0058
Side:黒金
高倉院の祈りに行った次の日。
何故か宗之助が家に来て色々と話を始めた。
どうやら賀茂家の御当主が色々と知っておいた方がいいと思って、宗之助を遣わしてくれたみたい。
艶も葛葉もお腹が大きくなってきたからね。
「南都の焼き討ちあったじゃない? あれの続きが入ってきたよ。
相当に大相国は怒り狂ってるらしく、東大寺や興福寺の荘園・所領を悉く没収して別当や僧綱らを更迭。
これらの寺院の再建を認めないって言ってるみたい」
「寺院の再建を認めないっていうのも凄いわね。
完全に興福寺と東大寺を潰す気しか感じられないわ。
藤原氏の菩提寺を潰すって………大相国はもう正気じゃない?」
「可能性はありそうね。
実際、前にも言ったけど、何かに憑かれている可能性はあるのよ。
どこの妖怪なのかは分からないけど、良からぬヤツが憑いているんじゃないかしら」
「それ、本当なら恐ろしい事なんだけど?
偉い人が憑かれたら、妖怪に好き勝手にされちゃうじゃん。
周りに言ったって本当か疑われるだけだし、でも妖怪の好き勝手にされちゃうし」
「そうそう妖怪も憑いたりとかしないから安心していいわよ。
ただし大相国は憑かれているかもしれないと考えた方がいいわね。
幾らなんでも色々とやり過ぎよ。
もちろん歳をとって耄碌したのかもしれないけど」
「それは………妖怪に憑かれていたっていう方がまだマシかな? うん、一旦その話は横に置こう。
で、逃げた大衆達の掃討も兵を派遣して行うはずだったみたい。
ところが高倉院が亡くなったじゃない? それで命令は行われないままだよ」
「それどころじゃなくなったわけか……。
とはいえ大相国の事だ、このまま忘れたりはするまい。
いつか必ず南都に兵をやって横領を行うのだろう。
元々大衆達が反平家を掲げたのも、その横暴からであろうに
どこまでやれば気が済むのだ」
「それはねえ……言っても無駄な気がする。
とにかく上の地位は全部平家って感じで、一族郎党で牛耳っているからね。
そして源氏や他の者達への見下し。
ああなったら終わりだと思うし、大相国も結構な歳だよ? 亡くなったらどうするんだろうね」
「誰かが継ぐのは間違いないが、継いだ者が誰であれ批判されるだろう。
大相国と同じ事をしたら批判され、大相国よりも大人しくしようとしたら、今度は身内の平氏から批判されるだろう」
「大相国は身内の一族郎党には甘かったものね。
なぜ自分達には地位や褒賞が無いんだって、必ず言い始めるわ。
大相国が亡くなっても平氏の前途は多難ね。
もちろん大相国がやり過ぎた所為だけど」
「まあ、そういう事で、藤原氏の方々と揉めるかもしれないよ。
まあ、あの方々ならこっそりと囁いて大相国の命令を撤回させるかもね。
大相国の亡くなった後にでも」
「公卿や公家はそういう強かさがあるからこそ、今まで長い間ずっと上の地位に居るのよ。
あいつら蛇のようにしつこいから」
「その言い方もどうなんだろう?
ウチも実家は公家なんで、なんとも言えない気分になってくるね。
特に間違っていないところがさ」
「それはともかく、宗之助が御当主様から言われたのはそれだけなのか?」
「それもあるけど実家に居辛いんだよ。
だから斯明さんの所に来てゆっくりしようかなって。
なんか実家に戻ったら兄上から睨まれたんだよねー。
父上が「バレた」って言ってたから、兄上にバレたんだろうけど」
「ああ、貴方の方が優秀だって、劣った兄にバレたのね」
「言い方! その言い方は止めて。
なんか余計に兄上が怒ってきそうだからさ。
そもそも私は継承で揉めるのが嫌だから離れたのに、なんで睨まれなきゃなんないんだか」
「宗之助の方が陰陽師として上だからじゃないの?
賀茂家って陰陽師の家でしょ?
でも宗之助の方が上なんだから、色々と言われるんじゃないかな」
「うん。黒金の言う通りなんだけどね?
全部まとめてその通りなんで、なんにも言えません。
ただ、私は本当に陰陽寮とか嫌なんだよねえ。
知識はあるし色々と知ってるけど、知ってるからこそ御免だよ。あんな面倒くさいの」
「そこまで大変なんだなぁ」
「そうだよ、本当に大変なんだ。
あんな面倒なの絶対にしたくないし、私から断るよ。
私としては兄上に押し付けて逃げたいんだ、にも関わらず賀茂家の当主の座を狙ってるとか思われるんだよ。
本当、嫌になってくる」
なんか宗之助も大変みたい。
僕はそういうの無いから気楽だけど、公家の家って大変なんだなぁ……。
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今日は治承五年の如月だ。
稀人が伝えた言い方だと二月だね。少しは寒さがマシになってきたかな?
そう思うこの日、久しぶりに宗之助がやってきた。
ここ最近は山に行って猪とか鹿とか狩ってきてたからなぁ。
なんでって思うかもしれないけど、艶と葛葉が食べたがったからだよ。
あの二人、なぜかたまにお肉が食べたいって言い出すんだよね。
ただ寒い時季には滅多にお肉は売ってないから、獲りに行かなくちゃいけなかったんで大変だったよ。
「いやー、まだ寒いね。
今日斯明さんの家に来たのは熊野の方の報せが来たからだよ。
どうやら熊野の者達が志摩の国に攻め込んだみたい。
菜切という所が襲われたんだってさ」
「今度は熊野? いったい何をやっているのかしらねえ。
興福寺や東大寺の話を聞いてないのかしら?
いえ、聞いたからこそ先に動いたのかも」
「このままだと大きな寺社は軒並みやられる。
そう思ったとしても不思議ではないわ。
興福寺や東大寺が焼き討ちにあったのだもの。
同じような寺社や小さなところは戦々恐々としてるでしょ」
「その菜切に攻め込んだ熊野の衆徒だけど、そこからさらに伊勢の国にも攻め込んだんだってさ。
何やってるんだろうね、本当」
「伊勢の国までか? 本当に奪わなきゃ奪われるという末法の世みたいだな。
それを寺社の者が率先してやっているというのが、なんとも……」
「まあ、連中は強訴とか当たり前にやるから、元々末法の世のような連中だけどね。
それはともかくとして、伊勢の国のなんとかって言う平氏の人に撃退されたらしいよ。
それでもまだ反平家の動きをしているみたいだけど」
「撃退されたのに懲りないというか、熊野も何を考えているんだか……。
本当に攻められなければ止まらないのかしら?
どっちもやっている事がおかしいわ」
「そういう連中と言うべきかもしれないし、本性はそういう者達なのかもね。
最近どっちも同じにしか思えなくなってきたよ。
だって、やってる事は全く変わらないしさ」
「それはそうだな。
元々は平氏が散々に官位や官職を奪い、勝手に国司などを得て支配していったのだ。
それを考えると、力で無理矢理に奪ったと言えなくもない」
「そもそも多くの国の土地を無理矢理に奪ってますし、勝手に来て新しい国司だと言い張ったりしているわけで。
在地の者達からすれば納得いかないでしょうね。
もちろん平氏にすり寄って立場が良くなった者も居たでしょうが」
「それは新たな揉め事を生んだだけであろう。
結局は土地を治めるのに役立ったとは思えないな。
実際に多くの所で反平家を掲げている者が居る以上は」
「そうだね。斯明さんおの言う通り、多くの所では反平家になっちゃってる。
この流れは相当の何かがないと止まらないよ」
「新たな大相国でも出てきて、徹底的に潰していくぐらいしないと無理でしょ。
とはいえ大相国の死期は近いわ。
もって二年でしょうよ。そこで平氏の命運は尽きる。
大相国がここまで平氏を押し上げたからこそ、滑り落ちるように落ちていくわ」
だろうね、僕もそう思う。
なんだか、このまま傾いて倒れていくんじゃないかな。
だって怨みと憎しみを振り撒いてるだけだし。




