0047
Side:黒金
あれから五日経った。
僕達は山に行って、なるべく多くの霊玉を手に入れている。
それはいいんだけど、どうやら以仁王って人が南都に逃げようと園城寺っていう寺を出たんだって。
今は山で妖怪と戦いながら話をしてる。
本当は戦いに集中しなくちゃいけないけど、古兵や斬兵が警戒してくれているから大丈夫。
あと、最近頑張ってるからか、霊兵を八体出せるようになったよ。
修行を頑張ったら増えるなんて知らなかったから、今は凄くやる気が出てる。
僕が頑張れば、もっとたくさん霊兵が呼べるようになるかも。
できれば神様みたいに五十体とか出してみたいな。
「どうやら以仁王と頼政親子は園城寺を出て南都、つまり平城京を目指したらしいわ。
とはいえねえ、あそこは既に放棄されたかつての都よ?
荒れ果てたあそこに行って再起の目が果たしてあるのかしら?」
「平城京という事は大和ですが、あそこは興福寺の強いところ。
となると興福寺を頼りにする為に南へと行かれたのでしょうな。
延暦寺だけでなく興福寺にも文を送っておったそうですし」
「斯明殿の言われる通りでしょうし、これで大和に篭もられると平家側は手を出すのが難しくなるでしょう。
興福寺は特に大きな寺です、簡単には陥落しません。
平家側としては追いつきたいところでしょうが、果たして……」
「逃げる側は夜を徹して馬を走らせるでしょうし、おそらく逃げ切れるでしょう。
となると平家側は苦しいわね、興福寺は僧兵も豊富に居るし、そう簡単に文で動くような寺じゃないわ。
延暦寺とは明らかに違うもの」
「延暦寺とは違う、ですか?」
「ええ。平大相国はかつて後白河院に命じられた延暦寺攻めを拒否しているもの。
その縁もあって今回中立というか動かない事を決めたのでしょうけど、興福寺にはそういう縁は無いのよ。
平家側の言う事を聞く理由がないのよね。血気に逸る僧兵も多いでしょうし」
「なら簡単じゃないわね。
だからこそ以仁王も南都に逃げる事を決められたのでしょうし、ここは逃げる側の勝ちでしょう」
「おっと、妖怪ですが数が多いですな。それぞれで戦いましょう」
おお、僕の戦う番もありそう。
よし、皆の邪魔にならないように倒そうか。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
山に行ってから数日。
今日は久しぶりに斯明の家で勉強なんだけど、艶と葛葉が何だか変だ。
いったいどうしたんだろう? 何か揉め事でも起きたのかな?
「ちょっとね。
いきなりで驚いたんだけど、以仁王と頼政親子が死んだわ。
宇治の平等院で休んでたらしいんだけど、追っ手に追いつかれたらしいのよ」
「私の聞いた話だと、以仁王は夜駆けで何度も落馬したとの事よ。
それで休まざるを得なかったみたい。
さらには付き従っていたのも五十騎ほどだったらしいわ。
追っ手は三百騎ほど」
「その数の差ではどうにもなりませんな。
六倍の数の相手に勝つなど無理でしょう。
陰陽師が居れば違うでしょうが、陰陽師が戦に参じること自体、滅多にありませんからなあ」
「妖怪を退治すれば儲かりますし生きていけます。
何故わざわざ戦で命を落とさねばならぬのか。
多くの陰陽師の考えはこうですからね。
実際に正しいですし」
「そうね。話を戻すけど、頼政達は已むを得ず宇治橋の橋板を外してから平等院で休んだみたい。
そして次の日、宇治川を挟んで両軍は戦ったらしいわ」
「最初は矢戦から始まって、以仁王につく僧兵などの奮戦もあって平家側は攻めあぐねたらしいの。
でも、まさかねえ……」
「まさか?」
「宇治川を馬で渡ったのよ。
それも馬を乗り入れて川の流れが緩やかになったところを、一気に渡っていったみたい。
その所為で頼政達は平等院まで退いたらしいわ」
「その後は平等院で奮戦するも討ち死に。
黒金も見ていたでしょ、長谷部信連と一騎打ちをしてた源兼綱。
あの方も討ち死にしたそうよ」
「そうなんだ」
「特に兼綱は死を恐れず戦い、その姿はまるで八幡太郎義家のようだったと言われたみたいよ。
それでも防ぎきれなかった頼政は、以仁王を逃がした後で自害したらしいわ」
「そうですか………それで、以仁王は?」
「駄目だったみたい。
光明山の鳥居の前辺りで矢に当たって落馬、その後に討ち取られたと聞きました。
首は持って帰られたそうですけど、おそらく晒されるでしょう」
「皇族の方の首を晒すのですか!?
……また平氏に対する風当たりが強くなりますな。
ここはあえて供養などすれば、また変わるでしょうに」
「今の驕った平家がそんな事をするはずが無いわ。
私も首は晒すと思うわよ、我が世の春と思っている連中だもの。
自分達に仇なした者は、たとえ皇族だろうが関係なく晒すでしょうね」
「まあ、驕りというのは左様なものですか。
己に都合の良いものしか見えなくなるのでしょうが、これが大相国とは……」
「それよりも園城寺や興福寺に対して何かするのかもしれません。
そちらの方を御当主様は心配しておられました。
それがあると、さらに怨みと憎しみが都に向くのではないかと」
「それはあるでしょうね。
園城寺や興福寺を攻めれば、それこそ二つの寺は反平家が完全に力を持ってしまう。
いえ、反平家一色になっても不思議じゃないわ。
今まで寺に攻め入った事なんてないもの」
「だからこそ好き勝手をしておるとも言えますがな。
己らが何をやっても攻められまい。
そのように高を括っておるのだと思います、寺の側も」
「それは無いとは言えないでしょうね。
実際に己らの寺も焼かれるとなれば話は変わるでしょう。
そもそも政に寺が口を出しているのも変な話ではあるし」
「修験者と同じく修行でもして、少しは妖怪を減らすのを手伝ってくれてもいいと思うんですけどね」
「あいつらがそんな事をするわけないじゃない。
酒を飲むわ殺生をするわで、好き勝手をしている連中よ? そもそも頼政達にも加わって戦ってるじゃない。
殺生をしないっていう戒律はどこ行ったの? って言う話でしょうに」
「まあ、そうなんだけどね……」
「それはともかく、そろそろ昼餉ですし外に行きましょうか」
「今日はなんだろうね? 僕あの平たいヤツ結構好きだよ。
ちゃー……なんだっけ?」
「チャパティというヤツだな。
稀人が伝えた、天竺で食べられておるという物だ。
あれの中に具を挟んで食べるのが流行っておるが、もともとは千切って食べたりするらしい」
「汁につけて食べても美味しかったから、あれで良いと思うよ。
魚を味噌で煮込んだものだったけど」
「前に食べたのは鯉の味噌煮ね。
確かにアレにつけて食べたけど、特に何もなく普通に食べられたわ。
今日は流石に違うでしょうけど、たまに食べると飽きなくていいかも」
「まあ、とにかく行けば分かるから行きましょうよ」
僕達は昼餉を食べに外へ出て店に入る。
昼餉を注文して椅子に座ると、今日のはなんだろうと想像しながら待つ。
そして出てきたのは、いつも通りの粥だった。残念。
「今日は普通の粥だったね。
ちょっと前が違う物だったから、今日はまだ普通かぁ……。
いただきまーす」
「それは仕方がなかろう。いただきます。
店も無駄に食材を買うわけにもいかんのだし、十分な量が手に入らんのなら作れぬだろう。
食べるのは私達だけではないのだし」
ああ、そっか。
僕達だけじゃないから、足りなかったら駄目なんだ。
だから滅多に出ないんだね。




