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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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0042




 Side:黒金くろかね



 勉強の次の日。

 僕達は馬の影兵に乗って近くの山にまでやって来た。

 山を近くで見るのは初めてだけど、おっきいね。

 ここを登っていくみたい。

 地元の人達も登って山菜を採ったりするそうだから、迷ったりはしないんだって。


 僕は皆が乗ってきた馬を消して、古兵を二体と斬兵を一体呼び出す。

 山は木々がたくさん生えているから、弓矢の猛兵は使いづらい。

 影兵なら使えるけど、影兵は荷物を乗せる馬にしているからね。

 その一体で十分だ。


 僕達は山に登り始めたけど、山って大変だった。

 それにすぐに妖怪が出てきて驚く。

 京の都の外だって多くは出てこないから、山も大した事はないって思ってたよ。

 いきなり骨鳥っていうのが出てきて、斯明かくめいが倒した。


 「【鬼火】で倒せてよかったが、無駄に符を使うのは危険だな。ここは烏の式神を出しておこう。

 臨・兵・闘・者・皆・陳・列・在・前!」


 「私も狼を出しておこうかしら。

 臨・兵・闘・者・皆・陳・列・在・前!」


 「なら私もたまには真面目にしますかね。【管狐】」


 葛葉くずはがくだぎつねっていうと、なんだか黄色い小さいのが出てきた。

 あれがくだぎつねってヤツなんだろうけど、なんだかちっこくて戦えそうにない。

 簡単にやられそうだけど、大丈夫かな?


 「黒金くろかねには【管狐】が弱そうに見えてるんでしょうけど、この子達は小さくとも【狐火】が使えるから弱くはないのよ?

 早々に負けたりなんてしないから安心しなさい」


 「きゅ!」


 「あっ、鳴いた」


 「管狐ってまた……。妖怪が妖怪を出すっていう、こう………なんとも言えないものを見たわね。

 実際に考えてみれば、当たり前の事なんでしょうけど」


 「それはね。狐の大妖怪たる私が、小さな妖怪を呼び出しても普通の事でしょうに。

 例えば大天狗なんて、様々な天狗を引き連れてるわよ?

 まあ、あいつらは修験者を鍛えたりしてるから、私と同じじゃないけどね」


 「烏よ、行け!」


 斯明かくめいがそう言うと、烏の式神が骨鳥を攻撃して倒した。

 どうやらまた骨鳥が来ていたみたい。

 本当に多いけど、もしかして巨屍鳥きょしちょうってヤツが居た山なんじゃ……。


 「ここって巨屍鳥きょしちょうが居た山なんじゃないの? だから骨の鳥が多いんだと思う」


 「あー……その可能性は十分にあると思うわ。

 骨鳥が人を襲う事はあっても、あの大きな巨屍鳥きょしちょうが人を襲う事は無いでしょうからね。

 むしろ骨鳥を襲ってたんじゃない?」


 「えっ? 妖怪が妖怪を襲うの?」


 「そうよ。だって妖怪が求めてるのは、そもそも霊力だもの。

 そして妖怪は霊玉を持ってる。後は言わなくても分かるでしょ」


 「では人間だけではなく、妖怪同士でも争っていると。

 ………その霊力が大きく強くなれば大妖怪になるという事ですか。

 では善妖と悪妖があるのは……」


 「そこは関係ないわ。

 人を襲って喰らっても善妖になる者もいるし、妖怪だけ食らっていても悪妖になる者も居る。

 善悪はそもそも人間に仇なすかどうかでしかないから、私達の善悪ではないのよ」


 「あっ、なんか来た!」


 「ブルルルルルルル……」


 「あらまた、なかなか食い応えのありそうな猪じゃない。しかもオスだからか、やる気満々ねえ」


 あれが猪かー、初めて見たけど大きいなぁ……。僕の背と同じくらいあるよ。

 あんなのが突っ込んできたら、僕なんて弾き飛ばされちゃうね。

 このままじゃマズいから、斬兵にやってもらおう。


 「斬兵! あの猪を切れ!!」


 「!!!」


 ダダダダダダダダ………シュッ!!


 なんか古兵より音が小さかったけど、斬兵が横に振った剣は猪を切っていた。

 猪は頭を切られたからか、中身を零れ落としながら倒れて死んだ。

 あれは八意思金神やごころおもいかねのかみが言ってた脳ってヤツだと思う。


 「………綺麗に頭だけ切り裂いたわね? 頭の中身が零れ落ちて死んでるじゃない。

 それ以外に一切傷を付けていないところが凄いわ。

 とはいえ、とりあえず血抜きをしなきゃいけないんだけど……」


 「ちぬき?」


 「体の中の血を抜かなきゃいけないのよ。でないと美味しい肉にならないの」


 むっ、それはいけない。

 どうやったら血を綺麗に抜けるか分からないから、神様の加護の眼でてみよう。


 ―――――――――――――――


 猪 雄 四歳


 なんの変哲も無い、普通の猪。倒したならばすぐに血抜きと冷却をしなければ、体温によって肉が不味くなる。影兵に死体の血抜きと熱を奪わせれば、すぐに終わるだろう。あとはそなたが切り取ればよい


 ―――――――――――――――


 「おお! そうなんだ! <影兵・自在黒命>」


 僕は影兵を呼び出すと、すぐに血抜きと冷却というのを頼む。

 すると影兵は腕を鞭のようにして、脳が零れた所に突き刺した。

 何をしてるんだろうと思ったら、影兵の足下から血が出てきてビックリする。


 「な、なんで影兵から血が!? いったいなんで!?」


 「こらこら焦らないの。そもそ霊兵に血があるわけないでしょ。

 という事は、影兵の足下から出てる血は猪の血という事になるわ。

 それに黒金くろかねが始めた事でしょうが」


 「神様の加護の眼でたら、影兵で血抜きと冷却をするといいって出てたんだよ。

 だからやらせてるだけ」


 「ああ、そういう……うん? 冷却!?

 って事は、冷やす事まで出来るの!?」


 「それは凄いわね。冷やす事まで出来るなんて、とんでもないわ。

 私は聞いた事がないけど、そういう力を持つ妖怪も居るの?」


 「居ないわけじゃないけど、相当に高位の術となるわ。

 それこそ雷と同じぐらい難しいとしか言えないわね。

 私も使えないからハッキリとは言えないんだけど……」


 「それは………。この事は黙っておいた方が良さ気ですな。

 聞きつけると碌な者が来ませぬ」


 「でしょうね。っと、終わったみたいだけど、この後でする事はあるの?」


 「後は僕が切ればいいんだって。包丁は持って来たから、とりあえず出すよ」


 僕は馬の影兵にしゃがんでもらって包丁を取り出す。

 相変わらず切れる場所は見えるので、その通りに切っていくと簡単に切れる。

 もしかしてこの紫の線、唯の切る場所だけじゃないのかも? 切れ味とかも上がってる?


 「相変わらず、黒金くろかねがやると恐ろしく切れるのよねえ。

 普通は猪の解体って、何度も包丁を湯で洗ってするのよ? 血脂で滑って切れなくなるから。

 なのに黒金くろかねってば、スパスパ切っていくじゃない」


 「どう考えても、切れる場所が見えているってだけじゃないでしょうね。

 何か他にも加護の力が使われてると思う。

 ただしそれが何かは全く分からないけれど」


 「神様の御力ですから、暴こうとせぬ方がよいかと……」


 「暴こうとは思っていないんだけど……いえ、そもそも考える事が危険か。

 斯明かくめい殿の申される通り、ここは見ないフリをするのが一番いいでしょう。

 命も惜しいし」


 「それはね。そもそも大妖怪である私だって惜しいもの。

 絶対に神々に敵対したりなんてしないわ。

 玉藻バカと同じように封印されるなんて御免よ」


 僕は肉を切り分けていき、それなりに美味しそうな部位だけを頂いていく事にした。

 バラとかいう所とロース、それにタンとハツとトロを皮で包んで紐で縛る。

 そして影兵を熊にして乗せたら先へと進む。


 「影兵の体から黒い縄みたいなのが出て、しっかりと落ちないように支えてるわね。

 それよりも猪の舌を包んでたけど、食べられるの?」


 「眼でたら食べられるって出てたよ。

 牛の舌だけじゃなくて、猪の舌も食べられるって。

 それに美味しいらしいよ」


 「へー……」


 なんかいつもと違って、葛葉くずはが「へー」って言ってるね。

 ちょっと面白い。


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