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式神と霊兵  作者: 田中始め
戦国編
231/238

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 Side:神守(かみもり)黒金(くろかね)



 鹿を仕留めた僕は黒馬を下りて素早く駆け寄り、矢を抜いて首と足首を包丁で切る。

 その後は影兵に血を吸い出すのと綺麗にしてもらったら、解体の始まりだ。

 鹿はそれなりに大きかったが、それでも僕は果敢に解体を行う。


 とはいえそこまで大仰にする事はないんだけどね。

 もっと大きな熊も解体してきてるんだし、今更でしかない。

 素早く解体し、必要のない部位は捨てていく。

 どうせ何かがここを通った時に食べるだろうから、置いていくのが正解だ。


 といっても置いていくのは膀胱とか(はらわた)の中の糞などだ。

 他には肺とか横隔膜とかの雑多な部分ぐらいだろうか?

 少なくとも簡単に、かつ問題なく食べられる部分は持って帰る。

 (はらわた)は食べてもいいし保存食にも出来るし石鹸の材料でもある。


 色々な意味で使える部分なだけに、必ず持って帰る部位となってる。

 ちなみに尾張で食べられているかは知らない。

 京の都では食べられてるけどね。


 「いや、尾張でも(はらわた)は普通に食べられているぞ?

 京の都でどのように食べられておるかは知らぬが、脂を抜いて日干しにしてから食うのだ」


 「ああ、かす肉にして食べてるんだね。

 とはいえ、それが一番いいと言えば一番いいか。

 脂も手に入るし食べられるからさ。

 そのまま焼いて食べる事も出来るけど、そうすると脂を捨てる事になっちゃうから勿体ない」


 「(はらわた)を焼いて食うというのは初めて聞いたが、確かに脂を捨てるのは勿体ないのう。

 灯りを含めて色々と使えるという事を考えると、脂を抜いてからの方が良いじゃろう。脂も安うはないでな。

 それでも油座の売っておる植物の油よりは安いが」


 「植物油は高いですからな。

 それなら魚油の方が安いですし、それより安いのが獣脂です。

 獣の脂は固まるので安いと聞きましたが、わしなどは固まった方が持ち運びに便利だと思うのですがな」


 「確かに便利ではあるな。

 とはいえ獣の脂は獣の臭いが凄いからのう。嫌がる者も多い。

 何かしらマシになるようであれば、また変わるのだかのう」


 「わしなど子供心に、獣の脂の匂いを嗅ぐと腹が減りましたがな。

 あの美味そうな匂いを嗅いでおると、どうしても我慢が出来なくなってくるのです」


 「子供というのは、そういうものであろうよ。

 誰だってそのような思い出はあるものだ。

 それはともかくとして、帰らぬところを見るに、まだ足りぬのですかな?」


 「いや、そうじゃないんだけどね………

 血の臭いに気づいて近寄ってきたみたいだ」


 「は? なに「グゥォァァァァァァァ!!」が……!!」


 木々の間から現れたのは、結構な大きさの熊。

 いわゆるツキノワグマだ。

 だいたいどこにでも居るらしいけど、蝦夷(えぞ)にはツキノワグマより凶暴なヒグマという熊が居るらしい。

 それは神様の加護の眼で教えてもらった事がある。


 出て来たツキノワグマに慌てて武器を構えようとする柴田と平手。

 とはいえ古兵の方が圧倒的に速く、立ち上がって威嚇した後に前足を下ろした熊の首を両断した。

 あっさりと首が落ちて血を噴出する熊の死体。

 それに唖然とする柴田と平手。


 「「………」」


 「「おぉーーー………!!」」


 子供達の方が素直でいるし、ちゃんと分かってる。

 どうして大人の二人が固まるんだろうね。

 いい大人として恥ずかしくないの? せめて固まるのは止めようよ。


 「いや、そうは言うがな……。

 目の前に熊が出て来たのなら、慌てるのは当たり前だとお……そういえば、獲物の位置が分かるのだったか。

 それで慌てておらぬのか」


 「ああ、そういえばそうであったな。

 なるほど、事前に分かっていれば慌てる事もなかろう。

 流石に鹿はともかく熊はな……」


 「あくまでも霊力が分かるだけで、何が居るかは分からないよ。

 まあ、それでも何かが居るというだけで、心構えとしては違うだろうけどね。

 それはともかく熊を解体したら帰ろう。

 流石にこれ以上の肉は、食べて減らしてから獲りにこないとね」


 「熊肉は(くさ)いと聞くが、それも食うのか?」


 「熊肉は確かに(くさ)いんだけど、影兵に任せて可能な限り(くさ)みを減らせば普通に食べられるよ。

 多少は(にお)いがするけど、それは味噌と共に煮込めば消える程度でしかない。

 だから熊肉は味噌鍋が一番だよ。鹿肉は焼いて食べればいいしね」


 「焼いて喰うのか? あまり美味そうには思えぬが」


 「焼いて味噌だまりとか醤油をつけて食べるんだよ。

 そのまま食べたりはしないって。

 もしくは醤油と酢に生姜を入れたものでもいいよ。

 サッパリしていて野菜を細切りにした物と一緒に食べるとかね。

 これも美味しいんだ。

 その場合は出来たタレに植物油を入れた方が美味しいかな?」


 「ほう、色々とあるのだなぁ……

 料理は台所方がやっておるし、詳しい事は知らぬのだ。

 食うて美味ければ、それでよいと言ったところだ」


 「まあ、ほとんどの者がそうであろうて。

 料理に拘る方はおられるらしいが、あまり多くはないと聞く。

 それよりも毒の心配をするのが先じゃからな」


 「大変だね。僕は毒の心配なんてないから気楽だよ。

 だって影兵が教えてくれるし」


 「「は?」」


 「影兵が料理を触れば、毒が有るか無いかなんてすぐに分かるからね。

 そもそも影兵の体は、その名の通り影で出来てる。

 だから触っても汚くなんてないし、それで毒の有無が分かるから便利なんだよ。

 又太郎なんかは僕が居ないと冷たい食事しか出来なかったしね」


 「尊氏公も暗殺を警戒していたというのはともかく、そなたが調べてくれれば温かい飯が食えるのか……」


 「僕が影兵にやらせれば、だけどね。

 だから居ない所の事なんて無理だよ」


 「それはそうであろうな。

 とはいえ、居る所では温かい飯が食えるというのはいいのう。

 実際に冷めた飯は美味しくないのだ」


 「だろうね。

 だから僕は影兵に調べてもらって、温かい料理しか食べないんだし」


 「だが、館で出されるのは冷めた毒見の終わった物であろう?」


 「影兵の話を忘れた?

 影兵は中に取り込んだ物なんかを温める事が出来るんだよ。

 だから冷めた物を温めてもらっただけ」


 「「………」」


 「あたたかいのは、おいしい?」


 「そう、温かい食事は美味しいんだよ。今日から吉法師のも温めようか?」


 「うん。さんしろうのも」


 「あい」


 「三四郎のもそうするなら、一緒に食事をとった方がいいね。

 どのみち僕が居る以上は吉法師の安全は守れるから、三四郎の母親が来ても許しは出るだろうし」


 「それ以前に三四郎の父君は亡くなっており、母は殿の側室となっておられる。

 なのでそもそも共に食う事に問題は全くない」


 「そうなんだ。だったら確かに問題ないね。

 三四郎はまだ二歳だし、そうなると誰かが食べさせてあげないといけない。

 最悪は影兵がすればいいかなと思ってたんだけど、それはしなくて済みそうだ」


 「影兵というのは冷やしたり温めたり、綺麗にしたり馬になったりと、本当になんでもアリなのだな」


 「ただし戦闘では、そこまで強くないんだけどね。

 どちらかというと、その体で相手を捕まえたりが主かな?

 水兵も捕まえられるけど、陸じゃ足が遅いんだ。

 だから陸で捕まえるなら影兵かな?」


 「相手を捕まえるというのも便利なものよな。

 敵将を捕縛すれば、十二分な褒美が出るぞ」


 「僕は弾正から頼まれるまで、戦に出る気も何かする気も無いけどね。

 あくまでも僕は吉法師の前に出てきてるからさ」


 「それはの。

 第一が若君である事は、誰もが分かっておる事だ」


 「それもあるけど、功を奪っただなんだと揉める気が無いんだよ。

 僕の場合は、銭が欲しければ妖怪退治をしていればいいだけだし」


 「ああ、そういう事か」


 やっと柴田も平手も理解したらしい。

 僕は褒美を求めて必死に戦をする必要が無いんだよ。

 だからあくまでも勝ちたい、もしくは負けてはいけないところで頼んでほしいと思う。


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