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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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 Side:葛葉(くずは)



 なかなか厄介な事になってるわね。

 なんと言っても結界の補強は一度に行わないといけないんだけど、肝心の霊玉が厳しい。

 足りているのは足りているけど、少しでも欠ければ足りないくらいかしら。


 そのうえ今宵は満月。

 月明かりは十分だけど、代わりに妖怪の力は強まる。

 結界の補強という大事な事を、わざわざ妖怪の力が強まる満月にせねばならないとは。

 本当に平大相国は碌でもない男に成り下がったようね。


 もしくは何かに憑かれているのかと言いたくなるわ、本当。

 京の都の妖怪の事も、実は平大相国が裏に居るんじゃないの? そう言いたくなるぐらいにおかしい。

 妖怪の力が強くなるって聞けば、普通は取り止めるはず。


 何故そんな日を選んでやれと言ってきたんだか。

 ……本当に何かが憑いている? だとしたら、いったいどこの誰かしら?

 私の感知を欺(あざむ)けるヤツだと考えると、結構絞られるんだけど……。


 あー、やだやだ。

 一匹こいつじゃないかっていうのが居るんだけど、仮にそいつなら面倒で仕方がない。

 おそらく違うと思いたいんだけど、封印されただけで滅ぼされた訳じゃないのよねー。

 それはつまり、まだ生きているという事で……。


 本当に勘弁してほしいけど、アレが生きているのは当然として、今の京にまで悪さが果たして出来るの?

 どう考えても無理だと思うんだけど、何かがあった可能性はあるかな?


 おっと、それよりも結界の補強の儀式を見守らないとね。

 別の所には艶(つや)も居るだろうけど、私は肝心要の頂点の位置にいる。

 結界は五つの頂点を結ぶもので、五芒星の形をしているわ。


 つまり京の都の北、北東、南東、北西、南西。

 この頂点を結ぶ五芒星こそが結界そのものとなる。

 それこそ結界を壊すつもりなら、ここで邪魔をして破壊するのが一番。

 とはいえ、今のところはその気配が無い。


 私が嫌な予感がすると言って賀茂家と安倍家に対して警告してある。

 なんとしても守れと言ったけど、両家ともに気付いていた。

 平大相国がわざわざ満月の日を指定した不自然さを。

 もしかしたら平氏が邪魔をする事も考えた方がいいかもしれない。


 今のところは無いけど、いつ邪魔が入ってもいいようにはしてある。

 各地に【管狐】を放ってあるし、陰陽師達の式神も見張りについた。

 流石に何かをしてくる可能性は無いと思いたい。

 このまま終わってほしいけど、嫌な感じがさっきから強くなってる。


 何か起きるとしたら、そろそろだと思うんだけど……。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:艶(つや)



 葛葉(くずは)から言われているし、元々賀茂家の中でも話があった。

 明らかに今日するべきじゃないにも関わらず、結界の補強をこんな日にしなくちゃいけない。

 それも平大相国の一存で決まったという。

 どう考えてもおかしい。


 どれだけ両家の御当主様が訴えても日取りは変えられなかった。

 公卿や公家、ましてや摂政様が平大相国様の申される通りにしろとの事だったみたい。

 なぜ頑(かたく)なに満月の日を選ばれるのか、私には全く理解出来ないわ。


 っと、そろそろ儀式も佳境に入る……!

 空のアレ、もしかして巨屍鳥(きょしちょう)じゃないの!?

 まさかあんなのが来るなんて思ってなかった!!

 しかも誰も気付いてない!!


 「空よ! 空!! 巨屍鳥(きょしちょう)が飛んでる!

 こちらに突っ込んで来るわ、迎撃!!」


 「なんと!! 本当に空に大きな鳥が飛んでおるぞ!

 攻撃じゃ! アレは必ずや御当主様がたの邪魔をする!!

 我らの手で退治するのだ!!」


 「「「「「おうっ!!」」」」」


 ここは北西だけどマズい。

 他の所にも巨屍鳥(きょしちょう)が行っているなら、私と葛葉(くずは)だけじゃ防ぎ切れないわ。

 いえ、そもそも私と葛葉(くずは)でも大変。

 でも御当主様がたは儀式で動けない。

 なら……!


 「臨・兵・闘・者・皆・陳・列・在・前!」


 これで烏の式神が出た。

 とにかく式神には斯明(かくめい)殿の所に行ってもらう。

 何としても黒金(くろかね)を連れて来てもらわないといけないけど、最悪は気付いてくれるだけでいい。

 他の所の巨屍鳥(きょしちょう)を倒してくれるだけでも助かるから。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:斯明(かくめい)



 コンコン! コンコン!


 「ぬ? ………なんの音だ?」


 コンコン!! コンコン!!


 玄関から聞こえておるのか? いったいこのような夜更けになんだというのだ。


 コンコン!!! コンコン!!!


 「はいはい、聞こえておるよ。いったい何の用かね?」


 私は寝ぼけながらも玄関の戸を開けると、そこに居たのは烏の式神であった。

 ……はて? 何故(なにゆえ)こんな夜更けに式神が来たのだ?


 「鳥をなんとかするんだ! 鳥をなんとかしろ!! うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 「な、なんだ!? ……まさか、そなたはこの異変を伝えにきたのか?」


 私がそう問うと、烏の式神は頭を二度三度と縦に振る。

 おそらくだが、この式神は艶(つや)殿であろう。

 となると結界の補強の儀式に何かあったのだな。

 私の手を……!? いや、それだけではない。おそらく黒金(くろかね)の手が必要なのだ!


 「私だけではないな? 黒金(くろかね)を起こす必要があるのであろう?」


 私がそう言うと、式神は何度も頷く。

 間違いない、今起きている事には黒金(くろかね)が必要なのだ。


 私はすぐに寝ている黒金(くろかね)の所に行って起こす。

 寝ているところ申し訳ないが、黒金(くろかね)の力が必要だ。


 「黒金(くろかね)、起きろ! 黒金(くろかね)、起きてくれ!!」


 「……ん……うん………斯明(かくめい)? なに?」


 「黒金(くろかね)、すまんが家を出るぞ。

 何かが京の都で起きている。

 艶(つや)殿の式神が来たのでな、何かが起こったのは間違いない。

 今日は結界の補強だと言っていたろう?」


 「そうだ! 結界の補強! 艶(つや)の式神が来たって事は、僕達に助けてって言ってる?」


 「おそらくそうだ。それに外で大きな声を出している者も居る。

 まずはそちらへ行くぞ」


 「えっ? 艶(つや)の所に行くんじゃないの?」


 「艶(つや)殿は賀茂家の方々と一緒に居る。だから安全だ。

 それより儀式は五芒星で五ヶ所だと葛葉(くずは)殿より聞いた。

 という事は他の場所を先になんとかせねばいかん。

 私の家は都の南だ。ここで聞こえてくるという事は南東であろう。まずはそこに行く」


 「分かった! 急ぐんだから馬に乗っても良いよね?」


 「いや、私が連れて行こう。

 黒金(くろかね)は八体呼び出せたはずだ、猛兵を四体乗せればいい。

 そうすれば素早く攻撃できるはずだ。

 急がないと間に会わないかもしれん」


 「<猛兵・剛射隼人>! <影兵・自在黒命>!」


 黒金(くろかね)は呼び出した影兵を馬にし、その背に猛兵を乗せた。

 そして私は黒金(くろかね)をおんぶする。

 これで一気に走っていけばいい。


 「黒金(くろかね)、しっかり捕まっておくようにな。烏の式神よ。

 私達は葛葉(くずは)殿と艶(つや)殿がおられぬ場所から回る、そう伝えておいてくれ」


 烏の式神は何度も頷いた後、羽ばたいて飛んでいった。

 おそらく艶(つや)殿の下へと戻ったのであろう。

 さて、我らも急がねばな。

 今夜は長くなりそうだが、結界の補強を潰えさせるわけにもいかぬ。


 「黒金(くろかね)、行くぞ!!」


 「出発!!」


 黒金(くろかね)の声と共に私は走り出す。

 黒馬に乗っている猛兵も走り出し、私の後を追ってくる。

 私が速く走らねば猛兵も進めぬからな、急いで目的のところへ行かねば。


 少なくとも声がするので場所は分かる。

 私はそこへと素早く走っていき、数々の陰陽師が混乱している理由を知った。


 あれは巨屍鳥(きょしちょう)ではないか!

 なぜ京の都をアレが襲ってくるのだ!

 アレは黒金(くろかね)が退治したはずであろうに!


 まさか他にも居たのか? しかし私達は京の周辺の山を調べたんだぞ。

 その時に葛葉(くずは)殿も強い妖怪は居ないと言っていた。

 なのに何故!?


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