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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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 Side:黒金くろかね



 椀という物に入った粥という食べ物を、さじで掬って食べた。

 どうやら食べ物を食べないと危険らしいし、お腹が空き過ぎると死ぬみたいだ。

 死というのは何となく知っているし、危険だから食べないといけない。


 斯明かくめいは僕を連れて陰陽寮っていう所に行くと言っていた。

 それを聞こう。


 「斯明かくめい、さっき言っていた陰陽寮ってなに?」


 「私のような大した力の無い者も、一応は陰陽師なのだが、その陰陽師を纏めておるのが陰陽寮となる。

 霊力が使えるか否かは生まれによって決まり、親が陰陽師でも使えぬ者もおる。

 とはいえ荷物持ちを含めて仕事はあるからの、虐げられたりはせぬ。

 ただし日陰を生きる事になるがの」


 「日陰……」


 「私はそういうのとは無縁でな。

 元々市井のしがない平民であるし、師も生まれは地方でな。

 名を道丹どうたんという。

 私はこの方に弟子入りして陰陽術を習ったのだ。

 とはいえ出来の悪い弟子でなぁ、修行の途中で放り出された。

 ま、生きていけるので問題は無いのだがな」


 「どうたん?」


 「そうだ。

 師は一角の方でな、師の祖先はあの道満どうまんであるらしい。

 陰陽師の中で一番の有名人である、あの安倍あべの晴明はるあきとも関わりがあったと言われておる。

 本当のところは知らんがな。

 しかし有名な方を祖先に持つのは間違い無い」


 「へー……」


 「まあ、とりあえず陰陽寮に行こうかの。

 とはいえ本物ではないがな。

 本当の陰陽寮は私のような木っ端な陰陽師では入れん。

 下京しもぎょうにも陰陽寮の出張所がある。

 そこで買取などをしてくれるので、まずはそこへ行くぞ」


 「分かった」


 斯明かくめいの言っている事はよく分からないけど、とりあえずは頷いておく。

 後々で分かるような気もするし、無理に今分からなくてもいいや。

 とにかくまずは家の外に出よう。


 僕は板の上から土の上に下りると、斯明かくめいが慌てたように僕を板の上に座らせた。


 「あーあー……足の裏が汚れたではないか。これを履け。

 私の予備で大きいが、履けぬ訳ではあるまい。

 少し締め付ければ大丈夫であろう」


 「これ、なに?」


 「これは革のサンダルと言う。

 昔の稀人まれびとが履物として伝えたそうじゃ。

 革を柿渋で煮しめると出来る、硬い革を底に使っておる履物だ。

 割と丈夫なので民も重宝しておるものとなる」


 「ふーん……」


 適当に斯明かくめいに返事をするけど、さっきから目の前が五月蝿いんだよね。

 これ、なんだろう?


 ―――――――――――――――


 レザーサンダル 質:四 耐久:四


 底の革はハードレザーで作られ、それ以外はソフトレザーで出来たサンダル。可も無く不可も無い、普通の品質


 ―――――――――――――――


 ……意味が分からない。

 斯明かくめいは革のサンダルって言ってた。

 革がレザーだとしたら、ソフトとハードって何だろう?

 硬い革が底に付けてあるって言ってたから、硬い革がハードレザーなのかな?

 という事は、柔らかい革がソフトレザー?


 「どうしたのだ黒金くろかね?」


 「何か目の前に見えてる。

 底の革はハードレザーで、それ以外はソフトレザーで作られてるんだって。

 で、普通の品質って書いてある」


 「書いてある? ………何処に?」


 「え? ……目の前に」


 「………もしかして、このサンダルを見た時に何か見えたのか?」


 「うん。

 革のサンダルだけじゃないけど、色々と見えたよ。

 他には椀とかさじとか鍋とかも見えた」


 「それはもしかしたら<異能>かもしれんのう。

 稀人まれびとでも極僅かな者しか使えぬと聞く、非常に特殊な能力の事を<異能>というらしい。

 中には霊魂を見る事も、拳であやかしを退治できた者も居るという。

 そなたの<異能>は……物が分かるのか?」


 「………たぶん?」


 「まあ、よい。

 その<異能>の事はみだりに口にせぬようにな。

 力のある者がそなたを利用しようとするかもしれんし、邪魔だとして殺そうとするかもしれん。

 他の者に見つかると何をされるか分からんから隠し通せ」


 「分かった」


 「よし! それでは行くか。

 家を出るのに随分と時が掛かってしもうたな。

 しかし本当に気を付けるのだぞ?

 昨年、平大相国が後白河法皇を鳥羽殿に幽閉したばかりじゃ。

 今年も何が起きるか分からん」


 「ことし?」


 「うーむ……時を決めた数かな? 今年は治承四年じゃが、暦は覚えておらん。

 私のような陰陽師に必要なのは、朝か夜かと春夏秋冬ぐらいなのでな」


 「しゅんかしゅうとう……」


 「とりあえず歩きながら話すか。

 いつまで経っても家から出られぬしな」



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 僕は外に出る斯明かくめいについていき、京の都というところに出た。

 外に人はあまり居ないみたいで、歩いているのは僕達と少しぐらいだ。

 よく分からないけど、何かあるんだろう。


 それなりに歩いた頃、変な家の前で斯明かくめいが止まる。

 ここが陰陽寮って所なんだろうか?

 扉に変な印が描いてある。


 「それは陰陽の印じゃの。

 これが表に描いてある所は、陰陽寮に関わりのある所なのだ。

 とりあえず入るぞ」


 ガラッ!!


 開き戸を開けた斯明かくめいが中に入ったので僕も入り、後ろの戸を閉める。

 中には斯明かくめいの家と同じ板の場所があり、その向こうに誰かが居る。

 下を向いて何かしているらしい。


 「宗之助、霊玉を買い取ってくれ。これだ」


 そうのすけって言われた人は顔を上げたけど、斯明かくめいに負けず劣らずの男前だった。

 斯明かくめいは無精髭の男前で、この人は髭の無い男前だ


 「斯明かくめいさん、相変わらずだね。

 霊玉を売る以外ではウチに近寄りもしない。

 ま、五月蝿い連中が居るからなのは分かるけど、ウチの主力なんだからさ。

 もうちょっと顔を出してよ」


 「そうは言うが、私は平民なのだ。

 ここによく来ると目をつけられて五月蝿い。

 そもそも私なぞ下っ端だろうに。

 師にも大した腕前ではないと言われたしな」


 「それ信じてるの斯明かくめいさんだけだよ?

 あの人が斯明かくめいさんを放逐したのは、斯明かくめいさんが近くに居たら比べられるからだ。

 自分は歳老いて落ち目、片や若くて力も増している。

 その結果、修行の途中で放り出したんじゃないか。

 碌でもないヤツって言われてるよ」


 「まあまあ。結局私の力が大した事が無いのは分かっている。

 それよりまずは買取を頼む」


 「ああ、分かっ、うん? 斯明かくめいさん、幾ら結婚相手が居ないからって子供を拾ってくるのは……。

 って、片目が漆黒で、もう片目が金色? どうなってんの、この子?」


 「この子は黒金くろかね

 昨夜、私はあやかしを取り逃がしてな。

 その時に目の前に現れたのだよ、この子が。

 そして餓鬼に似たあやかしに食われそうになった時に霊兵を出して退治した」


 「霊兵って、本当に? 事実なら凄く将来有望なんだけど?

 是非このままウチに所属してほしいね。

 ………ちょっと待って、急に現れた?」


 「そうだ。

 黒金くろかねは間違いなく稀人まれびとであり、この歳で霊兵が使える。

 冗談ではなく、おかしな者の手が付く前に保護せねばならん」


 「うん、それはすぐにしないとマズい。

 中央の陰陽寮にバレたら、絶対に連れて行かれて利用されるよ。

 唯でさえ平民の為に妖怪退治をしてくれる陰陽師は多くないのにさ。

 稀人まれびとまで権力争いに使いかねない」


 「ああ。だからそれを売った銭で登録したいんだ。早く頼む」


 「はいはい、すぐに終わらせるよ。

 えっと、丙八級が三つに乙九級が一つ、それと乙一級!?

 これどうしたの!?」


 「昨夜この子が叫んだ際に出てきた霊兵が一刀両断にしたあやかし、それが残した霊玉がそれだ」


 「凄いな! 乙一級を一撃で倒せるって、陰陽師でも結構上の方の実力者だよ。

 どんな霊兵かは後で聞くとして、大銅銭三枚と小銀板一枚、それと銀貨一枚ね」


 「銀貨か。久しぶりに見たな。

 とりあえず小銀板を払うから、この子の登録を頼む」


 「分かった。ちょっと待ってて」



 そうのすけという人は裏の方に歩いて行ったけど、何かを取りに行ったみたい。

 どうやら、まだ待たなくちゃけないらしいね。


平大相国=平清盛

治承四年=西暦1180年

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