0054
Side:黒金
僕達は家で勉強しながら話をしている。
葛葉は平大相国という人が二年か三年のうちに死ぬと言ってた。
それに陰陽師がたくさん亡くなった所為で、京の都が守れるか分からないみたい。
「その話をした時の公卿や公家の顔は見ものだったらしいわ。
晴海ちゃんも駿慶ちゃんも胸がすっとする思いだったってさ。
自分達の命が危険に晒されるとそうなるのよ、あいつら」
「まったくもって情けないのですが、その情けないのが政をしているのですよね。
だからこそ、あんなおかしな事をさせられるのですし、御当主様も書に書いて残してやると言っておられました」
「朝廷の恥なんて全て残してやればいいのよ。
あいつら間違った事ばっかりやってるし、それらを残して後世の奴らに教えてやればいいわ。
知らないから好き勝手を言うんでしょうし、情けない恥を教えてやれば黙るでしょ」
「それはそれで揉める元でしょうが、書にして残すのは正しいかと。
流石にこのような失敗がありましたと言えば、反論するのは難しいでしょうからな。
それに何かあれば朝廷の方々の責に出来るでしょうし」
「あいつらが責をとるとは思えないけれど、それでもあいつらの所為だとは言えるわね。
それだけであいつらにとっては恥だもの。その汚名を受けさせればいいわ。
それこそが、あいつらに必要な事でしょうしね」
「とりあえずは減ってしまった陰陽師を増やすのと、京の都を守る事をするしかありませんね。
結界の強化がなった以上、これで京の都が妖怪に攻められる可能性は減りました。
おそらく百鬼夜行は起きないと思います」
「それならば良いのですが、まだ安心する事はできませんね。
平氏と源氏の争いがこれからどうなるか分かりませんので。
っと、そろそろ昼餉の時間ですかな?」
「そうだね。お店に行こうよ。ついでに短刀を持つ為の何かが欲しい」
「黒金はお金を持ってるんだし、革の剣帯で良いんじゃない? 紐とか帯よりしっかり着けられるでしょ」
「けんたい?」
「それも稀人が伝えた物だが、武器がしっかり持てるという事で着けている者は多い。
武士は太刀持ちであれば持っていないが、他の武器の者なら持っている事もあるな」
「それでは、そろそろ昼餉に行きましょうか。話は店でも出来ますし」
今日の昼はなんだろうな? そろそろ粥じゃないといいんだけど。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あれから数ヶ月過ぎた。
既に斯明は艶と葛葉と婚姻を結び、今は大きな家に住んでいる。
前よりも上京に近いけど、まだ下京だ。とはいえ誰も気にしてないけどね。
今日は長月の初めの日。つまり長月の一日目だ。
なんでも稀人の伝えたのでは九月という言い方をするらしい。
皆そっちの方が簡単でいいと言ってるけど、朝廷の人は雅じゃないとか言ってるんだって。
あれから平大相国って人は何も動いてないみたいだけど、他の平氏の人は相変わらず源氏の人と仲が悪いみたい。
なんか都の中でも言い争いとかが多いらしくて、斬り合いなんかもしてる。
たまに道端で死んでる人を見たりするし、嫌な感じ。
「そろそろ集中が続かなくなってきたかしらね?
未だに霊力を感じられないみたいだけど、そう簡単じゃなかったでしょ?
もう長月なのに未だに出来ないんだもの」
「むー………」
「そんな顔しても可愛いだけよ? それはともかく、東国の方で争いがあったと聞いたけど大丈夫かしら?
そろそろ平氏と源氏の本格的な争いになるんじゃ……」
「晴海ちゃんに聞いたけど、そこまでじゃないみたい。
東国で挙兵したのは源頼朝というヤツよ。
かつて源義朝というのが平治の乱で負けて敗走、その後に殺されているわ」
「平治の乱。私が物心つく前ぐらいかしら? 流石に知らないわね」
「その義朝の息子が頼朝なんだけど、本来なら死刑のところを流罪となったそうよ。
その時に何があったのかは知らないけれど、東国の伊豆まで流れたそうね。
それからは聞かなかったんだけど……」
「聞かなかったけど、なんだい?」
「以仁王の令旨よ。それを持って挙兵したらしいわ。
何故か今になってと言えなくもないけど、戦力を集める為に時間が掛かったのかしらね?
それで挙兵して戦いを始めたみたい」
「以仁王の令旨か……。ここで以仁王が出てくるとは思わなかった」
「最初は目代の山木とかいうヤツを討とうとしたらしいわ。
ところが兵数に差があり過ぎて勝てない事から夜討ちにしようとしたみたいね。
ところが失敗、三千の相手と三百で戦う事になったらしいわ」
「「三千と三百!」」
それは……どう戦っても勝てないんじゃないかなぁ?
だから夜討ちをしようと思ったんだろうけど、それが失敗したら勝てるわけないじゃん。
素直に逃げればいいのに戦ったんだろうね。
「その戦い、当然勝てるはずもなく、負けて敗走。敵から追撃を受け続けたみたい。
両軍が戦ったのは石橋山という場所らしいわね。
その後は山の中を逃げ回ったそうよ」
「まあ、逃げ回るしかないんじゃない? どう考えてもそれ以上は無理でしょう。
だいたい三百で三千に勝てるはずないじゃないの」
「でしょうね。
その後にどこまで逃げたのかは分からないけど、とりあえず以仁王の令旨はこれで終わりかしらね?
頼政の事もあるから頑張ってほしかったという気はするけど」
「令旨が役に立ったのであれば以仁王も草葉の陰で喜ばれるだろうが……。
難しいと言わざるを得ないな。まだまだ平氏の力は強い」
「そうね。でも徐々に大きくなってきている気がするわ。
平氏に対する源氏の怨みと憎しみ。
それが意味するところを考えると、妖怪達がねえ……」
「分かる。妖怪達の動きが活発になりそうだし、強くなりそうな気がするのよ。
そのまま力を持ったら危ない事になるわ」
「今までも何とかしてきたのだから、これからも何とか出来ると言いたいけど……。
ちょっと難しいかしら? なんだか嫌な予感もするのよねえ。
平大相国が妖怪に憑かれているかも未だに分かってないし」
「そういえば忘れてたけど、甲斐の国辺りでも争いがあったらしいわ。
どうもさっき言った頼朝というヤツに呼応した武田ってのが平家方と争ったみたいなんだけど、どうなったかは分からないみたいね」
「勝ったのか負けたのか、その辺りがしっかりしていない事もあるだろうし……。なんとも言えないな。
とはいえ平民の私では手に入らない報せばかりだから、これでも十分なのだが」
「そうね。私達が居るから色々と分かるんだし、娶って良かったでしょ?」
「別にそういう意味で婚姻を結んだわけではない」
「それはね、毎夜分かってますから大丈夫よ。
それはともかく動いているという気がしてくるわ。
これからはこういう争いが増えそう」
「間違いなく増えるでしょうね。
前にも言ったけど、もう怨みと憎しみが燃え上がるしかないのよ。
どこまでいったらその炎が消えるかは、誰にも分からないわ。
もしかしたら平氏が滅びるまで消えないかもしれない」
「「………」」
でも今まで散々な事をしてきたんだから、仕方ないと思うよ。
そんな事をしてこなきゃ、ここまで怨まれたり憎まれたりしないと思う。
なんで誰も言わなかったんだろうね、これ以上はやっちゃ駄目だって。
そういうのって平大相国って偉い人が言うべきだと思うけど、やっぱり強いと思ってると言わないのかな?
ずっと強いなんてこと無いのにね。




