0045
Side:黒金
これから戦があるかもしれないけど、その戦のせいで色々と起きるかもしれない。
特に大きな戦があると、たくさんの人が死んでしまう。
それを喰らいにくる妖怪もいて、そいつらが強くなってしまう事もある。
結界で防げる程度ならいいけど、結界も妖怪から攻撃を受け続ければ潰されるかもしれない。
そんな事になったら京の都をたくさんの妖怪が襲ってくる。
さらに今まで防げた小さな妖怪も入ってくるから、多くの人が死んじゃうかもしれない。
「特に子供が狙われるのはマズいわ。
小さい妖怪もそうだけど、それなりの妖怪も子供を狙う事が多いのよ。
できる限りそうならないようにしなくちゃ」
「それもあるけど、まずは京の都の結界を維持する事ね。
そちらに尽力するしかないし、もしかしたら明日から霊玉集めを言われるかもしれないわ。
京の都の周りにはそれなりに山があるから」
「それぞれの山に行って妖怪退治ですか。
妖怪が増えたりする事も防げますので、実際に言われるかもしれてません。
しかし代わりにそれを口実にして、戦に参戦など無きように立ち回りましょう」
「うん、それが一番良いでしょう。
実際、妖怪退治といっても、京の都か周辺が陰陽師の主な妖怪退治の場よ。
多くの者はわざわざ遠出して山まで行かないわ。
狩りをする者が行くくらいではないかしら。
しかしそれでは……」
「まともに妖怪の数を減らせませぬな。
百鬼夜行を防ぐ為にも、妖怪の数を減らす。
その事を強く押し立てれば、公卿や公家の方々もお味方くださるでしょう。
最悪は皆様の命にもかかりますからな」
「公卿や公家は自分達に危険が降りかかるとなれば、すぐに手の平を返すぐらいだもの。
京の都を守る為といえば、平氏や源氏からの横槍を防いでくれるわよ。
実際に百鬼夜行が再び起きないとは誰も言えないもの」
艶と葛葉が賀茂家と安倍家に言ってくれるみたい。
僕も妖怪退治ならともかく、戦っていうのはしたくないから助かるよ。
僕の霊兵をあてにして変な事を言われても困るし、僕は戦なんて面倒な作法のあるものは嫌だからね。
なんでわざわざ槍の後は刀とか面倒くさい事をしなくちゃいけないんだろう? 何回考えても不思議で仕方がない。
わけが分からないものに巻き込まれたくないし、明日からも妖怪退治がいいなー。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あれから三日経った。
今日僕達は京の都の東にある山に来ている。
ここから北の方に行くと延暦寺っていう寺があるらしい。
そんな場所の山を歩いているけど、どうやら艶と葛葉が賀茂家と安倍家で色々と聞いたみたいだ。
「どうも園城寺の内部で六波羅を夜討ちしろって話があったみたいよ。
ただ平家側の坊主が話を逸らしたり長引かせて立ち消えになったみたいね。
で、その間に平大相国は延暦寺の切り崩しに成功したらしいわ」
「ええ、私も御当主様より聞きました。
未だに園城寺では平家派と反平家派での争いがあるらしく、以仁王を匿っているものの割れているみたい。
もしかしたら以仁王達は園城寺から脱出するかも」
「延暦寺が味方をせぬならば勝ち目が無いのでは?
流石に園城寺だけではどうにもならぬでしょうし、どこか平氏の力の届かぬ所へ逃げ込むしかないでしょう。
しかし……」
「そう、逃げられればいいけど、追討は早く始まるわ。
延暦寺が動かないなら平家は恐れる必要が無い。
今ごろ園城寺に向かっているか、それとも向かう為の将が決まったぐらいじゃないかしら?」
「なら、ちょうど良かったと言えますか。
我々が都に居たら何を言われていたか分かりませんからな。
余計な事を言われる前に出てきて正解でしょう」
「そうだね。
もしかしたら僕達についてこいとか言うヤツが来たかもしれないし、そんな面倒な事にならなくて良かったよ。
僕も戦なんてしたくないし」
「おそらく大丈夫だと思うわよ。
高倉院や後白河院には既に報せてあるそうだし、平大相国も京の都に何かあったら困るでしょうからね。
唯でさえ平家は悪く思われてるもの、これ以上の不満や怒りは避けたいはず」
「だといいんだけど、公卿や公家と同じく言ってる事がいきなり変わるとかはあるからね。
気をつけておくに越した事は無いでしょう。
それよりも妖怪を倒して霊玉を得なければいけないし、そろそろ真剣に妖怪退治を行いましょう」
艶がそう言って、僕達はお喋りを止める。
ここからは真剣に妖怪を探そう。
そろそろ霊力が分かるようになりたいし、少しでも何かを感じたい。
なんにも分からないから、未だに妖怪の場所がサッパリなんだよね。
葛葉は簡単な事じゃないって言ってたけど、いったいどうやれば分かるんだろう?
焦っても駄目だって聞くけど、焦らなければ上手くいくのかな?
「黒金、霊力に集中しなさい。
それが大事だって言ってるでしょ?
他の事とか考えてるのが駄目なんだから、考えるにしても霊力の事だけ考えなさい」
「はーい」
葛葉に怒られたから真面目に霊力の事を考えよう。
とはいえ霊力ってなんなんだろうね?
そもそも霊力が分からないんだから、考えたって分からない。
だんだん面倒くさくなったから、適当にしていよう。
…
……
………
「さて、今日も十分稼いだし、さっさと帰りましょうか。
これ以上ここに居ても仕方ないしね。
これもある程度は売るけど、符術に使う分もあるから、幾つかは置いておく必要があるわね」
「ほとんどが結界に使えない物だから、その中でも良い物を残しておきましょうか。
それ以外は全て売り払えばいいわ。
それにしても、なかなか結界用の霊玉が集まらないわね。
それなりのは居るんだけど、もう一つ足りない感じ」
「ええ。この戦果を見ると、果たして本当に京の近くの妖怪は強くなっているのか疑問になってくるわ。
確かに強くなっているはずなのに、妖怪が多くて強いはずの山の中はそうでもない」
「数は多いですがな。
しかし質という意味では、むしろ山の方が悪い感じです。
なんと言いますか、京の都の周辺だけ強くなっている? ただ、そうすると原因が分かりませんが……」
僕達は影兵の黒馬に乗って京の都へと戻る。
馬に乗りながらも皆で話し、なぜかおかしい妖怪の強さを考える。
いったいなんなんだろうね? なんで都の周辺〝だけ〟強いんだろうか。
「鬼女蜘蛛も見ませんし、餓鬼も見ません。
初めて黒金に会った時は強い餓鬼を追っていましたし、その後は乙一級の鬼女蜘蛛が出たのですが……。
そういえばそれ以降、あまり強力な妖怪に会っていないような? 巨屍鳥だけですかね?」
「もしかして誰かが京の都に強い妖怪を誘い込んでる? 公卿や公家、あるいは平氏や源氏。
怨んだり憎んだりされる奴らが、京の都にはたくさん居るからねえ。
そいつらに対する怨みでそういう事をするかもしれないし」
「本当にありそうなのが嫌ねえ……。
実際に京の都に住んでいるというだけで嫉妬を受けたりするもの。
荘園の人達なんて、私達は関係ないのに怨んでるでしょうし」
「もしかしたら艶が正解かもしれないわ。
誰かというより、京の都に対して怨みと憎しみと怒りが向かってて、それを感じ取った妖怪が京の都に接近してるのかも」
「つまり誰かの所為ではなくて、怨みや憎しみを持つ者達の邪念でこうなっていると?
なんと申しますか、意図せずにそういう術になってしまっている。
そんな感じがしますな」
「斯明の言っている事がよく表していると思うわ。
勝手にそういう術になっている。
……これは晴海ちゃんに伝えておくべきね」
どうやら色々と問題みたいだ。
僕にはどうすればいいのか分からないけど、ここは葛葉に頑張ってもらおう。
六波羅=京都の鴨川東岸の五条大路から七条大路一帯の地名
西光寺が六波羅蜜寺に改名した為にその名が付いた
平氏の拠点があった場所であるものの、清盛は西八条邸に拠点を移している




