0038
Side:黒金
昨夜、物凄く寝苦しかったんだけど、それは呪いの所為だったみたい。
そしてそれを、やそまがつひのかみっていう神様が返してくれたんだって。
何故か全く覚えてないんだけど、寝ていたからかなぁ。
八意思金神と建御雷神は覚えてるのに、昨夜の神様は全く思い出せない。
………うん、駄目だ。思い出せないから朝餉を食べよう。
「いただきます」
「ああ、沢山食べるといい。
………そういえば、確か神様が新しい霊兵を授けるとか言っておられたような?
頭の中に出てくるか?」
「霊兵? ………あ、あるある。何か新しいのがあるよ。
えーっと………<影兵・自在黒命>」
僕が新しい霊兵を呼び出すと、それは真っ黒な人の形をしたモノだった。
いったいこれは何だろうと思ったんだけど、頭の中にいきなり影兵の事が浮かんだ。
………こいつ凄い!! こんな霊兵は初めてだ!!
「斯明、この影兵って凄いよ! 凄い!!」
「うん、分かったから落ち着け黒金。凄い凄いだけ言われても、私にはサッパリ分からない」
「この影兵ね、体を好きに変えられるんだよ。例えば、腕を鞭にしろ」
「………」
僕が命じると、影兵の腕は鞭のような形になった。
腕を好きに伸ばしたり出来るって凄いと思うんだけど、剣みたいには出来ないみたい。
叩く攻撃は出来ても切るとかは無理なのかな?
「腕を棍棒みたいにしろ」
「………」
今度は腕が短くなり、棍棒みたいな見た目になった。
やっぱりこいつ凄いや。しかもそれだけじゃなくて、もっと凄い事が出来る。
「なるほど、腕を色々な武器に変えられる霊兵なのか。それなら黒金が喜ぶのも分かる」
「違うよ、斯明! こいつはそんな小さな凄さじゃないんだ! もっと凄いんだよ!!」
「そ、そうなのか?」
「影兵、猫になるんだ!」
「………」
「おお!! 黒猫になった!!
なんという事だ。体を好きに変えられるとは、こういう事か。
猫以外にもなれるのだろう?」
「そうだよ。よし、次は狼だ」
「………」
「よしよし。なら次は馬だ」
「………」
「やった! 馬になれた! これで馬に乗れば皆に置いていかれないで済むよ!
馬は速いだろうから、僕の足が遅くても大丈夫だ!!」
「ああ、そういえば何かあった時、黒金はどうしても遅れてしまうからな。
仕方がないとはいえ、速く進めるならそれに越した事はないか。
………それにしても、馬の霊兵は反則だな。
どこまでも好きに移動できるじゃないか」
「神様のおかげで七体まで出せるようになったし、更に馬にも乗れるようになった。
知らない神様だけど、ありがとう!!」
「なんだか今までで一番嬉しそうだな。
馬が手に入ったのだから気持ちはよく分かる。
馬など公家や武士ぐらいしか持てんから、平民が乗れる事など無い。
とはいえ黒金の場合は霊兵だから許されるだろう」
「えっ!? 馬に乗っちゃいけないの?」
「普通は馬を飼う事など無理だ。
なぜなら飼い葉を始めエサが大量に必要だからな。
そのうえ馬房やらと色々要る物も多い。
だからこそ持てないし、持っていても馬借ぐらいなのだよ」
「ばしゃく………馬で荷を運ぶひと?」
「そうだ。彼らは荷を運んで稼ぐから馬を維持できるが、普通に飼うのは無理という事だな。
とはいえ黒金の霊兵は飼い葉などが必要なわけでは無いし、馬とは認められんだろう。
だからこそ乗る事ができるはずだ」
「おお! 馬に乗れるなら何でもいいよ。
古兵を出しながら馬に乗ろうっと、そしたらいつでも早く動けるし」
「それはいいが古兵を置いていかないようにな。早く着いても戦えなきゃ意味は無いぞ」
「だったら古兵は出さず、馬だけ出そう。それで妖怪の所に着いたら古兵を出す」
「いや、古兵は出しておくんだ。
周りに兵も置かずに馬に乗っているのは怪しまれる。
どのみち古兵の足も速いんだし、気にしなくてもいいだろう」
「そうかな。とにかく今日からは馬に乗って見回ろう。
駄目なら狼……は、乗れないね。
じゃあ何だろう?」
「とにかく考えてないで、まずは朝餉を食べなさい」
「はーい」
僕はササッと朝餉を食べ、その後に色々と考える。
何に乗ってたら怒られないだろうか?
速く移動できるようになるのは大事だし、馬が駄目なら牛かな? それとも猪?
色々なのが頭の中に出てくるから、どれに乗ろうかも悩む。
思い切って熊とかはどうだろう?
戦えるし強そうだし、更には背中に乗って連れてってくれる。
ふぉぉぉぉぉぉ、凄いんじゃないかな? 熊がいいかもしれない。
僕は準備が出来たので外に出て早速呼ぶ。
「<影兵・自在黒命>」
出てきた影兵に早速変化を頼んだ。
すると影兵の体は馬の姿に変わる。
でも大き過ぎて乗れないので、僕は小さくなるように頼んだ。
すると、みるみる小さくなって何とか乗れるように。
背に乗ったら今度は大きくなるように命じる。
乗ったまま普通の馬ぐらいの大きさになったので、その後は古兵を呼び出した。
「うんうん。影兵と古兵で良い感じだね。これならいきなり妖怪に襲われても大丈夫だ!」
「…………式神にも馬の式神がないか聞いてみるかな。もしあるのなら私も馬の式神に乗りたい」
「斯明も乗せてあげるけど、出そうか?」
「いや、今はいい。もし駄目なら降りる事になるからな。
まだ分からないし、黒金だけが許されるかもしれん。
そういう意味では、私が乗っていると許可されん恐れもある。
だから今はいい」
「分かった!」
僕は馬に乗って歩いていく。
自分の足で歩かないから楽だけど、馬の背の上って思ってるより大変だ。
フラフラしちゃうから体を安定させるには、足でキュッとはさむ必要があるみたい。
そういうのが頭の中に浮かんできた。
京の町中を馬に乗って移動していると、何かを話している人がいっぱい居た。
なので斯明と一緒に聞いてみる。
「おお! 童が黒馬に乗ってるのか。怒られても知らんぞ。
それはともかく、後白河院がどうやら鳥羽殿から京の都に移られたらしいんだ。
どこかは知らないものの、幽閉は終わったんだってよ」
「ほう、後白河院が戻られたか。
高倉院が執政をとられているとはいえ、これで少しは平大相国と後白河院の間がマシになるといいのだが……」
「そうなんだが、それだけじゃねえ。
以仁王が平家を討つべしと言って、東国の者達に令旨を出してたんだとよ。
それが発覚して検非違使を遣わす筈が、別当が死んじまったろ?
だから検非違使を平氏が引き連れて捕縛しに行くらしい」
「以仁王といえば後白河院の三男であられたな。
その方が平家打倒を掲げられたというわけか」
「しかし露見しちまってるからなぁ。これで終わりじゃないか?
見つかっちまったら失敗だろうし、平家もそんなに甘くはないだろ。
たとえ後白河院の子だとしても、殺しはしないだろうが配流はされるんじゃねえか?」
「配流か………どこになると思う? 小さな島ではないと思うが」
「まあ、四国じゃねえの? あそこら辺がいいところじゃない「おい! 争ってるぞ!!」かと思うが……」
「三条高倉だ! あそこで争いが起きてる!
おそらく検非違使と争ってるんじゃないか?
見に行ってみようぜ!!」
何だか争いが起きたみたいだけど、以仁王とかいう人が、検非違使に攻められたみたい。
別当は神様が殺しちゃったからね。
一番偉い人が居なくなっているから、平氏の人が連れて行ったんだろう。




