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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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 Side:黒金くろかね



 昨日の夜は凄く大変だった。

 とにかく色々な所に行って妖怪を倒してっていうのを繰り返して、家に帰ってくる前に寝ちゃってた。

 だからいつ寝たのか覚えてない。

 それに気が付いたらお昼の少し前だった。


 どうやら昨日の夜は本当に長く起きていたみたい。

 僕達は今、少し早いけど昼餉を食べにお店に向かってる。

 今日が何かは知らないけど、朝餉を食べてないからお腹空いた。


 お店に入ろうとした時、ちょうどつや葛葉くずはに声を掛けられたので、二人と一緒にお店に入る。

 今日は何か分からないけど、出てくるのを待っていよう。

 お腹空いてるから早くしてほしいけどね。


 「昨夜はお疲れさま。

 本当に大変だったけど、御蔭で三人もやっと安らかに眠ったでしょう。もう出てくる事も無いと思うわ。

 何故か将門は短刀を残して逝ったけど……」


 「これのこと?」


 僕は袖の中に隠していた短刀を取り出した。

 短刀っていうけど、これ結構大きいんだよね。

 つやから借りた守り刀より長いし、思っているより重いんだよ。

 木で作られた見た目だけど。


 「ええ、持ち手と鞘が木で出来ている普通の短刀ね。

 ただし黒檀で作ってあるからでしょう、重いのは。

 それにしても将門も粋な事をするじゃない。自分の持っていた短刀を託すなんて。

 しかもこれ霊力の流れが非常に良いわ。【霊波】も使いやすいと思うわよ」


 僕が渡した短刀を持った葛葉くずはが、抜かずに色々と調べてくれる。

 僕は霊力を流してなかったので、流れが良いとか悪いとかは気付いてなかった。

 これって短くても刃物だから、きちんと手入れしなくちゃいけないんだよね?


 「そうよ。油を拭って綺麗にした後、新しい綺麗な油を塗って仕舞うの。塗るのは椿油がいいわね。

 黒金くろかねはお金持ってるんだし、普通に買えば済むわよ。ただし拭うのがねえ……。

 下手がやると傷だらけになるから、職人にやってもらうといいわ」


 「職人に見せずとも、影兵にやってもらえばよいのでは?

 影兵なら一切傷つける事なく拭えるでしょうし、その後の油の塗りも完璧でしょう。

 正直に言うと、職人に見せるのもあまり良くないと思いますぞ?」


 「ああ、それはそうかも。

 職人なら見れば気付くでしょうし、そこから平氏に報せが行くかもしれない。勝手に取り上げる恐れがあるわ。

 そもそも、その短刀は将門が黒金くろかねに託した物。持つ権利は黒金くろかねにしかない」


 「そうね。それは本当にその通りよ。

 将門公も最後は納得して逝かれたみたいだし、それの持ち主は黒金くろかねしかいないわ。

 もしかしたら他の者が奪ったら祟りがあるかも……」


 「無いとは言えないわね。

 私が持ってもなんともないけど、これは生前の知り合いだからかもしれないもの。

 斯明かくめいつやが持つのは危険だと思う」


 「危険かどうか以前に、持てと言われても持たないわよ。

 明らかに危険そうだし、私は祟られたくないもの。

 斯明かくめい殿もそうでしょう?」


 「そうですが、そもそも黒金くろかねの持ち物を勝手に持ったりなどしませんよ。

 おっと、粥が来ましたな」


 あらら……今日も粥かー、残念。とはいえ粥も嫌いじゃないけどね。

 野菜とかお肉とか魚とか入ってる事も結構あるし。

 今日は芋が多めに入ってるから、八百屋で売れ残ったのかな?


 「昨日の今日でなにか動きはありましたか?」


 「いいえ、流石に何もないわね。とはいえ間違いないでしょうけど」


 「でしょうね。でなければ満月の夜を指定したりしないでしょう。

 私達としては大きな声を上げる気もないですが、流石に大内裏に御二方が入られて暴れたのは……」


 「間違いなく大きな問題となっておりましょう。

 朝議が行われたでしょうし、そこでどのような事が決まったか……」


 「賀茂家や安倍家は反対していたし、それを強行させたのは他の公卿や公家。

 流石に賀茂家や安倍家に何かあるとは思えないけどね。

 結果として結界の強化は成功しているし、質の高い霊玉は多く手に入ったもの。

 あ、そうそう、黒金くろかねの倒した妖怪の分は後でくれるってさ」


 「そうなの? 昨日は頑張ったけど、何を倒したか分からないから巨屍鳥きょしちょうの分だけかと思ってた」


 「それで思い出しましたが、昨夜の巨屍鳥きょしちょうは前に見た巨屍鳥きょしちょうより小さかった気がするのですが……」


 「ええ。おそらくだけど乙一級というところだと思うわ。

 甲級には届いてない大きさだったし、そこまでの霊力を感じなかったもの。

 あの時の巨屍鳥きょしちょうが大き過ぎるだけよ」


 「それでも空を飛んでいる妖怪は大変よ。

 昨夜は本当にその事を思い知ったわ。

 黒金くろかねの猛兵は相当に優秀だと思うけど、式神も空で戦えるようにならないと駄目ね」


 「空を飛べるのは烏の式神と鷹の式神だけです。

 そして鷹の式神は……」


 「結構作製が難しい部類に入るわね。

 実際に鷹の妖怪を倒すのが一番手っ取り早いと思うけど、京の都の周辺には居ないかも。

 鷹死骨か屍爪鷹か、どちらにしても素早いし厄介よ?」


 「それでも倒さないと難しいでしょうね。

 式神として描くだけでいいものもあれば、調伏しないと描いても呼び出すのが難しいものとが居るし」


 「鷹は完全に難しい側ですな。赤鬼に関しては餓鬼などでも、倒せれば呼び出せるのですが……」


 「強い式神はたいてい調伏しないと駄目だものね。そういう意味では式神も大変なのよ、霊兵よりマシだけど」


 「霊兵はねえ……」


 僕は神様の加護があるけど、普通の人は無いから難しいよね。

 さて、最後だった僕も食べ終わったし、そろそろ買い物に行こう。

 夕餉の分の野菜を買わなきゃいけない。

 まだ熊肉は残っているけど、野菜がないと美味しくないし。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 あれから十日ほど経ったけど、特に何も無いね?

 平大相国とかいう人は特に何かをする気は無いみたいだけど、本当にその人がやったのかな?

 何か怪しくなってきた。


 今日は家で勉強だからつや葛葉くずはと一緒に話してるけど、なんだか二人も奇妙な感じがするみたい。

 僕もそう思うし、ちょっと違うんじゃないかなぁ……。


 「黒金くろかねの言う通り、どうも平大相国じゃないっぽいのよね。

 というより【管狐】に少し探らせたんだけど、平大相国はあまり体が良くないみたい。

 それに随分と弱ってる感じね。周りにはそう見せないようにしているけど」


 「またそんな危ない事を……。見つかったらどうするつもりよ」


 「どうもしないわよ。

 そんなもの知らないと言い張れば済むし、それで敵対するならそれで構わないしね。

 殺される覚悟があると見做すだけだもの。儀式をあんな風にしてくれたんだからね」


 「まあ、それを言えば向こうは引き下がると思うけれど……」


 「それはともかくとして、平大相国は多分だけど長くないわ。

 あの様子だと、もって二年か三年じゃないかしら。明らかに生の気も精の気も落ちてる。

 おそらくだけど、平大相国が死んだら大乱になるわ」


 「それこそ、平氏には平大相国の次の方が居ないものね。誰か代わりが出来るかと言えば……」


 「無理ですな。ここまで平氏を盛り上げた方だからこそ、誰が継いでも不足でしょう。

 それに、自分が後を継ぐと言って揉めるに決まってます。

 それ程までに平氏の中は欲にまみれておりますからな」


 「でしょうね。

 今のところは強化された結界が正しく機能してるから、今までよりも京の都は安全になったわ。

 その代償はかなり大きかったけれど」


 「かなりの陰陽師が亡くなってしまったものね。

 賀茂家も安倍家も随分と陰陽師の数が減ってしまったわ。

 両家の御当主がお報せに昇られたらしいけど、公卿や公家も結構憔悴していたみたいね」


 「そうなのですか?」


 「崇徳、将門、道真。この三者が出てきてしまったからね。

 だから満月の夜に儀式をするなんて間違ってるというのに、無理矢理させるからこうなるのよ。

 晴海はるうみちゃんもハッキリと言って来たらしいわ。

 多くの陰陽師が亡くなった所為で守りきれないかもしれないと」


 陰陽師が減ったんだから、どうしようもないよね?


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