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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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 Side:黒金くろかね



 今日は師走の十三日。

 だけど、ちょっと驚きの話があったんだって。

 昨日、葛葉くずはが聞いてきたらしいんだけど、ビックリする事に園城寺が攻められたんだ。


 「本格的に寺に攻撃するなんて初めての事よ。

 今まで小競り合いみたいなものはあったけど、本気で寺を攻めるなんてねえ……。

 間違いなく平氏は追い詰められているわ。

 平大相国も自分の死期を悟ったのでしょう、ここまで強引な事をするんだもの」


 「園城寺を本格的に攻めたの? それはまた……仏罰だ祟りだと騒ぎそうね。

 私も黒金くろかねに会うまでは信じたでしょうけど、黒金くろかねに会ってからは胡散臭く思ってるわ。

 だって神罰は本当にあるんだもの。それと比べれば、ね?」


 「そうだな。黒金くろかねに加護をお与えの神々は神罰を落とされるが、御仏はそのような事も無い。

 もちろんだからといって信心せぬわけではないのだが……。

 僧侶が方便に使つこうておるという疑いが無くならぬ」


 「一応だけど宝塔とかの大事な物は壊さないとして攻めたらしいけど、火がついたらしく必死で消していたそうよ。お互いに」


 「敵も味方も火を消してたの? そんな事をするぐらいなら焼いちゃえばいいのに。

 だって攻められないから好き勝手してるんでしょ? 寺って」


 「それはそうなのだが……まあ、彼らには罰も必要か。

 でなければ好き勝手に強訴などをするからな」


 「そういえば福原に遷都するとかバカな事を言っていたけど、結局その話は未だ続いてるらしいわね。

 元々からして誰も彼もが反対していたのに、無理矢理に福原に遷都をしようするなんて」


 「あの話、まだやっていたのか……。

 高倉院も後白河院も、さらには公卿や公家の方々に平氏までもが大反対していたというのに。

 何故に平大相国は遷都を強行しようとしているのだろうか?」


 「あそこで十年ほど暮らしてたからではないですか?

 気候は良く暮らしやすいと聞きましたし、さらには港の近くです。

 北宋との貿易をしている平氏にとっては都合が良いと考えたのでしょう」


 「それはあるでしょうね。しかし、それなら平大相国だけが行けばいいのよ。

 わざわざ遷都まで無理にする必要は無いわ。

 本当に歳をとってから碌でもない事ばかりするようになったと思う」


 本当にね。

 とはいえ京の妖怪の騒ぎもそうだけど、本当は誰がやったか未だに分かってないんだ。

 平大相国が本当にやったんだろうか?


 「そうそう、あの頼朝の続報があったわよ。

 あいつ常陸の国の佐竹というのを打ち破って勢力下に置いたらしいわ。

 佐竹は平家側で結構な所領を持っていた事から、かなり奪われたみたいね」


 「まあ、やっておる事はもう平家に対する怨みというより、支配地を増やす事だからな。

 かつての源氏の怨みと憎しみはどこに消えたのやら……」


 「誰もが得をするとなれば、かつての怨みや憎しみなど捨て置くのでしょうね。

 それより己の欲が先。怨みや憎しみを返すなら分からなくもないけれど、あっさりと手の平を返す」


 「美濃と尾張の源氏も挙兵したらしいし、近江で源氏と園城寺が平家と争ってるしねえ。

 なんだか段々争いが近くに来ている感じがするわ。

 京の東に近江があって、その東が美濃と尾張よ」


 「もうすぐそこじゃない。

 っていうか、だから園城寺が攻められたわけね。

 山木と柏木という兄弟が近淡海ちかつあわうみを運ぶ年貢を奪ったらしいわ」


 「本当に近付いて来てると思うわ。にも関わらず平氏と源氏は変わらずよ。

 呆れるやらなにやらというところね」


 僕もそう思うよ。

 本当に京の都に来たら、霊兵で敵を蹴散らして四人で逃げなくちゃね。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今日は師走の二十五日だ。

 そろそろ今年も終わりそうだけど、平大相国と高倉院という人達が京の都に戻ってきた。

 半年ぐらい前から福原とかいう所に都を移すってやってたらしいけど、還都と言って都を戻す事にしたらしい。

 なにやってるんだろう?


 「本当にそう思うわ。近江の揉め事が原因なんでしょうけどね。

 それにしても短い遷都だったわねえ……。

 付き合わされた高倉院も御苦労様よ。

 平氏達の一部は行っていたらしいけど、一部だけのようね」


 「本当に僅かな間だけだったな。

 五ヶ月ほどであり、しかも公卿や公家の方々は京の都におられるまま。

 いったい何の意味があったのやら……」


 「一番の理由は守りにくさとも言われているけれども、本当のところは大相国に聞くしかないでしょ。

 大事な事は五ヶ月ぶりに大相国が京の都に戻ってきた事よ。

 高倉院も戻ってきたけどね」


 「そういえば、近江の源氏と園城寺勢は平家側に負けて美濃に敗走したそうよ。

 ただし美濃で抵抗を続けているそうだけどね。

 それに加えて伊予でも蜂起した者が居るらしいわ」


 「伊予という事は四国か……。どこもかしこも蜂起しているが、これは収拾がつくのだろうか?」


 「それは分からないけど、もうどこで蜂起が始まってもおかしくないわね。

 平氏の持っている所領なら奪ってもいいという風潮だもの」


 なんかもうメチャクチャだね。

 平氏憎しっていうより、平氏のものは全部奪ってやれって感じ。

 やっている事は賊と同じ気がするんだけど、気のせいかな?



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今日は治承五年一月一日です。つまり一年の始まりらしい。

 とはいえ今日も炬燵でぬくぬくしながら勉強しているだけなんだけどね。

 最近はお腹が大きくなってきたから、つや葛葉くずはも座椅子に座ってる。

 その方が楽なんだって。


 「それにしても大相国は信じられない事をしましたね。

 南都を焼き討ちにするとは……」


 「どうも園城寺と同じく大事な所はしないつもりだったらしいけど、結果的に大火となったのが真相みたいだけどね。

 あの辺りの事だから、修験者が情報を送ってくれたらしいわ」


 「結果的にと言ったところで、そもそも火を着けるのは決まっていたのだろう?

 それ自体がどうなのかという気はするが……」


 「本当にね。それだけではなく東大寺まで焼けているわ。

 残っているのは一部だけで大半が焼けてしまったそうだから、完全なる焼き討ちよね」


 「そもそも興福寺は藤原氏の菩提寺だったはず。

 これは公卿や公家の方々の中に、相当の怨みと憎しみが芽生えただろう。

 まずます平氏への怨みと憎しみが積み重なっていくな」


 「そうね。富士川で官軍が戦う事なく撤退してから、ほとんどが上手くいっていないわ。

 落ちていく者達って〝こう〟なるのよ。何故か坂を転がり落ちるが如く転落していく」


 そうなんだ。となると、平氏の人達は本格的に駄目になっていくね。

 それでも元々は怨まれる事をしてきたんだし、じごうじとくっていうやつだよ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 僕は今、都のとある場所に来ている。

 都の人も大勢が来てるけど、高倉院って人が亡くなったんだ。

 皆がここで祈るんだって。

 つや葛葉くずははお腹が大きいから無理だけど、僕と斯明かくめいが来た。


 去年からずっと体調が良くなかったらしいから、亡くなるかもしれないとは言われてたみたい。

 ただ、葛葉くずははこれでまた平家の力が一つ無くなったって言ってた。


 高倉院って人は平氏に力を貸していた人らしくて、後白河院って人が戻ったらしいけど、これが大相国と仲が良くない。

 だからこの後は大変だろうって葛葉くずはは見ている。

 ちなみにつや斯明かくめいも同じ事を言ってた。


 お祈りが終わって帰るけど、周りの人は何も言わない。

 何故なら平氏の奴らが見張ってるから。


 平氏の悪口を言おうものなら連れていって殺してしまうらしい。

 そんな事をしてるから嫌われるんだろうに。


 僕でも分かる事をやってるよ。

 なんであの人達はそんな事も分からないんだろうね?

 それこそが今までやってきた駄目な事なのに。


福原=福原京のことで、今の兵庫県神戸市中央区から兵庫区北部の辺り


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