0027
Side:黒金
僕達は上京にあるけびいしっていうののべっとう? の屋敷に来た。
なんでもけびいしって所のお仕事は、べっとうって人の家でやるんだって。
だから陰陽寮と違って、正式な建物がある訳じゃないらしい。
なんでだろうね?
僕達はそのべっとうの屋敷の庭に通されたんだけど、あの正之進とかいうヤツとその近くに誰か居る?
あと屋敷の廊下みたいな所に座っている偉そうなのが居るね?
あれがべっとうってヤツかな。
「やっと来たか。
で、そやつが持っておる袋が銭の入った物か。こちらへ持って参れ」
「ハッ!」
何故か斯明から引っ手繰るように奪い、そいつが偉そうなヤツの所に持って行く。
なんで勝手に持って行くんだよ。
「ふむ。確かに銭が入っておるな。
で、これがお前の銭だという事か?」
「いえ、正しくは私の銭が混じっております。
そこの者は私の銭を混ぜ込んだようで……」
「で、あるならば、お前の銭という証は無いな」
「少々、お待ちを。
この男が知っておるようですがな? 何故話も聞かずに勝手に決めるのやら」
「ふんっ! そこの優男、何かを見たのか?」
「え、ええ。
正之進が床板を剥がし、銭の入った袋に袖の中の銭を大量に入れているのを見ました。
その後に私に黙っているようにと」
「ふむ。先程こやつが言っていた事と違うが、本当に見たのか?
本当の事を答えねば、貴様の命は無いぞ?」
「い、いえ、見たような、見なかったような……」
何だこいつら! 最初からあの正之進ってヤツの肩を持ってるじゃないか! ふざけるな!!
「何でだよ! この人は見たって言ったじゃないか!!
何で無理矢理に見てない事にするんだよ!! おかしいだろ!!」
「なにぃ? このガキ、我ら検非違使を愚弄するか!!
切り捨てぃ!!」
「「「「「ハッ!!」」」」」
キンッ……ザシュ!
「アガッ! がっ、ぐぅ……」
後ろから、切られ、た……!
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Side:斯明
「くろかね!? くそっ、何でまた!?」
何故このような事になるのだ!?
それに検非違使の連中も、あの正之進という男もニヤニヤしている。
この者達、最初から謀るつもりだったな!!
「何をしているのだ!! 子供の言うておる事であろうが!
貴様ら正気か!?」
「何を言う! 我ら検非違使に口答えするなど万死に値するわ!
切られて当然であろうが!!」
「ならば貴様も切られる覚悟があるな?」
黒金は切られて血が出ていた筈だが、何故か起き上がってきたうえに塞がっておる。
まさか……
「ふう……それにしても人の子は腐っておるな。
まるで蛆の如く醜き者が蠢いておるわ。
汚らしくて穢れておる事すら分かっておらぬとは、無様な……」
「何だとクソガキめが!! よくも検非違使別当たる我にそのような事を言えたな!!
何故立ち上がったのかは知らぬが、もう一度殺せ!!」
「「「「「ハッ」」」」」
ズドォォォン!!!!
そんな音と凄まじい光が近くに落ち、そして気付けば検非違使だった者達が黒焦げになって死んでおった。
い、いったい何が起きたのだ……?
「あ、あの、貴方様はいったい……」
「そなたが斯明か。
我が名は建御雷神。剣神であり雷神である。
そなたが黒金と名付けたこの童に加護を与えた一柱よ」
「「た、建御雷神!!!」」
「なんじゃぁ? その訳の分からぬ者は。
頭がおかしくなったか! ならばワシのこの手で切り殺してくれるわ!!!」
別当が太刀を抜いて切りかかってきたが、黒金が前に出るなり太刀を見切る。
一切当たる事無く空を切り、黒金は別当の股間を蹴り上げた。
「ぐもうっ!?!?!」
「ふははははははは!! 阿呆が、我は相撲の祖ぞ! 舐めておるのか、この田分け者が!
人間如きが、調子に乗るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ズドォォォォォォォォォォォォォォン!!!!
凄まじい光が放たれた後、別当の屋敷は半分以上が潰れ、残っている所には火が着いておる。
いったい何があったのかと思うが、建御雷神様は雷神。
つまり神の雷が落とされたのであろう。
「まったく、今の院とやらはどうなっておるのだ?
このような神も知らぬ野蛮な者を、尻を可愛がっておるからという理由だけで官職を与えおって。
今の院とかいうヤツも滅ぼされねば分からんのであれば滅ぼすぞ」
「今の院は後白河院であらせられますが、今は鳥羽殿に幽閉されておりまする。
おそらくは力が在りし時にこのような者どもを……」
「この者どもは検非違使と申すより、北面武士でございますれば」
「ふん! 職掌も分かっておらん者を据えたという訳か、愚かな……。<斬兵・豪壮武辺>」
建御雷神様が霊兵を呼び出されたが、その者は風変わりな者であった。
身につけておるのは腰に巻いた布のみであり、それを縄で結んで落ちんようにしておるだけだ。
いったい何処の者だ?
しかしながらそれよりも驚きなのが、その手に持つ異様なほどに長大な剣となる。
おそらく長さは二メートル、持ち手だけで四十センチはあろうか? とんでもない程の長さだ。
そしてその霊兵はゆっくりと別当の下へと向かっていく。
おそらく建御雷神様が何らかの命を下されたのであろうが、その命が何なのかは分からぬ。
「うぐっ、づうっ! おのれぇ! ワシを誰だ、と思って………」
どんどんと声が尻すぼみになっていく。
気持ちは分かる。己の前には長大な剣を持つ者が居るのだ。恐ろしかろう。
「な、なんだ!? 貴様は!! その手に持つ剣はなんだ!
よもやワシを殺そうという気ではなかろうな!?」
「やれ」
「!!!」
その瞬間、恐ろしい速さで振り抜かれた剣は、別当を腰で上下に切り捨てた。
いとも簡単に振り抜かれた剣とは違い、別当は腸を溢しながら体の上が地に落ちた。
そしてその後、腰から下も倒れる。
あまりの光景に我らは言葉が出ぬが、後ろから何者かがやってきた。
「ここでいったい何が起こっておる! いったい検非違使別当の宅で何があったのじゃ!!」
「そうじゃ、事と次第によっては、そなたらの官位や官職を取り上げるぞ!!」
何やら公卿か公家と思わしき方々が走って来られたが、今さら来れられてもなぁ……。
神様がされた事なので、我らには如何様にもならん。
「いったい何があった! 慌ててやって来たが、我ら藤原北家御堂流を騙せると思うなよ。
しっかりと吟味致してくれるぞ!」
「愚か者が愚かな事をしたから始末しただけよ。
それより、このような田分け者に官位や官職を与えるな。
真面目にせんならば貴様らも滅ぼすぞ」
「なんじゃと貴様!
平民の童如きが、何様の「ズドォォォォォォォォォン!!!」つもりじゃ………」
建御雷神が手の平を向けた方へ、雷を迸らせた。
それを見た公卿の方々は途端に尻すぼみになられ、今は声も出せない。
「「な、なにが……」」
「九条兼実様と近衛基実様とお見受け致しまする。
我は賀茂駿慶、こちらは安倍晴海殿でございます。
そしてこちらに降臨なされておられるは、建御雷神様でございますぞ」
「「は?」」
「降臨なされておる体は、黒金と申す稀人なのでございます。
しかし検非違使別当が碌に調べもせず、更にその事に反発した黒金を殺すように言いました」
「そして黒金は背後から切られてしまい、それに怒り狂われた建御雷神様が降臨なされたという事でございます。
今の検非違使別当は、院の男色の相手であったようで……」
「建御雷神様が神である事も知らずに罵り、それが元で検非違使別当の屋敷はあのように。
そして先程も雷を放たれたのございます。
あのような事が唯人に出来る事だと思われますか?」
「「………」」
お互いに見合われた近衛様と九条様は、声を挙げる事無く首を左右に振られた。
誰であろうと同じだろう、こんな事が唯人に出来る訳がない。
九条兼実=藤原兼実 九条家の祖
近衛基実=藤原基実 近衛家の祖
どちらも関白・藤原忠通の子




