0028
Side:斯明
「建御雷神様が降臨なされ、別当が愚かであった事は分かった。
しかし、そもそも何故ここ検非違使別当の屋敷に来る事になったのだ?」
「そもそものきっかけは、そこに居る愚か者の所為でございます。
そこの者が愚かにも難癖をつけてきただけではなく、我が賀茂家と安倍家を愚弄したのが始まり。
そして我が娘と、黒金、つまり稀人にあっさり負けたのです」
「まさか……それを恨みに思うてか?」
「ええ。
そして黒金が居候しておる、この斯明の家に押し入り、二人が居らぬ間に金銭を強奪。
己の家の床下に隠しておりました」
「それだけではなく、どうもこやつら検非違使別当と何かの取り引きをしておったのでしょう。
別当は無理矢理に罪を握り潰そうとしておりましたからな。
それも調べれば分かりましょう」
「うむ、そうじゃのう。
しかしながら検非違使がこれでは調べる事はできんぞ」
「そうか、ならば殺せ」
「!!!」
新しき霊兵が二度剣を振ると、新川とその横に居た男は双方ともに殺された。
既に腰が抜けていたのか尻を地面につけていたが、恐怖の顔でこちらを見ながら首を刎ねられた。
建御雷神様は特に容赦がないらしい。
「貴様等が調べんと言うのならば殺すのみよ。
我に対して喧嘩を売ったのだ、何故生き残れると思うのであろうな? 理解できん」
「「「「「「………」」」」」
「さて、そこの者ども、帝と院に言うておけ。
あまり下らぬ事をしておると、貴様ら纏めて滅ぼすぞ、とな」
「「は、ハハッ!!」」
そう言うと建御雷神様は離れられたのか、黒金が地面に倒れたので、慌てて抱きかかえる。
それにしても、また黒金が殺されてしまった。
私はいつも守れないな、情けない。
「とにかく、検非違使を始め、正道に戻さねばマズい事になるの。
まさか神様が降臨なされるとは……」
「そうであるな。
……しかし、何故稀人が居る事を言わなんだのだ!
そうと知っておれば、出来る事をしたと言うのに!!」
「それは、かつての稀人をお考えになられれば分かること。
蘇我の暗殺を始め、朝廷は稀人に何をさせましたか?
それをこのような子供にさせるとでも?」
「いや、それは……」
「流石に我らとて思うところはございます。
近衛様や九条様がそれをされるとは思えませぬが、他の方もされぬとは言われますまい?
我らが危惧しておるのはそれでございます」
「まあ、そういった者は確かにおるであろうな……。
おらぬとは口が裂けても言えぬ」
「そうじゃの。それにしても………検非違使の屋敷はもう駄目じゃな。
凄まじい雷が落ちたのであろう、これでは一から建て直すしかあるまいが……。
果たして誰かするのかのう?」
「白河院の所為で、北面武士が検非違使に入り込んでおったからのう……。
とはいえ延暦寺が何をし出すか分からなんだので、仕方がないのじゃが……」
「気付けば院の身辺警護のはずが、あれよあれよという間に大きゅうなってしまった。
更には白河院が検非違使にまで北面武士を入れた所為で……」
それで検非違使という治安を守るはずの者達がおかしな事になっていたのか。
平民では分からぬ事だが、時の院は何を考えておられたのであろう。
もしかしたら、こういったものを壊す為に黒金は……?
「とりあえず斯明、そなたは黒金を連れて戻れ。
建御雷神様に殺されてしまった以上、それは神罰じゃ。
ヤツに奪われた金銭も、ヤツの金銭も含めて持って帰るがよかろう」
「そうだな。
ヤツに奪われた銭とヤツの銭が混ざってしもうて、もうどれがどれやら分からぬからな。致し方があるまい。
検非違使がまともであれば良かったのだが……」
「言っても仕方あるまい。
それよりも、我らはそろそろ参内いたさねばならぬ時間だ。
後の事は任せておけ、黒金の事も主上にお伝えいたすつもりだったのだ。
まさかその直前でこうなるとは思わなんだが……」
「うむ。稀人を己の権勢に利用せんと蠢く者が居るからな。
だからこそ主上と高位の方々にのみお伝え致そうと思っていたのだが、これでは隠せぬであろう。
難儀な事だ……っと、本当に急がねばならん!」
「そなたは家に戻れ斯明。
今日は一日ゆっくりしておくがいい!」
そう言って慌ただしく賀茂家と安倍家の御当主様は去られ、そして公卿である近衛様と九条様も去られた。
溜息を吐いておられたが、神様が降臨された以上はどうにもならぬしな。
朝廷の中では様々な事があるのであろうが、流石に私には何も分からん。
まあ、分かる気も無いのだが……。
さて、銭の袋を拾って帰るか。
これを持って帰ったら盗みになるような気もするが、見分けがつかんからな。
私は黒金を抱いて検非違使別当の屋敷を出ると、外には野次馬が沢山おった。
私はその野次馬に話しかけられるも適当に答え、そして足早に家へと戻る。
まったく、野次馬は面白おかしく騒ぎ立てたいのであろうが、私にとっては騒がれたくない事だ。
何故ああも元気なのか、もしくは暇なのかもしれんな。
それよりも黒金を寝かさねば。
私は布団を敷き黒金を寝かせると、少し自分もゆっくりとする事にした。
すると艶殿と葛葉殿が来たので玄関を開ける。
「お二人とも、朝は申し訳ありませんでした。少々戻って来れぬ事情がありまして……」
「いったい何があったのです? もしかして騒ぎが起きていた事と関係するのですか?」
「ええ。とりあえず上がって下さい。
黒金は寝ていますが……」
私は家に上がったお二人に朝あった事を話すと、呆れられた。
もちろん呆れたのは愚か者に対してであり、そして神様が降臨なされたという話をすると驚かれた。
特に葛葉殿は驚いた後で、少し怯えた様子を見せる。
私などとは違い、本当に神様の恐ろしさを知っておられるのだろう。
正直に言って、今日降りておられた建御雷神様は恐ろしかったからな。
八意思金神様は、まだお優しかったのは間違い無い。
「建御雷神とか、剣神であり雷神じゃないの。
どう考えても荒ぶる神でしょうに、そのうえ相撲の祖。
かつて建御名方神を相撲で恐怖に陥れた神よ」
「恐怖に?」
「相撲ではなく力比べなんだけど、その際に自分の手を氷や剣に変えたとされているの。
それに怯えた建御名方神は諏訪から出ない事を始め、様々な約定を交わしたってわけ」
「へぇ……神話って詳しないから知らないのよね。
でも剣神であり雷神という事は、あの轟音は間違いなく神様でしょう。
あれ程の大きな音だもの、間違いなく雷が落ちたはずよ」
「でしょうね。
ついでに黒金が刃物を持つと切る場所が分かるというのも、建御雷神の加護でしょ。
間違い無いわ」
「だろうと私も思います。
しかしそれ以外に漆黒と蒼が残っていますし、それだけではない可能性もある。
葛葉殿ではないが、いったいどれだけの加護を頂いているのか……」
「そりゃ現人神一歩手前になるぐらいよ」
「「「………」」」
私達は改めて黒金を見るが、こんな小さな子に何故そこまでの加護をお与えになったのであろうか?
神々のなさる事とはいえ、少々不憫な気がせんでもない。
しかし稀人と考えると、仕方がないのであろうな。
それだけの加護が無ければ守れぬのであろう。
現に二度も殺されておるのだ。




