0230
Side:神守黒金
今日僕達は尾張の山に来ている。
名前は知らないけど、獲物の多そうなところだ。
そして柴田と平手がついてきてるのはいいとして、なぜか乳兄弟の池田三四郎という子も来てる。
まだ二歳なんだけど、これ僕に面倒を見ろって事だよね?
まあ、いいけどさ。
「さんしろう、あまりみをのりだすとあぶないぞ」
「あい」
吉法師に言われて、前に出ていた体を戻す三四郎。
大丈夫かな? とりあえず柴田と平手が居るから、二人も黒馬に乗せて移動してきた。
吉法師と三四郎は一頭の黒馬に両方乗せてだ、どのみち落ちないから何の問題も無い。
黒馬に乗って山の中を進むも、今の内にと思い古兵と猛兵を出す。
「<古兵・勇壮猛夫><猛兵・剛射隼人>。
古兵は吉法師と三四郎を中心に守れ、猛兵は獣か妖怪を射るように」
「「わぁ………!!」」
子供達二人が突然現れた古兵と猛兵に喜んでいるが、吉法師は前に見てるよね?
もしかして影兵しか目に入っていなかったとか?
………なんだか凄くあり得そうな気がしてきた。
実際に影兵に抱き着いたままだったし。
柴田は色々あってそれどころじゃなく、その所為で何かあっても目や耳に入っていない。
平手に関しては前に見ているからか、そこまで驚いてないね。
そもそも弾正の近くに居たし。
それよりも意気込んで自分の弓矢を持ってきた柴田が、黒馬の速さにビックリしてまだブツブツ言ってる。
そろそろ戻ると思うんだけど………あ、戻った。
「な、なんですかな、この馬の速さは!? このように速く走らせれば、すぐにバテてしまうぞ!!」
「静かにしてくれる? その馬鹿デカい声で獣が逃げるからさ」
「す、すまん。
しかしこれほど速くに走れるのは凄いが、早々に息が上がってしまい使えなくなってしまうぞ」
「そもそも黒馬の元は見たでしょ。影兵という人型だったのを忘れた?
ついでに霊兵には疲れるとかないから、いつまでも走れるよ。
僕は京の都から下野の国まで四日で行ったからね。
それぐらいの速さで駆け抜けられるよ」
「そこまで速いのか。
馬といっても歩きで使うしかないのだ、普通は。
走らせれば馬も息が上がってしまうし、そうなれば疲れて歩けぬようになってしまう。
だから普段は歩かせるだけなのだが、走る速さもわしの馬より速くてな。
だから驚いてしまったのだ」
「そういう事ね。
ま、とりあえずは獣を獲りに来てるんだから、そこは忘れないようにしてほしい。
包丁は借りてきてるけど、なぜか五郎左衛門は槍を持ってきたんだね」
「普通は矢で足を止めて、槍で突き殺すのですがな……
どうやら必要なかったようで」
「まだ分からないよ?
賊が出てくるかもしれないし、その時になったら使うかもしれない。
実際に出てこないとは言えないらしいし」
「尾張は米所じゃからな、それだけで襲ってくる者がおるのだ。
中には伊勢や美濃、あるいは近江から来ておる賊もいるくらいだ。
いわゆる素破や乱破と呼ばれる連中じゃが、こやつら尾張を荒らせと命じられておるようでな」
「ふーん……「ズドッ!」……っと、猛兵が仕留めたみたいだけど兎かな?」
そんな事を言いつつ近づいていくと、僕の言った通りに兎が仕留められていた。
僕はすぐに首と足を包丁で切り、影兵に渡して血抜きや汚れなどを全て取り除いてもらう。
その後は包丁で解体し、全てを分けて影兵の体に埋め込む。
「その、黒い影の中に埋めておるようじゃが……大丈夫なのか?」
「影兵は体で温めたり冷やしたり出来るんだよ。
それ以外にも体の汚れを取ったりとか様々ね。
だから影兵の中に入れておけば、冷やされるうえ汚れとかが一切無い状態で持ち運べるんだ。
これがわざわざ僕が狩りに来る理由だね」
「はあ………」
「まあ、帰って食べてみれば分かるよ。
五郎左衛門が食べるのは明日になるだろうけど。
それはともかく兎一羽じゃ足りないから次に行こう。
まだまだこの山には獲物が多いみたいだしさ」
「獲物が多い……と言う事は、獲物の場所が分かっておるのか?」
「分かってるよ。
人間も獣も妖怪も、皆が霊力を持ってるんだ。
つまり霊力の位置さえ分かれば、獣や妖怪の位置は分かるってわけだね」
「なんとまあ。色々な意味で伝説の陰陽師なのだなぁ……
改めて尊氏公が何故征夷大将軍になれたのか分かるというもの。
そして此度は若君にじゃからな。
織田弾正忠家も安泰でなによりだ」
「そうですな。
少なくとも稀人が付かれたというだけで、確実に若君が後を継がれるでしょう。
御家騒動も起こらぬでしょうし、これほど良い事もありますまい」
「そうじゃの。
それに殿は新しき城を築かれ、そこに移られると聞いた。
その際に那古野城は若君に御譲りになるとの事じゃ。
そして来年には新しい城が出来るとも聞いておる」
「なんと、若君はこれほど早くに一国一城の主ですか……」
「それもあるが、殿は津島を手中に収められた。
次は熱田という事であろう。
これで熱田を手中に収めれば、尾張の二つの大きな町を手にした事になる。
そうなれば……」
「美濃の斎藤か、三河の松平か。
どちらかという事ですな? 腕が鳴るというもの」
「それより先に尾張を手中に収めるべきだと思うけどね?
守護はともかくとして、上四郡の伊勢守家と清州の大和守家が邪魔でしょ。
さっさと潰して弾正忠家が尾張織田氏の嫡流になればいいんだよ」
「いや、それは………悪い事ではないが、簡単な事ではないぞ。
何かの理由が必要であるし、それが無ければ攻める事も出来ん。
それに清州城は堅牢な城でもある。
簡単な事では落ちぬ………ぞ?」
「どうした権六殿?」
「いや、平手殿。
黒金殿が霊兵を使えば、清州の城とて落とせるのでは?」
「あ………それは確かにそうじゃ。
そもそも弱い訳がないのだし、城攻めは主に門を開けられるか否かじゃ。
その門が容易く開くのであれば……?」
「多分だけど、爆兵を使えば無理矢理にこじ開けられるんじゃないかな?
ブン殴ればいいだけだし」
「そういった事に殿が気づいておらぬはずは無い。
となると、清州方を揺さぶる策を考えておられるのかもしれん。
大和守家がこちらを舐めて来たら、攻めるのであられよう。
そもそも北の伊勢守家はともかく、中央の大和守家は役に立ってもおらんからな」
「我が父も、戦で口五月蠅いだけの者達だと言っておりました。
そちらが潰せるならば、それに越した事はありませぬな。
謀反だなんだと言ってくるでしょうが、そもそも役にも立たぬ家など邪魔に思われるのは当然のこと」
「まったくであるな。
東の松平は混乱しておるからいいが、北の美濃が虎視眈々と尾張を狙うておるというのに……
最悪はあやつら、美濃の斎藤と組んで攻めてくるかもしれん」
「そこまでしますか?」
「するであろうよ。あやつらは弾正忠家に力があるのが気に入らんのだ。
だからこそ、守護の斯波様がこちらに心寄せる事となったのだという事を分かっておらん」
「守護の斯波様は館も出られぬと聞きますが……」
「こちらに逃げられると、面目も何もあったものではないからな。
必死よ」
「大和守家が優位にあるのは、守護に一番近い家というだけですからな。
伊勢守家はそこまで驕っておりませぬが、大和守家は……」
ズドドドッ!!
「「おおー……!」」
子供達は情勢の話とかどうでもいいみたいだね。
猛兵が鹿を撃ったのを見て喜んでるよ。
とはいえ子供にとっては退屈な話だろうし、仕方ないと言えば仕方ないだろうね。
そして狩りをする事も忘れて、暢気に尾張の情勢を話している大人二人。
っていうか、柴田は吉法師を守るんじゃなかったの?




