしても不思議ではないわ。

 興福寺や東大寺が焼き討ちにあったのだもの。

 同じような寺社や小さなところは戦々恐々としてるでしょ」


 「その菜切に攻め込んだ熊野の衆徒だけど、そこからさらに伊勢の国にも攻め込んだんだってさ。

 何やってるんだろうね、本当」


 「伊勢の国までか? 本当に奪わなきゃ奪われるという末法の世みたいだな。

 それを寺社の者が率先してやっているというのが、なんとも……」


 「まあ、連中は強訴とか当たり前にやるから、元々末法の世のような連中だけどね。

 それはともかくとして、伊勢の国のなんとかって言う平氏の人に撃退されたらしいよ。

 それでもまだ反平家の動きをしているみたいだけど」


 「撃退されたのに懲りないというか、熊野も何を考えているんだか……。

 本当に攻められなければ止まらないのかしら?

 どっちもやっている事がおかしいわ」


 「そういう連中と言うべきかもしれないし、本性はそういう者達なのかもね。

 最近どっちも同じにしか思えなくなってきたよ。

 だって、やってる事は全く変わらないしさ」


 「それはそうだな。

 元々は平氏が散々に官位や官職を奪い、勝手に国司などを得て支配していったのだ。

 それを考えると、力で無理矢理に奪ったと言えなくもない」


 「そもそも多くの国の土地を無理矢理に奪ってますし、勝手に来て新しい国司だと言い張ったりしているわけで。

 在地の者達からすれば納得いかないでしょうね。

 もちろん平氏にすり寄って立場が良くなった者も居たでしょうが」


 「それは新たな揉め事を生んだだけであろう。

 結局は土地を治めるのに役立ったとは思えないな。

 実際に多くの所で反平家を掲げている者が居る以上は」


 「そうだね。斯明(かくめい)さんおの言う通り、多くの所では反平家になっちゃってる。

 この流れは相当の何かがないと止まらないよ」


 「新たな大相国でも出てきて、徹底的に潰していくぐらいしないと無理でしょ。

 とはいえ大相国の死期は近いわ。

 もって二年でしょうよ。そこで平氏の命運は尽きる。

 大相国がここまで平氏を押し上げたからこそ、滑り落ちるように落ちていくわ」


 だろうね、僕もそう思う。

 なんだか、このまま傾いて倒れていくんじゃないかな。

 だって怨みと憎しみを振り撒いてるだけだし。


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