0234
Side:神守黒金
脂を抜き終わった僕は、かす肉を天日干しにしていく。
その前に脂を抜き終わったかす肉は、影兵に頼んで残った脂も抜いてある。
どうせ干している間に更に抜けるんだから、影兵に頼んで先に抜いておいて問題無い。
それらが終わり、僕達は揃って台所へ向かう。
ちなみに吉法師と三四郎は一つずつ味見をしていた。
脂が残っているけど影兵が大分抜いたからね、そこまで脂塗れというわけじゃない。
柴田と平手は腸からこんなに脂が出るのかと驚いていたけどね。
獣脂が安いという理由を改めて理解したみたいだ。
その辺りは僕にとってどうでもいいところだけど、柴田と平手にとっては驚くべき事だったのだろう。
二人はやたら大げさに驚いていた。
彼らも一応は城主だし領地も持ってる。
だから見た事がなかったのかな?
そんな事を思いつつも口には出さず、今度は野菜を切って準備したら内臓と炒めていく。
肝臓と心臓には、よく火を通しておかないとね。
お腹を壊す事は無いだろうけど、火を通しておかないと危ない。
野菜は野草も多いけど、神様いわく体に良い物ばかりみたいだ。
吉法師と三四郎も食べる事を考えたら、体の良い物の方がいいに決まってる。
なので出来るだけ食べてもらおう。
とはいえウサギと鹿と熊のしかないんだよね。
弾正と妻、それに吉法師と三四郎と僕で終わりかな?
流石に他の人が食べるには量が足りない。
仕方ないなと思いつつ、柴田と平手には肉の方を食べさせてあげよう。
そう言うと、二人は何とも言えない表情をした。
「あまり内臓という物は食いたいと思えぬでなぁ……。
肉ならば食うのだが」
「体に良いし、慣れれば普通に美味しいけどね?
特に心臓は苦みなんかも一切ないし、普通に食べられる肉の部分なんだけど……」
「ほう、それは知りませんでした。
内臓というのはどれこれも腐りやすいと言われておるので、あまり手を出そうとは思えませんからな」
「ああ、それはあるね。
動物なんかも獲物を仕留めたら、まず内臓から食べるそうだよ。
それも腐りやすいからっていうのが理由みたい。
神様の加護の眼にそう出てたから」
「獣も同じく、腐らせるのが勿体ないという事か。
そういった点はワシらと変わらんのだな。
まあ、考えてみれば当然の事だと分かるが……」
僕は味噌と酒と水飴を少々もらい、混ぜ合わせてタレとし、最後にかけて炒め合わせる。
そして絡んだら皿に盛って完成だ。といっても盛るのは台所の人任せだけどね。
他の台所方の料理も完成したみたいだし、毒見役も来たようだ。
僕は適当にスルーさせてもらうけどね。
毒見役が少量すつ食べていき、その後に時を置いてから出される。
毒が効いてくるにも時間が掛かるから、本当に毒が無いのかどうかを確かめるには時間を置くしかない。
僕の場合は影兵に調べさせれば済むので、大した手間でもないんだけどね。
仕方がなく僕達も待ち、ようやく時間が終わったので大部屋に行く。
子供達と弾正に妻達は皆が同じ部屋で食事をとる。
これは弾正忠家が独立してすぐの頃からの伝統みたい。
足利家だと足利親子だけで食事してたし、特に変わってるわけじゃないんだけど……
「そうなのか? 今や親子兄弟で争う乱世だ。
親子兄弟でさえ食事を共にする家は多くないと聞く。
世知辛すぎて嫌になるが、我が織田弾正忠家ではそのような事はせぬと決めておる」
「ふーん。
おっと、とにかく影兵を出さないとね。<影兵・自在黒命>」
僕は三体の影兵を出し、僕、吉法師、三四郎の膳を体の中に入れさせる。
そして出て来た時には、全てが温まった状態で出て来た。
それじゃ早速食べようか。
「待て待て待て待て待て待て! いったい何をやっとるんじゃ!!」
「何って、料理を温めただけだよ。
冷めた食事なんてしたくないからね、だから温めたんだ。
僕は美味しくないものなんて食べたくないし」
「温めって………そんな事が出来るのか?」
「出来るよ、現に目の前で今やったし。
あ、君達もどう?」
「「お、お願いします……」」
何か妙に緊張している子達だな?
吉法師より大きいから、吉法師の兄か何かだろうか?
「その二人はワシの子で一郎と次郎じゃ。
一郎が吉法師の六つ上で、次郎が吉法師の四つ上となる。
どちらも母は正室ではないが、ワシの子である事に変わりはない。
仲良うしてやってくれ」
「だったらこの子達にも文字を教えた方がいいね。
汚い字の者に習うと、汚い字しか書けない。
僕は公家ですら負けを認める葛葉から習ったから、二人にも綺麗な字の書き方を教えるよ。
平手にも教えるから、増えたって大した手間でもないしね」
「五郎左衛門もか……」
「字が綺麗に書けて損する事なんて何も無いんだ。
平手だって綺麗な字の方が誇らしいだろうし、習っても不思議じゃないよ」
「おいしい」
「ちい」
「これは……」
「おいしいですね、あにうえ」
吉法師も含めて喜んでるみたいだ。
まあ、料理が温かいと美味しく感じるのは当たり前だしね。
冷めた食事なんて無理に食べなきゃいけない時以外は食べたくもないよ。
良い食材を使ったりするより、温かい方が美味しいんだ。
「あー……ワシらのも頼めんか?」
「問題は何もないんだけど、信用はしてもらわなきゃいけないよ?
まあ、影兵の中に入れるのは、温める以外にも毒を調べる為でもあるんだ。
もし毒が入っていれば、影兵がそれだけ排除してくれるから」
「影兵という兵が便利過ぎて凄すぎる気がするんだがの。
いや、本当」
僕が影兵に命じて他の人達の分も温めていると、弾正がなんだか疲れた感じで言い始めた。
そんな事を言われても困るんだけどね?
僕は僕のやりたいようにやってるし、神様方は罪でないなら好きに使えって言ってるし。
「ああ、罪でないならな。
つまり悪用しなければ、食事の毒見も温めも構わんのか」
「まあね。
それより温め終わったから食べようか」
「そうじゃの。
温かい食事などいつ以来か。
ありがたい限りじゃわ」
「ああ………美味しい」
「本当に。
温かいというだけで、これほど美味しいとは……」
「美味いのう。
童の頃に父上や与次郎に孫三郎と共に、釣りに行った時の事を思い出すわ。
木の枝に釣れた魚を突き刺しての、焚火でじっくりと焼いて食うたのよ。
一匹しか釣れなくてな、全員で一齧りしか出来んかったが、美味かったのを思い出す」
「そういえば尾張って南に海があるんだよね?
明日は海に行って水兵を使い、海の幸を獲ってこようっと。
出来れば刺身が食べたいから、明日は綺麗に捌かないとね」
「新鮮な海の幸はいいの。
尾張は海に近いとはいえ、持ってくるとなると悪くなる事もある。
わざわざ海まで行かねば食えんからな。
新しい城は熱田の近くに作るのだが、熱田の近くに作るのも海が近いからよ」
「わざわざ海の物が食べたくて?」
「そういう部分もあるという事じゃの。
尾張でも新鮮な海の幸は贅沢なのだ。
そなたは自分で獲りに行けるから、そこまでではないのだろうがな」
「そうだね。
昔、京の都へ攻め込む船の上で魚を獲って食べたよ。
又太郎と仙太郎も一緒になって食べてたけど、あれは楠木との戦いの前だったね。
そういえば楠木の家ってどうなったんだろ?
又太郎は責は問わないって言ってたけど」
「………楠木家はの、大失敗をした家なのだ。
尊氏公の慈悲を与えられたにも関わらず、断れなんだのか南朝に味方してな。
今は朝敵とされてしまい、名を大饗に変えてしまっておる。
尊氏公が生きておられた頃は責を問われる事は無かったのだがの、その後の方々が我慢できなんだらしく、結果としては朝敵。
今は伊勢の一部の領地を持っておるだけで、名も大饗と変えるしかなくなった」
「何て事を………。その子孫の奴らは頭がおかしいの?
楠木とその弟の七郎が「自分達の首で赦してほしい」と自害までしたのに、子孫がメチャクチャにしたんじゃ楠木だって浮かばれないよ」
「そうなのじゃが、南朝では有力な家なのだ。楠木は。
………とはいえ、今では子孫の者が伊勢で肩身の狭い思いをしながら生きておると聞く」
「だろうね」
楠木と七郎の思いを踏み躙ったんだから、当たり前だよ。まったく!




