0051
Side:斯明
私達は最後の場所である北に向かって走っている。
無事であればよいのだが、嫌な予感が拭えぬのは何故であろうか?
もっとも強い葛葉殿がおられるのだ、私が心配せずとも大丈夫であろう。
しかし……
「うわ! 巨屍鳥が三羽も居るよ!
しかも葛葉が負けてる!?」
「そんな、葛葉が負けるってどういうこと!?
あの大妖怪が負けるなんておかしいでしょう!」
「黒金、下ろすからすぐに霊兵を!!」
「分かった! ……猛兵は巨屍鳥を倒せ!!
古兵と斬兵は他の妖怪だ。
ただし陰陽師は傷つけないように! ここが最後だから頑張れ!」
「「「「「「「「!!!」」」」」」」」
黒金の霊兵が駆けて行くのに合わせて、私も式神を呼ぶ。
葛葉殿もまた私の妻になるのだ。
夫として情けない姿を晒す訳にはいかんし、その葛葉殿が負けるというのはおかしい。
相手の妖怪は何なのだ、いったい……
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・前・行!
天・元・行・躰・神・変・神・通・力!」
私は九字を二度切ったうえ、かなりの霊力を篭めて呼び出し強化した。
それもあって結構な大きさとなったが、とにかくここには強い妖怪が多い。
鬼女蜘蛛や大骨鬼だけでなく、大蛇鬼や化け狸まで居る。
特に化け狸は葛葉殿と同じく符も無しに術を使ってくる妖怪だ。
あれもまた厄介極まりない。
が、とにかく戦って倒さねばならん。
ここでも半分ほどの陰陽師が死んでおる以上、少しでも敵の数を減らして楽にしなければ。
むしろここまでの妖怪の猛攻を受けて、半分で済んでおるところが凄い。
その理由は葛葉殿がおられるからだろうが、何故あの束帯姿の妖怪に負けておるのであろうか?
確かにあの妖怪は強い。さらには怨念を強く感じる。
しかし勝てぬほど強そうには思えぬのだが……? 葛葉殿は攻めていない?
いったいどういう事だ、なぜ葛葉殿は攻めん。
訳が分からぬが、黒金の古兵が行った。
「!!!」
「ぬぅ! 次に我に仇なすは古の兵か! 面白い、受けて立ってやろうぞ!!」
「崇徳、そろそろ怨霊じゃなくて安らかに眠りなさい!
いつまで作られた怨霊でいる気よ!
もう終わっているし、貴方は怨みを抱いてなかったでしょうに!!」
すとく? ……まさか崇徳院か!!
では、あれは怨霊にされたという崇徳院なのか。通りで葛葉殿が何もせぬはずだ。
崇徳院とは知り合いであったという以上は、無理矢理に倒すという事はできまい。
しかし崇徳院を暴れさせたのは、いったい誰だ?
今までは平大相国がやったのだろうと思っておったが、平大相国が怨霊になった崇徳院を操れるはずがない。
そんな事は無理であろう、ならば誰だ?
そもそもこのような事は賀茂家の御当主様でも、安倍家の御当主様でも無理だ。
それ以上に強い者となると………まさか、大妖怪か?
それならば十分に可能であろうが、京の都を潰すつもりなのか? 妖怪が?
大妖怪は己を持つという。
おそらくは己で考えて動くという意味であろうが、それでも都を滅ぼすというのがよく分からん。
都に怨みを持つ大妖怪……後で葛葉殿に聞くしかないな。
カン! カンカン! カンッ!!
崇徳院は手にしている笏で古兵の攻撃を防いでいる。
霊兵や怨霊の持つ武器というのは、普通の物ではないのだろう。
あり得ないような戦いが繰り広げられている。
っと、私も他の妖怪との戦いに集中せねば。
…
……
………
他の妖怪は全て倒したが、未だに崇徳院と黒金の古兵は戦っている。
何故か黒金は古兵を一体しか向かわせていない。いったい何故だ?
「黒金。なぜ古兵を一体しか向かわせないのだ? 何かあるのか?」
「あっ、斯明。あのさ、何か刃物を持ってない? 何でもいいから貸して」
「すまん。私は刃物を持ち歩いたりせんので持ってはいない」
「私の守り刀を貸してあげるわ。いったい何に使うのかは知らないけど」
「僕が持つだけだよ。これを抜いてっと………よし、古兵そこだ! 切り裂け!」
「!!!」
カシュッ!!
「なんと!? 我の笏を切り裂くとは……。
なるほど、並みのモノではないうえ、そこの童と繋がっておるのだな?
ではそこの童を倒せばよいという事よ!!」
「!!!」
スパッ!!
「ぬぅ!! なんという切り返しの早さ! そなた、元々は守護兵か。
なるほど、守りを主にする者であれば、その怒りもよう分かる。
ならば我の怨みと貴様の怒り、どちらが強いか確かめるとするかぁ!!」
ボォォォォォォ!! キィン!!
「………見事である。
まさか我の炎を浴びながら突進してくるとは思わなんだわ。
我にもそこまで尽くしてくれる者がおれば……」
「崇徳。別に怨みもなかった筈なのに、なんでこんな事になったのかしらね?」
「おお、葛葉殿ではないか。
何故泣いておられるかは知らぬが、泣き顔はそなたに……」
その後の言葉は聞こえる事もなく、崇徳院は消えてしまわれた。
最後は葛葉殿に声を掛けられていたので、怨みは治まったのであろうか?
分からぬが、そうであればよいなと思う。それよ
ドガァァァァァァァァァァァァン!!
「な、なんだ!?」
「いったい、なんの音だ!?」
「………崇徳院が怨霊として出て来られたという事は、もしかして残りの御二方も?」
「すぐに行かなくちゃいけないわ。将門も道真もこんな事までは望んでいないはずよ!
そもそも三人を目覚めさせたヤツは誰なの!? 本気で許せない!!
晴海ちゃんはそこで補強の続きをしてなさいな! 私は行ってくる!」
「葛葉殿や黒金のおかげで粗方片付きました。
ですから後はこちらに任せてもらって大丈夫ですぞ!
それよりも行ってくだされ、先程の音は大内裏から聞こえましたからな」
「ええ。必ず将門と道真を止めてくるわ! 行くわよ!!」
「黒金、背に」
「分かった! よいしょっと」
「最後ですね。とはいえ、霊力はほとんど残ってませんけど」
「見届ける必要はあるでしょう。黒金が戦うのですし」
「無駄口叩いてないで走るわよ!!」
葛葉殿に急かされる形で急いで大内裏の方へと行く。その途中で私は聞いてみる事にした。
「黒金。今だ艶殿の守り刀を持っておるが、それは何故だ?」
「僕が刃物を持ってると、霊兵も紫の線が見えるみたい。
なんか違う気がすると思ったんだけど、やっぱり霊兵は紫の線が見えてないみたいなんだ。
さっきのは見えるようになったからスパッと切れたけどね」
「なるほど、それで綺麗に切れたのか。笏で防がれていた崇徳院も凄いがな」
「そうなると黒金用の小さな小刀が必要ね。
紫の線とやらが見えるかどうかで大きく変わるわ。
刃物なら何でもいいんだろうし、ある程度の物を護身用に持っておくべきでしょうね」
ズドォォォォォォォォォォン!!
この音と光は雷か? となると、残っている話としては菅原道真公であろうな。
道真公の祟りは雷であったはずだ。
それにしても、たまたま落ちた雷を道真公の祟りとしてしまうとは。
確かに呆れてくるのも分からんではない。
こんな事をして無理矢理に怨霊にされた道真公は、いかなお気持ちであられるのであろうな?
っと、大内裏の扉が開いておる?
中に入れるのは助かるが、真に入ってもいいのかという気持ちになるな。
とはいえ行かねばならんし、そろそろ終わらせるべきだ。
儀式が終わるまでに御二方をなんとかせねば、怨霊として残ってしまわれる。
それは良くない事だ。
御二方の為にもここで終わらせねばならんであろう。




