0037
Side:黒金
「さて、次は黒金の霊玉なんだけど、明らかに大きいよねコレ。
そのうえ水に浸けたら分からなくなったし。この時点で甲級は確定じゃん。
そんなに大きくて強い妖怪が京の近くにいたんだね」
「そうよ。私達でさえ驚いたぐらいだし、そもそも私なんて初めて見たわよ。
あんな大きな鳥が当たり前に飛んでるっていうのは流石にね。
初めてなら誰もが唖然とするわ」
「あの巨屍鳥は普通のと比べても大きかったけどね。
流石にあの大きさが普通ではないわ。
あれが普通ならまともに戦うのが難しいくらいよ。
相当に山などで力を溜めこんできたのでしょうね」
宗之助が立ち上がって、奥の部屋に行った。
また何かを取ってくるのかなと思ったらすぐに戻ってきたね。
何やら別のお椀を持ってるけど、あれって木じゃない?
「まさかこの磁器の椀を使う事になるとは思わなかったよ。
割と高価な物だから気をつけて使わないといけないし、ちょっと緊張してきた。
霊玉を落とした時に割れないといいんだけど……」
「じき?」
「磁器というのは陶器の一種のこと。
磁器を作るには粘度と長石と骨が必要なのよ。
なので色々な生き物の骨を使用しているらしいわね。
その骨の組み合わせによっても変わるらしいけど、詳しくは知らないわ」
「それってもしかして稀人が?」
「ええ、そうらしいわね。
大陸には既にあったらしいけど、日の本では長石が見つからなかったらしいわ。
でも稀人は長石のある場所を発見したらしくってね、それ以降は作られるようになったの」
「かつては大陸から入ってくる物だけだったから、公家でも手に入らないと言われたのよ。
今では豪商なら手に入るくらいになったわね。それでも高いけど」
「だから緊張してるんだよ。…………うん、間違いない。甲八級だ。
ここまでの物だと御当主様が買うだろうから、ウチでは買い取らない事にするよ。
確か都の結界がどうとか言ってたしね。
そっちに使うんじゃないかな?」
「ああ、それがあったか。
確かに都の結界を強化するというお話はちらりとされていたな。
その霊玉は結界に使われた方が良いだろう。
多くの人も助かるだろうしな」
「それじゃあ、これで終わり。
いつもの陶器ならまだいいけど、磁器は恐いよ。
高価な物は本当に使いたくないね。
これじゃないと霊玉の力が測れないとはいえさ」
宗之助が文句を言いつつ、水の入ったお椀を持って奥に行った。
あのお椀を使えば分かるんだろうけど、なんで分かるんだろう?
「なんであのお椀を使えば等級が分かるの?」
「ああ、それで悩んでいたのね。
あれに水を入れてから霊玉を沈めると、等級によって色が広がるの。
正確には霊玉が発している霊力が色として見えるようになってるのよ。
その広がり方を見れば等級が分かるの」
「ふーん……」
そんな事を聞いてたら宗之助が戻ってきたけど、これからどうしよう?
調べてもらったし、都の外に行って妖怪退治かな?
「そうだな。今日はなるべく都の外の妖怪を退治しよう。
陰陽寮には明日行けばいいだろう。
今すぐ必要という訳では無さそうだし」
「だろうね。結界の強化って言ったって、一朝一夕じゃいかないよ。
まずは等級の高い霊玉を集めるのが先だろうし、それだって簡単には進まないだろうからね。
ゆっくりで良いんじゃないかな」
「なら妖怪退治に行こう!」
そう言って出張所を出た僕達は、午後からも妖怪退治を頑張った。
それなりに稼げたけど、妖怪を減らさなきゃいけないから足りないね。
霊力も感じられるようになればいいんだけど……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あれから十日たった。
今日も妖怪退治だったけど、最近は妖怪退治と勉強を交互にしている。
斯明も大変そうだけど、今までよりは強くなったからか嬉しそうにしてるね。
僕も嬉しいよ。
今日も帰ってきて夕餉を終えたから寝るんだけど、なんだか息苦しい。
いったいなんだろう? なかなか眠れないけど、なんとか寝なきゃ……。
Side:斯明
黒金が悪い夢でも見ているのか、うなされている。
初めての事だから驚くが、夢見の悪い事は誰にだって……!?
黒金に付いている黒いモノ、これは呪いか!?
何で黒金に呪いが!!
私はすぐに起き上がり、隣の部屋に置いてあった【封吸】の札を持って黒金の下に戻る。
そして黒金の顔に札を張りつけたのだが、すぐに札が黒く染まる。
間違いなく誰かが黒金に呪いを掛けている。
いったい何処の誰だ、こんな事をするヤツは!!
私は黒く染まった札を剥がし、すぐに新しい【封吸】の札を張る。
しかし元々【封吸】の札など、さほど用意はしていない。
全部で五枚しかなかった札は全て黒くなってしまった。
未だに黒金は苦しんでいる、という事は黒金を呪い殺す気か!?
いったいこの子が何をしたと言うのだ! 何故こんな目に遭わねばならん!
どこの誰だかは知らぬが、許さんぞ!!
「う、うう……」
「黒金、待ってろ。すぐに【封吸】の札を用意する!!」
「ムダダ。コレハケッコウナジュジュツシドモカラノコウゲキゾ。
ソナタガフヲヨウイシタトコロデ、フセゲルモノデハナイ」
「……もしかして神様でございますか?」
「ソウダ。ワガナハ、ヤソマガツヒノカミ。ヤクサイヲツカサドルカミナリ。
ヒトトハオロカナモノヨ、オノレラガヤクサイヲアヤツレルトオモウテオル。
クダラヌコトダ」
やくさい? ………厄災か!!
神様の御名は聞いた事がないが、災厄を司る神様だとは思わなかった。
いったい黒金はどうなってしまうのだろうか……?
「フンッ……コレデヨイ。ノロイヲスベテカエシテヤッタワ。
ソナタガスイトッタノロイモスベテカエシテヤッタカラ、アンシンスルトヨイ。
サテ、ツイデニアラタナレイヘイヲサズケテカエルカ。
デハナ」
「は、はい」
そう言って神様の気配は消えた。
その後は「すーすー」と寝ているので、神様のおっしゃる通り黒金に対する呪いは返ったのだろう。
呪術師どもが死んだだろうが、私としてはいい気味だとしか思わない。
何故この子が呪われなければいけないのか。
どこの誰かは知らないが、呪い殺そうとしたのだ。
呪いが返されて殺されたとしても文句は言えまい。
朝起きたら黒金に大丈夫か聞かねばな。
それにしても、神様のおっしゃられた通り【封吸】の札の呪いが全て消えている。
流石は災厄の神様だ。呪いなど相手にもならないのだろう。
とりあえず黒金が無事で良かった。私も寝よう。
…
……
………
朝。私は朝餉を楽しみに待っている黒金に聞いてみる。
「黒金。昨日の夜の事は覚えているか?」
「昨夜? …………あー、なんか寝苦しかったのは覚えてる。
初めてだったからビックリしたよ。何だったんだろうね?」
「実は誰かが黒金を呪っていたらしい。
おそらく呪術師に依頼したのだろうが、慌てて【封吸】の札を使ったのだが五枚しか持っていなくてな。
全然足りずにあわや死なせるところであった。
すまん!」
「??? ……斯明が謝る事じゃないよ?
そもそも呪ったヤツが悪いんだし、それを頼んだヤツが悪いんでしょ。
だったら斯明が悪いわけじゃないよ」
「それはそうかもしれんが……」
「僕は無事なんだし、気にしなくてもいいと思うんだけど? なんで無事なのかは知らないけどさ」
「それは昨夜、神様が降臨されたからだ。
私は情けなくも知らなかったのだが、やそまがつひのかみ様という災厄を司る神様が降りられた。
そして呪いを返してくれたらしい。
だから黒金は無事だったんだよ」
「ふーん………」
いや、「ふーん」で済む事ではないのだがな。




