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Side:黒金
時間稼ぎという一騎打ちをやっているけど、まだ終わらないみたい。
どっちも穂先とかその手前とかをぶつけあってるだけで、周りの人達も飽きてきたみたいだ。
気持ちは分かるよ、だって僕も飽きてきたし。
「ぬぅ! まさかここまでやるとは思わなかったぞ!」
「そちらこそ! まさかここまでの腕前だったとはな!! しかし!!!」
ギィン! バキィッ!!!
「なんと! 我が槍が折られるとは!? 仕方がない、刀で迎え撃ってくれる!」
「ならば、それがしも刀でそちらの首を獲ってみせようぞ!!」
今度は刀で斬りあうみたいだけど、槍が残ってるんだから、兼綱とかいう人は槍で刺せばいいじゃん。
なんで相手が刀だからって自分も刀を使うのさ。
僕には戦っていうのがサッパリ分からないよ。
「また黒金が分からないって顔をしてるわね。
あれは相手が刀を出したからよ。
相手の槍が折れたからといって槍で勝つと、相手より遠間でしか戦えない腰抜けと言われかねないわけ。
だから刀で戦うのよ」
「なんで? さっきまで槍で戦ってたんだから卑怯でもなんでもないじゃん。
槍で勝ったんだから勝ちでいいのにさ。
なんか相手の時間稼ぎにワザと付き合ってる気がする」
「そう言われればそうね? 確かに槍と槍で戦ったんだから、恥にはならないはずよ。
にも関わらず、なんで刀同士で戦うのかしら?
もちろん葛葉の言っている事も分かるんだけど、今それって必要なこと?」
「いや、まあ、必要かって言われたら必要じゃないわね。
でもさ、戦ってそういうものなんじゃないの?」
「今やっておるのは捕縛ですから、これが戦に当たるかはなんとも……。
ここまで時間を掛けておると、確実に以仁王には逃げられたでしょうな。
平家の面目が傷付いた事になりますが、どうなるのやら?」
「流石にそれは平家に聞かないと分からないけど、今の平家だと微妙じゃない?
そもそも色々なところから不満とか出てるし、作法を守らないと更に色々言われない?」
「ああ、それは確かにそうかも。
となると一騎打ちを受けたのも仕方ないか。
そもそも一騎打ちを受けない時点で腰抜け扱いされてしまうし、受けたら受けたで時間稼ぎをされてしまう。
これは相手の方が一枚上手だったわね」
「たぁっ! でぇい! やぁ!!」
「ふん! はぁ! ぬん!!」
キン! キィン! ビキィッ!!
「うぐ、刀が折れたか……。お見事である!! この首、持っていかれるが良かろう!!」
「はぁ、はぁ、はぁ………長谷部信連!! この源兼綱が打ち勝ったりーーーー!!!」
「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」」」」」」
いや、「おぉぉぉぉ」じゃないと僕は思うよ。
だってその長谷部さんじゃなくて以仁王って人を捕まえに来たんでしょ?
全然違う事で騒いでどうすんのさ?
「まったくもって黒金の言う通りなんだけど、一騎打ちは勝った側を褒めないといけないのよ。
負けた側だって立派に戦ったのだしね。
そうでないと面目も何もあったものじゃないわ」
「ですが完全に逃げられましたな。
どこに逃げられたのかは分かりませんが、近くにはおられますまい。
この後どうなるかは分かりませぬが、当分は落ち着かぬでしょう。
東国に文を送ったそうですし」
なんかそんな事を言ってたね。
東国って確か東の方だけど、どんな所なんだろう? 行く気はないけどちょっと気になる。
それはともかく、そろそろ戻ろうか。今日は勉強の日だし。
「うむ、そうだな。これ以上ここに居たところで意味はあるまい。
さっさと戻って勉学に勤しもう」
「それじゃ「何者か!?」もど……」
「そこで馬に乗っておる者よ、そなたらは何も、の、じゃ?」
「あら? 貴方は源頼政じゃないの。ようやく従三位が貰えたから隠居したんじゃなかった?」
「これは、妖狐殿か……。
なにゆえ黒馬に乗っておるのか知らぬが、武士でない者は馬に乗る事はできん。
せめて都の外ならばまだしも、都の中ではお止めくだされ」
「はいはい。だってさ、黒金。馬を降りましょうね」
「はーい……。
せっかく馬に乗って速く移動できると思ったのに、結局だめかー!
まあ、外なら乗っていいみたいだから良かったかな?」
そう言いつつ僕は影兵を消して、下に飛び降りる。
よりまさとか言われたお爺さんは目を丸くしてビックリしたけど、すぐに真面目な顔に変わった。
ちょっと面白いかも。
「この子は黒金と言って稀人よ。
そしてさっきの黒馬は霊兵ね。だから消したり出来るの」
「なんと! そういう事だったのですか。いきなり黒馬が消えたから驚きましたぞ。
なんぞ騒ぎがあったようですが、馬に乗っておるところを見咎められる事もありますでな。
気をつけてくだされ」
「ええ、ありがと。とりあえず家に帰りましょう。
野次馬も散り散りになったし」
「そうだね。もうあんまり人もいないし、さっさと帰ろう」
僕達はよりまさというお爺さんと別れて斯明の家に帰る。
その最中、急に葛葉が声を上げた。
「あっ! そうよ! 源兼綱って、さっき会った頼政の息子じゃない!
次男坊だけど、なんで頼政はなにも知らなかったのかしら?
次男が以仁王の捕縛に動いたのよ、知ってないとおかしいでしょう」
「でも隠居した人でしょう?」
「隠居はしてるけど、それは子供に当主を譲っただけじゃない。
隠居して本当に何もしなくなるヤツなんていないわ。頼政だって知ってたはず。
なんで知らないフリなんかしたのかしら……?」
僕も考えてみるけど、分からない。
まあ、僕の場合は分からない事だらけだから、考えたって意味が無いかもしれないけどね。
とりあえず家に戻ったら、影兵の事を色々と考えてみよう。
馬は外でしか使えなくなったし、となると猫にして一緒に歩くとか?
猫ならたぶん怒られないだろうし、一緒に連れていてもいいはず。
古兵も連れて歩くけど、猫もいた方がいい。
他にも小さくして懐に忍ばせるとかあるけど、あまりそこまでする意味も無いんだよね。だって呼び出せるし。
そうなると猫として連れて行くぐらいかなぁ……。
それも怪しまれそうだけど、いいや。
「そういえば以仁王が令旨を出していたという話を町の者がしていましたが、それをあの方も知っていたのでしょうか?」
「うーん……誤魔化しているところも考えれば、頼政は最初から以仁王の平家打倒の呼びかけに絡んでる?
でも平大相国のおかげで、清和源氏として初めての従三位を得られたのよ。
その平大相国を裏切るのかしら?」
「なるほど、そういった恩もあるのですな。
普段から平氏の方は源氏の方を………ですからな。
その辺りの事が原因と思っていました」
「それはあるでしょうね。実際、平氏の源氏に対する侮蔑はかなり酷いもの。
陰湿だし、末端の平氏の者まで源氏を見下してるしね。
そこの怨みと憎しみで蜂起する可能性はあるわ」
「長年の怨みと憎しみだと、そう簡単には治まりそうもないでしょう。
それに一旦始まったら、止めようがないとも思えるわね」
「いやー、止めるのは無理でしょう。
だって、怨みと憎しみを晴らすまで止まらないでしょうからね。
特に勝てるなら」
戦ってヤツがこれからもあるって事かな。
僕達には関係ないけど。




