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Side:斯明
「あれは巨屍鳥だが、黒金、見えているか?」
「大丈夫、見えてる。
なんであいつが居るのか知らないけど、やれ猛兵! 撃ち殺せ!!」
「「「「!!!」」」」
ズドドドォ!!
「ぎやぁぁぁ!?!?!」
「もう一度だ!!」
「「「「!!!」」」」
ズドドドォ!!
「うぎゃぁぁあ!?!!?」
相変わらず醜い声だが、巨屍鳥は墜落した。
仮に倒せていなくても、後は他の陰陽師に任せれば倒せるはずだ。
周りに小さな妖怪もいるが、こいつらは巨屍鳥に便乗して入ってきたのだろうか?
普段なら相手にもならないはずだが、巨屍鳥が暴れていた所為で被害を受けているらしい。
死んだ者は居なさそうだが、怪我をしている者が多いように見える。
巨屍鳥を落とした猛兵に対して小さな妖怪が群がるが、黒馬の体から出た鞭が妖怪を薙ぎ倒す。
流石は体を自在に変えられる霊兵だ。馬の形なのに隙が無い。
「っと、そんな事を考えている場合ではない。すぐに次の場所に行かねば!
次は南西か北東だが、どうする黒金?
葛葉殿は北のはずで、艶どのは北西のはずだ。
御二人の居る場所は問題あるまい」
「じゃあ……北東かな?」
「よし、では行くぞ」
私は後を他の陰陽師に任せ、北東へと走り出す。
ここが南東である以上、どちらかに行けば、どちらかが遠回りになる。
それでも全てを回るしかなかろうな。
黒金ならばなんとかなるが、普通の陰陽師では難しい妖怪が居るかもしれん。
特に先程の巨屍鳥などは空を飛んでいるので、普通の陰陽師では相当に不利になる。
あれは一羽でもいれば壊滅しかねない厄介さだ。
他の妖怪が大した事もないので死人は出ていないが、他に強い妖怪が居れば壊滅していても不思議ではない。
私は焦燥に駆られながらも北東の結界の要へと急ぐ。
息が荒れるが、そんな事は気にしていられない。
京の都が地獄絵図に変わるかもしれんのだ、それを防ぐ為なら死んでも走らねばならん。
北東の結界の要に来たが、ここは地獄絵図だった。
かろうじて結界を補強する方は残っているが、他の陰陽師が半分ほど殺されている。
まさかここまでの事が起こるとは……!
「黒金、猛兵を下ろせ! 影兵を古兵か斬兵に変えるんだ!!」
「分かった! 影兵を消して、<古兵・勇壮猛夫>! <斬兵・豪壮武辺>!」
黒金は古兵と斬兵を二体ずつ出したらしい。
ここにも巨屍鳥が居る為、猛兵は外せない。
なので影兵を消すしかなかった。
何故なら鬼女蜘蛛が三体も居るからだ。
流石にあれは影兵では無理だろう。
「猛兵、巨屍鳥を倒せ! 古兵と斬兵は陰陽師を傷付けずに他の妖怪を倒すんだ!」
「「「「!!!」」」」
ズドドドォ!!
「ぎぃやぁぁぁ!!」
「「!!!」」
ザシュゥ! ドシュッ!
「「!!!」」
ズバッ! ズドン!!
斬兵が容赦ないな。
鬼女蜘蛛を頭から股間まで真っ二つにしたぞ。
地面にあの大きな剣を叩きつける事になったが、あの剣はまったく傷ついていないように見える。
霊力で作られた剣だからかもしれんな。
それ故に傷つかんと考えれば分かる。
それはともかく猛兵と古兵と斬兵が戦ってくれるおかげで一気に逆転したようだ。
強い妖怪さえ倒せれば後はそこまで難しくもない。
大した事のない妖怪なら、ここに居る陰陽師で簡単に倒せる。
既に形勢は逆転したうえ覆らない事が分かったので、今度は南西へと走って行く。
黒金は影兵を消したままだったが、情けない事に古兵や猛兵、斬兵も私についてくる事が出来た。
つまり黒馬は要らなかったらしい。
何だか恥ずかしい失敗だが、今はそんな事を考えている場合ではない。
ひたすら必死に走り、私は息も絶え絶えになりながらも南西に辿り着いた。
体力が足りないとは情けない。しかし辿り着くことはできた。
「ここにも巨屍鳥が居る!? なんでこんなにたくさん居るんだよ。
猛兵、撃ち落とせ!! 古兵と斬兵は他の妖怪を倒すんだ! ただし陰陽師は傷つけるな」
「「「「「「「「!!!」」」」」」」」
それぞれの霊兵が素早く動いて妖怪達を倒して行く。
ここも結構な被害が出ているが、それでも北東よりはマシだった。
もしかしたら上辺出張所には、あまり良い陰陽師が居なかったのかもしれんな。
となると北西はマズいかもしれん。
艶殿が居るし陰陽寮があるので問題ないと思っていたが、上京の陰陽師はいうほど役に立たん可能性がある。
ただ、北西にはおそらく賀茂家の御当主様がおられるはずだ。
なのでそれだけ優秀な陰陽師が揃っておるはず。
そう思いたいが………
「やった。これでほとんどの妖怪を倒せたはず!
斯明、次に行こう!」
「よし、次は艶殿のおられる北西だ。
掴まっていろ、黒金」
「分かった!」
私は北西へと一気に走って行く。疲れたなどとは言うておれん。
京の都の一大事ともなれば、泣き言など後で幾らでも言えばよい。
しかし今は駄目だ、そんな事を言うておる暇は無いからな。
私は必死に足を動かす事だけを考えて走って行く。
そして辿り着いた北西は相当にマズかった。
妖怪の攻撃をかわしながら賀茂家の御当主様が儀式を行っておられ、艶殿が必死になって妖怪と戦っておられる。
この場の陰陽師も半数ほどが死んでおり、相当な危機だという事が分かる。
そしてここには巨屍鳥と鬼女蜘蛛以外にも居た。
それは大骨鬼だ。いわゆる骸骨の鬼だが、まさかあんなものまで居たとは……。
「猛兵は巨屍鳥! 古兵と斬兵は他の妖怪を叩き潰せ!!」
「「「「「「「「!!!」」」」」」」」
「その声は黒金か!? 助かった、こやつを何とかしてくれ! これでは儀式が進められん!!」
「斯明殿、来てくれたのですね! 助かりました!!」
「黒金、一旦下ろすぞ! ここは私も戦わねばならん。
臨・兵・闘・者・皆・陳・列・在・前!
天・元・行・躰・神・変・神・通・力!」
私は赤鬼を呼び出し、そして強化術式で強化して妖怪を倒させる。
艶殿に襲い掛かろうとしておった鬼女蜘蛛を殴り飛ばし、危機を脱した艶殿は肩で息をしていた。
凌ぐので精一杯だったようだ。
私は素早く駆けより、艶殿の前に出て妖怪と戦い始める。
流石に祝言を挙げる女性を死なせる訳にはいかんし、私も好いた女性を目の前で殺させる気などない。
「【鬼火】!」
「はぁ、はぁ。助かりました、斯明殿。それで他の場所は?」
「南東、北東、南西と回り、そこに居た強い妖怪は全て倒してきました。
後は残っている陰陽師達で大丈夫なはずです。
ここは四ヶ所目であり、艶殿や賀茂家の御当主様がおられるので大丈夫だと思っていたので後回しに。
ですが、まさかここまで強い妖怪が居るとは思いませんでした」
「私も驚きました。
巨屍鳥だけであれば牽制するだけで済むのですが、まさか鬼女蜘蛛と大骨鬼まで出てくるとは……。
ここまでだと、何者かが裏で蠢いているとしか思えません」
「私もそう思います。
何故こんな事をしたのかは分かりませんが、間違いなく京の都の結界を破壊しようという企みでしょう。
おそらくは……」
「それ以上をここで口にするべきではありません。
こんな事が起きていますが、どこに耳があるか分かりませんので」
「そうですな。っと、黒金の霊兵が全て倒し終わりました。
後は小さな妖怪しか居ませんので、私達は最後の場所へと行きます」
「私も行きましょう。
ここが無事でも、安倍家の御当主様がおられる所が壊れては意味がありません。
最後だというのならば、尚の事、確実に守らねばなりませんしね」
「斯明、終わった! 後は北だけだよ!」
「黒金、ありがとう。助かったわ」
「うん、でもまだ終わってない。すぐに行こう!」
「よし。すみませんが、後はお任せします」
「構わん。それよりも晴海殿を頼む。
向こうも儀式を維持するのが精一杯かもしれん。
それではいつまで経っても儀式が終わらぬ。
なので確実に守ってくれ」
「分かりました。黒金、背中に」
「よいしょっと」
「それじゃ、行くぞ。一気に走る!」
「ええ、行きましょう!」
「出発!」
後は北だけか。
葛葉殿が無事ならばいいのだが……。




