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Side:黒金
以仁王って人が検非違使に追われてから三日経った。
以仁王って人は、やっぱり争いの間に逃げていたらしく、園城寺という寺に逃げ込んだらしい。
「それだけじゃなくて、元々から園城寺や興福寺に対して挙兵を促していたらしいわ。
大和や東国にまで挙兵を促していたって事は、おそらく京の守りを手薄にさせる気でしょうね」
「それって京の都が戦火に見舞われるって事じゃない。碌な事を考えないわね。
戦をするなら京の都から離れた所でやってほしいわ。
唯でさえ最近は妖怪が増えたり強くなったりしてるのに」
「本当にねえ。とはいえ以仁王は不満が山ほどあったみたいよ?
三十歳を超えて未だに親王宣下も無いからでしょうけど、それを元に戦を起こされても困るわ。
……ただ、これはきっかけに過ぎないと思う」
「きっかけ、ですか?」
「前にも言ったけど、そもそも源氏の平氏に対する怨みや憎しみは深いわ。
特に末端に行けば行くほどに虐げられているから、尚のこと怨みつらみは強いでしょうね。
そしてそういう下っ端に押されて、上も挙兵する」
「挙兵するというより、せざるを得ないというところでしょうね。
そこで挙兵しなければ、下っ端の者が離反したり怨みや憎しみを持ってしまうわ。
平氏への怨みが自分に向くなんて御免でしょうし」
「それでも平氏に味方する源氏の方も居そうですがな?
世話になっていたりという方も居るでしょうし、なんと言っても平氏と源氏は婚姻をしておる事もよく聞きます。
父方が源氏、母方が平氏などの方はどうするのでしょうな?」
「そこよね。
たぶん平氏も必死に源氏を崩しにかかると思うから、当分の間はどっちつかずみたいな感じになるんじゃない?
そもそも以仁王が園城寺に逃げているから、それが落ち着くまでは動かないでしょうけど」
「私達には関係が無いから、今日も勉強ですよ。
黒金もそろそろ符作りをしなければいけませんし、昨日の霊玉は残してあるでしょう?
甲八級が高く売れたから」
「あれは驚きましたな。まさか霊玉一つで小金板とは……。
そこまで行くかもしれないとは思いましたが、本当に小金板で支払われるとは思いもしませんでした」
「陰陽寮は今現在、思っている以上に儲かっているのですよ。
平氏にも源氏にも霊玉を売っていますので当然なのですが。
その反面、結界を強化する為の強い霊玉は手放していませんので、守りは問題ないかと思います」
「平氏は北宋との貿易で儲かってるからいいけど、源氏はどうやって霊玉の代金を賄っているのかしら?
平氏と比べれば銭は持ってないわよね? なんか気になるわ。
どこかが銭を出しているのかしら。源氏を勝たせる為に」
「かもしれないけど、どこまで考えても予想で終わるわ。
出している人達が表に出てくるとは思えないし」
「それはそうね。
でも平氏の方が有利である以上、結構な者が呪い殺されるかも。
もちろん名のある者達は呪術師や陰陽師が守っているでしょうけど」
「陰陽師が守るの? ……【封吸】の符?」
「それもあるわね。ただそれだけじゃないのよ。
本人の髪の毛などを入れた身代わりを用意したりとか色々ね。
その身代わりがあれば、呪いはそっちに行くから、本人は助かるってわけ。
そういうのもあるのよ」
「へー………」
「だから呪いで暗殺なんて、本来はなかなか成功しないのよ。
黒金が苦しんだのは、そういう対策をしていなかったからね。
まあ、普通の平民はそんな事をしたりはしないけど」
「それもあるし、まさか斯明殿をバカにしていたあの男が呪いを頼んでいたなんてね。
銭を使って多くの呪術師を雇ったらしいけど、結果は呪術師が全員呪い返しで殺され、自身は苦しみに苦しみ抜いて死亡。
いったい何の意味があったのかしら」
「まあ、神に呪い返しをされるとは思ってなかったでしょうね。
まさか頼んだ本人までが呪われるとは……厄災を司る神だけあるわ、本当に。
最後には全身が真っ黒になって、体が捻じ曲がって死んだらしいわよ。
雑巾みたいに絞られたんですって」
「「………」」
雑巾を「ギュッ」って絞ったみたいになったんだね。
そんな呪いを僕に掛けようとしたのか、それとも神様がそういう呪いを送ったのかな?
ちょっと分からないけど、別に分かる必要も無いか。
「そういえば以仁王の挙兵だけど、バラしたのは熊野の権別当らしいわね。
どうも熊野で平家方と反平家方で揉めたらしいし、実際に小さな戦になったみたい。
その後、権別当が平氏にバラしたそうよ」
「あらら、それがあって以仁王を捕縛しようと検非違使に命令があったのね。
で、以仁王は露見したから園城寺に逃げこんだ、と」
「こうなると園城寺の方に「引き渡せ」という使者が向かうでしょうが、園城寺はどうでるのでしょうな?」
「そりゃ断るんじゃないの?
だって園城寺と興福寺とは挙兵の話をずっとしてたんだろうし、今になって以仁王を平氏に売るような事はしないでしょう。
挙兵を企てたとはいえ皇族だもの」
「だからこそ簡単にはいかないでしょうね。
当分はこのままだろうし、動かないわよ。
だって園城寺って大きな寺社だもの、平氏だってそう簡単には攻められないわ。
篭城されると攻めるのは大変でしょうし」
「そうね。当分は動かないと思うわ。
でね、その間に京の都の外に妖怪退治にいかない? 私も袴を履いてくるからさ」
「妖怪退治?」
「黒金が黒馬を出せるようになったでしょ。
アレに乗って近くの山まで行きたいのよ。
流石に山まで行けば、それなりの妖怪も出てくるもの。
それに馬に荷を乗せれば食べ物だって持って行けるでしょ?」
「それでは黒金の負担が大きいような……」
「僕は妖怪退治が出来るならいいよ。それに七体まで出せるようになってるし」
「私達が黒馬に乗っても三体分は余るのよ。
うち一体は荷物を載せるとして、残り二体分は空いてるわ。
これなら何の問題も無いし、そもそも霊兵は疲れないからね。
ずっと走れるし、早く着くでしょう」
「そうだね。山の妖怪とか強そうだし。
出来るだけ戦って霊玉を得よう」
「まあ、京の都の結界の事を考えても、強い霊玉がたくさん必要なのは間違いないのよね。
………仕方ないか、結界の強化は急務みたいだし。
私達が一緒に行くなら大丈夫でしょう」
「……仕方ありませんな。
あまり黒金には危険な事をしてほしくないのですが、そうも言っておられませんか。
明日からは山の方へと行く事にしましょう」
「やった! 山で美味しそうなのが居たら狩ろう。猪とかいうヤツとか熊とか」
「美味しい肉が欲しかったの? まあ、好きにしてくれればいいけど……。
どうせ古兵なら楽勝で始末するでしょうしね。
もしかしたら斬兵でも上手くいくかも。
なんか木ごと切りそうじゃない?」
「言ってる事は分かるけれど、本当に出来るのかしら?
向こうでさせてみなければ分からないわ。
普通に考えれば無理っていうところだけど……」
「剣の神様が呼ばれた霊兵ですからな。案外と木すら切り倒してしまうかも……」
「まあ、なんにせよ、明日よ明日。
今日は勉強をしっかりしなさいね。
座学も十分大事だし、黒金には精神統一法も教えてるでしょ。
何故か子供らしく落ち着きがないけれど」
「だって、暇だし……」
「その暇を感じるのよ。雑念があるから暇だと思うわけ。
しっかりとその静寂を身に宿しなさい」
「えぇー………」
だってあれ暇だし、なんの為にしてるか分からないんだもん。
霊力を感じるには必要だって言われたけど、やってても何も感じないしさ。
あれで本当に感じられるようになるのかな?




