表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
式神と霊兵  作者: 田中始め
戦国編
229/238

0229




 Side:神守(かみもり)黒金(くろかね)



 「おお!! ほれ、見てみよ!

 ここに<寿永二年太刀褒美下賜、源頼朝>と刻まれておる。

 いやぁ、凄いわ………まさか頼朝公が下賜された太刀を見る事が出来るとは。

 しかも尊氏公も御覧になられたと聞く。

 やはり伝説の稀人(まれびと)は違うな!」


 「そうでございますな。

 まさかこれほどの太刀を拝領しておるとは……」


 昨日も来た柴田がまた来てるけど、今日も何かの用で来ているらしい。

 ちょうど良いので<白銀>の(なかご)を調べる事になったんだけど、昨日とは違って頭を下げてきて殊勝な態度をしている。

 別にそこまで怒ってはいないけどね。昨日の謝罪もしたし。


 「それにしても、そなたが持っておるその短刀は恐ろしいわ。

 何か禍々しいのを感じるとは思っておったが、まさか平将門公の短刀だとはな」


 「よく禍々しさが分かったね? 鈍感な人は目の前で見ないと分からないぐらいなんだけど」


 「あー……その理由はおそらく祖先にあろう。

 織田家の祖先は藤原氏だと称しておるが、実際には越前の織田荘にある劔神社の神官じゃ。

 つまり氏族で言うと忌部氏なのだ。

 それではアレじゃからと、祖先が盛っとるのよ。

 舐められたら負けだからな」


 「それはそうだけど、舐められない為に嘘を吐くのは違うと思うんだけどね。

 そういう事に五月蠅いヤツとか居るの?」


 「おるおる。そのようなヤツは幾らでもおる。

 稀人(まれびと)であるそなたは気にもせんのかもしれぬが、そのような事で相手を見下すなど当たり前におるのだ。

 面倒極まりないが、それしか誇るものが無いのであろうよ」


 「ふーん……初代? だっていう僕には分からないね」


 「初代?」


 「そう。

 後醍醐の帝は碌な人じゃなかったけど、それでも僕に(かばね)名字(なあざな)を下賜した人なんだ。

 それが神守(かみもり)という名字(なあざな)と君という(かばね)だよ。

 又太郎が言ってたけど、古い時代の(かばね)には君というものがあったんだってさ」


 「帝から………」


 「つまり神守という名字(なあざな)と君という(かばね)は帝から賜ったものであると。

 それは物凄く大きな意味を持つのではないのか?

 そも、帝が下賜された名字(なあざな)は<源平藤橘>だけであろうに。

 そこにもう一つ加わったという事になるぞ」


 「そうだよ。

 又太郎や仙太郎も、新しい氏族が生まれる時に同席出来たって言ってたからね。

 僕が神守という氏族の初代になるらしい。

 とはいえ僕一代で終わると思うけど」


 「それは………どうなんじゃろうの?

 黒金(くろかね)(わらし)のままの姿で長く生きておるのであろうし、そうなると子を成す事が出来るのか疑問じゃな。

 出来ねば継がせる事は出来ぬし、そうなれば一代限りとなるのう。

 その一代が長そうじゃが……」


 「それは確かに……」


 そんな話をしていると、横に居る吉法師に袖を引かれた。

 何か言いたい事があるみたいだ。


 「だいじょうぶ、きっぽうしがつぐ」


 「いやいやいやいや、吉法師が継ぐのは織田家だよ。織田弾正忠家。

 いきなりビックリする事を言わないでくれる?」


 「そうじゃぞ吉法師。

 そもそもそなたはワシの後を継ぎ、畿内にまで織田弾正忠家の勢力を伸ばしてもらわねばならんのだ。

 次なる織田家の当主はそなたなのだから、しっかりと継いでもらわなければ困るぞ」


 「わかりました」


 なんだかよく分かってない感じだね。

 まあ四つの子にいきなり後を継いでどうこうと言ったところで、理解する子はほとんど居ないだろうけどさ。

 それでも、まさか僕の後を継ぐとか言い出すとは思わなかったよ。


 「あっ、そうだ。手本として字を書いた物を置いておいたから、一日の間、少し外に出ていてもいいかな?

 できれば山に行って獣を獲ってきたいんだけど」


 「獣をか? まあ、田畑を荒らすものも多い故、獣を減らしてくれるのは助かるのだが……

 急にどうしたのだ?」


 「平安の頃から、僕は山に入って獣とか獲ってたんだよ。

 それに妖怪退治も兼ねてね。

 理由は、僕が獲って血抜きした肉じゃないと美味しくないからなんだ。

 だから自分で獲りに行きたいんだよ。

 霊兵を使えば簡単に獲りに行けるしね」


 「きっぽうしもいく」


 「いや、吉法師は字を練習しなきゃ駄目でしょ」


 「…………いや、あえて吉法師も連れて行ってくれぬか?

 幼少の頃より獣が何なのか、どうやって獲っておるのかは見た方がよい。

 <百聞は一見に如かず>とも言うからの。見ればよう分かろう」


 「殿、それは危険ではありませぬか?」


 「構わん。そもそも黒金(くろかね)の霊兵を倒すのは無理じゃ。

 賊どもなど相手にならず、武士でさえも負けよう。

 それほどまでに強いとワシは思うておる」


 「…………ならば、それがしもついて参ります。

 何が出ようとも、この柴田がお守りしてみせまする」


 「まあ、好きにして構わんか。そなたも見れば分かろうしな。

 すまぬが明日からにしてくれるか? 既に日も中天だ。

 今からでも行けるであろうが、柴田が帰れぬ」


 「今日すぐってわけでもなかったから、別にいいんだけどね。

 とはいえ獲ってすぐの肉は食べられないから、明日行ってだと三日ぐらい後かな」


 「そういえば、そなたどうやって獣を狩るのだ?

 巻狩りには結構な人数が居るぞ?」


 「僕は武士がやる巻狩りはしないよ。

 黒馬に乗って追っかけるし、猛兵が射殺してくれるから任せるだけ。

 猛兵の矢は幾らでも撃てるから、矢の残りとか気にしなくていいし」


 「やはり霊兵というのは、とんでもないな。

 もしかして、その霊兵とやらで尊氏公をお助けしておったのか?」


 「僕だけじゃないけどね。

 京の都に居る桜にも手伝ってもらってたよ。

 桜は甲一級の妖怪で、十人張りの弓ですら楽々と引くからね。

 その威力の矢で敵を射殺してた。

 特に人間なんて相手にならない馬鹿力を持つから」


 「名からすると女子(おなご)にしか思えぬが、十人張りの弓を引くのか。

 尋常ならなさ過ぎて、わけが分からんの。

 流石は妖怪と言うしかないのであろうが、本当に人間が相手にならんわ。

 権六でも十人張りの弓は無理であろう」


 「そのような弓は無理でございます。

 むしろ、そのような弓をよう作ったなと、職人を褒めねばなりますまい」


 「ハッハッハッハッハッハッ! 確かにな。

 作るのに相当の時が掛かったのではあるまいか?

 そもそも五人張りの弓でさえ尋常ならざる弓なのだ。

 それを超えて十人張りを楽々と引くとは……」


 「まるで熊のような女子(おなご)でしょうかな?

 でなければ無理でございましょうや」


 「桜は山姫という種の妖怪だね。

 その名の通り結構な美しさを持つ妖怪だよ。

 他の女性と比べれば背が高いけど、手足がその分だけ長い感じかな?

 総じて欲を向けられるぐらいには美人だよ。

 それは大妖怪である葛葉(くずは)も変わらないけどね」


 「むう………強い妖怪は美しいのか、それは知らんかったな。

 強き妖怪には会うた事も無いので知らなんだ。

 一度会って見てみたいと思うが……」


 「止めた方がいいんじゃない? 特に桜は人間の欲に敏感だからね。

 察知して呆れられるか、毛嫌いされるかのどっちかだよ。

 都でも男の視線が鬱陶(うっとう)しいって言ってたくらいだし」


 「あー、うむ。そうか……」


 「妖怪でも上位の者って、大なり小なり人間の心を見抜くから注意した方がいい。

 向こうは数百年生きているから、色々なのを見てきてるし」


 「なるほどな。見た目は変わらぬが、それで侮ると痛い目をみると。

 どこかの誰かもそういう目に遭ったらしいが……」


 「………」


 柴田が目を逸らしたね。

 まあ、昨日思いっきりやったんだから、屋敷の中で噂になるに決まってるじゃん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ