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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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 Side:黒金くろかね



 世の中は色々あるけど、僕は妖怪退治もしながら勉強もして過ごしている。

 この前ようやく霊力が分かるようになって喜んだけど、霊力が分かるだけで人か妖怪かは分からない。

 ただし、ここからはそこまで難しくないんだって。


 「霊力が感じられるようになれば、もうちょっとというところね。

 後一息とはいえ、その長さは人によるけども。

 でも霊力を感じられるまでになれば、後はそこまで長くはないわ。

 だから頑張りなさい」


 「うん。ここまで出来る様になったんだから、そりゃ頑張るよ。

 それより寒くなってきたから気をつけないとね。

 もうすぐ霜月、十一月だよ」


 「そうだな。

 ここ最近は戦の事を聞かずに済んでいるからいいが、多くの人も不安なのか話はあまりせんな。

 妖怪はいつも通りに退治しておるから、銭に不足はないが……」


 「争いがねえ……。

 最近では信濃の国かしら? 武田とかいうのが、甲斐の国を手に入れた後で信濃まで出張ってるわ。

 それなりに平家方を打ち破って所領を得たみたいね」


 「どこもかしこもそれだな。昨今は平氏憎しというより、所領を奪う為に戦をしておるような……」


 「仕方ないのでは? そもそも平家方も数多くの土地を奪ってきたんだし今さらでしょう。

 奪ったものは奪われる。当たり前の事ですよ」


 「その甲斐の国の武田が駿河も狙ってるらしくてね、駿河の目代が軍を発する為に兵を集めたそうよ。

 それが神無月の一日」


 「今月の一日ですか。ではそろそろ?」


 「いえ、もう終わってるわ。

 武田は駿河へと攻め込もうとして、駿河側は甲斐に攻めこもうとして鉢合わせしたそうよ。

 しかもその場所が鉢田山というらしいわ。笑っちゃうでしょ?」


 「鉢田山で鉢合わせ……。なにか鉢合わせというより待ち合わせみたいね?」


 「ふふふふふ、確かにね。

 ちなみに平家側は源頼朝が生きている事を知って、平惟盛に追討軍の総大将をさせて送り出したわ。

 二ヶ月くらい前にあったでしょ?」


 「ああ、確かそのような事があった。

 あれは確かに東国に行かせるものだと聞いたが、そこで絡んでくると?」


 「というより、それが到着する前に武田側が勝ったという事よ。

 平家方の長田というのが討ち取られ、駿河の目代である橘遠茂というのが捕らえられたらしいわ」


 「平家方の目代が捕らえられたって事は、何か不利になるってこと?」


 「ここ最近、平氏は負け続けと言っていいわ。

 ここでさらに負けたという事は、追討軍が現地についても、現地の武士は味方をしない可能性があるの。

 落ち目なうえに平氏だし。源氏の者達は協力を拒むでしょうよ」


 「負け続きな以上、力でいう事を聞かせる事もできない。

 となると追討に動いた軍が負ける可能性も十分にある。

 そうなると、さらに平家は落ちていく事になるな」


 「ええ、その辺りがどうなるかで、今後の趨勢も決まるんじゃないかしら」


 まだまだ戦が続くみたい。

 京の都で戦が起こるのは止めてほしいけど、他の所で戦が起こるのも止めてほしいね。

 東の方の妖怪がどこまで強くなったのかを考えると、嫌な気分になってくる。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今日は霜月の最後の日だ。明日はもう師走だよ。

 本当に寒くなってきたけど、つや葛葉くずはは炬燵に入ってぬくぬくしてる。

 僕も斯明かくめいの家にあった炬燵に斯明かくめいと入ってるよ。

 確かにこれは出たくなくなるね。


 「めっきり寒くなったわねえ。私の体に寒さは効かないけど、寒いものは寒いのよ。

 何か気分的に嫌だから、ゆっくり温かくしていたいわ。そういえば妖怪はどう?」


 「最後の追い込みで、周りの山の妖怪も十分に減らせたと思う。

 おそらくは冬の間に出なくても問題ない筈だ」


 「ようやく男らしい言葉使いになったわね。たまに昔の喋り方に戻る事があるけれど。

 とはいえ賀茂家と安倍家と縁戚なんだし、私達の夫なのだから、どっしりとしていてほしいわ」


 そう言われた斯明かくめいは何とも言えない顔をしてる。

 確かに前と比べて言葉使いは変わってるけど、斯明かくめいである事に変わりは無いのにね。


 「昨日、私も葛葉くずはも戻っていたけど、何か話を聞いた?」


 「そっちも聞いたんでしょ? 西国で飢饉が発生してるって。

 どうにも西国で挙兵したヤツも、飢饉が理由じゃないかと言われてるらしいわ。

 こちらは食べる物があるけど、西の方は厳しいらしいわね」


 「ええ。そして平家の追討軍は西の食料をあてにして進軍したらしいの。

 結果として進むごとに在地の者を加えていったらしいけど、食料が乏しい所為で士気が全く上がっていなかったんですって」


 「むしろ食べ物が足りないなら、士気は下がる一方だろうし、その言い方だと……」


 「ええ。平家の追討軍は撤退したそうです。

 七万騎も居たようですが、烏合の衆だったんでしょうね」


 「神無月の十三日に追討軍は駿河入りしてるけど、神無月の十七日に武田は追討軍に使者を送ってる。

 なんでも「浮島ヶ原で待ち合わせましょう」と書いて送ったらしいわ」


 「それは……どう考えても「かかってこい」という挑発にしか聞こえないな」


 「ええ。実際に追討軍は激怒して、使者を斬り殺したそうよ。

 それに源頼朝も鎌倉に居たらしいけど、追討軍を倒す為に軍を発したらしいわ。

 これも結構な数だったみたいね」


 「で、富士川の東に武田軍、西に追討軍だったそうなんですが………。

 この時、追討軍には四千騎しか居なかったそうです。

 食べ物が無く逃亡が相次いだようで、布陣した後も逃亡が相次ぎ二千まで減ったとか」


 「七万が二千? それじゃ戦えないよね?」


 「ええ。武田が二万五千、頼朝が二万とも言われているわ。

 どう考えても無理よ、殺されるだけでしかない。

 だからこそ撤退したらしいんだけど、色々としらせがあるのよねえ。

 詳しくは分からないみたいだし」


 「こっちも同じ。

 平氏は撤退した。

 逃げる際に陣に火を放った。

 水鳥が飛び立つ音で混乱してしまい逃げ惑った。

 などなど、色々なしらせがあって判然としないんです」


 「平家側の追討軍が撤退したのは間違いないけど、戦ったというか対峙したのは武田であって、頼朝とかいうヤツじゃないわ。

 それは間違いない。ただ、弟か何かが来たらしいけど」


 「それも報告にありましたね。

 義理の弟である九朗義経という者だそうですが……。

 何でも陸奥の者だとか?」


 「平泉に下向していたらしいけど、そもそも頼朝といい判然としないのよね、こいつら。

 元々父親である源義朝が平治の乱で負けて敗北してるから、幼少の時から不遇だったのもあるんだけど」


 「負けたから兄弟がバラバラになったってこと?」


 「そう。義経というのは九男だから九朗というそうだし、兄弟は多いのでしょうね。

 とはいえ、どこで何をしていたかは不明な点が多いわ。

 こいつらが意外と大きな事を仕出かす気もしてきてるのよ」


 「怪しいから?」


 「怪しいというより、分からない間に色々と縁を結んでいると、どこの誰と繋がってるか分からないしね。

 いきなりわけの分からないヤツが参陣してきかねないとは思ってるわ」


 「つまり、いきなり他方よそから救援が来たり、別の方向から攻め寄せる者が出てきたり。

 相手が分からないというのは恐ろしいものだ」


 「ええ。それに武田は駿河や遠江を制圧しているらしいから、上洛したくても出来ないでしょうしね」


 「じょうらく?」


 「都に入る事を上洛というの。大陸の都だった洛陽にちなんでそう呼ばれているわ。

 まあ、京の都に来る事だと思えばいいでしょう」


 「ふーん……」


 「それより問題は追討軍が撤退した事よ。

 官軍が大敗したのなんて蝦夷征伐から無かった事だもの、平大相国が激怒したと外に洩れるくらい怒り狂ったようね。

 官軍の名に泥を塗ったのだから、当然だけど」


 七万騎だったのに二千騎だし、食べ物が無くて逃げるしかなかったんだもんね。

 それは怒られるよ。


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