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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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0044




 Side:黒金くろかね



 ひょうすべを倒し終わってからも色々な妖怪と戦った僕達は、十分な霊玉が手に入ったので京の都へと帰る事にした。

 そこまで遠くないし、黒馬ならすぐに戻れるので夕餉までには間に合う。


 それに朝から夕餉の分と明日の朝に食べる物は買ってあるので、何も問題はない。

 僕達は素早く走る黒馬の上で揺られているだけでいい。


 「それにしても影兵の馬は楽でいいわねえ。

 本物の馬と違うから私達が乗る場所が鞍みたいになってるもの。

 あぶみが無いから踏ん張れないけど、そもそも踏ん張る必要がないからどうでもいいしね」


 「確かにね。

 お尻も痛くならないし、そういう意味でも唯の馬とは違うわよ。

 正直に言って馬に乗るより楽だから、こっちに乗って旅に出たいくらい。

 まあ、旅に出るならだけど……」


 「旅に出る事など早々ないと思いますが、何を言われるかは分かりませんからな。

 最悪はどこかに行かなければならなくなるやも……」


 「朝廷か平氏かが何かを言ってくる可能性はあるかもね。

 その場合は素早く逃げるか、それとも仕方なく受け入れるか。

 どっちかになるでしょけど、どっちにしても面倒くさいわね。

 できれば両方とも無しでお願いするわ」


 「そうですな。

 ただ………黒金くろかね稀人まれびとだという事を考えると、何を言ってきても不思議ではありません。

 神様が降臨されますから、余ほどの事は言ってこないと思いたいのですが……」


 「甘い甘い。あいつらはバカだから、噂を聞いても自分だけは大丈夫とか思うのよ。

 だからバカなんだけど、そんな事すら理解しない。

 そういうマヌケが上に居るって自覚しなきゃ駄目」


 「今のところは無いでしょうけど、この先は分からないわね。

 以仁もちひと王の事が一段落ついたら何がしかの動きがあるでしょうけど、それまで動きは少ないんじゃないかしら?」


 「だといいけどね……」


 そう話して戻り、京の都の外で馬を降りると、荷を載せた馬だけ都の中まで歩かせる。

 僕達が乗っていなければ文句も言われないので、馬に乗せていても怒られたりしない。

 そのまま家に荷を置いて、二人を送る。


 帰ってきた僕達は早速夕餉を作るんだけど、僕は猪の皮を開いて、まずは肉に塩を塗りこむ。

 実は影兵に載せている間、ずっと熱というのを奪ってもらってたんだ。

 だから猪のお肉は凄く冷たい。


 明日塩を買ってこなきゃいけないけど、夕餉と明日の朝餉の分の塩は残ってる。

 多くはないけど塩を塗り込んだら、後は布で包んで影兵に持ってもらう。

 ちなみに今の影兵は木みたいになってる。


 その木のうろみたいな所に肉を入れて準備は完了。

 後はお肉を常に冷やしていてもらう。


 「なんでそんな事をわざわざするんだ? 普通に置いておけばいいんじゃないか?」


 「何でも塩を塗ってから冷やしておくと美味しくなるんだって。

 二日か三日ぐらい置くらしいけど、僕は早い方がいいから二日かなあ?

 塩を振って置いておくと臭いのが取れるらしいよ」


 「そうなのか。しかし影兵をわざわざそんな事に使うというのもなぁ。

 とはいえ神様は罪や咎でなければ構わないと言ってらっしゃるようだし……なんとも言えないところか。

 どうしても私などは「いいのか?」と思ってしまうが」


 「神様がいいって言ってるんだからいいじゃない。僕は美味しいお肉が食べたいからするよ」


 今はまだ待つしか出来ないけど、じゅくせいっていうのが出来たら美味しいお肉になるらしいから楽しみだ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 あれから七日ほど経った。

 お肉は美味しく食べたけど、特に葛葉くずはがたくさん食べたので驚いた。

 今まで食べたお肉に比べてとても美味しかったみたいだ。

 何度もまた食べたいと言うぐらいだから、よっぽどだったんだね。


 そしてその間に色々と動きがあったらしく、今日は勉強の日もあって皆で話してる。


 「どうやら以仁もちひと王の所に頼政が向かったらしいわ。

 昨日、どこかの屋敷が燃えたって聞かなかった? アレが頼政の屋敷よ。

 あいつ自分の屋敷を焼いて京の都を出たらしいの」


 「となると葛葉くずはの言っていた通り、源頼政という方は、最初から以仁もちひと王の挙兵を知っていたという事ね。

 でないと、そういう動きはしないでしょうし」


 「ええ。それで平大相国が激怒しているわ。

 そもそも平大相国は以仁もちひと王を追討する軍の大将に頼政を指名しているのよ。

 それを蹴って以仁もちひと王の所に行ったんだもの。

 その怒りは凄まじいものでしょうね」


 「なんと、大将にですか!?

 それは凄いですが……それを蹴って出て行くという事は、やはり相当に平氏に対して思うところがあったのでしょう。

 でなければ大将を指名されておいて蹴る事などありますまい」


 「ええ。私もそう思うわ。

 相当に思うところがあったんでしょうね。

 でなければ、あの忠義一辺倒の頼政が出て行くとは思えないもの。

 あれは正しく忠義の人よ。

 ………とはいえ、その忠義を軽んじてきたのが平大相国なんだけど」


 「そうなの?」


 「ええ。清和源氏で始めての従三位とはいえ、そこに昇ったのは頼政が七十四歳の時よ?

 今の頼政が七十七歳だから、従三位に叙されたのは三年前。

 七十四になってようやくじゃ、幾らなんでもねえ……」


 「流石にそれはちょっとアレねえ。

 確かに従三位は公卿であり、正四位とは天と地ほどの差があるわ。

 それでも運良く七十四まで生きたから貰えたけど、それまでに亡くなってたら無視されたのでしょうしね。

 それは蹴られるでしょう」


 「ここでも今までの平氏の横暴ですか。

 平大相国の子息など簡単に公卿になっておるというのに、真に源氏の扱いは悪いとしか言い様がありません。

 裏切られたとしても仕方がないかと」


 「うん、僕もそう思うよ。流石におかしい」


 だって平大相国って人の子供はすぐに貰えたのに、頼政ってお爺さんは三年前にやっと貰えたなんて駄目だよ。

 そんな事をしてるから、お前の言う事なんか聞けるかってされるんだしね。


 「実際に北宋貿易で得た莫大な銭は自分達で使う。

 荘園その他には重税を掛ける。

 我が世の春と思っている連中は碌な事をしないわ。

 時の帝や院も変わらないけどね」


 「そこに関してはなんとも言い辛いけど、でも言っている事は正しいわ。

 我が世の春とか言って好き勝手をしているから、そういう目に遭うのよ。

 他の人達の家でも同じ話をしてるでしょうね。

 平氏には聞こえないように」


 「そうでしょう。

 平氏の方々は敵を作りすぎましたし、源氏の不満と怒りが大きな戦にならねばいいのですが……。

 公卿や公家の方々にも、ましてや民の中にも不満を持っている者が多い。

 それら全てが敵になれば……」


 「平氏は間違いなく滅亡まで行くでしょうね。

 たとえ平氏に味方する者がいても焼け石に水よ。

 不満と怒りは日の本を包み込むかもしれないわ。

 そうなったら妖怪達がどうなるか……」


 「どうなるの?」


 「場合によっては力のある妖怪が戦に乱入して、人間達を殺して回るかもね。

 それで力を付けようとする妖怪も出てくるでしょう。

 かつての時代からそういう動きはあったから」


 「平氏と源氏の双方が痛み分け、妖怪の勝ちという戦も出てきそうね。

 平氏と源氏なら作法にのっとって戦うでしょうけど、妖怪が人間の作法なんて気にするわけも無いのだし」


 「ですな。

 気をつけておかねば、非常に強い妖怪が生まれかねませぬ。

 そうなれば京の都がどうなるか……」


 「結界の強化を早めた方がいいでしょう。

 私から御当主様にお報せしておきます。

 おそらくお分かりでしょうが」


 「私の方は言う必要ないわね。

 そもそもこの情報は晴海はるうみちゃんが直接持って来たものだし、あの子なら気付いてるでしょ」


 強い妖怪が出てくるって事は、倒せば良い霊玉が手に入るって事だよね。

 でも、たくさんの人が死ぬのは駄目だし……。難しいなぁ。


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