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式神と霊兵  作者: 田中始め
第一章 平安編
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0029




 Side:黒金くろかね



 どうやら僕はまた殺されかけたらしい。

 どうにも自分が駄目な気がするが、斯明かくめい達から言わせれば向こうがおかしいとのこと。

 一度目の道丹がやった事は賊と変わらず、二度目の検非違使けびいしは職掌の乱用なんだって。


 「どっちも賊と変わらないって事よ。

 普通はわらしの言う事だもの、適当に流して終わりよ。

 それを気に入らないから殺せって、頭がおかしいとしか思えないわ。

 どうせ院の寵愛があるから好き勝手が出来るとでも思ってたんでしょうよ」


 「ちょうあい?」


 「ああ、何と言うのかしらね………。ようするにお気に入りよ。

 だから無理矢理に能力も無いのに検非違使けびいし別当の地位を与えたってわけ。

 検非違使けびいしというのは様々な事をしている所ね。

 元々は違うんだけど」


 「ちがうの?」


 「そう。元々は賊の討伐とか都の治安を守る為に作られた所なの。

 でもね、やがて大きな力を持つようになり、刑部省ぎょうぶしょう弾正台だんじょうだい

 それに京職の職掌を奪うようになっていったわ」


 「しょくしょう?」


 「それぞれの官職によって定められている仕事の事よ。

 例えば罪人に対して裁きを下すのは刑部省ぎょうぶしょう

 京の見回りや、他の官職が罪を犯していないか調べる弾正台だんじょうだい

 本来は京の治安維持や戸籍管理などの行政をしていた京職。

 これらの職掌を奪っていったわけ」


 「簡単に言うと、検非違使けびいしが京の見回り、賊の捕縛や尋問、捕縛した賊などの裁きまでをもやりだしたという事よ。

 それも権限を奪って勝手にね。そしてその検非違使けびいしを北面武士が乗っ取ったの」


 「じゃあ、ほくめんぶしってなに?」


 「北面武士は元々院の警護をしていた者達の事よ。

 院の御所の北面、つまり北側の部屋で待機していた者達のこと。

 何かあればすぐに守れるようにね。

 ただ、元々は近習であったり男色の相手だったのよ、北面武士って」


 「また、だんしょくかぁ……。僕それ分からないんだよね」


 「永遠に分からなくていいわ。あんなものを理解する必要なんてないから。

 それはともかく、北面武士は上と下に分かれてるの。

 上北面と下北面ね。上は諸太夫で公卿になる方も居たらしいけど、下北面は……」


 「上北面より更に遠くの位置に待機する所があったの。

 そこに詰めている、いわゆる殿上できない者達で、六位以下の侍が中心なのよ。

 問題はこいつらが偉そうな顔をするようになったこと」


 「ちなみに六位以上になると殿上と言って、清涼殿の殿上間でんじょうのまに昇ること、つまり入る事を許されるの。

 つまり六位以下というのは、清涼殿に入る事を許されない者達の事ね」


 「つまり本来なら下の者達が、検非違使けびいしに入り込んで偉そうにしているって訳よ。

 そもそも昇殿できる者は北面武士のままで良い訳だしね。

 それじゃ嫌な奴らが流れてきてる」


 「面倒な者よ。あいつら陰陽寮の大家たいかである賀茂家や安倍家を見下しているもの。

 同じく昇殿を許されていないはずなのにね。今回の事はいい気味だわ。

 調子に乗ってるから神様に怒られるのよ」


 「特に武の神は容赦をしないからね、潰されて当然なのよ。

 少しは懲りたでしょうから、多少は大人しくなるんじゃない?

 同じ事をすれば次は自分だもの。相手が神様では何も出来ないわ」


 「そもそも後ろ盾の院が嫌がられるでしょう。

 たとえ院であっても神々は容赦をしないわ。

 唯でさえ後白河院は幼少の頃より今様いまようを歌ってばかりで、遊びにうつつを抜かしてる事で有名だもの」


 「五十日間も歌うとか、ちょっと頭のおかしいところもあるけどね。

 しかも喉が駄目になって声が出なくなる事が三度もよ。

 そんなの呆れられて当たり前でしょ」


 流石にそれは凄いね。声が出なくなっても歌いたかったのかな?

 どれほどの気持ちがあればそうなるのか知らないけど、遊ぶのばかりじゃ駄目だよ。

 それは呆れられても仕方ない。


 それよりちょっと確認。


 「<斬兵・豪壮武辺>」


 僕が呼び出したのは新しい霊兵だけど、この人は何故腰に布しか着けてないんだろう?

 後は裸で長い剣を持っているだけだ。強そうだけど、訳が分からない。


 「凄いわね。何というかおとこらしい霊兵だと思うわ。

 あの毛皮の大男も凄かったけど、あっちはまだ毛皮を着ていたものね。

 こっちは腰布だけよ? 挙句に筋骨隆々じゃない」


 「大男よりは少し背が低いけど、こっちも背が高いわね。

 その長い剣が恐ろしいけど、切れ味もおそらく申し分ないのでしょう」


 「長いので縦には振り下ろしにくいのかもしれませんが、代わりに上下に両断していましたな。

 かくもあっさりと言いますか、引っ掛かる感じは無かったです。

 斬兵の名の通り、斬る事に特化した霊兵なのでしょう」


 「あの長い剣は、間違いなくお前をぶった切るって感じだものね。

 十拳とつかの剣よりも長いし、よくもこれだけ長い剣を振り回す霊兵を呼び出すものね。

 黒金くろかね、そろそろ仕舞ってくれる?」


 「うん、分かった」


 僕が霊兵を仕舞うと三人が息を吐いた。

 剣が長くて邪魔だったかな? あの剣って凄く長いし、狭い所では呼べないね。

 外ならいいけど、家の中なら古兵の方がいいや。

 そう考えると古兵は呼びやすいし使いやすい。


 「さて、そろそろ本格的に斯明かくめい殿の練習と行きましょうか。

 それとせっかくだから、葛葉くずは黒金くろかねに符の作り方を教えてくれる?」


 「まあ、いいけど交代ね。斯明かくめい、何処で符を作ってるの?」


 「そちらの部屋です。そちらには陰陽術に必要な道具類が仕舞ってありますので」


 「そう、ならそちらの部屋を使わせてもらうわね」


 「ええ、おそらく揃っていると思いますが、足りないならば後で買いに行きます」


 「まあ、大丈夫よ。そもそも黒金くろかねには文字の練習もさせなければいけないし。

 そっちの方が先でしょうからね」


 「そうですな。黒金くろかねにはそちらの方が重要でしょう。

 文字の読み書きが出来て損はありませぬ」


 「昔の稀人まれびともそうやって奨励したからね、だから今では学習所がくしゅうどころがあるんだし」


 「がくしゅうどころ?」


 「文字の読み書きや算術を教えてくれる所よ。

 そこに行けば教えてくれるんだけど、それを良しとしない寺と一悶着あったの。

 結果としてみれば稀人まれびとに叩き潰されて大人しくなったから良かったわ」


 「ふーん……」


 良く分からないけど、てらとかいうのと争った稀人まれびとが居たらしい。

 何故かは知らないけど、そのてらとかいう奴らはきっと検非違使けびいしみたいに悪い奴らだったんだろう。


 ……あれ? 北面武士だっけ? ……まあ、どっちでもいいや。

 今は悪いヤツが多いんだし、どっちも変わらないでしょ。


 僕は隣にあった部屋の戸を開ける。

 すると、中には小さな机と色々な物が置いてあった。

 狭い部屋だけど、二人が居ても大丈夫なくらいかな?


 「それなりに色々と頑張ってきた跡が見えるわね。

 ………うんうん、なかなか励んでるじゃないの。

 間違ってる箇所は多いけど、それは愚か者が悪いんだし、ここから励めば大丈夫そう」


 「斯明かくめいのこと?」


 「ええ。後は実際に学ぶのと練習をするだけね。

 さて、とりあえず字を書く練習をしましょうか。

 私が手本を書いてあげるから、それを見て練習ね。

 ちょうど木の板もあるから都合がいいわ」


 「木の板……に書くの?」


 「そうよ。紙で練習をするのは勿体ないからね。

 ちょっとした書き物や練習は木の板にするの。

 削ってしまえばまた書けるからね、そこにかんなもあるし」


 「へー………」


 書いて削ってを繰り返すらしい。

 ちょっと面白そう。


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