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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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0035




 Side:つや



 「おやおや、どうしましたかな? 黙りてしまいましたが、何かありましたかぁ?」


 「「「くくくくくくく………」」」


 こいつら……恐らく平氏か源氏でしょうけど、碌な事をしないわね。

 平民である斯明かくめい殿に対してこんな下らない事をするなんて、随分と情けない奴ら。

 とはいえ家の名前は面倒なのよね。


 「何を訳の分からない気持ち悪い笑い方をしているのか知らないけど。

 あんまり調子に乗ってると殺すわよ? お前ら」


 「は? 何ですかな、この売女ばいたは?

 何故こんな所に居るのかは知りませんが、平民にはちょうど良く似合ってますねえ……。

 ははははははははは……!!!」


 「「「ははははははははは………!!」」」


 あーあー、こいつらバカねえ……。

 葛葉くずはの額に青筋が「ピキッ」って立ったんだけど、自分達の命の危機だという事も分かってないらしいわ。

 愚かに過ぎるでしょう。


 「【狐火】」


 葛葉くずはが【狐火】を放った瞬間、奴らの頭だけが激しく燃え上がった。

 おそらくは髪を焼いているんでしょうけど、容赦が無いわ。本当。


 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 熱い熱い熱い熱い熱い熱いーーーーっ!!!」


 「「「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」


 「あー、頭が黄色い。なかなか面白い見た目になってるね。

 このまま髪が燃え尽きちゃうかな?」


 黒金くろかねが無邪気に容赦なく抉ったけど、その一言に宗之助そうのすけが必死に笑いを堪えてるわ。

 それしても、こんな面倒臭いヤツが居たなんて聞いてないんだけど、どういう事かしら?


 「うぐぐぐぐぐぐぐ……よくも。

 よくもよくもよくもよくも!! この売女ばいためが!

 絶対に「誰に言っている?」ゆるさ……」


 その瞬間、着物を着ているだけだった葛葉くずはの頭から狐の耳が生え、着物の下から尻尾が垂れ下がり、そして目の中が縦の模様に変化した。

 これが本来の葛葉くずはの姿なの?


 物凄い圧が周囲に広がっているし、正直に言って私もこの状態で動けるかは分からない。

 それ程までに強い圧を受けている。


 「この京の都に妖狐が住んでいるとは聞いた事が無いのかしら?

 その私を売女ばいた呼ばわりとは、随分といい度胸をしているわね?

 お前の家の者、纏めて呪い殺してやってもいいんだけど……?」


 「あ……う………」


 「何か恐い雰囲気になったけど、この程度で黙っちゃうんだ。

 意外と言ったら何だけど、情けないね。

 偉そうに言ってるけど大して強くもないし、陰陽師を辞めた方がいいんじゃない?」


 「黒金くろかねの言う通りね。

 この程度で震えて動けなくなるほど弱いなんて話にならないわ。

 その無様な姿を恥じて、土の下にでも埋まっておく?」


 「さっき賊を殺して埋めたのに、また掘るの?

 面倒臭いけど霊兵に任せればいいかな?

 でもあれだね、ここで全部脱がせて歩いて帰らせたら?

 二度と悪さなんて出来ないと思うよ?」


 「それはいいわね。この状態なら細かい操作も可能だから、燃やしてあげるわ。

 もちろん熱さなんて感じないわよ? 一瞬で終わるから。

 【狐火】」


 今度の【狐火】は黄色というより金色に近い見た目の炎だった。

 そして男達は全く熱がりもせず、火傷もせずに全てを燃やされた。

 直衣のうしだけではなく、褌まで……。


 「ちょっと! 褌まで燃やすなんて聞いてないわよ!!

 何で私がそんな奴らのモノを見なきゃいけないの!!」


 「だったら目を瞑っておきなさいよね。

 私が燃やすって言った以上、燃やすに決まってるでしょうが。

 さあ、とっとと失せなさい。…………とっとと失せろ!!!」


 「「「「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!!」」」」


 男達は一斉に外に飛び出していき、私は下を向いて何とかやり過ごした。

 まったく、何であんな奴らのなんか見なくちゃいけないのかしら。

 か、斯明かくめい殿のならともかく……///


 「まったく、頭の悪いバカが居ると困るわねえ。

 京の都に住む妖狐が私だと知らなくても、迂闊に暴言を吐くと危険だと思わないのかしら。

 だいたい着物姿でここに来るって時点で考えなさいよ」


 「葛葉くずは直衣のうし着る?」


 「えー……いやよ、面倒臭い。

 それなら水干すいかんの方がマシでしょ。

 いちいち着るのが面倒臭いものなんて、着たりしないわよ。

 そもそも妖狐の姿になりにくいから着物なのに」


 「ああ、そういう事だったのですな。

 直衣のうしであれば問題は無かったと思ったのですが、狐になる際に不便だと申されれば確かにそうでしょう」


 「まあ、私もそうだと思うわ。

 それより黒金くろかね、さっきの男を神様の目で見た?」


 「うん、たよ。

 名前はたいらの忠文ただふみって出てた。三十一歳だって。

 全部二十ぐらいだったから、大した陰陽師じゃないね。

 他のヤツも似た感じ」


 「なら本当に大したヤツじゃないわね。

 それに平氏だからと調子に乗っているだけみたいだし、一族でも鼻摘み者なんじゃない?」


 「はなつまみもの?」


 「嫌われ者って言葉よ。或いは遠ざけたい者、顔も見たくない者って感じかしら?

 とにかく、あんなバカが何故ここに来たのか聞きたいわね」


 葛葉くずはが狐耳などを消しながら宗之助そうのすけに言うと、宗之助そうのすけは未だに震えていた。

 ……あのバカ弟は、賀茂家の者として恥ずかしくないのかしら。斯明かくめい殿も震えていないというのに。


 「え、えーっと………。

 簡単に言うと、おそらく斯明かくめいさんを茶化しに来たというか、バカにしに来たんだと思います。

 あいつらたまに来るんですけど、斯明かくめいさんが来るまでわざわざ居座るんです」


 「わざわざ?」


 「そう、わざわざ。

 入ってきた奴らに当たり散らしたりバカにしたりしてさ、そして斯明かくめいさんが来たら散々バカにして帰るんだよ。

 とはいえ平氏の人だから強く言えないし、如何にも出来なかったんだ」


 「賀茂家の名前を出しても効かないから意味は無いでしょうしね。

 とはいえ、ああいう連中はだいたい上辺かみのわたり出張所に居るんじゃないの?」


 「居るんだろうけど、こっちに来るの。

 何故なら向こうは平氏や源氏が当たり前に居るし、更には藤原の方まで居るんだよ?

 あいつらが罵倒できる相手なんて誰も居ない。

 むしろ<弱者の戯言>か<負け犬の遠吠え>と言われるだけさ」


 「まけいぬのとおぼえ……」


 「負けた犬は勝った相手が恐くて、遠くから吠える事しか出来ないという意味よ。

 ようするに安全なところから口を出すだけ。

 つまり無様な姿を晒した敗北者ということ」


 「うーん……。いつでも逃げられるようにして吠えてるってこと? それは情けないねー」


 「黒金くろかねが容赦なく抉ってるのは置いといて、さっきのなんなの?

 本気で恐かったし、本気と書いてマジって読んじゃうくらいだったよ」


 「それも昔の稀人まれびとが伝えた事ね。

 意味は分からないけど、一時いっとき凄く流行った記憶があるわ。

 何故そんなのが流行ったのかは分からないけど」


 「また稀人まれびと……」


 「それは置いておくとして、そろそろ斯明かくめい殿の両替をしましょう。

 その後に霊玉の売却よ」


 「霊玉の売却って事は妖怪を退治してきたんだろうけど、久しぶりに家を出たんだね。

 黒金くろかねがまた殺されかかったって聞いてから、それなりに家に居たじゃない?」


 「それは斯明かくめい殿の修行もあったからよ」


 私がその話をしていると、斯明かくめい殿が机の上に貨幣を出し始めた。

 斯明かくめい殿の分だけではないけど、結構な量があるわね。

 やはり斯明かくめい殿は堅実に貯めていたみたい。


 こういう性格だからこそ、御当主様を説得しやすかったのよね。

 ま、私が遊び人を好きになるはずもないんだけど。


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