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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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 Side:黒金くろかね



 頼朝って人の話を聞いた次の日。

 昨日、安倍家に行って色々と聞いてきた葛葉くずはが話してくれた。

 何でも他の場所でも合戦が起きてたんだって。


 「昨日言った甲斐の国では<波志田山>という所であったらしいけど、それ以外にもあったみたい。

 <衣笠城>という城でも合戦があったらしいわ。昨日の話の続きだけどね」


 「どういうこと?」


 「頼朝というヤツの軍に合流しようとして出来なかった三浦というのが居たんですって。

 これが頼朝が負けた事を聞いて逃げ帰ったらしいわ。

 で、その三浦の城である衣笠城を攻められたってわけ」


 「ああ、そういう繋がりか……」


 「ところがねえ……。この話も気分の良いものじゃないの。

 三浦というのは平家側に攻められてたんだけど、落城の前に脱出を図ったみたい。

 それ自体は普通の事よ。とはいえ……」


 「気分の良くない事が起こったのね?」


 「そう。城の中には最高齢の八十九にもなる長老が居たらしいわ。

 その長老は「自分を城に捨てて逃げろ」と言ったそうよ。

 ところが一部の者が一緒に逃げようと手輿に乗せて脱出したらしいわ」


 「なんだか嫌な予感がしてきたが、もしや……?」


 「ええ。敵の攻め手が来たら、手輿を捨てて逃げ出したそうよ。

 その所為で長老は身包み剥がされてから殺されたらしいわ。

 城に置いていけば、そんな無様な死に方はしなかったものを……」


 「なんてこと……」


 「碌な事をせぬ……」


 「その後に三浦の者は安房の国の方に逃げたらしいわ。

 衣笠城は湾の西側にあるらしく、湾の東に安房の国があるの。

 つまり舟で東に渡ったのね。それも長老を見捨てた奴らが、だけど」


 「まったくもって碌な事をせぬと思うが、何故そうなったのかが分からぬ以上、我らは何も言えないな。

 あまり口にしていい事でもなかろうし」


 「それでも敵を前にして逃げるなら、最初から置いていけばよかったのに……。

 お爺さんが辱められながら殺されてるじゃないか。なんでそんな事をするのさ」


 「まあ、敵を前にして逃げる連中だからねえ……。

 そんな程度の連中も、武士の中にはそれなりに居るわ。

 良い悪いは別にして居るものよ」


 「………なんか納得いかない」


 「黒金くろかねはそれでいいさ。別に愚か者の事を分かる必要も無い」


 「そうね。そもそも分かった方が駄目でしょうし」


 分からないけど納得がいかない。

 なんで味方なのに、長老のお爺さんに恥を掻かせるんだろう。

 しかもそれで殺されるなんて、あんまりじゃないか。

 どう考えたっておかしいよ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 お爺さんを捨てて逃げたという話から一月経った。今日は神無月の一日だ。

 なんでもつや葛葉くずはに子供が出来たらしい。

 葛葉くずはは霊力を感じる事で子供が出来たって分かるんだって。

 僕は未だに出来ないんだよね。


 「子供が出来たと言ってもまだまだよ。

 それはともかく、どうも西でも平氏に対する叛乱が起きたらしいわ。

 どこでも起きてるけれど、西の叛乱は大きいみたいね」


 「東だけではなく西でもか……。

 どうやら本当に燎原の火のように燃えあがっているみたいだな。

 これは止まる事も無いだろう。

 流石に東も西もだと、いつ畿内で戦が起こっても不思議ではない」


 「西は肥後の国の菊池とかいうヤツが中心らしいわ。

 こっちは報せがあまりないから詳細は分からないわね。

 それよりも熊野でも何か起きているみたいよ。

 流石にこっちは驚いたわ」


 「熊野ですかな? ですがあそこは……」


 「ええ。権別当が平家側に漏らしたでしょう? 以仁もちひと王のこと。

 あれの内部での争いが尾を引いているみたいね。

 権別当である湛増たんぞうが弟の湛覚たんかくと揉めているんですって」


 「熊野の内部も平家方と反平家方で揉めているのか。今だ治まりがつかぬとは……」


 「平家が権別当である湛増たんぞうの召還を命じたら拒否されたらしくてね、あわや熊野に攻め入るかとまでになったらしいわ。

 拒否って完全に舐められてるもの。

 湛増たんぞうは慌てて自分の子を人質に送った事で許しを得たらしいけど、何やってるんだか」


 「人質にされた子が不憫で仕方ないわね。愚かな親を持つとこうなるという見本のような話よ、本当」


 「とはいえ権別当も人質を送ったとはいえ、反平家に傾いた可能性はあるわ。

 湛増たんぞうと言えば以仁もちひと王の事を平家にバラした張本人よ。

 そいつが反平家になっていると読み取れるもの」


 「かつては平家に寄っていた者が、今や反平家か……。

 どちらについた方が得か、そのような事で平家方と反平家方が変わっておる気がするな」


 「怨みや憎しみが薄い者はそうでしょうね。自分達が得する方につくだけよ。

 昔からそう、勝ち馬に乗るという言葉もあるくらいだもの。

 普通の事と言えば、普通の事ね」


 「あまり褒められた普通ではないけれど、言いたい事は分かるわ。

 誰だって負ける側にはつきたくないものよ。

 そちらは惨めにしかならない」


 「まあねえ。それと東の信濃の国でも戦が起こったわ。

 豪族の笠原とかいうヤツが、木曾の源義仲を討伐する為に軍を発したけど、源氏方の村山というのと争いになったそうよ」


 「あれ? よしなかって人を討伐するのに、むらやまって人と戦ったの?」


 「ええ。で、双方共に戦ったらしいんだけど、矢が尽きて劣勢になった村山が源義仲に救援を要請したらしいわ。

 で、自分を攻めようとしたヤツでしょ?

 大軍で助力に駆けつけたら、笠原とかいうヤツは越後の国に逃げてったんだって」


 「なにそれ? 自分から攻め込んで逃げたの? ………その人バカじゃない?」


 「ええ、物凄くマヌケね。ただしこれ幸いと攻める口実にする気はするけど」


 「ああ。信濃の国を攻める為の口実に利用するという事ね。

 助けてやるフリをして侵攻、そして土地を手に入れたら自分の物って事よ。

 逃げたヤツはその為に利用される」


 「………それってどうなの?」


 「争いなんてそういうものよ。何か得るものがないと、誰だって戦なんてしないわ。

 得るものがあるから戦という殺し合いをするのよ」


 戦って殺し合いだもんね。

 誰だってそんな事はしたくないだろうし、何か得する事でもない限りはしないか。

 だったら最初からしなきゃいいのに。

 お金貯めて買えばいいじゃん。


 「それが出来たら武士じゃないわね。特に東国であった争いはそうでしょう。

 下総の国で千葉成胤という人物が、平大相国の姉婿である藤原親政を破ったらしいのよ。

 これで東国の源氏がさらに勢いづいたわ」


 「大相国の姉婿をですか……大きいな。

 大相国に近しい者が負ける。

 これでまた平氏のかげりと見る者が増えるか」


 「でしょうね。ちなみにそれが源頼朝の軍だったらしいわ。

 千葉というのは下総の国で危機的な状況にあったらしくてね、それで頼朝の軍に加わったそうよ。

 それが大戦果を挙げるとは思ってなかったでしょうけど、その結果、頼朝の軍は数万騎になったとも報せがあったみたい」


 「三百しかなかったのが数万………」


 「これでは平家方は早々に手出しなど出来ぬでしょう。本当ならば……」


 「そこなのよねえ。

 とはいえ怨みを持っている源氏が集まったと考えると、そこまで膨れ上がっても不思議ではないけどね。

 本当に、平氏はやり過ぎたのよ」


 「京の都でも大人しくなった平家方と、さらに横暴になった平家方に分かれているしな。

 もっとも、横暴になった者はいつの間にか死んでいたりするので……」


 「殺されたんだろうね。

 とはいえ今まで面白半分にメチャクチャな事をしてたらしいし、殺されても仕方ないって近所の人も言ってるよ」


 「本当にな。それが無ければ、こうもなっていないのだろうが……」


 本当にね。

 なんであんな横暴ばっかりしてたんだろう?


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