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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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 Side:黒金くろかね



 そうのすけっていう人が戻ってきたら、何やら紙の束を持って来た。

 アレはいったい何だろう? と思っていたら、また五月蝿いのが出た。


 ―――――――――――――――


 陰陽寮・登録台帳


 陰陽寮に登録されている者を書き記した帳面。これは下京の左京出張所の物である


 ―――――――――――――――


 あれ? 質とか耐久というのが出てない。

 唯の紙束だから出ないのかな? それとも何か理由があるんだろうか。

 何だかよく分からないけど………うん。左眼を隠したら見えなくなった。


 やっぱりそうだ。これ左眼で見た物だけ出てくる。

 という事は左と右で違うのか。

 右眼は普通の目? それともこっちも違う?

 自分の事なのによく分からない。


 「さてと。名前は黒金くろかねだったね。えっと名字は?」


 「この子はそもそも、己の事を覚えておらんのだ。

 稀人まれびとの中には記憶が無い者も居るという。

 おそらくそうなのであろうが、名前や住んでいた所だけではなく、食事の事すら忘れていたのには焦った」


 「それはまた何とも……。

 となると斯明かくめいさんが保護者って事になるけどいい?

 というか第一発見者だし」


 「うむ。出会ったのは私だしな。それで問題ない。

 それよりも様々な事を教えんと、この子は生きていけん。

 なのでこれからは教えながらあやかし退治だ」


 「妖怪退治ね。

 あの道丹があやかしって呼んでたからって、いつまでもあやかし呼びしなくていいんだよ?

 現在いまは妖怪って呼ぶんだし、それ古い呼び方なだけだから」


 「すまん。

 教えられた事なので、ついつい出てしまうのだ。

 妖怪な妖怪。

 それで登録は出来たか?」


 「帳面に書くのは終わり。

 後は陰陽師として最低限の力があるかどうかの試験ね。

 これは私が見れば済むから、とりあえず都の外に行こうか」


 「うむ、そうだな。

 黒金くろかね、都の外に行くが気をつけろ。不逞の輩が居ったりするからな。

 何か言われても適当に言って逃げればよい。もしくは襲ってきたら殺せ。

 そなたの霊兵ならば余裕だ」


 「そんなに強いのかぁ。これは期待できそうだね」


 「………たぶん?」


 僕がそう言うと、何だか微妙な顔になったそうのすけ。

 そんな顔をされても、僕はあの古兵の強さを知らないんだから何も言えない。

 それよりも都の外に行くらしいけど、大丈夫かな?

 襲われたりするのは嫌だけど、行くしかないみたいだ。




 陰陽寮の出張所を出て歩いていく。

 前に居る二人についていくと、家が無い場所……?

 じゃない、急にオンボロな家が並ぶ所に来た。

 ここって何だろう?


 「黒金くろかね、このボロ家が並んでいるのが既に都の外だ。

 都は下京までと決まっているが、都には住めぬ者達が建てた家がこれらになる。

 なのでここは既に都の外なのだが、これらが無い所を都の外と言う場合もある」


 「ややこしい……」


 「はははははは、確かにね。

 とはいえ、ここに住んでいる者達も住みたくて住んでいる訳じゃないしね。

 それに都の外の者は助けてもらえないから、自分達の力だけで生きているんだよ」


 「ふーん……」


 「まあ、いきなり言うても分からぬだろう。

 よし、ここまで来れば大丈夫だ。

 まずは……どうする?」


 「仕方ないから私の式神を出すよ」


 そう言ってそうのすけは袖から紙を出した。

 斯明かくめいから教えてもらったけど、そうのすけは賀茂かもの宗之助そうのすけと書くらしい。

 ちゃんと字を覚えておかなくちゃ。

 僕は字を知らないし。


 「それじゃ行くよ。

 臨・兵・闘・者・皆・陳・列・在・前!」


 宗之助そうのすけが手を右とか下とかに振りながら変な事を呟いた後に紙を投げると、それが赤い姿の人になった。

 人……じゃない?


 「宗之助そうのすけ……わざわざ<赤鬼>を使わんでもいいと思うのだが?

 それは、とっておきであろうが」


 「いやぁ、ついつい。

 だって霊兵が使える凄腕なんでしょ? だったら私の鬼と同じぐらい戦えると思うんだ。

 で、黒金くろかねと呼ばせてもらうけど、霊兵を出してくれない?」


 「分かった。<古兵・勇壮猛夫>」


 うん、出てきた。

 相変わらず、よく分からない剣とか鎧とか着けてる人だ。

 誰か分からないけど、凄く強そう。


 「おお! これが斯明かくめいさんが言っていた霊兵か!

 斯明かくめいさんが言うぐらいだから嘘じゃないとは思ってたけど、本当に霊兵だよ。

 しかも人型じゃないか。そのうえ完全な兵士だし」


 「霊兵は大抵が四つ足だからな。

 もちろん人型が無い訳ではないが、非常に珍しいと言わざるを得ん。

 さて、宗之助そうのすけの赤鬼と戦うのだが準備はよいか?」


 「えっと、たぶん。戦った事が無いから分からない」


 「霊兵は私も使えないからなぁ……教える事が出来ん。

 使える方は心で命じれば、霊兵は勝手に動いてくれると言っておられたが……」


 「分かった、やってみる」


 「おっ、黒金くろかねの霊兵が見られるかな?」


 心で命じるか。

 よし、あの赤いのをやっつけろ。


 「!!!」


 ザシュッ!!


 「へ? ………え、えぇ? 私の赤鬼が一撃で殺されたんだけど!?

 何この霊兵の剣の切れ味。おかしいでしょ、コレ?」


 「物凄く素早い踏み込みと、剣の振りだったな。

 動いているのは何となく分かるが、私にアレを向けられたら、間違いなく避けられんだろう。

 冗談でも何でもなく強い」


 「いや、強いどころじゃないでしょ。

 まさか赤鬼が一撃でやられるなんて思ってなかったよ。

 まさかの大損じゃん」


 「おおぞん?」


 「式神はやられてしまうと、式符が使えなくなってしまうのだ。

 新たにもう一度式符を作り直さねばならん。

 作製には霊玉も使わねばならんし、結構な銭を使うのだよ。

 傷を負っただけならば修復すれば済むのだがな」


 「一撃じゃ傷どころの話じゃないからねー。

 それにしても、まさか一撃とは参ったなぁ。ここまで強いとは思わなかったよ。

 こりゃ本当に中央の目を気にした方がいいね。

 ウチは渡す気ないけど」


 「宗之助そうのすけもまた有名な賀茂氏の者だからな。

 何とか撥ね退けられると思うが……」


 「加茂家の方々に気に入られたら大丈夫だと思うけど、私だけじゃ何とも言えないなぁ。

 安倍家だけじゃなく加茂家にも派閥があるし、五月蝿くて面倒な連中が居るから」


 「相変わらずだが、何処にでも居るな、そういう者達は。

 とりあえず黒金くろかねの霊兵は分かったであろうから、そろそろ都に戻「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」ろうか。

 ぬ!?」


 「女の声だね、すぐに行こう!」


 慌てて走って行く二人を僕も追い駆ける。

 しかし大人の二人の足は速くて、僕は遠ざかっていく二人を見失わないようにするのが精一杯だ。

 それでも二人を見失わずに済んだのは、そこまで離れていなかったからだろう。


 川の近くに居た女性が、変な黒いのに襲われそうになっている? あれって、何だろう?


 「まさか白昼に妖怪が出るとはねえ。

 いったいどうなっているのやら。

 やはり平氏の方々が世を荒らしている事に関わりがあるのかな」


 「おい、宗之助そうのすけ。滅多な事を言うものではない。

 どこで平氏の方が聞いておるか分からんのだぞ。

 それより私が烏を出す」


 「なら、私は赤鬼を……って、さっきやられたじゃん! 駄目だ、赤鬼が使えない!」


 「しまった、そうだった。

 あ、黒金くろかねは何処だ!? 置いてきてしまったのか!」


 「ここに居る。<古兵・勇壮猛夫>。よし、出てきた。

 あの真っ黒いのを倒せ」


 「!!!」


 タッタッタッタッタッ、ザシュッ!!


 「!??!?」


 「おお、あの黒い狼の首を綺麗に切り落としたのう。

 やはり黒金くろかねの霊兵は強い」


 「というか。何も使わない霊兵でアレだけ強いのはとんでもないよ。

 式符の修復もしなくていいし、儲かるだろうね。

 今や世が荒れているからか、そこかしこに妖怪が居るし」


 妖怪って沢山居るのか。

 何だかいきなり襲ってきそうで、嫌だなー……。


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