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Side:黒金
さっきの黒い狼とやらを倒したら、妖怪というのは消えてしまい、土の上には薄白い玉が落ちていた。
あれが霊玉とかいうものらしい。……ってまた五月蝿いのが出た。
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霊玉 等級・丙三級
妖、または妖怪と言われる者の核となっているもの。格が厳密に分かれており、中には霊力が篭もっている。この霊力が強くなり形になったものが妖怪である。ちなみに妖怪に善も悪も無い
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えっ? 善も悪も無い?
人を襲ってるのに悪くないんだ。
どういう事なんだろう?
「お嬢さん、御無事かな?
何処かに怪我なぞはして……臨・兵・闘・者・皆・陳・列・在・前!」
そう言って斯明が腕を右とか下に動かすと、紙を投げる。
すると、その紙が白い狼の姿に変わった。
あれが斯明の式神らしい。
「黒金、手伝ってくれ! こやつは鬼女蜘蛛だ。
女子の姿をして人を騙し喰らう妖だ!!」
「分かった。行け、あいつも殺せ」
ダダダダダダダダ………ドスッ! ザシュッ!!
「ゴブッ……ギュベ?!?!」
「うわぁ……剣で突き刺した後、素早く抜いて首を刎ねたよ。
鬼女蜘蛛ってそれなりに強い妖怪なんだけど、霊兵が容赦なさ過ぎて頼りになり過ぎるね。
鬼女蜘蛛が何も出来なかったとは……」
「あれ、強い?」
「ああ。鬼女蜘蛛は本来、下半身の蜘蛛部分で糸を吐き、雁字搦めにしてくるのだ。
身動きがとれぬようになってしまってな、式神がやられる事も多い。
まさか正面から問答無用だとは思わなんだぞ」
「本当にね。ああも、あっさり倒しちゃうのは本当に凄いよ。
鬼女蜘蛛だから霊玉の等級は、最低でも乙五級。
中の霊力によっては乙二級もあるくらいだ。
結構な儲けになったねえ」
「そう?」
「黒金には金銭を教えねばならんな。
とにかく妖、いや妖怪は退治したし戻ろうか。
ここに居続けても仕方あるまい。
黒金は自分の霊玉なのだから、自分で拾うようにな」
「うん、分かった」
僕は霊玉というのを拾った。
けど、五月蝿いのが等級を出してくれてる。
これ乙一級って書いてあるんだけど、さっき宗之助は上が乙二級って言ってた。
どういう事なんだろう?
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陰陽寮の出張所に戻ってきた僕達は、先程の霊玉を売る事にした。
といっても、妖怪を倒したのは僕なので、金銭を受け取るのも僕だけだ。
「丙三級なのは分かるんだけど、さっきの鬼女蜘蛛が乙一級なのはちょっとマズいかな?
何で鬼女蜘蛛が乙一級なのやら……。っと、とにかく大銅銭三枚と銀貨一枚ね」
「ありがとう。
でも何で斯明のと違って板じゃない?」
「小銀板の事を言うておるのか。
金銭にはそれぞれ小板、大板、小貨、大貨とあるのだ。
板の方は潰されておって何も書いて無かろう? 貨幣の方は綺麗に作ってある。
これも昔に来た稀人がこのようにすると良いと教えてくれたらしい」
「ちなみに小銅板の下にビタ銭と悪銭があるけどね。
どっちも分かりやすいから、見ればすぐに分かるよ。
ビタ銭は二枚で小銅板一枚。
悪銭は四枚で小銅板一枚だ。
悪銭は寺や商人が勝手に作ってるヤツだよ」
「碌な事をせんと思うし、儲からんのだから止めればいいものを。
何故か寺の者は強欲だ。
修行をしてその煩悩を失くせと言いたいわ。
私のような陰陽師にまで説教をしてきおる」
「昔、「だったらお前達が妖怪を退治しろ」って、安倍家と賀茂家の連盟で書状を出されたからね。
結局のところ何も出来なかったけど、あれから寺は陰陽師を敵視してるって聞くし……」
「しかし坊主どもには全く戦う術が無かろう? にも関わらず妖怪退治に口を出してくる。
あやつらは何の役にも立たんのだから、いちいち口を出されても困るわ。
修験者とは違うのだぞ」
「修験者は九字護法もそうだけど、陰陽師に近いからねえ。
とはいえ彼らは私達と違って武闘派だけどさ」
「霊力を杖などに篭めて、妖怪と殴りあうからな。
あの根性は私には無い。
名のある陰陽師の方は同じように出来るらしいが、私のような木っ端には無理だ。
宗之助は出来るのであろう?」
「無理無理。あんなの出来る訳ないって。
一部の上の方々はするらしいけど、あんな修行をしたら、並の者は命を落とすよ。
せっかく霊力が使えるのに、無理して命を落としてどうすんのさ」
「やはり賀茂家の中でも、修験者みたいな修行はせんのだな。
私も流石にあれは酷いと思う。
実際、杖だけを使って熊を倒せというのは流石にな……」
「修験者って頭がおかしいし、それを一緒にするウチも十分におかしいんだよ。
私はここでゆっくりするのが一番性に合ってるね。
あんな野蛮な事を「野蛮ねえ?」誰がするって……」
女性の声が裏から聞こえたけど、そしたら宗之助の顔が固まった。
何だか引き攣ってる気がするけど、気のせい……じゃないね?
「あ、姉上……何故ここに?」
「貴方の様子を見るついでに、斯明に依頼をしに来たのだけれどもね。
何処かの誰かさんが居なかったから、奥で待たせて貰っていたのよ。
何やら面白い話をしていたわね?」
「い、いやぁ……面白いかどうかは分かりかねます。
は、ははははは……」
「まあ、いいわ。
家に帰ってきた時に覚えていなさいね?
それはともかく斯明、貴方に賀茂家から依頼があります」
「ハッ! 私のような浅薄の身にお役に立てる事があるとは思えませぬが、お役に立てるのであらば拝命致しまする」
「………」
斯明は土の上に膝を突いて頭を下げたので、僕も真似して頭を下げる。
何の意味があるのか分からないけど、この綺麗な女性に対してはこうするらしい。
覚えておかないといけないね。
「そのような言葉使いも態度も必要ありません。立ちなさい。
私は賀茂家の者ですが、私が偉いわけではありませんよ」
「いえ、私のような者からすれば、賀茂家の方というだけで雲の上の方でございます」
「宗之助に対してはそうではないようですが?」
「宗之助は気心が知れておりますし、私は吹けば飛ぶような者でしかありませぬ。
吹かれて困る者は頭を垂れるのが当たり前でございます」
「ふぅ………まぁいいわ、話が進まないからね。
それよりも、斯明はともかく横の童は何?」
「こちらは黒金でございます。
今は私と共に暮らしており、霊力が扱える為、本日登録致しました」
「その試験もあって外に出てたんだよ。姉上が待っていた理由だね。
それはともかく斯明さんへの依頼って何?
何でわざわざ実家が私を通り越して斯明さんに依頼をするわけ?」
「己を通せというのは分からなくもないけど、御当主様からの依頼よ。
流石に何も言えないでしょう?」
「………何で御当主様が、わざわざ下京の陰陽師である斯明さんに依頼すんの?
中央のお歴々が居るじゃない。
その方々が動けばいいだろうに、いっつも偉そうに語ってんだからさぁ」
「そういう事は言わない、面倒な事に巻き込まれるわよ。
それより依頼は御当主様が自らなされるとの事。
とりあえず行きましょうか」
「うえ!? ちょっと待って、私も行くよ。
下京の陰陽師を勝手に危険な事に使われても困る。
中央は本当に自分達の事しか考えないんだから」
「貴方は仕事があるんだから、ここに居なさい。
むしろ御当主様の機嫌を損ねて、ここの仕事を失くすわよ」
「うぐっ!」
「はぁ……。まあ、下京にも力のある陰陽師が居る必要があるのは分かるけどね。
主上も「上京だけ良ければ良いわけではない」、そう仰られたそうだもの」
「だよね! だよね!」
「でも貴方が来るかどうかは別。
ここで大人しくしていなさい、仕事を失いたくないならね」
「はぁ……仕方ないかー。
斯明さん、必ず帰ってきてよ?」
「いや、そもそも下っ端の私に何を依頼されるかすら想像がつかんし、そなたが思うような事にはならんよ。
中央には安倍家か賀茂家の所縁の方しかほぼ居らんではないか」
「ま、そうなんだけどねえ」
「とりあえず行きますから、ついてきて下さい」
「ハッ! ……黒金も宜しいですか?」
「そこの童ですか? ……まあ、一応陰陽師として登録できたのなら構いませんよ」
どうやら僕も行く事になったらしい。




