表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
式神と霊兵  作者: 田中始め
戦国編
228/241

0228




 Side:神守(かみもり)黒金(くろかね)



 屋敷を出て色々と話したけど、弾正は仕事があるので屋敷に戻っていった。

 なので僕は吉法師と共に部屋に戻り、そこで何を教えているのかを聞き出す。

 教育係は何人もいるようだが、その一人に確認すると微妙な答えが返ってきた。


 「様々な漢籍などを読んでお教えしておりますが、それが何か?」


 「あのさ、四つの子に漢籍を読み聞かせて理解すると思う?

 それより何より文字を書くのが先でしょ。

 文字が書けるようになってから、自分で読めばいいんだよ。

 読んでも意味が分からないのに聞かせたってしょうがない」


 「しかしですな、吉法師様には幼少の頃より素晴らしき武士になってもら「そりゃそうでしょ」おうと……」


 「えっと、平手五郎左衛門だっけ? 素晴らしい武士にって思うのは当たり前なんだよ。

 でもね、そのやり方が間違えてるって言ってるわけ。

 そもそも文字が書けない子供に漢籍を読み聞かせる意味は無いよ。

 物事には順序というものがあるんだ。順序がさ」


 「順序ですか……」


 「そう。それはもっと後になってからだ。

 最初は文字の書き方から、まずはそこから僕が教えるよ」


 「字が書けるので?」


 「書けないなら教えるとは言わないよ。

 そもそも僕は字の書き方を葛葉(くずは)、つまり都の大妖怪から学んでるんだ。

 又太郎の仕事を手伝ってた時も、字が綺麗で助かると言われたくらいだしね。

 元々の葛葉(くずは)が、公家も真っ青になるぐらい字が綺麗なんだよ」


 簿はそう言いつつ、簡単なひらがなから書いていく。

 もちろん楷書で書いていて、草書では書かない。

 教えてもいいけど、あれは楷書がしっかりと書けるようになってからだ。

 じゃないと崩し方も分からないからね。


 「………すごい」


 「これは、また………」


 「だから言ったじゃん。元々の葛葉(くずは)の字が綺麗なんだって。

 その葛葉(くずは)が言ってたんだよね。

 字が下手な者から習うと下手にしかならないってさ。

 字は上手な者から習わないといけないんだ、じゃないと汚い字しか学べない」


 「なるほど、これほどの字はそれがしには無理でございます。

 いや、参りました」


 「別に勝ち負けじゃないし、暇なら一緒に練習したら?

 字が綺麗で困る事は何も無いよ?」


 「………そうですな。

 御邪魔でなければ、それがしも練習をさせていただきまする」


 「話し言葉は崩していいからね、僕は気にしたりしないし。

 そもそも領地も無いし、あるのは官位と官職だけだからさ。

 そこまで丁寧にされても困るよ。

 ま、おいおい慣れるとは思うけど」


 そう言いつつ吉法師に字を書かせ、どこが下手だから上手くいかないのか教えていく。

 字を上手く書くにはコツがあるんだけど、そのコツを知らないと綺麗な字にはならないんだよね。

 見様見真似(みようみまね)で書けるほど、綺麗な字って甘くないからさ。


 そうやって字を書かせていると、誰かがやってきた。

 平手五郎左衛門が入室を許可したけど誰だろう?

 吉法師の傅役(そばやく)は五郎左衛門だし、まだ子供の吉法師を訪ねてくる者が居るんだね。


 「これは、誰かと思えば柴田権六殿ではありませんか。

 いったいどうされましたかな?」


 「いや、殿の下に来た故、吉法師様に御挨拶をと思いましてな。

 それがし、柴田権六朗勝家と申しまする。

 宜しくお願いいたしまする」


 「うむ、こちらこそじゃ」


 物凄く(ひげ)の濃いムサい人だなぁ。

 なんかここまで濃い、男って感じの人に初めて会った気がする。

 又太郎なんかもそうだけど、そこまで男臭い感じってなかったんだよね。

 とんでもないなと思うよ。


 「おお、そこもとが殿の(おっしゃ)られておった、稀人(まれびと)じゃの。

 ワシは柴田権六じゃ。よろしくな」


 「僕は黒金(くろかね)だよ。よろしく」


 ちょっと舐めてきてるんで、僕は意図的に名前しか言わない。

 向こうも正式に名乗ったわけじゃないんで、これでいいだろう。

 お互い様というヤツだ。

 わざわざ正式な名乗りをする必要も無いしね。


 「うむ。

 ………それにしても、何故(なにゆえ)吉法師様の部屋で帯刀しておるのだ?

 流石にそれは必要あるまい。誰かに預けては如何(いかが)じゃ?」


 「僕がこれを? ないない。

 そもそもこの短刀は将門から貰った短刀だし、こっちは頼朝から貰った物だからね。

 誰かに奪われる訳にはいかないんだよ」


 「まさ……! それは平将門公か!? そしてそちらは源頼朝公?!

 そんなバカな事があるか!」


 「なら持ってみるかい? そしたら将門の怨念に呪い殺されるけどね。

 ほら、持ってみなよ。見た目が(わらし)だと思って舐め腐ってたんだろう?

 ほら、持てよ」


 「………」


 柴田というヤツの顔が引きつり始めた。

 目の前で見たら怨念が渦巻いているのが分かったんだろう。

 明らかに腰どころか、体をのけぞらせ始めた。

 だが僕は逃がさない。


 「武士は舐められたら負けだ、ならば舐め腐ったヤツを殺すしかない。

 さあ、持て。持って将門の怨念に呪い殺されろ。

 ほら、早くしろ」


 「ち、ちょっと腹の具合が悪くなった故、これにて失礼いたす!!」


 ドタドタドタドタドタドタドタドタ………!!


 「また走ってるよ。

 弾正もそうだったけど、せめて早歩きぐらいで済ませればいいのに。

 どうしてああもドタドタ走るんだろうね」


 「ふふふふふふふふ……」


 「しかし、柴田殿はなぜあんな事をしたのやら。

 若くして弾正忠家で頭角を表しておるというのに、わざわざあのように挑発などする必要はなかったはず。

 にも関わらず何故(なにゆえ)……」


 「さあ? とはいえ僕が気に入らないって感じではあったね。

 多分だけど、訳の分からないヤツが当たり前にここに居る。

 その事が気に入らないんじゃないの?

 小人の嫉妬って感じがしたけど、見た目と合ってないねー」


 「ああ、若手の中では頭角を現しておるからこそ、納得がいなかったのか。

 とはいえ…………それが将門公の短刀というのは本当で?」


 「本当だけど、疑うなら持つ?

 死ぬけど、それで証立てできるよ?」


 「己の死で証立てなど御免被る。誰でもそう言うであろう。

 なれば証立てなど出来まいに」


 「いや、咎人とかが居れば持たせればいいんだよ。

 まあ、そんな扱いをされて納得するかどうかは別だけどね」


 「怨念がこちらに来ても困る故、出来れば止めていただきたい。

 それに、そちらの白木仕立ての太刀は真に?」


 「そうだね。こっちは頼朝がくれた太刀で、銘は<白銀>。

 何故か僕の名前の逆を銘にして送ってきたんだよ。

 ちなみに又太郎いわく業物といっても差し支えない出来みたい。

 かなりの腕前の鍛冶師に頼んだんじゃないかって言ってたね」


 「それは凄い。じゃが、それも証立て出来ぬのであろう?」


 「いや、これは出来るよ。

 いつだったかな? 又太郎や仙太郎と(なかご)を調べた際に刻んであったのを確認してる。

 <寿永二年太刀褒美下賜、源頼朝>って刻んであるんだ。だからそれを見たら分かるよ。

 あと公卿か公家の日記にも書かれてたはず。書の名前は忘れたけど」


 「なんと、頼朝公の御名が刻まれておるとは………。

 いつでもよいから、それを見させてもらえんかな?」


 「又太郎や仙太郎もそうだったけど、たかが太刀なのに眼の色を変えるよね。

 これは頼朝じゃなくて、頼朝が送った太刀だってだけなのにさ」


 「それが非常に大きな意味を持つのだが………お分かりにはならぬか」


 「分からないねえ。だって僕と同じ時に生きてたんだし」


 「ああ。そういう……いやいや、同じ時かもしれぬが全然違うであろう。

 相手は征夷大将軍であらせられるのだぞ?」


 「僕は伊豆で挙兵する前から都に居たんだけどね?」


 「………」


 そう、頼朝が立つ前からなんだよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ