0043
Side:黒金
僕達は今、山を登ったりしながら妖怪と戦っている。
霊玉はそれなりに手に入れたけど、それでも小さいのが多い。
なかなか大きなのは手に入らないけど、幾つかは手に入っている。
それは骨人と屍人、それから狼と鹿が出てくるからだ。
そういえば妖怪の狼は妖狼、鹿は妖鹿と言うらしい。
一応は区別としてそうなってるんだって。
伝わればいいので、皆が気にしてないらしいけど。
「さて、沢があったし、ここで少し休憩しましょうか。
そろそろ昼餉の時間のはずだしね。それに疲れたわ」
「歩き詰めだからね、少し休憩しましょうか。
ここまでで小物が多いとはいえ、それなりに霊玉も稼げているもの。
無理をする必要は無いわ」
「黒金、いったい何をしてるんだ?」
「上が平たい石を探してる。どこかにないかな?」
「上が平たいだけでいいなら、ここにあるじゃない」
「おお! ありがとう! 影兵、荷物を下ろすから人型になって」
僕は熊型になっている影兵から荷物を下ろすと、影兵は人型になった。
なので上が平たい石を持たせ、川に持っていって洗わせる。
綺麗になったら皆のところへ戻り、適当な場所に置いたら準備完了。
今度は斬兵に木の枝を切ってもらって、古兵に小さくしてもらう。
後は包丁で切ったら箸の完成だ。
斯明がお昼にって持って来たのは竹の皮に包んである饅頭という食べ物。
僕は初めてだから知らないけど。
「小麦の粉を塩水で練って、それから形を整えて蒸したものよ。
割と売れているわよ、買う人も多いし。
ただ冷えるとあんまり美味しくないけど」
「ふーん……」
僕は肉を切っていき、ある程度切れたら葛葉にお願いして、洗った石を【狐火】で焼いてもらう。
十分に焼けて熱くなったら、切った肉を乗せていく。
ジュウーーー!!
「石で肉を焼くっていうのもいいわね。なぜ急にそんな事を思いついたかしらないけれど」
「眼で視た時に出てたから、そうしてるだけだよ。
それにお肉を食べたかったしね。
皆だって饅頭ってヤツだけより、お肉もあった方がいいよね?」
「それは、もちろんよ。だから文句を言ってないでしょう?
それより良い匂いがしてきたわね。
意外と言ったらいいかしら、臭いのが少ないというか、今までの肉より随分とマシね」
「血抜きと冷却というのをしていたからじゃない?
肉特有の臭味が駄目な人も居るけれど、私は我慢できるかな。
あの中華そばの汁より遥かに臭くないもの」
「アレはね、鼻が曲がるか潰れるんじゃないかと思うほど臭いじゃない。
アレに比べれば何でもマシよ。あそこまで臭い物も早々ないでしょ」
「はい、焼けたよ。どんどん取っていってね。僕も食べながら切るから」
「黒金に任せてばかりなのはアレだが、私達だとそこまで綺麗に切れないからなぁ……。
ありがとう、黒金」
「んー! お肉は美味しいわねえ! これよ、これ。
食べる意味があるし美味しいし、しっかりと肉の旨味を感じるわ。
あの猪ちょうどいい時に出てきてくれたわね」
「うんうん。これは普通に美味しいわ。
特に持って来た味噌のタレが効いてるわね。
黒金が絶対に肉を食べると言って持って来たけど、気持ちはよく分かる。
これは美味しい」
「銭があるからといって、色々と買ってましたからな。
大丈夫かと思ってましたが、これほどに美味いとは……」
「お肉って美味しいよね。
出てきてくれなかったら困ってたところだけど、出てきてくれたおかげで食べられるし。
一日か二日置くと美味しいらしいから、ロースとかバラは帰ってからでいいよね?」
「うん? どういう事?」
「今、焼いているのはハツっていうのとタンとトロだよ。心臓と舌と頬と首」
「ああ、これ心臓とかなのね。
まあ、別に問題ないし美味しいからいいんだけど、お肉の部分じゃなかったの?」
「お肉は置いておかないと硬いんだって。
仕留めたその日じゃなくて、一日か二日置いて柔らかくなってから食べるんだってさ。
だからまだ無理だよ」
「なるほど、だから肉の方は切ってないわけね。
なら明日か明後日の楽しみかしら。
そこれまではゆっくり待つ事にしましょう」
「十分に美味しいので舌だろうが心臓だろうが問題ありませんな。
頬や首の肉も美味いですし」
「そうね。饅頭だけじゃ力が出なかったかもしれないし、お肉が食べられたのは本当に良かったわ。
鹿を獲る際には猛兵の方がいいかもね。もちろん今日はもういいんだけど」
「これ以上お肉を獲っても邪魔になるだけよ。出てきても追い返せばいいわ。
影兵が鞭で攻撃すれば痛みで逃げ帰るでしょ」
「たぶんそれで問題ないと思うわ。
怒って攻撃してくるヤツも居るかもしれないけど、そこは諦めるしかないわね。
バカは死んでも仕方ないし」
僕達はその後もたくさん食べて、十分に満足したら昼餉を終えた。
少し休憩したり用を足したりした後、僕達は再び山の中を歩き回る。
様々な妖怪と戦うものの、驚くような妖怪も居た。
「あれって、ひょうすべね。
最近は河童なんかの話と混じってたりするのよ。
河童は明らかに手とか足に水かきが付いてるけど、ひょうずべは付いてないもの。
そのうえ体は猿に近いしね」
「なんか変な妖怪だけど、あれって倒していいの?」
「倒しなさい。
見た目は滑稽かしれないけど、あれ妖怪の中ではそれなりに力を持っているわ。
妖狼よりも上だから、乙三級から四級辺りでしょうね。
斯明が戦うのが経験的に良いんじゃない?」
「臨・兵・闘・者・皆・陳・列・在・前!」
斯明が狼の式神を出したけど、妖狼よりも強いんだから狼の式神じゃ駄目なんじゃ……。
「天・元・行・躰・神・変・神・通・力!」
ああ、強化術式で戦うんだ。それなら大丈夫かな?
とはいえ強化術式も霊力をたくさん使うらしいから、あんまり良い事じゃないと思うけどね。
でも他にも皆が居るし、それぐらいはいいって事なのか。
斯明の狼が走ってひょうすべってヤツの所に行くけど、あいついきなり石を拾って投げてきた。
斯明の狼は避けたけど、いきなりあんな事をするなんて嫌な奴だなぁ。
そのひょうすべの頭の上から烏の式神が攻撃し、そっちに気を取られている隙に狼の式神が噛みついた。
「ひょーーー!!! ひょーーーー!!!」
よく分からないけど効いてるっぽいので頑張れ!
そう思っていると狼が噛み付いた後で振り回し、ひょうすべってヤツは倒れた。
さらに狼は噛みついて振り続け、最後にはひょうすべの体を噛み千切った。
それで勝ったんだろうけど、最後まで「ひょーひょー」言い続けてたね。
あの声だからひょうすべっていう名前になったのかな?
「いきなり石を投げられたとはいえ、上手く倒したんじゃないしら。
あいつ戦いは地味にいやらしい戦い方をするからね、それが石投げ一回で済んだなら十分でしょう。
きっちり倒せているんだし」
「ええ。それに長引いてもいませんしね。
強化術式を使ってでも早く倒す、それ自体はなにも間違ってはいません」
「ありがとうございます。
それでも葛葉殿が教えて下さったので良かったですよ。
ひょうすべという妖怪を知らなかったので、私だけなら強化術式を使わなかったでしょう。
そうなると、どうなっていたか……」
「それはいいのよ。最悪は逃げれば済むもの。
大事なのは知識と経験を得ること。
こればっかりは京の都の近くだけじゃ得られないわ。
かつて晴明も色々な所へ行ったらしいし」
「なるほど、それが安倍晴明公の強さの元なわけね」
たくさん戦ってきたから強いのかぁ。
だったら僕もたくさん戦って強くならなくちゃね。




