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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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0046




 Side:葛葉(くずは)



 京の都に戻った私は、すぐに安倍家へと戻った。

 晴海はるうみちゃんと話し合う必要があるからだけど、それだけじゃないのよね。

 山の妖怪の内容とか色々と教えておかなきゃいけない。


 「晴海はるうみちゃんは居る?」


 「はい。御当主様でしたら、奥のいつもの部屋におられると思います」


 「そう。ありがと」


 私はさっさと晴海はるうみちゃんの部屋に行って声を掛け、了承があったので中に入る。

 中には数名の者が居て何やら話していたけど、もしかしてまた以仁もちひと王の事かしら?


 「晴海はるうみちゃん。

 また雁首揃えて話し合ってるみたいだけど、もしかして以仁もちひと王のこと? その後が分かる続報が入った?」


 「葛葉くずは殿。

 ですから雁首を揃えておるという言い方は……。

 まあ、以仁もちひと王のその後の事ですな。

 どうやら園城寺を脱出するかどうかを考えておるようです。

 延暦寺の事が大きかったですな」


 「そりゃねえ。

 強訴もする連中が矛を収めて日和ったんだもの、園城寺としても自分のところだけでは戦えないでしょう。

 中には反平家派は居るでしょうけど、だからといって勝ち目がなければ戦わないわ」


 「ですな。どうやら勝ちの目が消えた事で反平家派は尻すぼみとなったようで……。

 逆に平家派は安堵しておるようですが、私はこのまま終わるとは思えぬのです。

 特に令旨りょうじのことが引っ掛かるのですよ」


 「令旨りょうじが?」


 「以仁もちひと王がお出しになったという令旨りょうじ

 おそらくですが然したる力を持たぬでしょう。

 しかしそれを利用する者が必ず現れる、私はそう思っています」


 「令旨りょうじを利用ねえ……」


 「親王宣下すらされていない方ですが、皇族は皇族。

 その令旨りょうじの力は有効だと言い張る者が出るでしょう、ここまで反平家の気運が高まっておる以上は。

 それに東国の事はよく分かっておりません。

 東が立ち上がれば……」


 「東は将門の事もあり、反朝廷という立場が強いものね。

 相当に虐げられてきたからだけど、根の深い怨みと憎しみがあるわ。

 妖怪の事を考えれば、怨みと憎しみは困るんだけど……」


 「ええ。ですが中央の方々がそのような事を考えてくださるはずも無く。

 東国から崩されねばよいのですがな。

 いつか東国の怨みと憎しみで都が燃えるのではと、そのような悪い考えが無くなりませぬ」


 「それは……無いとは言えないわね。

 それはともかくとして、山の方の妖怪だけど、特に強い者は居なかったわ。

 それで考えたんだけど、色々な者達の怨みや憎しみの所為で集まってるんじゃないかという結論になったの」


 「怨みや憎しみの所為で、ですか……」


 「ええ。

 妖怪を集める結界というか術みたいになってしまっているという事よ。

 それで妖怪が強くなったり、強い妖怪が集まる事になってしまっている。

 京の都には怨みや憎しみを持たれている者が多いでしょう?」


 「それは………」


 「葛葉くずは様。では妖怪が強くなる事や集まる事は避けられぬと?」


 「そう。たぶんだけど無理ね。

 怨みや憎しみが減らない限り、京の都に集まってくるのは避けられないでしょう。

 出来るだけ早く結界の強化をするしかないわ。

 それと集まってきた妖怪の退治もよ」


 「やはりそれしかありませんか……。

 これという原因があればなんとか致すのですが、原因が無いというか取り除けないとなると……。

 守る事をするしかありませんな。

 受身はよくないのですが、いたしかたなし」


 「流石に怨みや憎しみが原因ともなれば、どうにもならないわよ。

 荘園だったりに重税を掛けている連中が悪いんだもの。

 重税を掛けるなと言うしかないわ。

 絶対に止めないだろうけどね」


 「でしょうな。

 おそらく重税の所為で妖怪が増えて強くなっておると説いても、あの方々の事だ、何とかしろと言うて終わりであろう。

 百鬼夜行でも起こらぬと理解はするまい。

 そうなれば都は地獄絵図になるというのにな」


 「「………」」


 「まあ、どうしようもなくなったら逃げるしかないわね。

 あれに対しては晴明はるあきだってどうにもならなかったんだし、散らすのが精一杯だったと聞いたわ。

 解散させれば済むから、全ての妖怪を倒す必要は無いんだけど」


 「それでも我らには無理ですな。

 少なくとも百鬼夜行の中核をなしておる者を退治せねばなりませぬ。

 それすら今の我らでは難しいでしょう。

 出来るとしたら……」


 「黒金くろかねだけでしょうね。

 むしろその為に稀人まれびとが降臨したのかもしれないわ。

 別の事の可能性もあるけれど」


 「分かりませぬが、黒金くろかねは何としても京の都に置いておかねばなりませんな。

 とはいえ……」


 「神々がそれを認めるかどうかは定かじゃないわ。

 今までの稀人まれびとも皆、神に導かれるように動いた。

 神々が何かをさせる為に遣わしている以上、それを邪魔する事は出来ない」


 「ええ。それが京の都の事でなければ、黒金くろかねは都を離れる事になりましょう。

 我らは己の出来る事をするしかありませぬ。

 まずは結界の強化ですが……」


 「ま、そっちは頑張ってちょうだい。

 私が来たのは怨みと憎しみによる妖怪の集まりと強化よ。

 こればっかりは、どうにもならない。

 それを伝えにきただけだから」


 「ありがとうございます。

 とはいえ、どうにもならぬ事が分かっただけですがな。

 それでも分からぬよりは余ほど良い事です」


 「ええ。それじゃ部屋に戻らせてもらうわね」


 さて、晴海はるうみちゃんには伝えたから、後は妖怪退治を頑張るくらいかしら?

 もうちょっと強いのが集まってくれてもいいんだけど、今は山の方が大事ね。

 黒金くろかねが用意した猪肉は美味しかったし、もう一度食べたいのよ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:つや



 「という結論になりまして、それを御報告にあがりました。

 おそらく原因となるものは解決できぬ類かと」


 「なんという事だ。

 葛葉くずは殿の申されている事は間違ってはいまい。

 そういう事が起こる事は賀茂家に残る口伝にもある。

 しかし京の都には怨まれる方が多すぎるぞ。

 これで都を妖怪から守れと言われてもな」


 「まったくでございますな。

 都を守る前に、まず怨みや憎しみを持たれぬようにしてくれと言わねばならぬとは……。

 いやはや、呆れてしまいまする」


 「そうじゃな。

 まさか妖怪が集まり、強くなるほどに怨まれ憎まれておるとは……。

 妖怪と我ら人は表裏一体。世が乱れれば妖怪は強く活気づく。

 それを繰り返したからこそ大妖怪がおるのじゃ」


 「嘆いていも始まらんが、解決できぬままに守る事をせねばならんとは……。

 常に攻められ続けるという事ではないか。

 こちらは多くの民を抱えておるのだし、ましてや都の外にもおるのだぞ」


 「公卿や公家の方々は何も思いますまい。

 あの方々は己さえ良ければいいという方々ですからな。

 いい加減にしてほしいですが、それこそ百鬼夜行でも起きなければ目を覚ましますまい」


 仕方がない方々ではあるけど、それでもウチよりも上の方々だからどうしようもない。

 それに葛葉くずはが言うように戦が激化したら、ますます京の都に来る妖怪は増えるわ。

 いえ、正しくは生まれる妖怪が増えてしまう。


 このままでは駄目なんだけど、誰も自らの取り分を減らしたくない。

 だから重税を止めないのよね。その結果がどう出るのか。

 ………はぁ、どう考えても碌でもない結果になるでしょうね。


 後は私達が生きている間にそれが起こるのか、それとも子や孫の代でそれが起こるかでしょう。

 私の子供や孫は……子供や孫はどんな顔かしら? 私と斯明かくめい殿の子供……///。


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