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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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0039




 Side:黒金くろかね



 三条高倉って所が分からないけど、前を知ってる人達が走っているので、その後ろからついていく事に。

 そうして着いた所では、刀とか槍で争っていた。

 いっぱい人が居るから見えにくいけど、僕は馬の上だから見やすい。


 刀で切り合いとかしてるけど、攻めてる人が多いみたいだ。

 守っている人達は必死だけど、数は検非違使けびいしって人達の方が多いね。

 このまま攻めてる側が勝ちそう。


 「「黒金くろかね!」」


 「えっ? ……つや葛葉くずは。いったいどうしたの?」


 「どうしたのじゃないわよ、なんで黒金くろかねが馬に乗ってるの。

 いったい何があったかは知らないけど、馬に乗ってると怒られるわよ。

 馬に乗れるのは公家か武士だけだから」


 「………黒金くろかね、これ霊兵ね?

 いったい何があったの、昨日までこんな霊兵は呼び出せなかったはず」


 「実はですな、昨日の夜なのですが、何者かが黒金くろかねを呪ったようなのです。

 それで苦しんでおったのですが、呪いが思っているよりも強く【封吸】の札が足りぬほどでした。

 その際に神様が降臨されまして……」


 「「また……?」」


 「ええ、またです。今回の神様は、やそまがつひのかみ様と申しておられました」


 「うげっ!? 八十禍津日神やそまがつひのかみ! それって厄災を司る神じゃない。

 伊邪那岐命いざなぎのみことが黄泉から帰った際にみそぎを行ったのよ。

 その際に黄泉の穢れから生まれた神の一柱が、八十禍津日神やそまがつひのかみだと言われているわ」


 「黄泉の穢れ……」


 「勘違いしないようにね、死は聖なる事でもあるわ。

 だからこそ穢れからは天照大御神あまてらすおおみかみ月読命つくよみのみこと須佐之男命すさのおのみことの三貴神が生まれているんだから」


 「それは知っているけれど、やはり穢れというのはね……。

 それはともかく呪いを掛けていた呪術師はどうなったの?」


 「分かりません。神様が呪いを返された以上、呪術師は亡くなったでしょうが……。

 それで元凶が諦めるかどうかは何とも言えぬところで」


 「それはそうでしょうね。

 とはいえ神が呪いを返したんだもの、案外元凶まで死んでたりして……」


 「「………」」


 なるほど、普通に返した呪いは呪術師までしか届かないんだね。

 でも神様が返すなら、呪いを頼んだ人にまで呪いを返すと。

 それは凄いけど、いったい誰が僕を呪い殺そうとしたんだろう?


 「それはともかくとして、ここに来たのは以仁もちひと王が捕縛されるって聞いたからよ。

 もちろん理由は野次馬をしに来たんだけど、検非違使けびいしが動いたと聞いたのもあって……」


 「別当は神様にブチ殺されたからいいとして、他の者達は生き残ってるから捕縛は確実だと思うけど……。

 ここで逃がしたら平氏の面目丸潰れねえ」


 「あんまりそういう事を言わないの、とはいえ事実だけどね。

 だからこそ皆が野次馬をしに来ているわけだし、ここで見守ってるわけなんだけど……。

 黒金くろかね、戦いはどうなってる?」


 「数が多い方が検非違使けびいしなんだろうけど、なんだか攻めあぐねている感じ?

 守ってる方は必死の形相で守ってるからか、腰が後ろになってる? のかな」


 「腰が後ろって事は、完全に及び腰ってわけか。

 これは突破するにしても時間が掛かるでしょう。

 となるとそれまでに逃げられる可能性があるって事だけど……。

 これだけ野次馬が居たら、その中に潜り込みそうね?」


 「止めてよ、勘違いで検非違使けびいしに切られるかもしれないじゃないの。

 そんな縁起でもないこと言わないでくれる?」


 「でも考えてもみなさいよ。

 ここで逃がしたら平氏の面目丸潰れよ? そうならない為には血眼ちまなこになって探すでしょう。

 だとしたら疑わしいヤツに切りかかってきても不思議じゃないわ」


 「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」


 葛葉くずはが切られるかもって言ったからか、周りの人が一斉に逃げた。

 誰でもそうだけど、切られるなんて嫌だよね。

 僕なんて二回も斬られた事があるけど、アレって本当に嫌な気分になるんだ。

 もう味わいたくないよ、本当。


 それより周りの人が減ったからか、つや葛葉くずはが前に出てきた。

 僕達の後ろにいたけど、今は僕達の前だ。

 それでも見にくそうにしてる。馬に乗せてあげた方がいいかな?


 「つや葛葉くずはは馬に乗る?」


 「ありがとう、出してくれる?」


 「………私は遠慮しとく。

 葛葉くずはなら大丈夫でしょうけど、私だと何を言われるか分からないし」


 僕は人のいない所に影兵を出し、それを馬の姿に変えた。

 そして小さくしたら葛葉くずはを乗せ、大きくして僕の馬と同じ大きさにする。

 葛葉くずはは馬に横向きに乗ってるけど、あれって大丈夫かな? 落ちない?


 「いやぁ、便利ねえ。

 まさか真っ黒なのが出てくるとは思わなかったけど、それが馬の形になるなんて面白いわ。

 しかも大きさまで変えられるなんてね。おかげで乗りやすかったし助かるわ」


 「そういえば御二方にお聞きしたかったのですが、馬型の式神というのはありますか?」


 「残念ながら知りません。

 確かにあれば便利だとは思いますが、聞いた事はありませんね?」


 「私も無いわね。

 晴明はるあきは狼の式神を大きくして乗っていたけど、それぐらいしか知らないわ。

 それ専用の式神だったと思うけど、結構な霊玉がなければ作れなかったはずよ」


 「なるほど。大きな狼は作る事ができるのですな。それならば頑張れば届きそうです。

 黒金くろかねの馬を見ておると、乗り物の式神はあった方が良いなと思いまして」


 「誰もが考える事ねー、晴明はるあきも同じ事を言いながら色々としていたわ。

 そうやって出来たのが大きな狼の符よ。

 乗る事はできるけど、結構な霊力を使ったはず。

 ま、斯明かくめいなら問題ないでしょう」


 「あっ、誰か前に出たよ。守ってる側の人だけど」


 守っている屋敷の中から鎧や兜を身に着けた人が現れた。

 手には槍を持ってるけれど、なんで前に出てきたんだろう? あの人が以仁もちひと王って人かな?


 「やあやあ、我こそは以仁もちひと王が家臣、長谷部はせべ信連のぶつらである!

 誰ぞ我の首を獲らんという者はおらぬのか!!

 おるのならば前に出よ! 我と一騎打ちじゃ!!」


 違ってた。じゃあ、なんであの人はわざわざ出てきたんだろう? 変なの?


 「黒金くろかねは分かってないみたいだけど、あれは時間稼ぎよ。

 要するに以仁もちひと王が逃げるまでの時間を、自分が一騎打ちをする事で稼ごうとしているわけ。

 つまり守備側はもうほとんど兵が残っていないのね」


 「そうなんだ。あっ! 誰か前に出たよ」


 「それがしはみなもとの兼綱かねつなである!

 そなたの心意気、この私が受けて立とう! それでは行くぞ!!」


 「おう!! かかってまいれ!!」


 どっちも槍を持って戦ってるけど、穂先で突き合ってるだけだ。

 なかなか踏み込んでいかないけど、槍って長いから恐いんだろうね。

 僕もあれに近付きたくないって思うし、僕が戦うなら猛兵に撃たせて終わりかな?


 「ぬう!! やるではないか!!」


 「なんの、ここからよ!!」


 ギン! ガシッ! ギィン!! ガンッ!!


 槍で叩いたり切り合ったりしているけど、なかなか踏み込めないからか、何だか時間稼ぎが成功してる感じがするなぁ……。

 後ろの人達はなんで何もしないんだろう? 一気に攻めればいいのに。


 「容赦ないわねえ、気持ちはよく分かるけど。

 ただね、戦には作法というものがあるのよ。

 それを失くすと賊と変わらないわ。

 だから作法にのっとって見守ってるってわけ」


 「ふーん」


 思っているより戦って面倒臭いんだね。


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