0053
Side:黒金
昨日の夜は凄く大変だった。
とにかく色々な所に行って妖怪を倒してっていうのを繰り返して、家に帰ってくる前に寝ちゃってた。
だからいつ寝たのか覚えてない。
それに気が付いたらお昼の少し前だった。
どうやら昨日の夜は本当に長く起きていたみたい。
僕達は今、少し早いけど昼餉を食べにお店に向かってる。
今日が何かは知らないけど、朝餉を食べてないからお腹空いた。
お店に入ろうとした時、ちょうど艶と葛葉に声を掛けられたので、二人と一緒にお店に入る。
今日は何か分からないけど、出てくるのを待っていよう。
お腹空いてるから早くしてほしいけどね。
「昨夜はお疲れさま。
本当に大変だったけど、御蔭で三人もやっと安らかに眠ったでしょう。もう出てくる事も無いと思うわ。
何故か将門は短刀を残して逝ったけど……」
「これのこと?」
僕は袖の中に隠していた短刀を取り出した。
短刀っていうけど、これ結構大きいんだよね。
艶から借りた守り刀より長いし、思っているより重いんだよ。
木で作られた見た目だけど。
「ええ、持ち手と鞘が木で出来ている普通の短刀ね。
ただし黒檀で作ってあるからでしょう、重いのは。
それにしても将門も粋な事をするじゃない。自分の持っていた短刀を託すなんて。
しかもこれ霊力の流れが非常に良いわ。【霊波】も使いやすいと思うわよ」
僕が渡した短刀を持った葛葉が、抜かずに色々と調べてくれる。
僕は霊力を流してなかったので、流れが良いとか悪いとかは気付いてなかった。
これって短くても刃物だから、きちんと手入れしなくちゃいけないんだよね?
「そうよ。油を拭って綺麗にした後、新しい綺麗な油を塗って仕舞うの。塗るのは椿油がいいわね。
黒金はお金持ってるんだし、普通に買えば済むわよ。ただし拭うのがねえ……。
下手がやると傷だらけになるから、職人にやってもらうといいわ」
「職人に見せずとも、影兵にやってもらえばよいのでは?
影兵なら一切傷つける事なく拭えるでしょうし、その後の油の塗りも完璧でしょう。
正直に言うと、職人に見せるのもあまり良くないと思いますぞ?」
「ああ、それはそうかも。
職人なら見れば気付くでしょうし、そこから平氏に報せが行くかもしれない。勝手に取り上げる恐れがあるわ。
そもそも、その短刀は将門が黒金に託した物。持つ権利は黒金にしかない」
「そうね。それは本当にその通りよ。
将門公も最後は納得して逝かれたみたいだし、それの持ち主は黒金しかいないわ。
もしかしたら他の者が奪ったら祟りがあるかも……」
「無いとは言えないわね。
私が持ってもなんともないけど、これは生前の知り合いだからかもしれないもの。
斯明や艶が持つのは危険だと思う」
「危険かどうか以前に、持てと言われても持たないわよ。
明らかに危険そうだし、私は祟られたくないもの。
斯明殿もそうでしょう?」
「そうですが、そもそも黒金の持ち物を勝手に持ったりなどしませんよ。
おっと、粥が来ましたな」
あらら……今日も粥かー、残念。とはいえ粥も嫌いじゃないけどね。
野菜とかお肉とか魚とか入ってる事も結構あるし。
今日は芋が多めに入ってるから、八百屋で売れ残ったのかな?
「昨日の今日でなにか動きはありましたか?」
「いいえ、流石に何もないわね。とはいえ間違いないでしょうけど」
「でしょうね。でなければ満月の夜を指定したりしないでしょう。
私達としては大きな声を上げる気もないですが、流石に大内裏に御二方が入られて暴れたのは……」
「間違いなく大きな問題となっておりましょう。
朝議が行われたでしょうし、そこでどのような事が決まったか……」
「賀茂家や安倍家は反対していたし、それを強行させたのは他の公卿や公家。
流石に賀茂家や安倍家に何かあるとは思えないけどね。
結果として結界の強化は成功しているし、質の高い霊玉は多く手に入ったもの。
あ、そうそう、黒金の倒した妖怪の分は後でくれるってさ」
「そうなの? 昨日は頑張ったけど、何を倒したか分からないから巨屍鳥の分だけかと思ってた」
「それで思い出しましたが、昨夜の巨屍鳥は前に見た巨屍鳥より小さかった気がするのですが……」
「ええ。おそらくだけど乙一級というところだと思うわ。
甲級には届いてない大きさだったし、そこまでの霊力を感じなかったもの。
あの時の巨屍鳥が大き過ぎるだけよ」
「それでも空を飛んでいる妖怪は大変よ。
昨夜は本当にその事を思い知ったわ。
黒金の猛兵は相当に優秀だと思うけど、式神も空で戦えるようにならないと駄目ね」
「空を飛べるのは烏の式神と鷹の式神だけです。
そして鷹の式神は……」
「結構作製が難しい部類に入るわね。
実際に鷹の妖怪を倒すのが一番手っ取り早いと思うけど、京の都の周辺には居ないかも。
鷹死骨か屍爪鷹か、どちらにしても素早いし厄介よ?」
「それでも倒さないと難しいでしょうね。
式神として描くだけでいいものもあれば、調伏しないと描いても呼び出すのが難しいものとが居るし」
「鷹は完全に難しい側ですな。赤鬼に関しては餓鬼などでも、倒せれば呼び出せるのですが……」
「強い式神はたいてい調伏しないと駄目だものね。そういう意味では式神も大変なのよ、霊兵よりマシだけど」
「霊兵はねえ……」
僕は神様の加護があるけど、普通の人は無いから難しいよね。
さて、最後だった僕も食べ終わったし、そろそろ買い物に行こう。
夕餉の分の野菜を買わなきゃいけない。
まだ熊肉は残っているけど、野菜がないと美味しくないし。
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あれから十日ほど経ったけど、特に何も無いね?
平大相国とかいう人は特に何かをする気は無いみたいだけど、本当にその人がやったのかな?
何か怪しくなってきた。
今日は家で勉強だから艶と葛葉と一緒に話してるけど、なんだか二人も奇妙な感じがするみたい。
僕もそう思うし、ちょっと違うんじゃないかなぁ……。
「黒金の言う通り、どうも平大相国じゃないっぽいのよね。
というより【管狐】に少し探らせたんだけど、平大相国はあまり体が良くないみたい。
それに随分と弱ってる感じね。周りにはそう見せないようにしているけど」
「またそんな危ない事を……。見つかったらどうするつもりよ」
「どうもしないわよ。
そんなもの知らないと言い張れば済むし、それで敵対するならそれで構わないしね。
殺される覚悟があると見做すだけだもの。儀式をあんな風にしてくれたんだからね」
「まあ、それを言えば向こうは引き下がると思うけれど……」
「それはともかくとして、平大相国は多分だけど長くないわ。
あの様子だと、もって二年か三年じゃないかしら。明らかに生の気も精の気も落ちてる。
おそらくだけど、平大相国が死んだら大乱になるわ」
「それこそ、平氏には平大相国の次の方が居ないものね。誰か代わりが出来るかと言えば……」
「無理ですな。ここまで平氏を盛り上げた方だからこそ、誰が継いでも不足でしょう。
それに、自分が後を継ぐと言って揉めるに決まってます。
それ程までに平氏の中は欲にまみれておりますからな」
「でしょうね。
今のところは強化された結界が正しく機能してるから、今までよりも京の都は安全になったわ。
その代償はかなり大きかったけれど」
「かなりの陰陽師が亡くなってしまったものね。
賀茂家も安倍家も随分と陰陽師の数が減ってしまったわ。
両家の御当主がお報せに昇られたらしいけど、公卿や公家も結構憔悴していたみたいね」
「そうなのですか?」
「崇徳、将門、道真。この三者が出てきてしまったからね。
だから満月の夜に儀式をするなんて間違ってるというのに、無理矢理させるからこうなるのよ。
晴海ちゃんもハッキリと言って来たらしいわ。
多くの陰陽師が亡くなった所為で守りきれないかもしれないと」
陰陽師が減ったんだから、どうしようもないよね?




