0034
Side:斯明
目の前には褌一丁で、その上から鎧を身に着けている男達が十人以上居る。
ほぼ間違いなく賊であろう。
そもそも袴すら履いておらんのだからして、疑う必要も無いのだが。
一応は確認をしておくか。
「そなたら賊か?
賊であればこの場で始末しても許されるのだが、それを分かっていて狼藉を働こうというのだな?
ならば覚悟していると見做すぞ?」
「ハッ! オレ達が分かってなくてやってるように見えんのか?
てめぇの目はとんだ節穴だなぁ! いいからさっさと銭を寄越しな!!」
「そうだぞ!
そこのガキと女がどうなってもいいのなら、このまま逃げてもいいがな!
ヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」
「おうおう、威勢がいいヤツだが、てめぇはお呼びじゃねーんだよ。
さっさと失せろい!!」
「この人達ってなんで下は褌だけなの?
なんか見た目が安っぽいっていうか、お金の無い人達って感じなんだけど」
「ふふふふふふ……! 確かにそんな感じに見えるわね。
まあ、賊なんて大抵ああいう格好よ。
袴だと走ってる最中に引っかかる事があるから、ああやって下は褌だけなの。
確かに見た目は貧相だけど」
「「「「「はははははははは………!」」」」」
近所の人まで見て笑っておるな。
あまり賊を怒らせるのは良くないのだが、今さらか。
黒金は単純に疑問に思ったから聞いたのであろうが、葛葉殿が奴らをおちょくる言に変えてしまったからな。
「てめぇら、オレ達<しゃれこうべ>を怒らせたんだ!
殺される覚悟があるんだろうな!!」
「しゃれこうべ?」
「しゃれこうべというのは頭蓋骨、つまり頭の骨よ。
自分達の一党にそういう名前を付けたんでしょうね。
盗賊いろはにほへとの癖に、何で名前をつけて目立とうとするのかしらね? しょせんは賊なのに」
「賊だからじゃない? 頭が悪いから「自分達は凄いんだぞ」って言わなきゃいけないんでしょ。
普通は子供の頃に終えるはずだけどね、そういうのは」
艶殿と葛葉殿の言葉で怒りが更に溜まったらしく、プルプルと震えておるな。
そろそろ我慢も限界であろう。素早く符を出して短縮で呼び出せるようにしておかねば。
相手は既に刀を抜いておるからな、向こうの方が速い。
「てめぇら、もう許さねえぞ! 全員ブチ殺してやる!! 野郎ども、やっちまえ!!!」
「「「「「「「「「「おおっ!!」」」」」」」」」」
左手で持っていた袋を地面に落とし、私は式符を出して九字を切る。
いや、正しくは切ろうとした。
「<斬兵・豪壮武辺>! 古兵も含めて、全員でそいつらを殺せ!」
「「「「「!!!」」」」」
黒金の霊兵が敵に向かい、一気に攻め立てる。……というか切られている。
酷い者達になると、斬兵の一薙ぎで二人の男達が両断された。それも鎧ごと真っ二つだ。
たった一薙ぎでアレか……。新しい霊兵も強いな。
古兵は素早く剣で首を切り、斬兵は鎧ごと両断。
賊如きではどうにもならん程に強く、私だけでなく艶殿も葛葉殿も手を出さぬ。
というより出す意味が無い。
瞬く間に敵を殲滅し終わった黒金は、斬兵を消して古兵だけにした。
それはいいのだが、辺りが血溜まりになってしまったな。
綺麗に掃除せねばならんのだが……黒金に手伝ってもらうか。
「黒金。賊を討伐してくれた事には感謝するが、掃除せねばならん。
とりあえず賊の死体を都の外に捨ててきてくれぬか。
古兵に運んで貰えば大丈夫であろう」
「そんな事をしなくても大丈夫よ。
とりあえず賊の死体から鎧を剥ぎ取りましょう。
両断されているのもあるけど纏めて売れるから、置いて行くのは勿体ないだけよ。
それに古兵が殺したヤツのは綺麗に残ってるし」
確かに売る事は出来るであろうが………職人に売ればいいか。
そこから平氏や源氏に売れるだろうし、双方共に戦の準備をしているとも聞く。
確かに売れるなら問題あるまい。
黒金が古兵を四体出して死体から剥ぎ取り、それらが終わったら死体を一ヶ所に運んでいく。
私は桶に水を汲んできて、血溜まりに撒いて薄めていく。
でないと血腥い臭いが取れんからな。
それらを繰り返していると、刀や鎧を艶殿と葛葉殿が検分していく。
どうやらあまり質が良くないらしい。
「賊が持っていた刀だもの、大した物じゃないのは当たり前ね。
しかし……なんでこいつら槍を持ってないのかしら? 普通は刀じゃなく槍でしょ。
稀人だってそう伝えたはずだし、馬借だって槍を持ってるのが普通よ?」
「都の中では使い難いからじゃないの? 家々が密集してるし、槍だと使い難いって思ったのかも」
「なら短槍でいいじゃない。
どのみち刀よりは遠間から攻撃出来るでしょ。
稀人が伝えたのは斧槍、長槍、騎兵槍、槌矛、小剣、石弓と様々あったはずよ。
にも関わらず、こいつらが刀〝しか〟持ってないのは不自然なのよ」
「確かに刀を使う者はそこまで多くありませんからね。
下手な者は槍の方がいいし、近くで戦うなら槌矛か小剣でいい訳ですし……」
「つちほこってなに?」
「槌矛っていうのは、金属で出来た棍棒よ。
先に丸いのとか角ばったのが付いててね、それで敵を殴りつけるの。
兜を被っていても、気を失って倒れるというぐらい強い武器よ」
「伝えた稀人はメイスと呼んでいたらしいけどね。
あと小剣は細い剣の事よ。なんでも護拳という物が付いていて、手が守れるらしいわ。
そんな細い剣を使って突き刺すんですって」
「しかし細いので折れやすいと聞きますがな。実際に使えるのでしょうか?」
「鎧の隙間を狙って突き刺す武器らしいわよ?
だから細くならざるを得ないみたいだし、護身には使えるんじゃないかしら。
だって細い分だけ軽いでしょ」
「まあ、それはそうですな。
私も護身用に何か持った方が良いでしょうか?
式神を呼び出す前に刺されかねませんし」
そんな話をしながらも剥ぎ取りは全て終わり、 私は指示を出し、黒金の古兵に刀と鎧を家に入れてもらう。
その後、黒金が一ヶ所に纏めてくれた死体に対して、葛葉殿が【狐火】を放った。
黄色い炎が飛ぶと、一ヶ所に固まった死体だけを燃やしていく。
【狐火】は【鬼火】と同じで火が周りに飛び散らないようだ。
そうやって燃えているのを見ていると、すぐに賊の死体は灰と骨だけになった。
その灰と骨は桶の中に入れていき、何度かに分けて都の外に捨てて穴を掘って埋める。
言葉は悪いがよくある事でしかなく、京の都の外には骨が埋まっている場所が多い。
それだけ賊がよく来るという事だ。
京の都が豊かだから仕方がないのだが、死体が大量に溜まるというのもどうにかしてほしいと思う。
だからこそ骨系の妖怪がよく生まれるのだが、その反面、妖怪になったら退治してしまえば消える。
最後には骨が消えてくれるので、悪い事ではないとも言えるのが何とも……。
それに私達の収入の元であるし、それを含めて何とも言えない。
最後にもう一度水を撒いて終えたら、私達は左京の出張所へと移動。
賊の所為で随分と無駄に時間が掛かったが、あれは仕方がない。
それにしても<しゃれこうべ>などという賊は聞いた事が無いが、何処の者達だったのであろう。
平氏と源氏の争いに便乗するような形で、各地に賊が出てきたりしておるのかもしれん。
大きな乱とならねばよいが、嫌な予感しかせんな。
左京出張所に着いた私達は入り口を開けて中に入る。
すると数人の陰陽師が居り、一斉にこちらを見てきた。
どうやら面倒臭いのが居たようだ。ついてない………。
「これはこれは、久しぶりに顔を見ましたね。斯明殿ではありませんか?
なかなか顔を合わせる機会がありませんでしたが、いったい何処に行っていたのですかな?」
「別に何処にも行っておらず、京の都に居ましたが?」
「それはそれは。
相変わらず田舎者の顔をしておりますからな、それに相応しい場所へと帰っていたのかと思ったのですよ」
相変わらず嫌味なヤツだと思うが、平家の者だからな。
下手に出るしかない。




