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式神と霊兵  作者: 田中始め
戦国編
235/239

0235




 Side:神守(かみもり)黒金(くろかね)



 狩りに初めて行った日から一月ほど経った。

 特に何かがあるわけでもなく、僕は吉法師や一郎と次郎、それに平手に字を教えている。


 平手は自分の領地もあるけど、それ以上に吉法師の傅役(そばやく)としての立場もある。

 なので那古野城に居る事がほとんどだ。


 そもそも平手は織田弾正忠家の家臣団の中では教養がある方らしく、それで吉法師の傅役(そばやく)に抜擢されたっていう経緯がある。

 それが理由で自分の城は後回しにするしかないようだ。


 本来は乗っ取られるかもっていう危険を考えなきゃいけないらしいけど、もしそんな事があったら弾正忠家が取り返してくれるから、そこまで心配もしていないみたい。

 まあ、助けてくれるなら何とかなるだろうね。


 「それもあるのだが、今は黒金(くろかね)殿もおられるからの、尚のこと心配はしておらん。

 なにかあっても確実に取り戻せるのでな」


 「まあ、どうしようもなくなったら僕が出るけどね。

 それはともかく、今はこの状態が続くって感じ?」


 「そうじゃの。

 大和守家も黒金(くろかね)殿の噂を何となく聞いておるのか、こちらへの手出しを少々控えておるような雰囲気らしい。

 向こうの事が分かるような伝手はあるのでな、その者が知らせてきた」


 「ふーん。

 僕というよりは稀人(まれびと)が居るからって感じなのかな?

 その割には守護の斯波家からも接触は無いけど」


 「迂闊(うかつ)に動くと何をしてくるか分かりませんからなぁ。

 左兵衛佐様も動くに動けぬのでしょう。

 家臣を使うといっても、斯波家の家臣筋も見張られておりますからな。

 簡単には動けますまい」


 「なんだか面倒臭そうな感じ」


 守護が迂闊(うかつ)に動けないって……

 そいつら監視だけじゃなくて、何かあったら殺そうとしてるでしょ?

 そうじゃないと、そこまで厳しく締め付けないはず。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:坂井大膳



 「坂井殿、如何(いかが)する?

 本当かどうかは分からぬが、弾正忠のところの(せがれ)稀人(まれびと)が付いたと言われておるぞ。

 もし本当なら(しも)四郡の者達が弾正忠に付きかねん」


 「分かっておる! とはいえ、それが本当かなど分からんのだ。

 そもそもその稀人(まれびと)とやらは、弾正忠が奪った那古野城から滅多に出て来んのだ。

 それに出て来たら襲えと言って銭を渡した賊は失敗した」


 「失敗………まさかこちらの手の者だとバレたのではなかろうな!」


 「そんな事は知らん! 殺された賊どもに聞け!!」


 何もせぬヤツがいちいち五月蠅いわ! 唯でさえ弾正忠は飛ぶ鳥を落とす勢いがある。

 そのうえ稀人(まれびと)が合力致しておるとなると、大挙して弾正忠の味方をしかねん。

 誰であろうと勝つ方に付きたいのだ。

 当たり前ではあるがな。


 しかし我らは<守山崩れ>の後、岡崎城攻めで散々弾正忠の邪魔をした。

 もちろんヤツに三河を獲らせるわけにはいかなかったからだが、その所為で左兵衛佐様の反感まで買う始末。

 流石にやり過ぎた。

 これ以上は迂闊(うかつ)に動けん。


 「こうなれば伊勢守家と共に弾正忠家を討つべきではないのか!

 尾張織田氏の力を結集すれば勝てよう!」


 「伊勢守家を味方に付けるのに、いったいどれだけの米や銭が必要だと思うておる!

 (かみ)四郡はこちらと違って苦しいのだ。

 伊勢守家は必ず米と銭を寄越せと言うてくるぞ。

 そなたが出すとでも言うのか!」


 「………」


 己の身も切らぬ癖にいちいち口うるさいだけのヤツめ。

 それに伊勢守家は少々マズい。

 今声を掛けると対立する恐れもある。

 昨年、伊勢守家の当主に大和守家の当主である大和守様の子が養子として入ったが、それ故に大和守家からの乗っ取りを危惧する声がある。


 当然の事でもあるのだが、だからこそ伊勢守様は余計にこちらに厳しく出られるであろう。

 そうせねば家中が納得せぬであろうからな。

 しかも厄介な事に大和守様の御嫡男は病弱。

 場合によっては、どこぞから養子を貰わねばならんかもしれん。


 その際の有力な家は因幡守家だが、あそこは清州三奉行の一家。

 そして清州三奉行家は対立しておるわけではない。

 それなりに上手くいっておるからな。

 因幡守は受けぬ可能性がある。

 弾正忠についた方が良いと思われれば、受けぬ可能性が高い。


 困った事になった。

 大和守家が孤立しておる時に、弾正忠の所に稀人(まれびと)が来るなど………

 いや、待てよ? 守護の命として招き、そこで殺してしまえば良いのではあるまいか。

 確か(わらし)のような見た目であるという。


 ふふふふふふ………

 そうと決まれば左兵衛佐様に文を書かせるか。

 なぁに、左兵衛佐様も弾正忠を招くとなれば(こころよ)く書いて下さろう。

 ははははははははは………!!



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:山姫桜



 「で、尾張の織田なにがしっていう家から、朝廷に問う文が来たってこと?」


 「そう。

 神守君従三位右衛門権佐検非違使黒金を名乗る者。

 それも<古兵・勇壮猛夫><猛兵・剛射隼人><斬兵・豪壮武辺><影兵・自在黒命><水兵・偽神大蛇><爆兵・白輝拳者>という霊兵を使う陰陽師がいきなり現れたってさ」


 「どう考えても黒金(くろかね)で間違いないわね。

 っていうか<爆兵・白輝拳者>ってなに?

 なんか新しい霊兵が増えてるんだけど?」


 「それを私に言われても困るわよ。

 とはいえ右眼が金色になったり蒼くなったり、左眼が漆黒になったり紫になったりするとも書かれてたらしいわ。

 黒金(くろかね)に間違いなさ過ぎて笑っちゃうわね」


 「なら私は尾張に行くわ。

 黒金(くろかね)が居るなら色々と話したいし、京の都の賊をブチ殺すのにも飽きたもの。

 ねえ?」


 「うん。それに、わたしも黒金(くろかね)に会いたい」


 「そういえば桃も人型になれるようになってから随分と経つのよねえ。

 何故か未だに童女の姿しかとれないけど。

 おそらくは乙一級だからでしょうし、甲級まで上がれば大人の姿になれるとは思うわ。

 後は時間が解決するでしょうから行ってらっしゃい」


 まあ、言われ無くとも勝手に行くんだけどね。

 それにしても、やっと会えるわ黒金(くろかね)

 私を、つまり女を散々待たせたのだから覚悟しなさいよ。

 うふふふふふふふ………



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:松平広忠



 「つまり織田弾正忠家に稀人(まれびと)がやってきたと?

 それで弾正の(せがれ)が大きな事を成すと言われておるわけか……」


 「はっ!

 尾張の伊賀者にも銭を渡して聞きましたが、おそらく間違いないとのこと。

 伝説にある通り黒い馬を出して乗っておったり、妙な出で立ちの者らが、いきなり現れたりしたとのこと。

 間違いなく足利尊氏公と共にあられた伝説の陰陽師でございましょう」


 「むむむむむむむ………厄介だな。

 今川家という名家だから従っておるが、伝説の陰陽師であれば三河武士はそちらに流れるぞ。

 なんと言っても、ここ三河は足利所縁(ゆかり)の地なのだ。

 にも関わらず、尊氏公を征夷大将軍に押し上げた伝説の陰陽師に敵対するなど………」


 「おそらく誰もが嫌がりましょう。

 そのうえ今川に勝てるとなれば……」


 「しかしな。織田は父の仇ぞ」


 「そうとは言えませぬ。

 織田弾正が(そそのか)したと言われておりますが……」


 「まあ、わしも愚かではない故に分かっておる。

 父は恐怖を与える事で皆を従えたが、しかし阿部定吉は父に対して怯えておったと聞く。

 己が阿部家が潰されるかもしれぬとな。

 実際に定吉の父は謀反を疑われておったという。

 つまりは……」


 「はっ! それがしの調べでも、織田が(そそのか)したという証は見つかりませぬでした。

 阿部家の者はそう言うておりますが、阿部家の下働きの者などに聞きますと……

 そのような素振りも無かったし、織田からの何者かが来た事もなかったとのこと」


 「やはりか………

 半蔵が調べてくれてそれという事は、おそらく父上を殺したは恐怖であろう。

 阿部は追い詰められたのだ。気持ちは分からぬではない」


 阿部定吉にとって、父は閻魔大王のように恐ろしかったに違いない。

 かつて赤松氏も、恐怖から足利家の御当主を暗殺したという。

 父は同じ失敗をしたのであろうな。


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