0033
Side:黒金
都の外で妖怪を退治し、ある程度の数を倒したので一度都へと戻る。
ちょうど昼餉の時間だし、出張所に霊玉を売りに行かなくちゃいけないしね。
まずは昼餉をと思って皆でお店に入ったんだけど、今日は麺の日? らしい。
「珍しく麺の日か。
これも稀人が伝えた物だが、元々は素麺などを始め日の本にあったという。
ただ、高い物であまり食べられていなかったらしいがな」
「稀人が伝えた乾田ですね。
水路を作り乾田とする事によって、米を作った後の田で麦を作る事が出来る。
この御蔭で食べられる物が増えましたし、それによって助かる者も増えました」
「稀人が伝えたのは二百年くらい前だったかしら?
それより前は湿田が当たり前だったんだけどねえ。
とはいえ田んぼなのか沼なのか分からない光景だったけど」
「そういった所はまだあると聞きますが、少なくとも京の周辺では聞きませんね?
湿田とかもまだありそうですが……」
「そういう所があったとしても米には使われないでしょ。
乾田にするのが面倒な位置とかだろうし、湿田と乾田じゃ収量が違い過ぎるわ。
やっぱり麦が作れるって大きいもの。
粟とか稗とかは別だけど」
「粟や稗はねえ、米と作付け時期が被るから別々に栽培は出来ないのよ。
どちらかというと米を主体にしているから、米が作りにくい所とか、湿田で稗を作っている所が多いわね」
「成る程ね、そういう分け方なんだ。
とはいえ米が作れるなら米をつくるでしょう。
何たってお酒の素だし、高く売れるもの。
粟や稗はどうしたって安いから仕方ないと思うわ」
「まあ、そうよね。
農民だって高く売れる物を作るわよ。
特に荘園でだって湿田は好きにしていいって事になってるし、重税とはいえそれは米だけだもの。
それでも米は殆ど持っていかれるけどさ」
「残るのが一割ですもの、嫌気が差すのは当たり前でしょう。
元々日の本の土地は全て主上の物だったのに、いつの間にか公卿や公家が荘園を持ってるし」
「荘園が出来る前に<墾田永年私財法>があったわよ。
開墾した土地は自分の物にしていいってね。
その後に結局奪って行ったけどさ。
とはいえ買い取った土地や渡した土地もあるし、難しいところね」
「中には博打の負けで取られた土地もあったと聞くわよ。
結果として公卿や公家の荘園となったみたいだけど。
ちなみにウチは荘園を持ってないわ。妖怪を退治すれば儲かるから」
「それは安倍家も同じね。
陰陽寮の者は大抵がそうじゃないかしら? 家臣筋に陰陽師をさせて、上の方は陰陽寮に勤める。
特に安倍家と賀茂家はそうでしょうよ。
やらなきゃいけない事は多いし」
「そうで、っと来ましたから、頂きましょうか」
よく分からない話は終わり、僕は麺とかいうのを食べる。
何だか食べ難いけど温かくて美味しいね。これはこれで悪くないかな?
今食べてるのは麺の一つで<うどん>っていうらしいけど、他にも色々とあるみたい。
「稀人が伝えた中で有名なのは<蕎麦>というのと<きしめん>という物だ。
一部<中華そば>という物もあるらしいが、アレは臭いので好きな者は少ないな。
一部熱狂的に好きな者が居るが……」
「臭いのに何で好きなんだろう?」
「さあ? 猪の骨を煮込んで汁を作るから猛烈に臭いんだけど、それが好きというのは居るわね。
公家の中にも居るし、お忍びで通うヤツも居るわよ。わざわざ都の外へね」
「都の外なの?」
「作っていると周りも臭くなるから、都の外でしか作る事は認められていないの。
私もたまたま近くを通った事があるけど、吐きそうになるほど臭かったわ。
どうしてアレを好む人が居るのかしら?」
「さてね。それは人の好みだから仕方ないんじゃない?
ただ、好きなヤツいわく、臭いけれど食べれば美味しいらしいわ。
美味しいのは食べたいけど、アレはねえ……。
鶏の骨を煮込んだのはそうでもないのに、猪の骨は臭いのよ」
艶と葛葉が言うくらいだから相当に臭いんだろうね。
……アレ? 斯明は何も言ってない? もしかして……
「斯明は好きなの? 何も言わないけど」
「好き……ではないな。
ただ、興味本位で一度食べた事があるのだが、確かに美味しいものではあった。
臭いのを我慢すれば食べられるのだが、もう一度食べたいかといえば………どうなのだろうな?」
「へー……食べれば美味しいんだ。とはいえ……ねえ?」
「ええ。アレは耐えられないわ。
あの匂いを常に嗅ぎながら食べるというのは無理。
そもそも食べ物の匂いではありませんよ、アレは」
「まあ、言いたい事はよく分かりますがな。
それでも銭を払った以上は、全て食べなければ勿体ないですし……。
それに美味しいのは間違いないのです。美味しいのは」
「そうなんだ。何だか食べたくなったけど、臭いんだよね?
………悩むなぁ」
「臭いのは駄目だから止めておきなさい、黒金。
それなら猪汁の方がマシだから。
アレの方がまだ食べられるわ」
「あれも結構臭いけどね。それでも食べられなくはないから、あっちの方がマシでしょう。
せんべい汁で食べれば問題ないし。
臭いだけで味は美味しいから、おそらく<中華そば>の方も美味しいんでしょうけど……」
「せんべいじる?」
「せんべい汁は<めいさいふく>を着ていたっていう稀人が伝えた料理よ。
東北の方は寒いから米が育たないの。
だから麦の粉を水で練って焼いたせんべいというのを教えたらしいわ。
何でも伝えた稀人の故郷の料理だったそうよ」
「おお! 稀人の故郷! ……ごちそうさま」
「黒金も食べ終わったし、そろそろ左京出張所へ行きますか。
宗之助に霊玉を見てもらわないといけませんし」
僕が食べ終わったので、皆と一緒に店を出た。
僕達は左京出張所に向かいながら話を続ける。
「霊玉を見てもらうついでに斯明も両替をしてもらったら?
あの溜め込んだお金は何とかしなきゃいけないでしょ? でないと奪われるわ」
「ええ、それは私も思っていました。
床下に隠していたのもバレてますし、大きな額の貨幣に換えておくべきでしょう。
金貨を持っているのですよね?」
「ええ、小金貨ですが持っています。
………そうですね、金貨か金板に換えておくべきでしょう。
使い勝手のいい貨幣は持っておきたかったのですが……」
「このままだと賊が聞きつけて入ってくるかもしれないし、早めに何とかしてしまうべきよ。
それと家を変えるべきかもしれないわ。あそこ都の外に近いから狭いし」
「都の外に近いと狭いの?」
「そうよ。上京に近いほど家は広くなって、下京から外に近いほど家は狭いの。
まあ、ワザとそうしてあるんだけどね。
上京の方が良い暮らしが出来ると見せる為にそうされているの」
「上京に住んでいる多くは公卿や公家、つまり自分達の方が良い暮らしをしていると思わせる為ね」
僕達は斯明が溜めていたお金を両替してもらう為に、家へと取りに戻る事にした。
そこまで時間も掛からず家へと戻ってきた僕達は、お金の入った袋を斯明が持つのを見て外に出る。
さあ左京出張所へ出発だ! となったその時、変な連中が家の前に現れた。
「へっへっへっへっへっ! お前さん、随分と溜めこんでるそうじゃねえか。
ちょっとオレ達に分けてくれよ。いいだろ?」
「おうおうおうおう、随分と別嬪を連れてるじゃねえか!
ついでにその女どももオレ達に寄越しな!!」
何なんだろう、こいつら? 十人以上居るけど怪しい連中だなぁ。
だって刀とか持ってるし、どう考えても賊って感じがする。




