0052
Side:斯明
大内裏に入った私達はそのまま急いで音のする場所へと走る。
すると怨みに凝り固まった顔をしておる直衣姿の怨霊が居た。
どちらも恐ろしいほどの怨みと憎しみが分かる顔をしておられる。
先程の崇徳院もそうであられたが、怨霊となってしまうとこのような御顔になってしまわれるのだな。
御一方は空を飛び雷を落としておられ、もう御一方は太刀で公家を切り殺しておられる。
あちらが将門公か。
「猛兵は飛んでる人! 古兵と斬兵は刀の人に行け!!」
「「「「「「「「!!!」」」」」」」」
「何者じゃ、おのれらは!! ここを大内裏と知っての狼藉か!!」
「事と次第によっては、うぬらの方を先に討ち取るぞ!!」
「五月蝿い!! この愚か者ども!!
私は葛葉、この都に住む大妖怪だと言えば分かるでしょう!
そっちは稀人よ!!
邪魔なのはお前達なのだから、さっさと下がれ!!」
「「「「「「「「「「だいようかい!?」」」」」」」」」」
即座に宿直の公家の方々は離れられた。
寝ずの番をしておられたのであろうが、流石に将門公と道真公には敵わなかったようだな。
それなりの数の方々が亡くなっておられる。
それが黒コゲであったり、体を斬り裂かれておられるのだから凄まじい。
いくら怨霊だといっても、ここまでとは……。
やっておる事が黒金の霊兵と何も変わらんと思うのは気のせいか?
ズドドドォ!!
「ぬぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
こんなバカな! ここで我の怨みが潰えるだと!?
そのような事が………!!」
「もういいでしょう、道真。後は安らかに眠りなさい。
既に崇徳も眠ったわ。次は貴方の番よ」
「おお、葛葉殿。お懐かしや、いつぶりであろうか……」
懐かしそうな顔をされた道真公は、そのまま消えていかれた。
公家の中の一人が泣いているので、もしかしたら道真公の子孫の方かもしれんな。
残るは平将門公であるが、この方はお強い。
キィン! キン! キン! ギン!!
「ふふふふふふふ………やるではないか!! こうでなくては意味は無し!!
下らぬ公家どもを切り捨てて何になる! 我は平氏であり、武士なのだ!!
強き者と戦うが在り方よ!!」
ギシィン!! ググググググ………キン! ギィン!!
刀で押しつけるようにして鍔ぜり合い、そして弾いて斬りかかる。正に剛剣。
敵を斬るという実に武士らしい剣気を感じる戦いだ。
刀での斬り合いなど知らぬ私でさえ、そのような事が分かるくらいには凄い。
そして、黒金が刀を握っているというのに、切り裂く事が出来ていない。
それは将門公の強さの現れであろう。
もしくはそれだけ怨みが強いのか。
御三方の中で将門公だけが首を晒されておると聞く。
さらには将門公の首が飛んだという話もあるくらいだ。
それだけ怨みが強くとも、なんら不思議ではない。
そして怨みが強いほどに怨霊として強くなる。
厄介な事だ。
「ふはははははは……!! これぞ武士、これぞ戦よ!
たとえ一対一であろうが、これは正に戦!
それ故に雌雄を決さねばなるまい!!」
「他のを消して……っと。これで大丈夫。古兵!! 勝つんだ!!」
「!!!」
「ほう! そこの童から凄い霊力が流れ込んでおるのう。
ならば、これで最後としようかぁ!!!」
将門公が刀を引かれ、刀の刃を下に向けて構えられた。
さらに左足を前に出されて、半身の構えだ。
そこから少しずつ古兵に摺り足で寄っておる。
古兵は右手をダラリと下げて構えておるだけ。
いったいこの勝負、どうなるのか……
……………ヒュッ! ザシュッ!!!
「………見事だ。
我が渾身の一刀を避けるだけでなく、あまつさえ切られるとは。
………良き死合であった。
童よ、持ってゆくがいい」
………ガシャッ!
将門公は満足するようにして消えられた。
が、将門公の消えた辺りには何かが残されておる。
黒金がそれを拾ったが、どうやら短刀のようだ。
………もしかして、あれは将門公の短刀か?
「………うん、僕が貰っていくよ。少なくとも怨みのまま使ったりなんてしないから」
黒金はもしかして将門公と何かを話したのかもしれない。
将門公が何かを託されたのか、それとも何か黒金に伝えたかったのか。
それはともかくとして、全て終わったのだから、さっさと大内裏からは出て行かねば。
「黒金、背に乗れ。
ここは大内裏であり、終わった以上はおるわけにはいかん。
さっさと出て行くぞ」
「分かった」
黒金が艶殿に守り刀を返している。
その後、すぐに来たので背に乗せ、私は艶殿と葛葉殿と顔を見合わせ、すぐに走って出て行く。
公家の方々が何か言っておられた気がするが、きっと気のせいであろう。
私には聞こえなかったしな。
大内裏を出た私達は北へと走ったが、安倍家の御当主様がおられる所には、何故か賀茂家の御当主様もおられた。
という事は、どうやら儀式は終わったらしい。
「父上がここにおられるという事は、すでに儀式は終わっておられたので?」
「いや、先程終わったところだ。
私は終わったのを確認して走ってきたのだよ、ここが一番の要であるからな。
残っていた霊玉を見れば、ここがいかに危険であったかよく分かるというものだ。
そなた達は大内裏に行っていたそうだが……」
「葛葉殿、どうでしたかな?」
「無事に終わったわ。
将門も道真も安らかに逝ったみたいだし、もう怨霊として出てくる事も無いでしょう。
やれやれというところよ。
でも、誰が三人を呼び出したのかが分からないわ。
可能性の高いのは分かっているけど」
「ですな。わざわざこの満月の日を選んでおるのです、どう考えてもおかしい。
これを企んだ者ならば確実に今日を選ぶでしょう。
この満月の日でなくば御三方を呼び出すなど無理なこと。
しかし……」
「何故そこまで京の都を危険に晒したいのかが分かりませんな。
そもそも御自分も京の都に住んでおるのです、結界が無ければ己の命すら危うくなる。
その事が分からぬはずも無い」
「それなんだけどね。何者かに憑かれている可能性があるわ。
狐憑きとかあるけども、何かに憑かれてこんな事をやらかしたのなら、妖怪にとって都合のいいように動かされたかもしれない」
「もう大相国は六十三にもなる。
いつ死んでおかしくはない歳ですからな、もしかしたら妖怪に心の隙を突かれたかもしれん。
そして憑かれていたら……」
「平大相国は大相国であって大相国ではない、そうなってしまっていても不思議では無いな。
そのうえ大相国は昔、病で一月ほど寝込んでいた事がある。
もしかしたらその時かもしれぬ」
「今のところは予想しか出来ないし、この話も表でするのは危険すぎるわ。
平氏に目をつけられないようにするしかないでしょう。
何をされるか分からないし」
「ええ。それでは儀式も終わったし、片付けへと入ろう。
それが終わったら屋敷へ帰って一眠りだ。
今日はもう何もする気にならん。
疲れきってしまったわ」
「まったくですな。
こちらも戻って片付け、屋敷へ帰る事にしましょう。
艶も手伝ってくれ。早う帰りたいのでな」
「分かりました。斯明殿と黒金はもういいですよね?」
「構わん、構わん。
特に黒金の御蔭で助かったのだ、早く連れ帰って寝かせてやるとよい」
「ありがとうございます。それでは皆様、お先に失礼いたします」
「………」
既に背から寝息が聞こえるし、流石に限界であったのだろう。
古兵も消えておる以上は、さっさと帰って黒金を布団で寝かせねばな。
私の背では寝心地が悪かろうし、それに私もそろそろ寝たい。
艶殿と葛葉殿には申し訳ないが走り疲れた。
私も帰ってさっさと休む事にしよう。




